蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
ノア姫の用事とは、つまりは頼勇を貸してくれとの事だった。何でも、これから来る妹に尋ねたところ、おれか頼勇の事は覚えているから、あの人となら安心と答えたらしい
まあ、彼女自身繚乱の弓の持ち主だしそうそう問題は起きないだろうが、案内が欲しいという言葉を無下にする必要も無い。快く頼勇に連絡して、おれはこういうのも良いだろう、とばかりにシュリの言う児戯そのものの場に来ていた
結構な人数が集まって作った祭の出店街、みたいな場所だ。輪投げやら射的やら金魚……は居ないがヨーヨー掬いなんかが並んでいる
とりあえずと入口で三枚チケットを渡せば、返されるのは15枚のメダル。チケット一枚=約1000円、一回1000円は祭にしても高すぎるので数回プレイ出来るようにこうしてさらなる独自通貨?と交換するのだ。チケット制の工夫である
まあ逆に言えば貴族向けのお茶会体験みたいなのだと、一回に複数枚チケット要求するが……あれはチケット一枚じゃ原価割れするレベルだったりする。学園祭は営利ではないが、損しろとも言えないんで、あの価格も妥当か
「はい、リリーナ嬢とオーウェン、君達の分」
と、おれは二人に5枚ずつメダルを渡して笑う。こんな場所に居るのは家族連れが多いので少し浮くが、まあ良いや
「あ、ありがとう……」
言って、黒髪の少年が周囲を見回す
気が付くともうリリーナ嬢は子供たちに囲まれていた
「おねーさんおねーさん!」
「うわっぷ!た、助けてオーウェン君!」
スカートを引っ張られて慌てた少女が助けを求めるのはおれじゃなくて。そうかと微笑みつつ、けれどもオーウェンはあわあわしているので代わりに、と強く手を叩く
パァン!という大きな音に子供達がびくりと震えて視線を此方に向け、それを確認しておれは膝を折って目線を落とすとじっと見据えた
「気になるのは分かる。でも、お姉さんに迷惑かけちゃいけないだろ?」
「ひっ!」
「忌み子だ忌み子!殺されるぞ!」
なんて、子供達が叫ぶ。多分景品として貰ったろう玩具の武器まで持ち出して構えて来るのに、もう駄目だこりゃとおれは肩を竦めた
「ど、どうしてこうなったのゼノ君……」
「おれが、知るか!ここまで怖がられてなかったろ最近までは」
「まあ、今の皇子、愛刀の月花迅雷を背に背負ってるから、そこが……」
ああ、と頷く。確かに何時も子供達と会う時に神器は持ってなかったか。白銀の鞘に白狼の鍔。伸びた一角が静かに雷光を湛えて、納刀しててもかなりの威圧感はあるからな。そりゃ怖いか
「よし、じゃあ子供達よ
この怖い忌み子を撃退すべく、勝負しようか」
が、それ幸いとおれは子供達に語りかける
「しょーぶだって!」
「そう、この場にある催しでおれを超えてみろ。お前達が勝ったら、化け物は退治されて居なくなる」
「やってやらぁ!」
「忌み子になんて負けるかよ!」
「で、でも向こうは大人で……」
近くに居た三人が各々あーだこーだ言う。一人が冷静ってところか、これは
「力を合わせて戦うんだから、三人合わせてで良いぞ?」
「よっしゃあ負けねぇ!」
と、さくっと乗ってくる三人
「あ、あの……大丈夫なの、皇子?」
心配そうにサクラ色の一房を揺らす少年の肩を心配すんな、と叩く
「しっかりしろオーウェン。駄目に見えるか?」
「……ちょっと……」
おい、と内心で突っ込むが言葉にはしない
「ゼノ君ゼノ君、なにこれ?」
「悪役やって子供と遊ぶ。オーウェン、子供達側でも第三勢力でも良いぞ」
「いや僕基本し……皇子の味方だからね!?」
「カッコいいところ見たいぞオーウェン君ー!」
なんて、呑気にリリーナ嬢は応援していた
「おれは?」
「どうせこういう遊びだと素スペックの差で最強じゃんゼノ君。手を抜いて遊んであげるって時に応援も無いかなーと」
まあな、と頬を掻く
「竪神かロダ兄でもないと勝負にすら基本ならないのはまあ確かか」
と、ふと思い出す
「そういえば悪いな、リリーナ嬢」
「え、何が?」
きょとんとされた
「竪神の事だよ。ちょっと聞いたけど、ゲームの時の推しなんだろ?
やっぱりこういう時に」
「あー、それ?良いって」
けろっとした顔で否定され、おれは少し面食らう
「そりゃ頼勇様は好きだったよ?
御免ちょっと違うか、好きだよ、今でも。でも、私が彼が推しっていうのはさ、多分だけど一人で完璧に近かった在り様が主」
オイ、と半眼になる
「竪神は確かにおれにとっても輝く英雄だが、あれは百獣王だ。想いを束ねて、人と在ってこそだろ」
「そこら辺の英雄同士の友情とか、しょーじきついて行けない!」
自信満々、満面の笑みで返されてはそうか……と目を伏せるしかない
「私にとっての頼勇様はね、ゼノ君の言うように確かに戦闘面で皆が居たほうがってなるのかもしれないけれど……それ以前に一人で立ち直れて立ってられる人。そう、スパダリなんだ
だからね、好きだけど……私がその横に居る必要とか意味とか、正直無くない?ってなるんだ」
言われ、唸る
確かに、ゲームでも後から追加された頼勇ルートってヒロイン側を掘り下げるルートなんだよな。頼勇本人が一人で自分の問題に折り合いを付けて覚醒できるが故に、ヒーロー側にシナリオの盛り上がりを作りきれないっていうか……だからヒロインの事情だ何だをとことん掘り下げて総てを打ち払うヒーローさせられるって話ではあるが
おれの内心のドス黒さ……ってゲームだとまだマシだが心の底の汚泥をヒロインが必死に何とかしようとするゼノルートとは違って綺麗なんだよ、あのルート
「だからね、好きだけどこれは恋愛じゃないなーって、割り切れちゃったのです。アーニャちゃんにも言ったけどね、もう恋愛って点では頼勇様は天空行っちゃって圏外!
ってことで、私はゼノ君やオーウェン君と遊べればそれで満足かな?」
「おれはとっとと圏外で良いぞ?」
最初からその気だったし、と肩を竦める
「後、そもそもロダ兄は?」
「えっと、原作だと実はアーニャちゃんにとってのゼノ君みたいなもの扱いなんだけど……実物はぐいっと来ると怖い!ゼノ君の方が良い!」
ぶるっと震えられて苦笑するおれ
言われてみれば、実際これが良いんじゃないか?と縁マンやってるロダ兄だが、男が怖い女の子にしてみれば初期の距離感が近すぎるかもしれない。踏み込んで欲しくなきゃそこから先には来ないとはいえ、な……
「いや、おれは」
「しょーじきアーニャちゃんが横の方が良い!それは分かる!でも、放っておけないし、放って置かれてたら私が死んでたしで、複雑なのです」
それだけ言うと、少女は逃げるようにツーサイドアップを烈しく揺らして一つの出店枠の前に駆け出した
「おー、すっごい色々景品あるじゃん、これちゃんと取れたら貰えるの?」
射的だった。ただしコルク銃じゃなくてちゃっちい弓で射るらしい。子供向けだがアーチェリーに近いな
「忌み子!しょーぶだ!おねーさんの願う物を取れたら勝ちだぞ!」
そんな風に親から貰ったろうメダルをぶんと振って仕掛けてくる少年に微笑んで、おれは受けて立つ、と告げたのだった
が、あの弓矢のヘボさで高い賞とか……子供の力じゃ落とせなくないか?