蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「……ふぅ」
外の空気を吸いに、部屋から外へ。寮という名の掘っ建て小屋は燃やされてそのまま(再建の目処も立ってない。父があいつに要るか?したそうな)なのでノア姫に部屋を借りて、色々と仕上げる。今夜は徹夜確定なのでそれで十分だ
にしても、とおれは一人で空を見上げる。月は夜の間何時も其処にあって、おれ達を照らしてくれている
何だか、今回のアルヴィナはスパルタ式だ。『ボク、皇子とボクのあの事件については妥協を許さない』と思い切りノリ気で口出しを始めるものだから用意が大変過ぎる。小物にも拘りを持ち、今もせっせとプロムナード風に飾り付けた教室に新たに置く小物を作ってくれてはいるんだけどな
お陰で入り込めない。見方としては殆ど使わない死霊術使いの本領を生かして大量のスケルトンを出して物量工作までやってるからな
まあ、流石にゴーレムは作れない(正確に言えば作れるが屍素材なので明らかに腐臭がしてしまう)からか、或いは自分の美化を入れすぎないようにか、肝心のヒーロー人形とかは此方任せなんだがな!
が、口は出す。ということで軽く行き詰まり、気分転換に外に出たという訳だ。龍の月……ってか雨季に近い今の空気はひんやりして、ほんの少し湿り気も帯びている。からっとしていないが良い心地だ
もし万が一まともに皇族としてこれからもやっていくことになれば、こうした書類仕事の息抜きなんかも常態化するのだろうか?
まあ、まず無いだろうが。戦いがどうなるにせよ、ゼロオメガと魔神族を退けきれた暁には、おれなんてもう必要ない
そう思いつつ、展示フィギュアに持たせるレプリカ作成用に呼び出している愛刀を見下ろす
過ぎた力だ。振るわれないほうが良い。だから、象徴たる
何時か、微睡みに夢を見れるように
きゅっと鞘飾りを握り締めたところで、おれは不意に現れる気配に気が付く。敵意0、殺意皆無、怯え少々。迷いを込めた足取りは……うん、シュリ。迷いがあるから竜胆かと思ったがそれにしては重い音だし、敵意0じゃない分少し歩みが荒いからなあっち
まあ、まだ割り切り切れてないってレベルなんでこの先またやり合うことは無いだろうが
ってか、やりあったら負ける。今のおれ達にあいつのアガートライアールを倒す手は何一つない。おれ達を倒すために変化するような機体でも無いだろうから心配してないが
振り返れば、やはり其処には大きな尻尾を揺らす龍少女。背丈に合わぬ重い足音は生えた龍の意匠の重さを物語っている
「シュリか。捕まえるぞ?」
と、おれは手錠を振るような仕草を取る。まあ捕まえても意味ないので冗談だが
「儂、捕獲されてしまうのかの?」
「祭りの最中は許可しても、本来此処は学び舎。無関係の者の立ち入りは駄目だからな。不法侵入者は捕縛しないと」
と、茶化すおれと、元々閉じた翼を更に強く縮こまらせる龍少女。怯えではなく反射なのだろう
そんな彼女に向けて、ノア姫が用意してくれていた巨大なマグ(これは陶器のやつだ。何でも10年前にノア姫が焼いたらしい。何でもありかあのエルフ)を差し出す。中身はホットミルクだ、少しの蜂蜜でほんのり甘いがほぼミルク
「……温かい、の。けれどもなお前さん、儂には味は分からぬよ」
「言ってるじゃないかシュリ。温かいんだろ?心も体も冷えてるなら、どうぞ。少なくとも少しは温まる」
まあ、飲みかけだけどとおれは頬を掻いた。やけに大きいと思ったが、今も起きているノア姫は到来を予測して、あえて沢山用意してくれたんだろうな。横にあった小さなマグ持ってくれば良かった
「すまんの」
小さく頷いて、折れそうな手でマグを受け取る銀龍。ちびりと一口飲んで、泣きそうな顔を浮かべる
「味は分からぬが、温かい……の」
「まあ、ノア姫はおれの為にもずっとある程度長期的に毒を中和できる薬を作れないかやってるから、そのうち味も楽しめるよ、きっと」
その撫でやすい位置にある頭をぽんと撫でながら、おれは呟いた
「それで、今日は楽しかったか?」
どうしたと聞きたくなる。不意に現れた理由は知りたい
けれどもそれよりも、とおれは微笑んで尋ねた
「……楽しくは、無かったよ」
地面に向けて吐かれる震えた言葉
「この世界の神に護られた者に言われたとおりじゃな。儂は……の。荒削りで誰かを楽しませようと一生懸命で……
そんな微笑ましい生きることの総てを、かつて心の毒に融かし沈めた」
……と、何も言えない。安易に茶化せない
きゅっと握られるコートの袖に、楽しくなかったというのは嘘だと分かる。ってか、アナと一緒に遊んだろうおれ達の脱出ゲームだが……その景品の金属製バッジがコートに付いてるしな!楽しんでなきゃそんなもの夜まで身に付けない
「……それが言えるなら、君はシュリだ。アナは、きっとおれの為に君に対して毅然としようとしてるんだろうけど、おれは君を何も否定しない」
寧ろ、楽しめたから自分が(本人の思考の時系列では)未来にやらかす、そして世界的には過去にとっくにやらかした世界を滅ぼすことに心を痛めているって、心優しい証明みたいなものだからな。おれがそれを肯定しないで誰がやる
「そう言ってくれると助かるよ、お前さん」
寂しげに、けれども何処か嬉しげに……って頬の赤みは多分撫でてるからだな。人懐っこくて撫でられたがりな割に毒が出たらって怯えて撫でられに行かないからなシュリ
「……明日もあるんだし、シュリも寝るんだぞ」
言いつつ、ああと思う
「此処来て場所がないならおれからノア姫に」
「良いよ」
が、おれの言葉は大きな白い袖に遮られる
「お別れじゃよ、お前さん。儂の【
明日はアヤツも現れるじゃろうし、儂は邪魔。十二分じゃよ」
「何処行くんだ、シュリ。明日も居れば」
「儂は世界を滅ぼした毒龍。英雄譚には邪悪に過ぎぬよ」
「そんな事言わず、見に来れば」
「……儂に、英雄などはの
……居やしないんじゃよ。じゃから、儂は
何も返せない。おれがそうだとも、何とも約束してやれない。安易に嘘になるかもしれないことを告げて、万が一上手く行かなければ。彼女はきっと二度と、誰にも心を開けなくなるだろうから
代わりにぎりりと拳を握り込む。空いた手に握った愛刀の飾りに皮膚が食い込んで、つぅと赤い血が垂れる程に
そんなおれの手を見て、小さなハンカチを置いて。銀龍の姿は消えた