蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「申し訳ない!」
少し不満げに衣装合わせなきゃいけないから直接見れませんって言うアナを横の部屋に押し込んで、楽屋として使える大講堂脇の小部屋に飛び込みつつ、おれは頭を下げる
「……皇子殿下」
「おれ自身初耳で遅れた、迷惑沙汰で申し訳ない」
あまり謝るなというのが皇族の常だが、これはもう単純明快におれ側に非がある。ってか、まさか聖女様が大トリの方が気分的に良い……というのはおれ自身薄々感じてたが、それで例年大トリは外部ゲストって伝統すら変えるだけのムーヴメントになるとは
もっと周囲の考えにも目を向けないとな?お陰で迷惑かけた訳だし
「いえ、此方としても今年の学園を見て回りたかった。早めに来ていたので問題はありませんよ」
そう微笑むシルクハットを被った劇団の長。くすりと笑えば、口元の伸ばした髭が吐息に揺れる
周囲の20〜30代の団員達もその言葉に頷いてはくれるが……多分おれへの配慮入ってるよなこれ
「……どうでしたか、今年は
といっても、今年はもう皆が浮き足立っていて、正確な氷華など出来なさそうですが」
が、先達がそれを許してくれるのであれば乗ろう。おれは微笑んで、彼等の言葉に合わせて話題を繋ぐ
「やはり、聖女様方ありき、というのはお見受けしました」
「お恥ずかしい。ゲストとして来て頂いておいて、前座のように扱う無礼な姿を晒してしまう事となってしまい申し訳なさの極みです」
「……いえ、仕方ありませんよ。聖女様方とて、披露する前に我等劇団の劇……それも、題材の英雄の原型たる貴方当人が演ずる特別仕様。見たくもなるものでしょうから」
「そういうものですかね」
「……我等の知る方ならば、確実に。殿下が舞台を借りに来た時も、袖から見守っていたではありませんか」
言われて、頬を掻く
まあ、聖教国では便宜上アルカンシエルって姓と義父の存在が用意されてはいるんだが、完全に
「にしても、今更ですが良くおれを使おうと思いましたね。しかも、合わせるからと合わせの練習すら数度で
確かに言われた通り、作者はおれをモチーフに彼を描いていると言っていますが、どうにもおれは演技が下手だ」
昔も見ていたでしょう?と肩を竦めるおれ
が、男達はからからと口を開けて笑う
「演技は、な」
そして、普段敵役をやっている大男は、おれの肩を強く叩いた
「人々を護る魔神の力を持つ英雄。それが演技ではないことならば知っていますよ、殿下。ならば、真に迫る演技は出来ずとも、真実そのものの振る舞いに何の不満がありましょうか」
見詰められて、なら良いかと愛刀を手元に呼ぶ
ずっと、共に戦ってきた
いや性格にはずっとじゃないが、おれの中で……本当に止めなきゃ駄目だ、手を伸ばしてもきっとどうしようもないと思ったのはエルフの森での一件で……あの時から本当にずっと、天狼の魂はおれを見守り続けてくれている
「さて、本当に何時もの服で良いんですか?」
と、おれは慣れ親しんだ……が今日は初めて袖を通した赤白金の和装の袖を振る
「勿論。見慣れた人々には安心を、そうでない者には信頼を」
「まあ、最近は原作側からして、白くて和装っぽい描写ではありますからね。上着があったり」
その辺り、アステールが調整してたんだろうな
そう言って、おれは手を振ってがんばれーと言ってくれる半分くらいは劇場を借りて子供劇をした時から見たことある人々に見送られて、舞台に上がった
大講堂の窓にはカーテンが……うん、掛かってないな。魔法で暗がりを作って影を落としてるだけだ。人の入りは……満席に近い
が、まあ思い思いに人が座っての話だからな。おれを見るとブリキの人形を掲げて振ってくるあの子が邪魔にならないくらいだ
っていっても全校生徒突っ込んでも余裕がある大講堂、4桁人数が来てると思えば十分過ぎだな
おれ用のちょっと魔法……ではなく席を用意することで区別された区画を見れば、言った通りに竜胆が釈然としない顔で座っており、舞台袖からは爛々と輝く満月色の片眼が……ってガン見かアルヴィナ?
が、おれが今回の劇の前口上を語ろうとしたその時、不意に視界の中で影が揺れる
竜胆だ。少し嫌そうながらちゃんと座ってた筈の少女が立ち上がり、腕を抑えて外へと駆けていった
全く、勝手に去るとか何を理解して……いや、待て?
シャン、と。嫌な音が響いた
鈴の音?っ!これは!
っ!と奥歯を噛む
この鈴の音には聞き覚えがある。魔神夜行が振るっていた小槌が鳴らす音だ。正確には……Xと呼ばれるあの化け物が世界に現れる時、同じ音が響く。夜行のそれは、きっと任意で音を鳴らすことで逆説的にその音が鳴ったのだからXが空を割って現れている筈だ、として顕現現象を起こすのだろう。シュリが前に理解しきれなかったが似たようなことを教えてくれた
と、なれば!
そうだ。流石に大人しくなった今の竜胆佑胡が逃げ出すのも可笑しい。だが、化け物が現れたなら話は別だ
自分が呼び込んだとして、逃げるかもしれない。おれ達を巻き込まないように
口の中に、血の味が広がる。力を込めすぎて、唇が切れていた
が、どうすれば良い?今ここで、劇団員の人々に恥をかかせて、竜胆を追うのか?
竜胆じゃなければ、そうだと即断したろう。が、あいつなら……一人で、いやアナザーアステールと二人で対処して逃げ切れる。それが分かるのに、わざわざ追うのか?ただ、自己満足のために?
……おれは、どうする?どうすべきだ?
何をしたいかじゃなくて……
「おおっと、待ちな」
が、その一瞬の沈黙と迷いを突き破る声が響いた
ロダ兄!?
「おっと皆々様、此度はお集まり頂き誠に有難う御座います
全く、この縁に何時か感謝を捧げるだろうよ」
「え、誰?」
「な、何!?」
静まり返り、始まりを待っていた人々が口々に困惑を漏らす
当たり前だ、おれ自身……
「おおっと、それはまだ秘密。しかし安心しな、英雄譚を追えば、君達は理解する!」
ドヤッ!と自信満々に告げるロダ兄。懐かしい桃のサングラスなんてして、正体不明感を演出しているがもう全力で翼を拡げてるから割と正体分かりやすい
「……さて、これから目にするは新たな英雄譚。その前唱といこうじゃないか!」
……漸く、ちゃんと理解する。さてはロダ兄……時間を稼ぐ気か!
自分達でパフォーマンスして、おれがXを薙ぎ倒して竜胆を連れ戻してくるまで、歌か何かで繋ぐって
「……知るべきは、一人ではない」
更に響く声。頼勇か!
「皇子。私が行っても、あの男女に掛ける言葉など無い。だから、向こうを任せる」
「竪神、ロダ兄……
ああ、少しの間だけ、頼む!劇団の皆さんも、申し訳ないが少しだけ待っててくれ!」
「おっと、俺様が全部盛り上げてやるから、遅れても大丈夫だぜ?」
「任せきったら駄目だろ?」
……行ける。実はパーティで星空を見るとか企画する事もあるから開けられる屋根も、気が付くと空き始めている。そこで開けて下さいね?してるのは銀髪の少女
……そこまで、やってくれるなら!止められない気はしないな!
始水!
『了解ですよ、兄さん。人々のために外面だけ魅せる気でしたが、正式に、完全に、兄さんの在り様の深奥を見せましょうか』
ぎゅっと、愛刀の柄を握り込む
「星刃、界っ!放ぉっ!」