蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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思い出、或いはサクラ色の迷い

「お帰り、獅童君」

 ジーバと名付けたドラゴンを連れて飛び去っていったリリーナ嬢を見送ると、ふと黒髪に一房だけ桜色が混じる少女はそう呟いた

 

 「ああ、ただいま桜理。そっちこそ、リリーナ嬢達を見ててくれたんだな」

 「うん、僕だって役に立てることがあるなら頑張りたいし……」

 えへへ、と左手の人差し指で淡く色づいた頬を撫でる少女。可愛い仕草だが、男らしさはほぼ無い

 「そうだな、竪神は今忙しいものな」

 「……僕も頑張ってるよ」

 上目におれの顔を見上げながら、少女は微かに唇を尖らせて主張した

 

 「……そうだな。使わなくて良いとおれが言っていた、けれども頼ろうとした鋼の皇帝の中のデータ、開示してくれてるんだものな」

 静かに頷いて、おれは桜理の頭を軽くぽんぽんと撫でた

 

 そう、あの日竜胆佑胡の変化を見たお陰か、解析できるようになった資料がある。それが、葬甲霊依(ポゼッション)と呼ばれる解放形態データ。桜理のAGX-15の中にあるそのデータを解析し、どうすれば作れるのかエンジンも何も分からなかった最後のジェネシック、ジェネシック・ルイナーを作り上げようとしているってのが現状だ

 

 まあ、手掛かりが得られたってくらいでその先は長いんだが……何も分からないよりはマシだ

 何よりこれ、あんだけ言っておいて桜理に頼りまくってるんだよな。情けねぇとおれは軽く唇を噛む

 

 が、そんなことを思うおれに反して、桜理の顔は翳ったままだ

 「桜理?」

 「……あ、ごめん獅童君」

 ぱっと顔は明るくなるが、無理してるのは丸分かりだ

 

 「どうしたんだ?」

 「うーん、ユーゴは、選んだんだよね」

 その言葉に頷く

 ポゼッション、それは大切なものを葬り、逃げ場を棄てた先にある姿だとあった。だから、去っていったあいつは……完全に竜胆佑胡の姿をしていた

 「ああ、あいつは自分の事をユーゴ・シュヴァリエの人生を乗っ取り破滅させた竜胆佑胡だと規定した。他人として逃げる道を棄てた」

 だからああなった。もう、ユーゴに戻れなくなった

 

 というところで、言いたいことに気が付く。そう、桜理もポゼッションに辿り着く気ならば、そこが問われることになる。結局己は何なのか、決めなきゃいけない

 そこが悩みの種なのだろう。女の子扱いが嫌で男の姿を取っていた彼だ、それを棄てるか……それとも現世のサクラとしての自分を無かったことにするか。母親想いゆえに、選ぶのが苦しいのだろう

 

 だからおれは、軽く微笑む

 「君は君だ。どんな選択をしても、それこそポゼッションなんてしないって言っても、おれは絶対に君を笑わない。それに、ゆっくりで良いんだ」

 「うん。僕は獅童君ほど強くないから、まだまだ自分なんて、決められないよ」

 そんな頼りなさげな言葉を紡ぎつつも、少女は儚げに、けれども少しは前向きに微笑んだのだった

 

 「そういえば桜理、リリーナ嬢とは仲良いのか?」

 話を変えようと、話題を振るおれ

 「うーん、僕が転生者の中では話しやすいからか、良く話してはくれるよ?」

 「恋してたりしてな?」

 まあ、今のところの話をすればサクラって女の子でもあるし、そうなると何か複雑な状況になるが……

 「あはは、僕自身、あんまり恋愛とか得意じゃないから分からないや……」

 あはは、と笑われる

 

 「それもあるんだよね。女の子と付き合ったら男らしいけど、僕……わたしとして、獅童君に恋してる気もするし」

 「それ、おれの前で言うか?」

 「獅童君に言わないと伝わらないよ?」

 「それはそうだが」

 「……ごめんね?獅童君への想いはあっても、怖いものは怖いし、答えなんて中々出ないや

 リリーナ様との関係も、自意識過剰だったら恥ずかしいしさ」

 と、頬を恥ずかしさからかぱん、と叩いた少女は少年に見える短いズボンを履いた細めの足を急かしておれの前に出て振り返った

 

 「そういえば獅童君、獅童君はリリーナ嬢が言っていた作品は知ってた?」

 ……うーん、いきなりだな。多分おれと同じで話を変えたかったんだろう

 なのでとりあえず乗ることにする

 

 「いや、全然」

 「あれ、獅童君って同学年だよね?あれだけ流行ってたのに」

 「ゲーム買うからって生活費カツアゲされるし、お前が話すと穢れるとか言われるしでさ、話は聞き流して無視してたよ」

 特に気にすることでもなくそう言えば、少女が足を縺れさせて体勢を崩した

 

 「おい大丈夫か桜理」

 「ご、ごめん……」

 うん、失言した気がしてきた。と少女の手を取って転ばないように支えつつ反省する

 「あはは……駄目だね僕。この話題はさ、アーニャ様とじゃ絶対できないからって勇み足で……

 獅童君に、そこら辺思い出させたくなかったのに」 

 が、完全に前髪は垂れて元気を無くした桜理はしょんぼりしたまま、おれの支える手に体重を預けていた

 

 「気にするなよ桜理。おれは何も捨てちゃいない。後悔なんてしていない

 あの時のおれの判断は、世間知らずで馬鹿だったかも知れなくても、今もそうでも。やるべきだと思ったからやっていた

 そのおれの想いを、否定する気はない。だからさ、思い出しても、嫌な気分になんてならないよ。不快にさせて御免な?」

 「ううん、僕こそごめんね?」

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