蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
ゼノ「……あれ?」
前話違和感あったかもしれませんが、ゼノ君はまだウィズとエルフのリリーナは別人だと思っています。作者のミスです今は訂正済みです。
父はまあ放っておいて、さりげに爆弾発言したエルフをスルー
正直なところ、ノア姫が妙に優しいのは感じていた。いや咎められないのか?とは思うが、おれ個人に肩入れするだけではないから大丈夫なのだろう。恋心……でも無いだろう。おれ、これでも恋愛面で好かれるような奴じゃない自覚はあるしな
……何だろう、金星始水さんが呆れた溜息を耳元でふぅした気がする
いや待て、流石に始水もアナもアルヴィナも恋愛方面は違うだろ。おれだって頼勇とか好きだし憧れるけど例えおれが女だとしても恋人関係は考えないぞ?
閑話休題、藪蛇つつくのか?と思ってるうちに設営が終わり、大講堂の扉が開く
その瞬間、次々に入ってくる人々。仮にもそこそこレベルの知名度あるOBの劇団による劇を遥かに超える人の波。そこまで聖女見たいかと、もう圧倒される事しか出来ない
いや、おれも金に糸目をつけない立場なら兎も角何か見たいなら聖女優先するな?
それにしても、凄い人だ。普段のルール無視して金取って席決めてて良かった。これ無秩序だと押し合い圧し合いで事故りかねなかった
じゃあ入れない人は?というとアイリスがせっせと作ってくれた中継装置がある。水鏡の魔法等の離れた場所を映せる魔法はあるから、大きなシルクの幕に映像投影出来るよう水晶製魔導ゴーレムを用意し、その映像を映すのだ。まあ、魔法の効果を飛ばせる範囲的に王都内が限度なんだが、教会とか結構な場所で見られるよう聖女の護衛担当のアイリス派、機虹騎士団としておれが交渉しに行った
なお、実際に纏めてくれたのは団長ガイスト等である。おれ、忌み子として今でも信用低いからな、一部を除いて
「……あむっ」
と、おれの右手に熱い感覚。燃える程ではない肌の熱さは……ってなんだアルヴィナか
いやアルヴィナ!?
「何してるのよ」
呆れた顔のノア姫。が、満月の瞳の少女はおれが邪魔にならないように居る舞台袖とは逆の楽屋からライトを落としたステージ上を通り、わざわざ目を爛々と輝かせてやって来ていた
「本番前だぞ、アルヴィナ?」
おれの右手の指、薬指の第二関節に軽く八重歯を立てて舐める姿にアウィルか?と苦笑しつつ、唇から指を抜く。きゅぽっと濡れた音がちょっぴり艶めかしい
「……ボク、皇子と全然会えてない」
不満げに漏らされる声。お楽しみですよ皇子さま?とアナからも秘密にされてたアイドル風衣装……を見ないようにしつつ、おれは少女の頭のピン!と立った耳を撫でた
「……足りない」
「……本番前よ、足りなさい?
それとも、仮にも役目を果たした後の相手に自分への更なる配慮を求めるのかしら」
ひゅっと、おれの影から何かが飛び出す
おれは、それを駄目だと腰に差した愛刀で制そうとして
「……駄目」
が、その前にアルヴィナに制され、おれの影に潜む八咫烏は不満げに翼を打ち振るうとまたおれの影に消えた
最近あまり姿を見せないテネーブルだ。何だかんだいざとなれば共闘してくれはするんだが、どうしても魔神王本人故にアルヴィナみたいに仲良くはしてくれないんだよな。本当は、こういう時に共に楽しめれば良いんだろうけど
「……何時か、この手に太陽を抱く。その時まで光を楽しむが良い。手にするものに、それ以前に焦がれるのは太陽だけで十分だ」
この始末である。妹の晴れ舞台だぞちゃんと……いやおれの影から見てるな。ローアングルだが、死んだ幼馴染に操立ててそうだからパンツ見る気もないだろうし良いか
「ワタシより難儀ね」
肩を竦め、ノア姫は優雅にその長い耳を揺らして、父が来た時に用意してくれたらしいちょっと豪華……でもないな、魔物の骨による簡易な椅子にクッション付けてクロス掛けたものに膝を交差して腰掛けた
いや父さん、ノア姫に甘くないか?
「勿論、一応は共に歩める立場の種族と、これから共に歩めないか考えたい相手と、立場差は大きいよ」
というか、アルヴィナはおれの指をまたぺろりと舐めてるが、何処まで魔神族と融和出来るかなんて未知数。シロノワールはあくまでも魔神派であるスタンスは崩さないし、計りきれてないところしか無い
そんな風に思っていたら……
「ほいよワンちゃん、展示に忘れもんだぜ?」
折よく、おれに向けてひょいと投げられるおれの肩掛けカバン。何時もながら、よく分かるなロダ兄は
「届け物って、怪盗じゃなかったかロダ兄?」
「勿論、悲劇を奪う怪盗だぜ?
怪盗ってのは信念を持ってそうと決めたものを盗む、それが民の為に秘された金を盗むなら義賊にもなるさ、だろ?」
にっと笑われ、そうだなとおれも笑い返す
そして、バッグの中からとあるものを取り出すと、今も血でも出ないかとばかりに八重歯を擦る少女にぽんと被せた
「……皇子?」
「その衣装、帽子付いてないんだろ?」
「あーにゃん、アルヴィナちゃんへは秘密ですって」
「アナから聞いてたんだ。きっと、おれから渡すべきだって、色合いだけ駄目なもの聞いて、おれが用意した」
昔おれがあげた帽子、今でも大事にしてるからな。こういう一大事にも、帽子を贈ってやりたい。きっと、おれとアルヴィナの関係はそうやって繋ぐもので
「どんな?」
取ろうとするアルヴィナの小さな手を制する
「皇子、これはもうボクのもの」
「……おれだってさ、君達の着飾ったステージ上の姿を見ないようにしてるんだ」
わざとらしく隻眼の左目を指し、右目も瞑ってみせるおれ
「だから、今は信じてくれ」
まあ、別におかしな帽子という訳ではない。アナに言われたようにアルヴィナには少しだけ合わない(耳だけ白いから似合うっちゃ似合う)白基調、黒はワンポイント以上禁止……ということで、所謂トップハット。つまりシルクハットみたいな帽子に金刺繍の桜のリボンを巻き、リボンの結び目を胴を赤い石で表した黒い水晶の蝶飾りで止めたものだ
おれには黒をワンポイントでオシャレに入れるとしたら華やかな蝶か花型を入れることしか思い付かなかった。黒くて華やかでアイドルっぽさを残すとなると、やはりこの二択。本当は色合いも金強めにしたかったが、アナに魔神さんなのは秘密にできて紹介しやすくと言われたので、七大天である晶魔の色の桜と黒に差し色金赤で仕上げた。とはいえアルヴィナ色、誤魔化しの七大天色、おれがよく使う赤金白が全部あるから割と出来は気に入っている。桜理の色があるのはちょい気になるが、其処はスルーして貰うとしよう
……アルヴィナのイメージとはちょっと違うか?とも思うが、寧ろ胸元に結晶花が咲いていればこそ、その上に蝶が舞うほうがかっこよくないか?という話だ。つまり、おれの趣味である。まあ、ヒーローって花モチーフより昆虫モチーフが多いから許してくれアルヴィナ
完全に証明が落ちる。始まりの合図だ
とん、と少女の背を叩く。アルヴィナはゲスト、発表されてないし、期待もされてない。最初の曲の最中、サビで飛び込み参加を演出するとリリーナ嬢から聞いている
「頑張れよ、聖女達」
ぽつり、静寂を引き裂かぬように慎重に小声で漏らす
それに、少女は頷いた気がした
って待て待て!?今流れ始めたイントロ聞き覚えあるというかついさっき聞いたぞ!?あれ開幕曲なのか!?