蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「お悔やみ申し上げる」
そう、深妙かつ粛々と、おれは眼の前の唖然とした男性に告げた
慣れきったものだ。トリトニスでも何処でも、おれは遺族にこう告げてきた
だが、今回ばかりは心にも無い、と言わざるを得ない。勿論だが、眼の前の貴族に対して申し上げるお悔やみなど無い。全員救いきった。だが、本音を引き出すには……殺したがっていた妻は死んだことにしてしまった方が都合が良い
だから、本人には焼け落ちかけた家から出ないで貰った
「そうですか」
告げる男の髪にも瞳にも、不可思議な魔力色はない。そんな観察が出来るほどには、彼は冷静だ
……うん、隠せよコイツ
至極当然のことを言うが、基本的に火事で大事な相手が焼け死んだ時、正しい反応はかつておれが出会った少年の方だ。己のペットの事を何で助けられなかったと、少しだけ理不尽な事を言っておれに当たった彼は幼すぎたが、それでもそれが正しい
少なくとも、妻死んだのかーで済むような、こんな態度よりは余程
「聖女様方のお力により、屋敷の全焼こそ避けられましたが」
「い、いえ。有り難いのですがこの惨状では再建も已む無し」
……だからといって、焼け残ったものがあるかもしれないのに喜ばないのは可笑しいぞ?
やはりというか、隠す気あるのかコイツ?としか言えない。正直全焼してくれれば証拠も残らなかったのにと思ってそうだ
「……そうでしょうね」
が、頷く
「失礼ながら、名を伺っても?機虹騎士団として介入した以上、支援をしたいのですがおれは忌み子で非才の身、貴方の身元と顔がぱっと結びつかないのですよ」
肩を竦めて言えば、30くらいの男は一瞬迷ってから表情を明るくした
……その唇が軽く上がっている。コイツ放火の事実に気が付いてないなと馬鹿にされてる気がしてならない
「私はナスヴェッター男爵、妻はボアルネの」
あ、ボアルネか。その名前は知っている
ボアルネ伯爵家。そこそこ有名な家だ。いや正確にはゲームやってりゃ知ってるって方向だな
攻略対象ではないキャラも結構出てくる訳だけど、その所謂サブキャラの一人に居るんだよな、ボアルネ伯爵
今のエッケハルトみたいに爵位を継いでいて……
ん?と違和感を感じる。原作だと姉生きてたよな?姉と共に父の葬儀に参列したという話が2年の始め以降に女キャラとの絆を上げて二人の絆ストーリー見ると出てきた筈だ
……2年の始め?つまり今頃で……
ああ、と妙な合点がいった
ボアルネ伯爵家には神器が伝わっている。第2世代の奴で、結構扱える人は居る槍が、だ
そして、原作では爵位継いでサブキャラの彼自身が持っていたが、相続権を持つ人々が居なくなればどうなるだろう?
そう、婚姻したこの男爵のところに神器が転がり込む訳だ。それで一発逆転、何らかの地位を得たいとか出来うる
そんなオチかよ!?となるが、それでは済まない
そう、じゃあ何故当主である彼女らの父が今頃亡くなると分かったのかとなると……
多分コイツ、
重要なのは、何処の勢力か、だ
一つ、円卓。これは多分ない気がする
二つ、シュリ側。これも多分ない、ってかシュリ側なら今頃当人がひょっこり弁明に顔を見せてるだろう。今もおれの思考をちらちら見てる毒龍様が出てこないとは思えない
となれば……答えは残り二つに絞られる。シュリではない毒龍側か、さもなくばおれの知らない
となれば、だ。おれは静かに覚悟を決める
「そうでしたか、ナスヴェッター男爵
では一つだけ、お聞かせ下さい」
ちらりと遠巻きにしてくれてるアナに目線を向ければ、アナを乗せている大きな猫ゴーレムが欠伸をした。アイリスが理解してくれたようだ
仕掛ける、と
「何故、私兵で此方を取り囲んでいるのか」
「っ、なっ」
「殺気の有無に、気が付かないとでも?そもそも、おれ自身炎が苦手な身だ、放火と出火の差は見抜ける」
「くっ!」
明らかに焦りを見せる男。うんまあ、これで焦る辺りが……何だろうほっこりする。最近やり合ってきた転生者群に比べてスレた感じがないっていうか……
「やれ!」
いや早くないか!?
「所詮魔法に弱い忌み子だ!」
その通りだよ!と叫びたくはなるが何も言わない。単に、はぁと肩を竦めるだけだ
正直、隙が大きい。余程ぶっん飛んだ力でも持ってないと致命的な程に
ほら、今この瞬間!
抜けば斬れたろう。雪那月華閃、抜刀一閃でカタがつく。防げるように見えないんだよな
いや、竜胆みたいに隙だらけでありつつ半端な火力は無意味ってのは確かに居るんだが……
力に裏打ちされた油断って程じゃない気がしてならないな、とおれは飛んでくる鎖をひょいと避けつつ思った
一歩下がって、地を蹴って更に一歩。そこから前に出れば地面からトラバサミ型に出現した拘束魔法が消えたところに着地できる
ってこんな対処が効く時点で月花迅雷対策すらしてないだろコイツ。あまつさえおれの仲間や最後の手段の
「……はぁ」
溜息を吐く。弱くないか?何か可笑しい
「抵抗確認。敵意有り、と」
「ならば主人公を」
『ルルゥッ!』
蒼き雷轟が天から降り注ぐ。アウィルだ
流石に殺さないよう手加減はしてくれてるが、一撃で痺れて隠れていた私兵達がばたばた倒れていく
ビンゴというか、語るに落ちたな。聖女を主人公と呼ぶのはこの世界をゲームと判断してる奴だけだ
いやまあ、色々と聞きたいことはあるが……
だから、一歩遅れた
青い制圧の雷を受けて全身を震わせる痺れた男が、手に何かを握っていることに気が付くのが一拍遅くなる
いや、それは良い。殺気は消えていた。殺意ではなく怯えしか無く、男は……転生者であろう男爵は血色のアンプルを己の手首に向けて握り込み、セルフで打ち込んでいた
「っ!ナスヴェッター男しゃ」
叫ぶおれの眼前で、男の体が弾けた
膨れ上がる姿はドロドロで不定形。まるでスライムのように周囲の地面を、火事で弾けて飛んできた窓枠の破片などを呑み込みながら肥大化するオレンジ色の異様
「ああ、この私に逆らわなければゲームどおりに」
告げる男に、最早まともな顔はない。ぽっかり空いた口っぽい穴と異様に光る瞳が二つあるだけの、落書みたいな福笑いだ
「……何だ、これは」
「皇子さま!」
「ゼノ君!」
「とりあえず、安全が分からないから君達は遠くで!」
言いつつおれは愛刀を呼び戻して……
が、会話のせいかスライムが少女達を見据えた。そして腕?いや触手を伸ばそうとして……
内側から爆ぜた。いやこの爆発って
「ロダ兄!?」
「いよっと。変化前に仕込ませてもらったぜ、悪いな。悪縁に呑まれたんだ、悲劇毎一人で水底に沈みな」
そう告げるのは、何時の間にか焼け残った屋敷の屋根上に立ち、マントっぽく雉の翼を翻して銃を人間の方の手で構える白桃色の怪盗
「ロ……ダ」
内部から破裂したスライムは、外見の割には脆く崩れると灰色となり、急速に乾いていった
「おっと、殺すと不味かったかいワンちゃん?」
「いや、良い。流石に突然のことでおれが対処しても場当たり的、殺してしまっていたろう」
「そうか。悪いな、俺様にも縁ってのは紡ぐのは大変ってもんだ
んでよ、ワンちゃん。縁つながりで一個呼び出されていた狼一号から伝言だぜ?
『魂兄を名乗るもの、学園に来たる』ってな」