蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「ノアさん」
少しだけ怒ったように頬を膨らませ、銀の聖女が冷たく告げる
が、まあノア姫は何時ものように涼しげだ。自分に疚しさを感じていない瞬間のノア姫は無敵ってくらいにメンタルが強い。退かず、媚びず、堂々とって感じ
まあ、疚しさがあるとそれを気にするからか無敵感無くなるけどさ
ということでおれはその少女の背後に……隠れたら流石にクズ
正直隠れてやり過ごしたくはあるがノア姫の肩を軽く叩いてその意思を示せば、少女エルフは満足そうにまとめた髪を揺らして横に避けてくれた
「ノアさん、わたしと同じ考えだと思っていたのに……」
「アナタほど盲目である気は無いの。盲目な愛も必要かもしれないけれどワタシ向きの立場じゃないもの
それはそれで、基本同じ方向を向くことに異論はないわよ?」
「なら、あの皇子さまの言葉は」
「『自分が居ない世界』と言うなら、ワタシも止めてたわよ
でも、さっきのは意味が全く違うの。止めなくて良い、ワタシからしても一つの目標だった有り様だもの」
ふふん、と腕を組むエルフの首元に、さっと取り出されたペンダントが揺れる。身に付けてるのをパーティーに引っ張り出された時くらいしか見ない、エルフの集落の纏め役の証だ。確か、英雄ティグルが聖女から貰った手の保護用手袋の甲に付いていた石を加工したもの
「……ああ、それもそうか」
と、おれは漸く事態に追い付いて頷いた。いや、ノア姫が助け船出してくれたは良いけど理由については置いてけぼりされかけてた、うん
それを言ったら呆れられるから言わないけど
「皇子、さま?
死のうとなんて、考えないんですか?」
「信用無いな、おれ」
なお、自業自得だ。始水に言われた方がメンタルダメージがデカいので、言われる前に先んじて自虐しておく
「それはそうですよ!わたし達じゃ全然助けてあげられなくて、困ってたんですからね?」
「ごめん。ただ、死ぬ気はない。居なくなりたいって訳ではそこまで無い
それとは別に、おれが居なくても良い世界になって欲しい」
「そ、それが良く……」
と、小首を傾げたアナの前で、いつの間にか教師っぽくするための眼鏡を装着したノア姫が、魔法で光の板を用意してそれを杖で叩いた
「あら、授業の時間ね、感謝なさい?
特別に教えてあげる」
「あ、お願いします」
ぺこりと下がる頭
「まず。そもそもワタシはエルフの纏め役。そして、そのワタシとしてもエルフの集落の方針は……ワタシが必要ない有り様なのよ」
あ、ノア姫の言動にアナの頭の上に大量のハテナが浮かんでそうに見える
が、正直おれには割と分かるのでふむふむと首肯しておく
つまり、だ。そんな方針で居て、かつそれがある程度上手く行っていたからノア姫って此処に居てくれるんだよな
「勿論、ワタシが不要とか言わないわよ?」
「え、さっき必要ないって……」
「違うわよ。"居なくても良い"と"不要"は全く別
ワタシが居た方が勿論里として良いけれども、居なかったとしてもどうしようもなくなる事無くちゃんと社会は回り復興も出来る、それが前者
ただただ居なくなりたいから役目が消えて欲しいって昔の灰かぶり思考が後者よ
ワタシは前者。ワタシ込みで100の事が出来たとして……ワタシ抜きでも90回る、だからワタシは別口で動いて他人を80から100にした方が総合的に良くなれるとして、こうして人間と共闘してあげてるのよ。」
「えーと、違うってのだけは分かりますけど……」
「つまり、アナタ的に言えば皇子さまが必死に命懸けで戦わなくても相応に平穏に過ごせる世界って事よ
彼が持ち振るう世界の法則の外の力、そんなものが必要ない
と、ノア姫の言動にみるみる顔が明るくなるアナ
「そうなんですか、皇子さま?」
「まあ、そういう話だよ」
おれ自身自分が許せない気持ちも……消えた訳じゃない。ふとした時にぶり返すし、あの気持ちが間違ってたなんて一生言いたくもない
けれど、おれにあるのはそれだけじゃない
「全く、もう少し人に誤解されない言い方を学びなさい?アナタその辺りについては貴族失格よ」
ぐうの音も出ない。矢面に立つために相手の神経逆撫でする言い方ばかり上手くなって、自然と誤解を招く言い回しになってしまってるのはおれの悪い癖だろう
「えっへへー、それならわたしも嬉しいです
でも、他の人も誤解して酷いこと多分言っちゃいますから、宣言するならわたしかノアさん連れて、誤解を解ける時にしてくださいね?」
「善処するよ」
「しないわね、これは」
……ちょっとノア姫!?冷たくないかそれは!?