蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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夜、或いは少女の母

「あら、夜遅くなのにどうしたのかしら?」

 深夜、日が変わった頃。借りたベッドの脇から立ち上がって窓を開け、空を眺めているとそんな声が聞こえた

 ちなみにだが、ベッドは家に二つしかないし、寝室は同じだ。女の子だからって別の部屋に泊まるとかそもそも出来ない一部屋式の他人を泊める事を考えていない家だからな

 貧しい暮らしならばそんなものだろう。寮の方がベッドと机しか置けない大きさとはいえ寝室が別な分豪華まである。ま、居間みたいな場所は二人共用とか三人共用とかそういう大部屋だったりするんだがな、無料で借りれる寮だと

 金を払えばその限りではなく完全個室で複数部屋の寮も借りれるが、サクラにその金が払える筈も無し

 

 いや今は良いか

 「ああ、すみません。どうしても寝られないもので」

 「あの子、嫌だった?」

 「嫌も何も、女の子と同じベッドはおれには無理です」

 女性と同じ布団で寝た記憶なんて、前世で怖がる妹を安心させたのが最後だぞおれ

 いや、アナとかアルヴィナとか、おれの意識がない中で入ってきた事はあったかもしれないが……少なくともおれが自分の意志でやったのはあれだけだ

 

 ってか、女の子に失礼だろ、おれと一緒なんて

 

 「あらあら、お母さんと寝た時の事とか思い出せば」

 「……有名な話ですが、おれを産んだせいで母は呪い殺されましたし、そんな相手なんてどんな乳母も御免ですよ

 乳母兄弟のレオンだって、母が怯えていた事からおれを敵視してた時期もあった程です」

 結局そのまま、更におれが亀裂を入れてしまった関係だが

 

 「……なら、ね。本当は人恋しいって泣くのも良くないのかしら?」

 「まるで、オーウェンとおれの関係を進めさせたいような」

 「そう言ってるのよ。私も皇子様に病の薬も後遺症対策の眼鏡も貰ったとはいえ、あまり長くないしねぇ……」

 こほっという咳が響く

 

 「あの子は男の子だったら良かったのにってずっと言っていた。そんなサクラが、女の子としてあってみたいって言えたのは、あなた様の前だけなのよ」

 「おれに何を背負わせる気ですか」

 肩を竦めるおれ

 重すぎる。おれはそんなもの背負えない。分かっているから、茶化して誤魔化す

 

 「背負わなくて良いの」

 「そもそも、おれに誰かを幸せになんて出来ない。不幸を食い止めることすら、出来てないのに」

 「要らないのではなくて?貴方が幸せにしなくても、貴方が居ることで幸せにはなれるわよ?」

 「ノア姫やアナみたいなこと言わないで下さい」

 「親バカだもの。娘の恋路を少しくらい、応援してやりたいのよ。私自身は逃げてしまったのだし」

 止めてくれ。おれしか居ないと言われると、背負わなければならなくなる。サクラ・オーリリアの人生なんて背負えない。独りで居るべきおれに!そんなもの言わないでくれ

 

 そう頭を振って、聞いた言葉を受け流す。流せてないとか知らない、流したことにする

 

 「……逃げてしまった?」

 だから、踏み込むべきではないとわかっている言葉にも反応してしまう。そんなの、おれが苦しんでいるように……聞かない方が良いなんて当然だというのに

 「あら、昔の話よ。ごめんなさいね」

 が、黒髪の女性は微笑んで許してくれる

 

 「……申し訳ない」

 「良いのよ、皇子。貴方はそれだけ、サクラも私も助けてきてくれた。踏み込む権利くらい、あるのよ?」

 「そんなことは」

 「忌み子、七大天に呪われた死すべき邪悪。それでも、その運命に違う!と叩き付けてきた。ふふっ、私も残っていたら、似たものを見れたのかしらね」

 その言葉に、口をつぐむ。ほぼ答えであったから。おれと似たような境遇でそれを越えてきた少年。そう、それを一人知っている

 

 「D・ルパン。いや、ディルバン家」

 ロダ兄自身は不吉だからとその名を名乗らせて貰えない一家の名をぽつりと呟く

 「まだ、ふんぞり返っているのかしら?」

 それはもう、答えでしかなくて。思った通りながら、言うことが見つからなくておれは唇を噛む。こんな女性に今更何をという話はある。ロダ兄の為にと言いたい気持ちもある

 

 「言いたいこととか、あるのかしら?ええ、娘の不満とか、それとなく聞くわよ?」 

 「いえ、サクラには世話になりすぎな程ですよ。おれとしても、居なかったら此処におれが居ないのは知っていますから」

 「……心配されるのも分かるわね。可笑しな所で物わかりが良いもの」

 くすりと微笑む女性は、すぅすぅと(おれが部屋に居るのにも関わらず)己の男性性を保証する腕時計すら外して寝息を立てる娘を眺めた

 

 「大変よ、サクラ?」

 「……申し訳ない」

 「おやまあ、謝ること?」

 「違ったかも」

 柔らかな笑顔に、おれは頬を掻いて空を見た

 

 何だろうな、このノア姫感。けれどもっと、儚く消えてしまいそうで。桜理の母想いが行きすぎているのも、少し理解できてしまう

 ノア姫は幼く小さめな外見に反して儚さの欠片もないというか存在感強すぎるからだろうか、どうしてもそのノア姫と似た雰囲気と儚さがちぐはぐに感じてしまうが……病というのは、そういうものなのかもしれない

 本人の気質等に関わらず、その命を奪っていくようなもの。実際、あの星壊紋に苦しんでいたりした頃のノア姫は、何処か焦りと儚さがあった気もするしな

 

 「けれど、本当に聞きたいことは無いのかしら?」

 くいっと上げられる眼鏡

 さっきまで寝ていたから身につけて居なかった気がするんだが、いつの間に掛けたんだろうか

 「おれからは、特に。ただ言えるとしたら……

 貴女の言う逃げた場所。少しでも思うところがあるのならば、其処から来た話に耳を貸してやってください。決して受け入れろという事ではなく、断ろうが何だろうが構いませんが……

 事情だけは、知ってあげてください」

 「そんなので良いのね?

 分かったわ、語りたい人に託す優しい皇子殿下」

 「……逃げてるだけですよ、おれは。おれが背負うべき責任から、他人が自由意思でやった事だからって

 ほら、良く知らないままに説得して失敗したら、おれの責任じゃないですか」

 逃げてばかりじゃ居られないことなんて、分かっていて。でももう少し、せめて乙女ゲーの中でも一つの分岐点であるおれの追放イベントの足音が聞こえてくる時期までは

 

 それを認めてくれているのか、たまに叱ってくれる幼馴染神様も聞き流して何も言わないし。って、これも逃げだが

 

 「あらあら。サクラが危険でないなら、普通は恩人の言葉を無下になんてしないのよ自己中さん?

 馬鹿にしやすくて敵愾心を投げつけ易いからって、助けられても結局忌み子の癖にってそんな人ばかりじゃ貴方も疲れてしまうでしょ?」

 「……そんな人の意見も分かりますし、何より周囲には逆におれに優しすぎな人が多すぎますから」

 「あらあら、強敵登場ねサクラ」

 おれから一歩離れ、娘の顔にかかる桜色の前髪を指先でとかして、女性は慈愛の笑みを浮かべた

 「なんて。聞いていたのだけども、ね。聖女様にエルフ様、手強いと思うわよー?

 二号さん、いえ三号さん狙いとかが良いのかしらね?」

 その瞳には、あまり責めるような光は見えず。だからこそおれは、耐えきれずに目線を反らした。この優柔不断と罵られた方がマシだ

 

 「ところで貴方、この先の日々に時間はあるのかしら?

 サクラがさっき貴方とやっていたゲームのイベントとか、劇とか見たいけれど眼の悪い私とじゃ行けないからって悩んでいたのよ」

 「とりあえずは鍛練と劇の練習や打ち合わせと、後は学園祭の仕込み……墓参りなんかはもっと後でですしまあ時間はありますが、そういうのは当人から言わせてください」

 「ふふっ、親バカ過ぎたかしら?でも、あの子押しが弱いからねぇ……」 

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