蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「それでは!」
と、生徒が笛を鳴らせば、ゆっくりと魔法を掛けられた舟が空へと漕ぎ出す。複数人で舟を浮かす魔法を使い、空を飛ばしてくれるのだ
今回の客は……残念ながらおれとアナのみ。一緒に乗りたがるかと思いきや、どうぞどうぞと譲られた。本来もっと席が埋まった状態で皆がボウガンで的を射るらしいし、ここ2日での最高得点は9人乗ってての奴らしいんだが……
「っと、アナ」
揺れる舟。飛行機が落ちる嫌な揺れを思い出してしまいそうで、それを振り払うように手にしたボウガンに力を込める。集中しろ、おれ。揺れなど知らぬ存ぜぬ感じない!やるべきことは撃ち抜くことだ、忘れろ識るな無いと思えば無いに決まって
視界の端に打ち上がる的を確認。おれの左側の席のアナから更に向こうだ。舳先が持ち上がっていく今撃てば地面に向けて矢を放つことになるので一拍置いて、ごめんなと頭一つは低い聖女様の頭を左手で抑え、その上に右手を置いて舟より高くへと上がる瞬間をボウガン狙撃
「と、残念だ!」
そのまま背後に魔法の気配を感じ、膝元に置いてあるアナから預かったもう一丁のボウガンでノーロック。勘だけで誰も乗ってないから気にせず後頭部の先に出現した的を抜き、膝を軽く跳ね上げることで膝上に同じく置いておいた2本の次の矢を浮かせ、一瞬片手をボウガンから離して装填、右手のそれを膝上に置いて左手側も装填し、右手に持ち替えつつアナの席との間に設置された矢筒から次の2本を取り出してボウガン下に滑り込ませて……って次もう出てるか!
「皇子さま、すご……っ!?」
がくん、と揺れる舟。魔法での持ち上げが終わったのだ。となれば……
「っ!待てないか!」
揺れを認識した瞬間に思考を再度切り替えて両手にボウガンを持ち、同時発射。その一拍後、90度まで持ち上げられた舟は魔法による支えを消されて一気に振り子の原理で後方へとぶっ飛ぶ!
「きゃっ!?」
背もたれから体が引き離される感覚、後ろ向きにぶっ飛ぶジェットコースター気分
「きゃぁぁぁっ!?」
そして、射撃を終えた後のおれの腕をぎゅっと掴まれる柔らかな感触。舌でも噛むかと思った思考がクリアになる
「ま、ま待てアナ」
「た、助けてください皇子さまっ」
「助けても何も別に危険はないって!」
腕を振り解くわけにもいかず、ふわりと柔らかな包む感触に左手のボウガンを取り落とす
「ひゃっ!」
今度は遠心力が掛かる。ぐるぐると砲丸投げのように舟が回され始め……
「お、皇子さま!離さないで……」
「いや、しがみついてるのアナの方だからな!
怖いならもうずっと縋ってて良いけれど!」
っ!片手じゃ手数が足りない!こういう揺れ自体はアウィルやアミュでも何度も味わったから慣れっこだ。愛刀なら遠距離攻撃も楽だが普通の鉄刀じゃ斬撃飛ばすにしても射程や連射力に欠けるので、馬上で弓を射る訓練ならやってきている
が、それは両手ある前提の話。片手でボウガン装填から発射までやりきる事は考えていない!
「や、やっと終わりました……」
そして、アナに腕を抱き込まれながら片手で的を撃ち続ける事体感数分、最後の的は地面に向けて撃つことになるのであえてスルーしたところで舟は漸く地面と平行に停止した
ふぅ、と息を吐いたおれはボウガンを降ろし、床に落ちたもう一丁を見る
うん、アナの膝に屈み込まなきゃ取れない位置だ、迂闊に取ろうとは出来ないな。とまずは自分が使ってたのをスタッフ生徒に渡す
「こ、怖かったです……」
震える少女は、未だにおれの二の腕を胸元に抱き込んだまま離さない
「……こういうの、苦手だったかアナ?」
「意識してなかったけど、そうだったみたいで……」
漸く腕を離してくれたのでおれは立ち上がり、ほいと
「……はい、少し待ってくれ」
仕方ないのでひょいと縁を再度超えて舟の中へ。固定用のベルトを外したが腰が抜けた少女の脚の下に手を通し、ついでにもう一丁のボウガンを拾うと腰にも手を当ててひょいと軽いその体を持ち上げる。そのまま今回は手を使って降りられないしと甲板を蹴って跳躍。縁を飛び越えて地面へと降り立った
……いや、後部に乗り込む為の出入り口と踏み台あるしそこまで歩けば別に縁超える必要無かったなと気が付いたのは、その直後の事であった
「情け無い……」
「あ、有り難う御座います……」
溜息を吐くおれの横で、頬を微かに紅潮させた少女が腰に通していたおれの左腕を支えに地面に立つ。うん、子鹿みたいに脚が震えてるままだ、暫く貸そう
が、それで良いんだろうかと周囲を見回す。こんな忌み子が……
「流石というか、何で聖女様に片手貸したままボウガン撃ててるのか聴きたいというか……」
と、おれの頭に紙吹雪が降り掛かる
「……何だこの紙吹雪?」
「3位御目出度う御座います!実質一人でこれはもう実質最強でしょう」
パァン!と弾けるクラッカー(ちなみに魔力で弾けるタイプ)、少しズレて響く拍手の音
「待て、ロダ兄なら多分一人で全部撃ち抜けるぞ」
おれは8割ちょっとしか射抜けなかったから普通に負ける
「いや分身とか流石に4人扱いで
というか、本当に一人ならもっと撃ててた人に言われても」
その言葉にそうだろうか?と微笑む
……何だろう、酷く和やかな雰囲気だが……
「不思議そうな顔ですね皇子さま?」
「まあ、な。おれは忌み子で」
「確かに、七大天様から見捨てられた邪悪だって言う人も居ます。それを全部駄目だって、わたしは言えません
でも」
おれの腕を支えに、銀の髪を揺らして少女はおれを潤む瞳で見上げる。まるで湖面のように、濡れた瞳は澄んでいて、見詰めれば何かが沈められてしまう気がして
「そうじゃない人だって、居たら駄目なんて事はないです。皇子さまがずっと駆けてきた道を、その背中を、守られながら見てきた人達だって居ますから」
思わず目を逸らせば、訴えるような言葉に頷かれる。同い年の子供達にそれをされると、酷く自分が幼く癇癪持ちの子供に思えて
何も言えずに、歩みを進めてしまう。まるで、逃げるように
「……えへへ、まだ時間ありますよ、皇子さま?」
が、握られた腕は離されない。つんのめってしまわないように抑えた歩みは遅々として、逃げ出す事すら出来ていない
「……あんなおれと乗って、楽しかったのか?」
まあ、一人で乗っていたら最後まで乗り物の揺れに耐えきれたかは微妙だし、助かりはしたが
「安全だと解ってても怖い、それを楽しんでやれなかった訳だが」
「えっと、わたしは楽しかったですよ?」
こてんと小首を傾げて答える少女の眼は輝いていて
「皇子さまは怖がらずずっとボウガン撃ってましたけど、だからこそこの人はわたしを護ってくれてるって思えて。横に皇子さまが……安心させてくれる人が居たから、心置きなく怖さを楽しめたんですよ?」
「なら、良かったよ」
「はい!皇子さまは、何だか少し嫌そうでしたけど……」
一瞬目を伏せた少女は、けれど切り替えたようにすぐに表情明るく、おれの手を引く。もう、足取りはしっかりしていて
「そんな皇子さまと見たくて、のんびり出来る展示も取ってあるんです、行きませんか?」
「回るって約束だろ、アナ?」