蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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桃太郎、或いは探し物

「会議は踊る、されど進まず……か」

 ノア姫に何て言い訳しよう、なんて思いながら掌の中で鍵を握り締め、おれは歩みを進める。恐らくは職員室……なんてものは無いが、総務課というか学生のあれこれを受け付けてくれる場所に居るだろう

 

 というところで、よっと声を掛けられて振り返る。まあ、声の時点で主は分かりきってるが……

 「ロダ兄だろ?どうしたんだ?」

 「いやな、ワンちゃんにはちゃんと言っておこうと思ってな」

 「……何を?」

 小首を傾げる。ロダ兄ってそこまで隠しておくことも無いし、隠す場合はその存在すら分からないのが常だ。明るいこの性格がアバターだってのすら、ゲーム内で最初に知るまでは気付かれないくらいだものな

 「俺様の目的、紡ぎたい縁の糸ってもんよ。ま、ワンちゃん相手に色々とってのも多少の縁、縁の端くれって奴だ」 

 「いや、気にしてないぞ?」

 「ははっ、俺様が喋りたくなっただけ、聞き流してくれて良いぜ?猫に神託、パンに新沢庵ってな」

 ……いや、この世界に沢庵とか……

 売ってた気がする……。まあ、米自体があまり普及していないから漬物もあまりメジャーではないが、輸入品の酒の肴で見たような

 

 「沢庵は新ものの利点少なくないか?」

 「浅いのはそれはそれで優しい味で良いぜ?

 っと、本題は違うぜワンちゃん、曇らせちゃなんないぜ」

 「……となると、ロダ兄が何を思って何を探してか各地を回ってるのかって奴か」

 

 今、彼の故郷はシュリ達に支配されかかっている。それの対応をしてる……のも当然あるだろう。が、正面きっても勝ち目無いのも知ってるだろうし、何よりロダ兄って普通に平民だ。おれみたいに忌み子だが血筋だけは良いから発言力が多少あるとかも無く、キメラかって外見的特徴から忌み子と距離取られてただけの一般亜人だ。辛さはおれより数倍だろう。ってか、おれが恵まれ過ぎてるって話だな

 いや、部下の仇である竜胆をおれ自身のみの理屈で勝手に庇っておいて面と向かってはその恨み言すら言えないって何だよ、暴君かっての

 

 「そそ、分かるかいワンちゃん?」

 楽しげな青年に向けていや、と返す

 「おっと。別に嘘は要らねぇぜ?真性異言らしく、当ててみて構わねぇ」

 「と言われても無理だ。ゲームでも実は特に出てこないんだよ、ロダ兄の探してるものって

 ゲームだと、そもそも主人公である聖女を気に入ってって形で出てくるんだけど、別に探し物とか無かった筈だ」

 と、青年の目が少し遠くの空を眺めた

 

 「そーいうものか?

 ま、ワンちゃんでも俺様の過去は分かってるんだろ?」

 そこには頷く

 「ってこった。俺様がこんなに沢山の亜人の特徴を出してしまったが故に、息子を恐れて母は父の元を去ってしまった。まだ腹の中に居た娘を……俺様の妹を連れてな。んで、最近うちの父が倒れたって訳よ」

 さっと言われるが、それと繋がる旅に出た理由が分からない

 

 「あ、ひょっとして薬とか?」

 「いんや?俺様見て分かるけどよ、あれは薬じゃ無理だぜ?」

 すっと真剣な顔で言われて面食らう

 

 「……そうなのか」

 「ま、ワンちゃん相手に言うのはちょっと酷だがよ

 特に、良く知ってるだろ?混合されし神秘(アルカナ・アルカヌム)の切り札(・アマルガム)って奴等。勢力を伸ばすために、信徒を増やすために、ばら蒔いた毒にやられたって感じだぜ」

 ……何も言えずに奥歯を噛む

 

 知っていた。いや、理解しようとしてはいた。おれの前ではあれだけ害の無いような行動だらけのシュリだが、世界に絶望して心毒に世界を腐らせた神なのだ。更にはもう話が通じようもなくなったアージュまで居る。やらかしているなんて、当然だった

 

 「……すまない、ロダ兄」

 「おっと、ワンちゃんが謝る理由とか無いぜ?」

 「いや、おれがシュリをちゃんと止められていたら」

 「はっ、悪縁は断つに限るが、悪縁でも無いだろ?」

 そう笑って、彼はおれの頭の上に時折彼が書けている派手なサングラスを載せた

 

 「悪いな、寧ろ気を使わせてしまって」

 「良いって良いっての。手を伸ばして縁を結ぶ事を願う、嬉しいこった」

 パン!と手を叩き、青年は笑う

 「俺様は、あの銀だか紫だかの龍神様は嫌じゃないぜ?ワンちゃん自身、ほかの龍神とは明確に区別して、区別した悪縁の方は断つってやってっからな

 

 ま、それはそれだぜワンちゃん。毒物は心の毒、狂いだした体を治すにゃ、心残りを晴らしてやるくらいしか思い付くもの無いって寸法よ

 だから俺様は、一度も見たことの無い、生き別れの妹?を探しに旅に出た。故郷にゃ俺様を怖がる人も多いし、その気持ちが増幅されるあの場にゃ居られねぇからちょうど良し」

 笑う青年をサングラス越しに見る。うん、色付きだから何時もと違うな

 

 「で、せめて俺様の母親の手懸かりをさがしてるって訳よ

 知ってるか、ワンちゃん?」

 「……桜理は?」

 問われて、おれはふとその名を挙げた。彼と髪の色こそ大きく違うが、同じく前髪に一房桜色が混じるってのは、兄妹故の特徴じゃないのか?

 「おっと、それは無しだぜワンちゃん。俺様達のこの髪は、家族にしか発現しないって訳じゃなし。確証無しに妹だろって異ったら、俺様側が悪縁ってもんよ」

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