蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~ 作:雨在新人
有難う、ご先祖様
と告げれば、既に轟剣は何処にもない。まああれも実際問題始水の介入で手に出来てるって点があるからな。始水がダウンしてる今おれの手に無いのは普通だ
リュウにも礼を……と思い見回せば既に居ない。多分ラーワルに連れ帰られたな。また明日以降会うからそこで告げよう
ラーワルが居た理由?まあ煩いし、当初出迎えた場より大講堂のほうが今後暮らす寮に近いから当然というところがある
遠くを見れば結局撃たなかった弓矢を仕舞い込んだ兄が……あ、ちゃんと扉から出ていった。急ぐなら窓から魔法で飛び立つくらいはしたろうし、安全だと思ってくれたらしいな。エルフのリリーナも居ない
「ふぅ」
息を吐けば、転移の光と共にダイライオウが消えていくのが見えた。ゼルフィードは……あ、格好良く決めようとして此処で解除せず飛んでいくのか
「団長、後を任せても」
その声に頷く辺り、本当に単なるカッコつけだな!?
飛び去る巡礼者の巨神を眺め、降りてきた戦友の茶色い瞳と目配せする。恐らく意図は同じ
となればと頷きで互いの意思を確認。最早以心伝心、良しと成すべきことに向かおうとした瞬間
ガキン、と。魔法にはやはり素では滅法弱い両脚が凍て付き、頼勇の右手とおれの左手の間に氷の手錠が掛けられた
引っ張ってみても鎖が細かい氷晶が繋がったじゃらじゃらとした長過ぎるもので直ぐには砕けない
「いや行けるな」
頼勇と共にもう片手で鎖を掴んで互いに引けば引きちぎれない強度でもあるま……
「どうしました、皇子さま?」
が、言葉を途切れさせざるを得ない。ニコニコと笑みを浮かべる淡く海色の混じった少女の顔に、少し気圧されたようにひゅっと息を呑む
笑みは浮かべている。だが、分かる。欠片も笑っていない。真剣な顔で怒るなら良い、理解出来るしそのひたむきさが可愛いとも思う
だが、笑いながら目のハイライト薄く見詰められると怖いんだが
「えへへ、何処に行くんですか皇子さま?」
「この鎖を」
「解かせませんよ?何処に、行くんですか?」
横で頷くアルヴィナ。良く見れば氷鎖に骨片を混ぜて死霊術を仕込んであるのだろう。壊せるが、恐らく断末魔の何かの魔法で反撃してくる仕掛けがある
「君達を守り抜く為に為すべきことを」
「その通りだ。この鎖を外してはくれないだろうか」
「アイリスちゃん、黙らせて下さい」
「お義姉ちゃん……任せて」
にゃうと鳴く猫と、敵わないとばかりに肩を竦める頼勇。諦めないで欲しいんだが
「皇子、腹を決めるのも手かもしれないな」
「ここで決める腹はない」
「私だってそう言いたいが」
「皇子さま、隈隠せてませんよ?」
すっと近寄り、おれを見上げてくるアナ。オーロラの翼を展開したまま眼の光が薄いのが兎に角怖い
「隈が隠せないほど軟じゃない」
「語るに落ちましたね皇子さま?」
「普通なら隈ができてて当然と自白した。皇子が昨日寝てない証拠」
「失礼言わないでくれアルヴィナ、昨日は寝た」
……3日ぶりに一刻ほど
「皇子さま、何してるか何となく分かりますけど連行です」
「駄目だアナ。既に入り込んでくる混合されし神秘の切り札やこれから完全に復活してくる魔神族を見て分かったろう。手遅れになる前に完成させなきゃいけないんだ、おれ達の切り札を!ジェネシック・ルイナー……そしてその先にあるジェネシック・ダイライオウを!
そうでなければ、君達を守りきれな」
「……問答無用ですよ、アルヴィナちゃん!
皇子さまにも竪神さんにも、強制休息の刑です!」
敵意は、無かった。だからこそ剣など抜けやしなかった
おれはアナのびしっと指を突きつける動きに合わせてアルヴィナに喉元を噛まれ……凍てつく冷気に急速に意識が遠のいていくのを抑えきれなかった
そして……
「どうしてこうなった」
起きた時、其処は知らない天井であった。いや違うな。知らなければどれだけ良かったろう
うん、アナの為に用意されている女子生徒寮の一室だ。駄目だろう此処!?本気で!?
そして、愛刀は鞘に収まり沈黙したまま枕元に置かれており……大きすぎるくらいに大きなベッドに寝かされたおれの両手は柔らかなものに拘束されていた。右手を胸元で握り込んだまま小さく寝息を立てる銀髪の少女。ちゃんと風呂には入ったのだろう、薄手の寝巻きを羽織り、髪からはりんごのような香りがする
左手の二の腕は小さなものに枕にされており、その先の腕はおれを枕にしたアルヴィナの手にがっちりと掴まれている。寝ている間に口寂しいのかちょっと曲げさせて口元に指先を持ってきているのが特徴だ。いやちょい無理のある体勢なんだが此方も寝息を立てているとなれば文句も言えない
二人の少女の顔は安らかで、けれども疲れた雰囲気は拭えない。少しでも休もうというように、顔とは裏腹に身体は今のうちにせめて精一杯休もうというようにリラックスしきらず縮こまっている
これを、起こすわけにはいかないよなぁ……とぼやき、少し首を上げて窓を見る。夕焼け色が消えかけたくらいの空模様、まだ夜の入りだ。それで寝てるとは、いきなりの襲撃でアナ達も精神的に疲れたんだろうな。両腕を抜こうとすれば、更に縮こまる少女に苦笑して、これじゃ逃げられないなと肩を竦める
多分だが、頼勇も寝ろとベッドに叩き込まれてるな。いや自分から入ってるか
おれと主に二人で
おれが居ても悪いのが悲しいところだが……早く完成させなきゃな
というところで、扉を開けて入ってくる影に気が付いた
それは、勝手知ったる外見だけ幼い少女の姿。長くした髪をさらっとまとめたエルフの媛
「あ、助けてくれノア姫」
「ええ、助けに来たわよ」
自慢げなその手には、湯気の立つお盆があった
「……ん?」
「ワタシ特製のハーブティーよ。良く眠れるわ」
「そっちの方向の手助けかよ!?」