蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「ふむ、彼は死んだのかね」
かつん、と硬い軍靴の音が艦橋に響く。紫に近い紺色の軍服、いや寧ろ軍服に似せて作られた神官服の男は一人、くつくつと笑う仮面の男に向けて問いかけた
「ああ、どうしました【
楽しげに笑う男の名は【
それに対峙して、同じく……いや、異なるデザインの仮面の男は、しっかりと頬まで覆い淡い金の前髪を搔き上げる大きな仮面の下で静かに笑いを含んだ
「正直に言おう。君を好いている訳ではないのだよ。故に出会ってしまえば、何か含むものもあろうよ」
「実験とも知らず、己が力を得られると偽りの希望に手を伸ばして死した者を道化として処分する。美しい悲劇の前日譚としては、淡々と処理されるべきでしょう」
芝居がかったモーションで青年の誓約書を破り捨て、仮面の咎エルフは嘲笑う。細切れにされた紙は風に乗って吹き散らされ、床に繊維として転がった
「まあ間違いはないのだがね。如何せん不快は隠せない」
「……ええそうでしょう。貴方は末席、我が終末の銀に見出されたにしても、まだまだ慣れていないのですから」
「そういう意味では無いのだがね」
かつん、と鳴る軍靴。すらりと立つ仮面の男はしかし、肉体が妙に揺らいでいる。有り得なく斜めに、すっと立っているのだ
「……何をしておるのかの」
そんな対峙を砕いたのは、小さな声と影。ぴったりと閉ざされた銀翼と毒を溜め込んだ身体に不釣り合いの大きな尾を持つ銀毒龍シュリンガーラである
「申し訳ありませんな我が終末よ。新入りに向けて言葉を紡がねばならないのですよ
何と言っても彼に与えられた眼は……【嫌悪】。つい先日、貴女様によって加護を奪われ瞳を喪い滅び去った下門陸の後継者なのですから。このグリームニル、再度かの下らぬ裏切り者の末路を再現せぬか心が痛いというものなのです」
「の、割には儂には上機嫌にしか見えぬがの」
尻尾を揺らし、銀龍が凄む
「そも、儂はこの男に六眼の一を与えようとも思っていなかったがの」
そうして、肩を竦めた
「しかしもう遅い。最後の扉は開かれた。そうして私が居るのだよ」
「識っておるよ、最早取り返しなどつかぬ。汝が裏切り、儂の眼たる資格を喪わぬ限りは、の
されど、聞かせて欲しい事くらいは許されよう?」
片目だけ毒に染まった方の瞳を向け、金眼を閉じて龍少女は仮面を見上げた
「未来の儂が見出したその魂、この儂は汝の事を何一つ知りはせぬ。名も、出自も、そして……」
少女の桜色の唇が震える。が、意を決したようにすぐに軽く開かれた
「世界を滅ぼせるのかも」
その言葉に対して、仮面の男はくつくつと笑った。そして、大きく両の腕を拡げる
「私は世界を滅ぼしなどしない」
「なれば、何故に我等に
「人が胸の内に秘めた真の思惑など、容易に分かるものではないよ。己自身、何を望んでいるかすら真に人は知らぬ」
「……何が言いたいのかの?」
こてん、と首を傾げる首領。主となる毒龍に向けて、大きく手を広げた男は朗々と語り続けた
「されど、私は予言であり結果だ。存在から導けることはあるだろうさ!
私が扉を開く、人々が語る最後の予言の日への扉を!生物とは生きるために生きるもの!されど、人は己の滅亡を予言として語る」
振り上げられる拳。それは妙にぐにゃりとしていて。男の正体に気が付いた銀龍の顔が、小さく泣きそうに歪んだ
「それが人の願い、人の業!かくして滅ぼさずして人は滅びる……己が無意識に願った破滅によって!」
「善い、これ以上言わずとも
遮るように告げる銀龍はツーサイドアップの髪を揺らして耳に被せた。せめて、耳を塞ぐように
「……そんな権利、あるのかの?」
「あるのだよ、人の業の結果である私には!最後の扉を開く権利が!」
「絆されてはなりませんよ、我が終末。貴女様の享楽の為に世界に、より良き終わりを齎すのが我等六眼の使命ですので」
ぺこり、と恍惚と語る男の横でグリームニルが深く一礼した
「ご期待めされよ、我が終末よ。かくして幕を開きましょう。我らが創りし正義が、偽りの絆……ダイライオウを獣に貶しましょう。ああ、所詮は彼等も獣に過ぎませんとも、良き悲劇の筋書きを描けたものです」
そうして左手の腕時計を操作し、小型の重力球に呑まれて何処かへと去っていくグリームニル。それを見守るもう一人の仮面の下では、謎のオレンジ色の光が蠢いていた