蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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舞台袖、或いは歌の秘密

「貴様、は……」

 息も絶え絶え、血まみれで片腕を喪った大男が、おれに向けて言葉を紡ぐ

 

 「おれは、魔神龍帝。名乗った筈だぞ?

 虚まで、その名を持っていけ」

 おれは巨大な轟剣(デュランダルを模した大道具)を背中に背負うように構え、飛んでくる最期の足掻きを刀身で受け止め、壇上に倒れ伏す男を一瞥もすることなく舞台の上に突っ伏した粗末な村娘服の女性を抱えると、一息に地を蹴って舞台袖に消えた

 

 「……かくして、恋するワイバーンの少女を救いきれなかったゼノン。けれども、仇は討ち……

 新たなる力と共に、魔神の征く道とは。あ、これにて閉幕めでたしめでたし」

 ……待て、此処ロダ兄の台詞じゃなくナレーション担当居たろ!?何でロダ兄が劇を締めてるんだよ!?

 

 ということで、だと女性をそそくさと舞台袖で下ろすと、流石に劇のために変身し続ける負担に耐えきれずに全装甲を解除。先祖返りも終わったのでそれでも頭の上に変な瘤として残る狼耳を握り潰して(先祖返り中は血が通って耳4つになるのに即座に壊死してこうなるのは何とも不思議だ。いや勝手に取れる前に取ると血はちょっとだけ出るが瘡蓋を剥がすような感覚だ)

 

 「おやおや少年少女、予告された彼等が出て来ないって顔だな?

 勿論、魔神の血を引き、今龍の血を継いだ剣の皇が新たなる皇と出会うのは、龍血と焔導くこの先の話……つまりじかーい次回、ことーし今年の発売を、楽しみに待ってくれよな?」

 締め方強引だなオイ!?いやまあ納得はある程度はされそうだが……

 

 「時間押して短縮版にして貰った上にこんな締め方させて貰って重ね重ねすみません」

 そう、脇で見守っていた座長に頭を下げるおれだが、当人はほっほと笑っていた

 「いやいや、この場に呼ばれたその時に、己の誇りは捨てているよ」

 「いやそれは捨てては駄目なのでは」

 「その心意気、寧ろどんな時でも立ち向かう本物を見るための参考として、私達は受けたのだよ?」

 言われ、その可能性はあったかとおれは頬を掻く

 

 いやこれ単におれへのフォローだよな!?

 「いや、ほぼアドリブです」

 言って、そもそもアドリブというのが真性異言用語だなと苦笑する

 

 「……というか、ロダ兄のやりたいように無理に色々とやって貰っただけですよ」

 そう、おれは肩を竦めた。というか、割と寛容だなこの人達?

 

 「……と言うことだぜワンちゃん?」

 と、戻ってくるのはドヤっとしたロダ兄、横でこれでいいのか?してるのが頼勇だ。いや、割と強引だし理由はわかるが、そもそもおれ自身割と無茶な事を通しているから何とも言い切れずに曖昧に笑う。清廉潔白なら此処で何か言えたんだろうなとは思うが、それはそれだ

 

 「いや次回作の話は」

 「あー、それな?つけてきた」

 いや何時の間にだ!?スペック面やっぱり侮れないなロダ兄……

 「新たな力、新たな仲間。良いだろ?って教皇娘に話してあるぜ?

 なんで、大急ぎで仕上げた復活巻の次の巻で実際に出る訳よ。心配要らないぜ?」

 「だからって」

 「ってか、復活回予告の紙入れて対応したんだ、その次からもじかーん次巻って、やりたいもんだろ?」

 はっはと笑う青年は、すちゃっと割れた桃のサングラスを掛けた

 

 「いや、詐欺にならないなら良いんだが……」

 片付けの大半は魔法だ。炎のエフェクトなんかも魔法で出してるから、道具は少ない

 ということで礼を言って借りていたデュランダルもどきを返せば、後は下がっていく彼らを見送るだけ

 

 って言っても、聖女ライブは脇から見てて貰うんで、会場設置の間休んでて貰うだけなんだが。リリーナ嬢、超張り切ってお芝居やってる層からライブの改善案とか聞きたいって言い出したんだよな……

 

 ってそうだ、ライブだ

 「あの歌どう用意したんだよロダ兄と竪神?」

 アニソン系列だが、結構しっかりと作られていた。即興の出来ではない

 いやまあ流石に歌唱面は素人……カラオケの歌上手いお兄さんクラスだったが。曲の完成度は本物だ

 

 「あら、ワタシよ」

 何時の間にか現れていたエルフが、唇を軽く吊り上げて告げた

 「ノア姫が?珍しいな」

 「あら、20年ほど料理の腕を磨いてみたことがあると言ったけど、エルフは基本自給よ。人間のシェフのように大量に作る事は少ないわ。だからその間に自然の音を聞いていたの

 エルフ文法が混じりかねないし感性も違うから歌詞は作れないけれどもね。曲ならば提供出来るわよ」

 ふふん、と自慢げなエルフ。クールだがご機嫌に纏めた髪が揺れている

 

 が、そこでは無いのだ

 「曲は作れても人間に提供するんだな、って」

 そもそも作詞は無理だが作曲出来ますの時点で頼勇並に何でも出来るなこのエルフの媛!?って話は置いておく、ノア姫のスペックに突っ込んだら負けだ

 「あら、不思議かしら?

 これでもワタシ、対価があるなら応えるわよ?」

 「この馬鹿と出会った時は、対価を踏み倒して強盗する気だったがな」

 と、更に現れるのは銀髪の男。そう、皇帝シグルド

 

 「父さん!?」

 「静かにしろ馬鹿息子。面倒事を起こさん為に人の寄らん場所に転移してきたのに無意味になる」

 と、落ちる拳。軽いものだがこれも懐かしい。この(ひと)、割と手が早いんだよなぁ……じゃれてるレベルと本人は加減してるが、正直慣れてないと怖い

 

 「そうね。それしか早急に手を打つ手段は無かった。最悪囚われる覚悟もあったわ

 でも、今それを蒸し返すのかしら?」

 ノア姫は引かず、完全に見上げる形で赤眼と対峙する

 

 「……何をしに来たんだ父さん?」

 「少しな。息子等の努力を見に来たという訳だ。空が割れる現象が王都ですら確認され、てんやわんやが起きているのでな。息子が解決した後で、(オレ)がふんぞり返っていても何にもならん」

 逃げたいものは今逃げろ、とばかりに床を向いて男は吐き捨てた

 

 「問題が起きた訳じゃないんだな」

 「当たり前だ、それならばこうして無駄話に割く時間はない

 ……で、だ。話を続けて良いぞ?息子の嫁の馴れ初めをからかいたくなっただけだ」

 「違うわよ、少々親として頼りない父しか持たない恩人を保護はするけれど、ワタシ告白もされてないもの。恋人以上の関係になったつもりもないわよ」

 

 ……言われて、苦笑するしかない

 「心が痛いな」

 「ええ、それはそれよ。だから、ワタシが曲を用意したの。あの子達の分もね」

 いや一月……練習も要るからそこまで掛けられないしどれだけ早く用意したんだよそれ!?

 

 「といっても、さっきのは彼女等の曲のアレンジよ。ワタシが作ったのは二曲」

 ……十分凄い

 「凄いなノア姫は。でも、そこまで助けてくれるんだな」

 「ええ、これでも心変わりはしたもの、ね」

 そこで頷くロダ兄

 

 いや何故だ?

 

 「……そこで呆けるな、報告聞いた時点で気が付け」

 父にまで駄目出しされ、頼勇に助けの視線を向けるが、さり気なくノア姫を指されてしまった

 逃げ場はないらしい

 「何が?」

 「(オレ)の転移は己一人を飛ばすもの、このエルフは故郷へ周囲毎跳ぶもの。それは分かるな?」

 言われて頷く

 「……分かってなかったの、アナタ?」

 何だか呆れ気味に、ノア姫が呟く。あ、ポケットから伊達な眼鏡出した。教師っぽくするために掛けてるアレだ。ってことは、教えてくれるのだろう

 

 「では、質問よ。ワタシの魔法で跳べるのは、何処?」

 「故郷の他に第二の故郷として、現住所である王都にも跳べるんだよな?」 

 「ええ正解。……では、故郷は何処を指すのかしら?」

 いやエルフの森だろ

 

 と、言い掛けて澱む。これじゃあ問題にならないし、聖都での【笑顔(ハスィヤ)】戦の挙動に説明がつかない

 「……サルースが居るから、あそこを故郷と思う事が、出来なくなった?」

 「良く出来ました。ほぼ正解

 今のワタシにとって、アレが兄面で蠢くエルフの森は敵地よ。皆は知らないから危険はない……と信じたいけれど、妹は危険だから帝国に呼んだの」

 言われてノア姫の妹のエルフのリリーナが来てたことに納得する。サルースが真性異言(ゼノグラシア)化してるのは分かってても、配慮足りてなかったなと奥歯を噛む

 あれ?ウィズは?いや、男なら大丈夫か?相手は変質者の気があるし

 

 「そんな顔しない。全部をやろうとするのは悪い癖、直しなさい

 ……その時に、ワタシの居るべき場所として故郷を再定義したわ。何時か帰れる日が来るならば、それは彼処に居なければ来ることのない明日」

 薄々分かる

 

 分かるから、言いたくない。どうしても、拗れる言葉だから

 「そう、あの聖女じゃないけれど……アナタの横よ。だから、ワタシ自身のためにも出来る限りの手は貸すわ。それが等価だもの。

 それだけよ」

 が、あっさりとそれを告げるエルフは、しかし

 小さな手を軽く差し出しつつ優しく微笑んでいたのだった

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