蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「あ、皇子さますみませんお待たせしました」
と、とてとてと駆け寄ってくる聖女様に、柱の陰に隠れていたおれは良いよと軽く頭を振った
此処は王都の教会。かつてヴィルジニーが泊まっていたのとはまた別の場所だ
うん、教会勢力って結局強いんだよな、うん。お陰で生きづらい
ってか、気がつくとおれの悪評が広まってるしな、七天教絡み。枢機卿の娘ヴィルジニー・アングリクスの影響はすさまじい。の割には聖女アルカンシエルの力は……強いな、本人だけ
そうなんだよな。アステールやアナはおれをひたすら擁護してくれている(アステールはおーと気楽に責めてくるが)ものの、そんなもの極一部。七大天に呪われているとされる忌み子のおれについてはかなり評判は悪い
ってか、だからこうして物陰に隠れてるんだけどな。アナが説法してる間なんて邪魔にならないよう天井に張り付いてたくらいだ
まあ、聖女自体が人気者なのは良いことなんだけどな。おかげで一刻ほど天井に隠れてたが。説法の二倍くらいの時間は親子連れとかに囲まれてたぞ、アナ
若い男性なら美少女って点に惹かれるのは分かるが、その他がこれだけ集まるんだ。やはり希望ってのは、最初が肝心らしい。おれが同じことやっても、アナとノア姫くらいしか最後まで残らないぞ多分
え?アルヴィナ達?あれは終わってからひょこっと顔を出すだろ、おれに興味はあるが説法とか下らないと聞く筈もない。その点で言うとノア姫も多分ダメ出ししかしないが、そこは実のところ助かるから良いや
「大人気だったな、アナ」
「えへへ。ノア先生も居てくれたから説得力が高くなっちゃいました」
「あら、ワタシそんな気は……まあ、あるのだけれども。エルフ種こそ女神の似姿。希望にならなってあげなくもないわ
それも、人類の希望あってこその補助だけれどもね」
うーん、ドヤ顔。偉そうな何時ものノア姫で安心する
「あはは……」
と、笑うのはアナ。ちなみに、 桜理はというと母と過ごしたいからと説法後帰った。デート?よりも優先とは感心だな。今度あの人に泊めて貰ったお礼とか今一度ちゃんとしたの贈っておこう。二人の家を邪魔したしな
「でも、皇子さまが隠れる必要なんて」
「おれを見ると不快って人は多い。それにさ、おれとつるんでるからって頼勇すら馬鹿にする人が出るんだ。表から絡む必要はないよ、一見して希望が穢れる」
そこなんだよな、とおれは肩を竦めた。おれと居ると頼勇やアナすら一部から蔑まれるとか我慢ならないだろ、普通。エッケハルトはむしろそんな層から救世主と崇められてるし、おれの至らない思考の欠陥を容赦なく突きつけてくれるから助かるし良いんだがな
「やりたいこと、やるべきことは終わりましたよ皇子さま、あとは今日は二人で何しましょう?」
「……三人よ」
うん、着いてきてるんだよなノア姫、さっきから居たが
「えっと、教師として大丈夫なんですか?」
「試験は終わりよ。来年までは教員は休業中。だから昔のようにやらせて貰うわ」
と、得意気なエルフは低い背であまり無い胸を張った
「それで良いのかノア姫……」
「ワタシはやりたいようにやる。文句言われる筋合いはないわよ?」
開き直りが強すぎる。実際その他の面でも強すぎるんだがな、と、おれは何故か父がおれに向けて断っとけと転送してくるノア姫絡みの見合い云々の書類の束を思い出しながら内心で呟いた
というか、全部おれの時点で握り潰してるが問題とか……あったらノア姫とっくに言ってるな、気にしないでおこう
「……正直、助かるよ」
「当然でしょう?ここ一年で、アナタもワタシの力を理解したのかしら?
とは言わないわ、アナタなりの理解は最初からしていて、修正点も少なかったものね」
「いや、聖都への転移とか、おれの思考では無理と切り捨てていて、それを為してくれたのは助かったよ」
と、
「そうですよ、大事にしないと駄目ですからね皇子さま?」
アナ、それで良いのか?
まあ良いや
「……ところで、アナの来たい場所って此処だったのか?」
と、おれはそこまで大きくもない教会を見回してそう聞いた
ちなみにだが、周囲でちょちょいと聞き耳を立ててる30過ぎのオッサンが此処の司祭様だ。別に良いがな、こっちは場を借りてる立場だもの
「あ、それは一応前から予定してた説法なんですけど、違いますよ?」
「そうか。護衛は要るがおれじゃなくてもと思ったが」
「えっと、わたしは御迷惑でない限り皇子さまが良いです」
……それを言われると、反撃の手段がないから困る
肩を竦めて助けを求め……たいが、眼前のエルフの
エッケハルトー!ヘルプミー!
『しかし、助けは私でした残念ですね兄さん』
始水も珍しく役に立たない案件なので意味がなかった。元々エッケハルトも来るとは期待してないから同じだなうん
「で、だ。どういう用件なんだアナ?」
……ノア姫の視線がちょっと冷たい
「用件が無かったら、わたしは皇子さまと一緒に居たら駄目なんですか?」
と、小首を傾げる少女。ほんの少し混じる悲しげな声音に、目尻に微かに見える水滴に、思わず謝りたくなるが踏みとどまる
おれは、クソ野郎で十分だ。これは今も変わらない。何時死んでも良いように、生き残ってシュリ達全てに手が届いたとして、その先どうなろうが最低限の波風で済むように
「出来たらそうしてくれると助かるよ。君の希望の象徴、聖女としての立場もあるし」
「あ、ならわたしが嫌だから気にしないことにしますね?」
アルヴィナー!親友として止めてくれ、割と正面からこれを叩きつけられると心が痛んでキツい
て、アルヴィナにこの事で助けを求めるとか末期かおれ
「……こほん。兎に角だ
あまり時間を置くと門限があるからな。何をしたいのか知らないけれど、もう少し時間を気にすべきだと思う」
「……えっと、わたしたちが『天津甕星』っていうあいどるをやるってことは知ってる筈ですけど
衣装はアステール様が特注してくれるらしいです。振り付けはリリーナちゃんが考えてくれます
だから、わたしとアルヴィナちゃんが歌う曲の歌詞を考えようって事になってですね?
わたし、皇子さまが言うように未来の希望とか、含んだ歌にしたいなーと思ったんです」
それに、おれとノア姫はふんふんと頷く。理解できるし応援したくなるな、その判断
「だからですね皇子さま。皇子さまなりの望む未来ってどんななのかなーって気になっちゃいまして」
「おれが居なくても問題ない世界」
はにかむ少女の前で愛刀を呼び、とっくに決まりきっている言葉を、おれは吐いた
「……え?」
銀髪の聖女のニコニコした楽しげな顔から、感情が抜け落ちた
「……駄目ですよ、皇子さま?」
「気がつかないと駄目なのはアナタよ、聖女アナスタシア」
と、おれの前にはドヤ顔のエルフが背中で語って聖女の前に立ち塞がっていたのだった
……うーん。ノア姫だと可愛さに負けるなこの頼もしい雰囲気……