蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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火事、或いはあの日の焼き直し

「いやー、悪いねゼノ君。オーウェン君ってばお母さんが風邪引いたからって来れなくてさ」

 あはは、と明るく笑う桃色髪ツーサイドアップ(ツインテールはアイドルモード限定らしい)の少女に向けて、おれはいいよと手を振った

 

 「うーん、自分でお店で選んでみたいからってついてきて貰ってごめんね?」

 「貴族だし聖女だし、その気になれば御用と呼び付ければ良いものな」

 「もう、風情が足りないよゼノ君。憧れのお姫様みたいではあるけどさ?

 やっぱり私は色んなお店からこれってハートに電流走ったものが見たいの」

 その言葉に微笑むおれ

 

 「君がそう願うなら、それは君の中で真実なんだ。付き合うよ、(れん)」 

 周囲に聞き耳を立ててるのは……うん、アルヴィナ一人だ。怪しい気配は……

 あるな?数人ずつのグループ、何処かピリピリしている。殺気って程ではないし此方に向いている訳でもない

 

 空を見上げて警戒に留めておく

 

 「どうしたのさゼノ君。ひょっとして、呼び方に慣れてない?」

 「いや、慣れてるよ」

 「爪先で地面トントンしてたし」

 「影の中のシロノワールに合図してただけ」

 もしも彼等が何か仕掛けてくる時向けに、な。とは言わない

 リリーナ、気が付いてないしな。楽しい気分を何か起こると分かる前から台無しにはしたくない

 

 「へー、シロノワール君か

 あ、ごめんねゼノ君。一応デートで婚約者で」

 と、一歩あった距離は半歩へと詰められた。それで良いのか聖女

 いや良いのか、優柔不断で行こうってしてるしな、今のリリーナ

 ゲーム的にも、1年目終えた段階でルート決まるレベルになるのって、積極的に会いに行った時のもう一人編のおれ(ゼノ)ルートくらいだ、恋にアイドルにって好きに悩んで欲しい

 

 「あー、遠い目してるー!」

 そんな気楽な物言いに、鐘の音は聞こえないと安心して手を取ろうとして……

 おれは焦げ臭さに眼を細めた

 

 「焦げた匂い?」

 周囲を見回せば、微かに立ち上る白煙

 「火事?」

 「えっ……」

 少しだけ何かを思い出そうとするように眉を顰めると、ぽんと胸元で手を打った

 

 「ゼゼ、ゼノ君!そういえばあったよこのイベント!」

 「リリーナ?」

 大声に閑静だった貴族の館が並ぶ区画で庭を整えていた執事らしき人がこちらを向く。注目されたのを機に呼び方を戻して、おれは首を傾げ……

 

 あ、思い出した。そういやあったなぁ……学園生活2年目始まる頃の火事イベント

 原作ゲーム的には、条件を満たすと起きるという訳でもない強制発生のイベントで……

 

 「あ、でも頼勇様が何とかするか」

 ほっと息を吐いた少女に、おれは違うよと首を振った

 そう、頼勇の顔見せなんだよな、本来。で、特定のキャラの好感度が高いと放火だとヒロインが見抜く派生イベントがあってそのキャラの好感度が更に上がる……んだけど

 

 「どうして?たまたま頼勇様が通りがかって何とかしてくれるけど」

 「リリーナ、今の竪神にたまたま此処を通る理由って、あるか?」

 そう、そこだ。ゲームではまだ各地を回って魔神の脅威を説いていたから王城に向かう最中に貴族邸宅が並ぶ区画を通ったんであって、今の共に戦ってくれる頼勇が寄り付く理由が無い。たまたま通りがかる前提がまず消えている

 

 「あ、ない!?それにあれ放火だし……下手したら誰か死んじゃうかも!」

 「……行くぞ、掴まってくれ!」

 叫んでおれは少女の手を取る。そのまま腰を抱き寄せようとして……

 

 「アーニャちゃんでも無いしそれは恥ずかしいって!?」

 「なら、絶対に離さないでくれよ!」

 言われて、ひょいと軽いその身体を背負う。首筋に手を回させて、小走りから一気に跳躍。ダン!と道路に小さなヒビを残して全力で宙へと飛び上がり……

 

 「悪い、月花迅雷よ!」

 空中に愛刀を呼び出し、刀身から漏れる雷を何時もの靴で駆け昇って更に高度を稼ぐ!

 「ちょ、きゃぁぁっ!?ジェットコースタぁぁぁっ!?」

 少女の悲鳴を無視して雷を蹴って高度を下げて煙の辺りに着地、せめて前傾姿勢で手をつき、おれの身体をクッションにして衝撃を抑える

 むにゅりと全体的に柔らかさが押し付けられて、やっぱり抱き上げたほうが結果的に良かったかな……と反省に頬を掻いて、おれは立ち上がると桃色聖女を下ろした

 

 「し、死にかけた……無茶だよゼノ君ってば。急ぎたいのはそりゃそうだけどさ?」

 「ごめん、リリーナ」

 「怒ってないよ、急げたもん。でも、次は心の準備だけさせて……」

 肩で息をする息も絶え絶えな少女に頷きつつ、おれは周囲を見た

 

 燃えているのは貴族邸宅の一角。というか端の一軒。広めの平屋……じゃないな、2階建ての豪邸だ。とはいえかなり木造部分が多く、直ぐ隣には商業区画があるせいで土地も貴族向けとしては安い。人々の喧騒とか聴こえてしまうからな

 

 となれば、全邸宅の所有者は覚えていないしゲームでもモブだったが、恐らくは見栄を張りたい下級貴族の邸宅だと推測出来る。高位貴族なら大体石と魔物素材でもっと高い邸宅作るしな

 

 ってそんな場合か

 「機虹騎士団、第七皇子ゼノだ。事情をお聞かせ願いたい!」

 此方を見る人々も居るが野次馬だらけの喧騒を引き裂くように声を張り上げる

 それと同時、愛刀を手におれは空を見て……

 

 ごめんな、こんなことにばっかり使って。それでも、これで人の命を救えるなら!

 桜、青青赤青桜!連続して愛刀の放てる三種の雷鎚(いかづち)を真昼の空へと打ち上げる。謂わば信号弾!どこまで気が付いてくれるかだが、少なくとも赤雷は青空に映える!

 騎士団の符牒では犯罪……放火強盗のサインだが、そうまで理解されずとも有事は伝わる!十分っちゃ十分だ!

 

 「アウィル!」

 更に叫べば、遠くから遠吠えが返ってくる。これですぐにアウィルが来てくれる

 そうしている間に人々は収まる……訳ではなく、聖女リリーナを中心に何かわいわい始めた

 

 ……本当に野次馬根性、駄目なところは駄目だなうちの国!?あの日もそうだった

 

 「……ゼノ君、少なくとも中に何人か居るはず!」

 「忌み子皇子殿下、貴方に何が」

 そう聞いてくるスーツの老人……恐らくは燃えている家の執事に、おれは静かに首を横に振って返した

 

 「確かにおれは忌み子で、かつて火事から助けてと言われた犬を助けてあげられなかった無能だ

 けれど、二度目はない!此処に逃げれてない人は!」

 「料理場と清掃のメイド達、それに病に伏せっておられた奥様とその付き人が……」

 「リリーナ!君、火は」

 「ごめん、燃え広がらないようにすることは属性的に出来ても消火は無理かも!」

 「十分!これ以上拡大したら商業区が燃えだす!そこまで行けば大惨事だ!頼めるか!」

 「が、頑張ってみる!」

 少しの怯えは見えるが少女は緑の眼に炎の光を反射させて頷いた

 「アウィルに守って貰うから、その背ででも頼む!」

 「ちょ、ゼノ君!?炎ってなんだかんだ苦手なんじゃ」

 「確かに、色々と炎に奪われた。守れなかった。嫌な思い出は多いよ」

 一歩踏み出す。愛刀を手に、駆け出す

 

 「だから!今度こそ奪わせないと思えるんだよ!」

 それだけ叫んで、一気に悪趣味な庭を抜けるとおれは蝶番が溶けて歪み始めた扉から燃える館へと突っ込んだ

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