蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
「あらあら、死んでくれる?」
そう告げるのは、蝙蝠の翼の生えた妖艶な魔神。フェロモンを撒き散らし、細い腰をくねらせる女性ニュクス・トゥナロアだ
無駄にデカい胸を揺らせば、更に口の中に甘さが拡がる
おれはゆっくりと剣を持ち上げて己の首に赤金の刀身を当てると
「ふざけろ、ニュクス・トゥナロア」
豪!と燃え上がる焔。口の中の甘ったるさを洗い流す苦い血の味が正気を保つ
「皇子、無垢な羊を囲う聖社は」
「了解だ、団長!」
これだけで分かる。ガイスト語で講堂内に生徒達を避難させたの意だ。つまり、大講堂から彼らを引き剥がす必要がある
鼻を
「ガイスト団長」
「兄を狂わせるらしい、邪悪な巨影」
本来の姿だとコウモリっぽい羽の生えた魚だからなあいつ。アドラー以外がそっちの形態を使ってこないのは……あくまでも結局のところ影って事か
となると、だ。アドラーだけ屍だから逆に世界の壁をすり抜けられたのか封印されている世界の狭間から本体が来てるのか?
だが、そう思うのが隙になる
「……くすっ、あらあら」
愉しげに
その隙間を縫って流星が落ちる。4つの腕を持つ剛腕のマッチョマン、四天王ナラシンハだ
その落下する軌道は確かに講堂の屋根へと向かっていて
っ!どうする!?
一応おれは動ける。ゲームからして搦手特化のニュクスメタみたいな精神耐性持ってるからタイマンで勝つ事も出来た
だが、そいつらに背を向けてナラシンハを止めに行って、その背を守る手は……
いや!とおれは講堂に背を向け、剣を……愛刀を構える。象徴として未だに轟剣は背負い、抜身の愛刀の海色の刀身に炎の反射光を灯す
「諦めましたか」
「残念無念ってな!そこの美女!」
降り注ぐのは銃弾。それは空中で弾けて大きな光を産み出し、鼻から香りに脳を焼かれた人々の思考を一瞬奪う花火
そして、その花火に彩られ、降り注ぐ獅子の流れ星を迎え撃つように緑色の光が噴き上がる
「また、人々を狙うかナラシンハァァァっ!
緊急特命合体ッ!!ダイッ!ライッ!!オォォォォォウッ!!!」
そう、ナラシンハ出現を察知して、しかもロダ兄が何でか嗅ぎつけて駆け付けている以上!彼が居ない筈がない!
そうだろう、頼勇!
「竪神っ!行けるか!」
「当然!皇子やアイリス殿下と作り上げた絆、決してこの地に転生し馴染まず己の欲を貫く者のみに振るうための力ではない!」
オーラウィングを噴かし、鬣の機械神が吠えた
「はっ!おもしれぇなお前!
誰かは知らねぇが、食いがいがある!育ったやつか!」
「……忘れられる程度か、ならばそれで良い!
父さんを殺したことすら覚えていない者に敗れる屈辱に、
ライオウッ!アァァク!」
胸元の獅子の目が光ったかと思えば、緑の輪が四腕の男を空中で捉えた
だが
「っ!」
ぶん!と振るわれる巨大な剣。転送されたそれを粗雑に振るい、鋼の巨神は捕らえた筈の男を剣の腹で大地へと叩き落とした
「竪神!?」
「ぐっ……この、力は……」
「あらあらあら……お馬鹿さんねぇ」
ふわりと浮き上がるニュクス。その翼が嬉々として羽ばたくが、おそらくそれでは飛んでいない
「……ちっ」
理解した。恐らくだが、頼勇には今のおれとは違う光景が見えている。そう
「幾ら外装を整えても心の弱さは隠せない」
「おっと、弱くないと思うが?」
反論しつつ、ひょいと現れたロダ兄が二度目の弾を何時もの銃から放った
「眠ってんなよ、狼1号!」
「すまない、ロダキーニャ!
こういう点は、私の課題でね!」
「くすっ、ならばお姉さんはあの人を相手するわねー」
「行かせねぇっての、美女さん?
俺様をよわよわワンちゃんって呼ぶ妹の事もあるし、付き合ってもらうぜ?」
そう言って、ロダ兄はカッコつけの為にグラサンを掛けた。いや掛けるのか
が、だ。確かにアバターである自覚のあるロダ兄はおれと同じでほぼニュクスを完封出来はする。するが……
「雷王砲……いや、くっ」
背に背負った巨大砲を頭の上を潜らすように前面へと展開し、頼勇が唸る
そう、地面に叩き落としてしまい、そして四天王ナラシンハは空が飛べる奴ではない。となれば、火力的には優位に戦えても、地面を抉りながらの戦闘になる。火力こそジェネシック等の精霊結晶絡みで無ければおれ達の中で一番高いダイライオウだが、だからこそ一撃を放ちにくい。その高すぎる火力は敵地や防衛戦では効果を発揮するが、内部まで入りこまれてしまえば守るべきものが人質となる
だからといって!火力を捨てては相手への牽制もできない!
「ならさ!」
一歩踏み込む。ならばナラシンハは、おれが止めるまで!
いやニーラ放置かよ!?となるが、偵察とか理由を付けてスルーしてくれる事を祈る!
実に敵任せ、情けないが……
が、更に踏み込む前に颶風が吹き抜け、巨漢を捉えた
「団長!?」
「兄を狂わせるという恐怖の宿星……されど、勝利の星に
巡礼の風が砕崖を止めよう!」
っ!と唇を噛む
そうだ、おれは無意識に因縁の相手との対決カードを前提にしていた。だが!此処を誰も死なせず超えるにはそうじゃない!分かってたろうゼノ、奢るな獅童三千矢!
守るべきは、己の激情よりも皆だろう!
ならやるべきは
そう決めて、愛刀を構える。変身は……しない。星刃を解き放って、それで倒して
それでも、彼等は消えやしない。アルヴィナが居ない今何か別の手段を使っているとしても、本体ではないのだから
だからといって、手の内を晒しすぎない範囲で戦うべきなのは変わらないがな!
「竪神、ロダ兄、ガイスト団長!相手は」
「ま、分かりきった話だろワンちゃん?
俺様としては妹との方が良いんだが」
「なら、会わせてやろう!」
「実際に会うのは御免被るぜ?」
飄々と答えるグラサン。実際に避けるように一歩ズレ……
が、途中で動きが止まる。新たなる気配に、だ
「やっちゃえー!」
『ガルカディッ!』
空間が裂け、飛び出してくる小さな影と巨影。少女と龍が降り立ったかと思えば、周囲に焔が溢れ出す
「吠えろ、LI-OH!」
「吹きとばせ、ゼルフィード!」
それを覆うのは二重の防壁、緑光と嵐が焔を封じ込める
そうして降り立つのは、見覚えのある少女と見覚えのないドラゴン
いや、ある意味見覚えあるな。資料集には載ってたっけ、原作では合体して天獄龍ヘルカディアになってるドラゴンの片割れだ
ヘルの方は確かアルヴィナ派に居たし、テネーブル側の好戦派のドラゴンか!
全く、大量に来て!
「おっと、呼んでないぜ?」
「もう!ざこざこおにーさんを返してよー!」
「俺様じゃなくて、本当に弱っちくてカッコいい俺様に頼りがちな本性を欲してるなら考えるぜ?だけど今は違うよな!」
バン!と放たれる銃弾。おそらくは閃光弾
その隙をどうにかして突く!
と言いたいが!
「おにーさんには効かなくてもー」
「フェロモンを重ねたらどうなるのかしらねー?」
二重の結界が解ける。意識を掻き乱され、巨神の乗り手が揺らぐ
全く厄介な……トゥナロア姉妹、原作でもデバフ塗れで当たり前のように無効にするロダ兄や鮮血の気迫で耐えるおれみたいな耐性持ち以外じゃ相手したくなかったが、ゲームじゃないと更に厭らしい
けれど、白い龍が翼を拡げようとしたその時、再度緑光の檻が龍の首を捉えた
「……どうにも、させませんから」