蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

648 / 690
陸の舟、或いは思い出

「アナ?」

 アウィルを連れて彼等の元を去ってすぐ。礼服の袖をきゅっと掴む白い手に気が付く

 

 「えへへ、逃がしませんよ皇子さま?」

 振り返れば、ほんの少しいたずらっぽく笑みを浮かべる聖女様の顔を見下ろす形になった。今日は珍しく何時もの神官服ではなく制服なので胸元はしっかりとリボンタイに護られて全く見えないが……

 

 「そういえばアナ、何時もと服が違うんだな」

 「もう、気付いてくれないんですかって少し不安だったんですよ?」

 「いや、すまない。それで、何か意味があるのか?」

 「あ、これはですね、わたし達今日の最後の方にアイドルしますから。リリーナちゃんと示し合わせて、その時のフリルのある衣装の可愛さを際立てたいから、制服を着ておこうって話になったんです」

 と、少女はくるっとターンして珍しいファッションをおれに晒す。何時もの服だとふわりと広がるスカートは、今日は動きに合わせて流れるように動いた。学生なら誰でも着て何処へでも出て許されるように採用された騎士団のプリーツスカートが原型だからな

 

 「ちょっとアナにしてはお堅いイメージになってるな、確かに」

 「そうなんです。リリーナちゃん、アイドルに本気だから。こういうところ、わたしじゃ思いつかなかったなぁ……って」

 と、少女ははっと気が付いたように慌てておれの手を掴み直した。緊張からか、ひんやりした手触りが手を包み込む

 

 「そ、そうじゃなくて。逃げないで下さいね?」

 「逃げないよ」

 「アルヴィナちゃんが居てくれたから安心は出来ましたし、皇子さまにもやるべきことがあったのは分かりますけど……」

 その言葉に、おれは周囲を探る。が、居るのはアウィルと、影の中のシロノワールと……ちらちら壁越しに部屋の中から観察してる朧気な気配はアステールか。妙に霞んでいるし、これアステールでも竜胆のアガートラームの柩内に残ることを選んだ魂の欠片の方だ。ってことは、おれの気配察知にすら引っ掛からないが竜胆も来てるな?

 

 が、可笑しい。話題に挙がった魔神娘が居ない 

 「アルヴィナは?」

 「えっと、わたしに比べて歌が苦手だから最後に一人で発声して備えるって、先に」

 「そうか」

 「その分わたしに時間をあげるけど、後夜祭は譲ってって言ってました。皇子さま、ちゃんと後で構ってあげて下さいね?」

 待て、構ってで良いのか言い方

 

 「……えへへ、実は皇子さまと行きたくて、回ってないところがあるんですよ」

 なんて言われて、手を引かれるままに少し歩く。辿り着いたのは、先程も無視したが見えた大きなアトラクションであった。様々な事に使えるよう広く取られた校庭のど真ん中に聳える巨大な鳥居……のような支柱。そこから2本の鎖で両端が繋がって吊るされているのは、どこか菱形を思わせる大きいような小さいような言葉に困る大きさの舟であった

 

 何か見たことあるな。回る舟型のアトラクション……そう、系列グループの新アトラクションを作るためにいくつか無くすとしたらどれか子供なりの意見を聞きたいですと始水に連れて行かれた遊園地で乗った事がある遊具だ。遊園地なんて、万四路が色々乗れるようになったらって約束は果たされなかったからあの一回しか行ってないし良く覚えてる

 まあ、魔法でぐるぐる回すから、しっかりとした柱で繋がっていて円を描くように一周できるだけの日本のアレと違ってもっと自由に動けるように鎖で繋がってるだけだが……。しかも両方の舳先に繋がる鎖のもう片方は一点に集中してるから回転させられるんだよな……

 

 ……これ、何と言ったっけ

 『バイキング、ですよ兄さん』

 なんて、疑問を投げれば幼馴染神様の答えが返ってくる

 

 「えへへ、知ってますか皇子さま?」

 「バイキング、って遊具だっけ。先輩達がアイリスに強度確かめて貰ってやってる」

 「……龍姫の方舟ですよ?」

 こてん、と首を傾げられて頬を掻いて誤魔化すおれ

 

 始水ぃぃっ!?

 『……兄さんが昔を思い出していたので、ニホンでの呼び方を答えました。けれど、これで二度と忘れはしないでしょう?』

 くすりと笑う神様の言葉に諦める。からかう始水に勝とうというのが、まず間違いなのだ。少なくとも本当に困った事にはしないのだから引っ掛かってからかわれる方が余程良い

 

 「……何処かで混じったな」

 「ばいきんぐ?も素敵なお名前ではあると思いますけど、船の形なら水を司る龍姫様のお名前を付けたほうが喜ばれますし……」

 なんて会話をしながら、今回の乗る客に合わせてか鳥居っぼい柱の上に通された柱を軸にぐるぐるとまるで鉄棒選手のように回転する舟を眺める。12人乗れるな、鉄製……じゃないな、あれ鋼亀の甲羅か。水に浮かべるには重いからそこそこ安いが頑丈で撥水性の強い魔物素材で出来た船だ。甲板に当たる場所には二列に椅子が備え付けられており、皮のベルトで体をしっかりと固定できる。そうそう落ちる事故は起きないくらいにしっかりした造りだ。この企画のために結構頑張って舟作ったんだろうな。こういう努力を見ると、本当にアレットと組んだ奴等何なんだろうな?と思ってしまう。いや、批判し過ぎても駄目というか、彼等なりに考えて努力するより元から集客力ある奴をまんま出す結論なのかもしれないが……

 

 なんて思っていたら、道を譲られてしまう。並んでるから先で良いと言いたくなるが堪え、アナが有り難う御座いますとお辞儀するのを見て相槌のように軽くだけ頭を下げて通る。下げすぎるとそれはそれで突っ突かれるからな、皇族は面倒だ

 聖女を並ばせたくないってのは分かるしな、と料金を見れば、基本はチケット一枚でグループ乗れるらしい。まあそんなものだろうなという価格設定

 が、目を引くのはそこではない。何だか、コースが色々と書かれているのだ

 

 「アナ、このコースって内容は分かるか?」

 「えっと、さっきみたいに回るだけじゃなくて、色々とあるようですけど……」

 言って、少女は己の胸元に目線を落とした

 

 「皇子さまなら、出来ます?」

 「君自身は平気か?」

 「えっと、見てみたいから頑張ります」

 なんて言われては、無視はできない。難関コース、アタランテ級?とやらに挑むことにする

 

 そう告げれば、渡されるのは小型のボウガンとその為の矢。何でもこれで龍姫の方舟がぐるぐる回る中でポイントターゲットを撃ち抜けってアトラクションらしい。ターゲットは魔法で浮かべるようだが、これ危なくないか?素人だと外して地面……というか並んでる人撃つぞ?

 

 なんて思いつつ、舟に乗らせてもらい、ベルトを締める。横目で横の席に座るアナを見るが、どちらのベルトや椅子も外れる心配は無い

 

 「ちょ、ちょっぴり揺れるのは怖いですけど、楽しみですね?」

 「アナ、多分ボウガンおれに預けてたほうが良いよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。