蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……ゆー、」
飛散する血飛沫と肉片。だというのに、それを引き起こした女騎士はどこまでも邪気無く笑みを浮かべて、さっきまでそこに居た少女の血にまみれた剣を鞘に納め、返り血の付着した手を愕然とした金髪の青年に向けて差し出した
「ユーゴ様。これでもう居ない女に目移りなんてしませんよね?」
その笑顔に、世界は凍りつく。物理的にではないが、誰も動けなくて……
「っ!アルヴィナちゃんっ!」
最初に動けたのは、聖女であった
「ごめん、皇子。少しだけあーにゃんのところへ」
呼ばれてきゅっと深く落とさないよう帽子を被って駆け出す魔神娘。それを見送りながら、更なる一撃に備えておれは楽しげな仮面を見る。見るしかない。あいつから目を離すわけにはいかず、背後は大体気配で察知するしかない
「アルヴィナちゃん、貴女なら!」
「……やっては、みるけど……」
そう、死霊術。メイド少女の肉体は爆散させられたが、こと死者の魂の扱いにかけては屍の皇女に一日の長がある。断トツで長けているとは、死者の魂を力にするシステムが向こうに搭載されているから言えないのが悲しいところだ
が、アルヴィナが動いてくれなければその魂は当たり前のようにAGXに回収されて燃料にでもされるだろう。それを防げば、死後の安寧くらいは!
「……困りますよ、【
ねっとりとした声で、仮面の男は手を拡げる
「折角の二流の終わり。孤独な死。邪魔をしないで戴きたい」
「……おれは三流で結構だ」
「それはいけませんね。我が終末に捧げる結末が、三流とは」
「……そう、じゃな。お前さんの描こうとした結末は三流に過ぎぬ」
半ば表情が抜け落ちたシュリが、そう告げてくる。が、まるで泣きそうにも見えて……
「しかしの、我等が【
「何と!それでは……」
大袈裟に身を逸らす仮面。シュリとしては止めようとしてくれたのだろう。割と心を持ったままの時期の分身だからか、悲劇的な終わりは見ていたくないが本音だろう
が、それで止まったらこいつらじゃない
「……ええ、完全にアナタのものにしてしまいましょう、騎士よ」
「はっ!」
言われて、女騎士が動き出す。勿論剣の矛先は、少し離れた
だが!
「おっと、行かせないけど?」
ルー姐が持った槍でその動きを少しの間止めてくれる
「さて、お暇しようか!」
更に一発、目眩ましの花火が上がる
「ノア姫!」
「そうね。これ以上の被害は出させないように」
そしてエルフ少女の持つ杖が輝く。そう、転移させてしまえば良い。それである程度の勝利は拾える。ユーゴ達を逃がしてしまえば……
光と共に皆が消える。勿論だが、女騎士クリスもだ。巻き込むのはノア姫的に心苦しいだろうが、ユーゴ達まで逃がして完成。許して欲しい
そうして、全てが掻き消える。残ったのはおれと頼勇と、アガートラームの残骸のみ。アナ達全員離脱した。これで終わりだ。後はシュリがきっと矛を収めさせてくれると信じて、頼勇と帰るだけ
だが、眼前の男はくつくつと仮面の下で嗤う
「何と言うこと。自ら味方を消し去るとは、諦めたのですか?」
「諦めてなんていないさ。お前の手は」
「届いて、いますよ」
ヒィン、という重力球が出現する耳慣れてしまった音が響く。其処から弾き出されたのは、呆然としたままの金髪青年と、それを抱き締める女騎士の姿
っ!転移能力は向こうにもある。そいつで妨害されたか!やってくれる!
更には、もう妨害してくれる仲間は居ない。巻き込まれたり狙われたりする事はないのが救いだが、降り注ぐ二体の機神相手に、LIO-HXだけでは流石に何も出来やしない
ぐしゃりと、拳によってへしゃげた人間であったものの腕が飛散する。ユーゴ派の人間達を殺して、機神オーディーンが咆哮する
止めたくても、止めきれない
「だから言ったではないですか、死は恐怖の中、孤独に旅立つもの。仲間など、残っていては困るのです」
「ええ、ユーゴ様にはこのクリス・オードラン以外、居てはならない。ああ、スッキリしましたよ本当に」
脱け殻のようになった青年を抱き締めて、装甲の女騎士は無邪気に笑う。それはもう、恋する少女のように
だが、周囲では味方の筈の人間達が虐殺されていき、己がその発端となった証拠の返り血すら浴びた中での無垢なそれは、あまりにも浮いていた
「っ!そぉっ!」
せめてもの抵抗として愛刀から雷撃を放つ。が、当然のように機神に対して効きやしない。薄い結晶壁に阻まれる
やはり、ゲームで防御奥義無効が付いていたような奥義でなければ何も通らないのは変わらないのだろう。結晶を中和出来ればその限りではないが、その為の力は当に使い果たした
「……くっ!」
飛来するLIO-HX。やはりというか、無茶が祟ったとしか言いようがない。これまで桃色の機神を抑え込んでくれていたが、流石に限界といったように翼から噴き出すエネルギーもほぼ見えなくなっている
「……ほら、もう他には居ないだろう?」
そう、騎士は笑い
「ええ、孤独こそ良き終末。勿論、仇でもある貴女と二人というのも愉快かもしれませんが……やはり、其処は貫かなくては」
「……あ、え?」
止める間も、止めるだけの力も、残っていてはいない。おれはただ、突如として騎士の胸部装甲の下から生える鋼の鎗を見つめるしか無かった
「かひゅっ」
心臓を一撃。イカれてなければ致命傷だ。途切れた呼吸音と共に、青年を抱き止めたまま、女騎士が大地に倒れ伏す
……もう、息なんて無いだろう。けれど、何一つ飲み込めていないのか、それとも諦めたのか。金髪の青年は、あれだけ最初はイキっていた彼は、力が抜けて重くなっていくかつて自分の仲間だった騎士だったものの下から抜け出そうとはしなかった
「……なにやってる、ユーゴ」
「良い表情です、教王殿下。我が終末に捧げるに相応しい」
煽るようなその言葉。銀龍は諦めたように、表情の見えない瞳でそれを眺めている。どう見ても嬉しそうではないが、それを言っても何もならない
どうする。何をすれば良い?アステールだけは最低限救えて、けれどほぼ負けに近い。最悪の詰みだけ防いだって言いたいが、アガートラームをもう一回倒せる気はしないし、エンジン回収されたら半ば詰みな気がする
……もう、手なんて思い付くとしたら此処でユーゴを殺して、残骸が消えることを祈るくらいだ。が、その割に余裕そうに、彼はユーゴで遊んでいる訳でそうとも限らない
「ああ、美しい良い顔です。やはり死出の旅路は誰にも看取られず、惨めに絶望して戴けなければ」
つかつかと、司祭服の男がユーゴに近寄る。そして、己の時計を叩いた
そうすれば、青年の顔が、体つきが変わっていく。前世の姿……染めた金髪の竜胆佑胡に
「ねーねー、もう帰って良い?」
エネルギー切れで機能を停止したLIO-HXが転送されていくと共に、桃色の機神を遠隔操作していたケイという少女が、足をぷらぷらさせながら言う
「桃色おにーさんも消えたし、これからもうつまんなーいし?」
それに対して頷く仮面
「構いませんよ、勝利は揺るがない。此処から何があるというのです
またどんなにか都合の良い奇跡でも起これば、話は別ですが……」
せめて愛刀の切っ先を突き付ける。が、正直こんなもの脅しにもならないだろう。今のおれに何が出来る。アルヴィナの死霊術で死にかけの体を立たせてるだけの、死体一歩手前に
「じゃーねー。ウチ、あんまり他人のヤってるところキョーミないっていうか、ウチがヤんなきゃつまんなくね?」
そんな不穏な捨て台詞と共に、桃色の機神ユピテールごと、少女は転移して消える
「……、あー、し……」
その頃漸く、思考が自分の肉体が女性であった前世に戻された事にたどり着いたのだろう、ユーゴ……というか竜胆佑胡がぼんやりと言葉を紡ぐ
「さて、我が終末よ。本来貴女様に捧げるもの、少しの無駄撃ちをお許し戴きたい。けれどやはり、少女とは散華するもの」
そう告げる男の司祭服の下半身が歪んで見える。変態かあいつ
今世は男だしそちらの姿が基本だから当然な豪奢なズボン姿を血に濡らして倒れたままの少女を軽く重力を上方向に向けることで浮かせ、仮面の男は愉快そうにその肌に触れた
「時に、前世の貴女、経験のほどは?」
変態かよこいつ!元から知ってたが!シュリドン引きしてるぞお前!
いや、もう見飽きたから今更って大義名分付けて目を伏せてるレベルか
不意に、体が軽くなる。もう尽きた筈の活力が湧いてくる。微かにだが、右手のガントレットに光が灯る
ああ……そうか、と理解する。おれに手を貸すほどに、己の最期を、魂を燃やしてでも、あいつを救って欲しいと願う祈りがある
都合の良い話だ。虫が良すぎる
それでも!
「さて、本来この身は我が終末に捧げる聖なるもの。それに、万が一今世に戻られたら大惨事
手早く済ませると」
「吠えろ、月花迅雷!」
おれは、愛刀を手にズボンに手を掛けた男へと斬りかかっていた
「……なん、で?」
作者のtwitterを追っていたような奇特な方はもうお気付きかもしれませんが……
次回、『
なお、今後のユーゴ・シュヴァリエ君はゼノ厄介ファンの竜胆佑胡としての面が強くなります。
ところで、何でユーゴ君ですらヒロイン説を唱える方が多いんですかね……ラスボスの癖にとにかくデレまくりのシュリちゃんでもないですよ?
意識調査 まさかとは思いますが、ユーゴ君ヒロイン説信じてる読者の方、居ます?(想定していたヒロインはシュリちゃんまでです)
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竜胆佑胡ちゃんは正規ヒロインだよ
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下門みたいな章ゲストヒロイン枠だよ
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んな訳ねぇだろ反省しろユーゴ