蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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屍臭、或いは曖昧

「どうしてこうなった」

 少女が使っている寮の一室。几帳面気味なアナらしくかっちりと整理され、私物の少ないそれは女の子らしさは少し薄い。リリーナの部屋を覗かせてもらった事はあるが、その時は結構ファンシーだったのにな

 そんな事を思いながら、おれはベッドの上で渡された茶のソーサーを持っていた

 うん、ベッドの上で良いのか、溢したら問題だぞ

 とは思うが、両の手は二人の少女に掴まれたままだ。動かせる範囲も少ない。振り払えば起こしてしまう

 

 それは出来ないから、ベッドの上で縮こまった状態で茶でも飲むしかない

 

 「飲ませてあげたほうが良いかしら?」

 「それをされるくらいならアナ達を起こしてくれ」

 「無理ね、この娘可哀想じゃない」

 そう告げて、エルフの細指が深く眠る少女の銀髪を軽く撫でた。いやアルヴィナは良いのかよ

 良いんだろうなきっと

 

 そう思って、握られたアナの手を可能な限り動かさずにハーブティーを一口啜れば、冷えた爽快感が喉を潜る

 

 「さて、と」

 そうして、紅玉のような瞳がおれを見据えた。こういう時、ノア姫の目は父さんに近い。何もかもを照らし見透かすような、燃える瞳

 

 「アナタは、どう見たのかしら?」

 「ノア姫は、久世・ラーワルと出会ったんだろう?

 どう見えた?」

 質問に質問で返す。おれとしては、まだ信じたい所があるから。先に意見を聞く

 ノア姫なら大丈夫だとは思うけどな?桜理等だとおれに合わせるし、アイリス派と皆のこと優先のルー姐達以外基本おれに逆張りの意見を出すから対策として先んじて聞くことにしている

 

 「あら、ワタシの意見が必要なの?」

 「ああ、見解を知りたい。皆を守るために」

 「ならば、もう少し頼って欲しいものね。エルフが手を貸すなんて、滅多に無い……いえ、大義のあることだけなのだもの。遠慮することはないわ」

 「頼ってるよ」

 「一人ぼっちで戦おうとしなくなったのは良いけれど、ワタシ達を一方的に守るべきものとして見すぎよ。頼っていない

 だから、こうして捕まったんでしょう?反省しなさいな」

 冷たく告げるが、声音は柔らかい。楚々と自分の分の茶を口につける仕草にも怒りは感じなくて

 

 「分かったことは二つあるわ。一つは、社交的ね、アレ」

 「意外だな」

 目をしばたかせるおれ。ノア姫から仮面の男が社交的という発言が出るとは思わなかった

 だって、仮面だぞ?

 

 「ええ、社交的。相手を威さぬ礼儀のために仮面を着けている、アナタと違う……アナタの心友のような社会性の現れよ」

 ……割とボロクソ言われた気がする

 が、確かに。おれとか顔だけで怖がられるしな、それに比べれば傷で醜いから仮面ってある種の配慮なのか

 「駄目か」

 「ええ、駄目よ。と言いたいけれど、曝け出して否定されたいから隠さない。駄目な部分として指摘されて、寧ろ安心してるでしょうアナタ?

 何時か隠さず誇れるものになってくれた方が良いもの。今更隠す方がアナタらしくないわ」

 くすり、と少女は笑った。それは、顔立ち相応の幼く無邪気なもので、ほっとおれは息を吐いた。流石にこれは、きっと嘘じゃない

 

 「で、もう一つは……簡単よ、ヒトじゃないわねアレ

 これもアナタに似ていてかつ明確に違う点だけれども、屍臭が酷いわ」

 言われ、すんと鼻を手首に近付けて臭いを嗅ぐおれ。そんな臭いか?流石に水で身体は洗ってるが……

 

 「大丈夫、臭くないわよ。気になるなら、昔みたいにシャンプーで髪でも洗ってあげるわ

 ワタシの言う屍臭は概念的なものよ。ワタシも、この娘も、微かにする……漂う死者の想いの香り」

 静かに、エルフはおれの左手に目を落とした

 うん、アルヴィナとかその説明だと良く臭う……いや物理的にもたまに屍弄ってたのか臭いことがあるな?

 

 「コレは置いておいて、ワタシの言う屍臭は誰でも少しはするものよ。人と繋がり想いを継ぐ生きている証と言ってもいいわ

 それが、今のアナタと同じくとても強い」

 ……それは、分かる。今のおれは、沢山の想いがあって此処に居る

 でも……

 

 「それで、なんでヒトじゃ無くなる

 おれも、ヒトじゃない扱いなのか?」

 頷かれたら、少しショックだ。が、言われても仕方のない気も……

 

 「いえ、アナタはヒトよ。一応ね

 彼の特徴は、屍臭しかしないことよ。アナタみたいに、強い個を感じないの」

 「それは彼が、真性異言(ゼノグラシア)だから?っていうか、魂とか見れたのかノア姫」

 「見れないわよ。感覚的な話」

 静かに首を横に振られ、そうかと頷く。あまりにも堂々と語っていたから、てっきり見えるのかと

 

 「それに、彼等だって自分はあるわよ。あくまでも屍臭は本人に纏わりついているだけ

 でも、アレは違う。屍臭しかしないのよ。それこそ、コレが使うアンデッドを更に腐らせたような感覚」

 ……言われても、おれほ死霊術とか使えないし魂についての感知とかも甘い。殺気は分かっても屍臭はさっぱりだ

 

 「つまり?」

 「核となる自分がないのよ、アレ。あまりにも曖昧で、誰なのよと言いたくなるわ」

 ……言われて、ノア姫が結構ひどい言い回ししていた理由に漸く理解が行った

 

 「いや、ラーワルという存在があるんじゃないか」

 「……それが、しっかりとした魂ならば文句は言わないのだけど。存在の曖昧さからそうとも言えないのが困りものよ」

 言われ、おれは左手を見下ろす。歯型を残すアルヴィナなら、見えるんだろうか

 

 「……そう、か」

 「これが、ワタシなりの見解よ。では聞くわ

 アナタはどうしたいの?」

 静かな瞳に射抜かれて、暫し押し黙る

 

 分かっていた。彼が色々と隠してるだろうことは

 「ノア姫は」

 「危険視したい気持ちもあるわ。けれど、曖昧過ぎて分からない。そんな相手に対しては……きっとアナタの直感が正しい事もあり得るの

 だから、歓迎するも警戒していることを露骨に伝えるも悩ましい状況。アナタ次第で決めるわよ」

 

 少し、悩む。わかり合えた可能性がある相手は居た。例えば下門

 多分わかり合えない相手も居た。わかり合おうとする事は、隙を晒すこと。それを良しとすれば……

 

 「歓迎してくれ、ノア姫」

 それでもおれは、ノア姫が言っていた社交性を、わざわざ出てきた意味を信じてみたい

 その言葉に、エルフの媛はそう、と小さく頷きを返すのだった

 

 「では、おやすみなさい。また観に来た時に起きていたら、魔法で気絶させるわよ寝てなさい」

 「ああ、また明日、ノア姫」

 「あと、寝たフリしつつ指を齧るのは辞めなさい?」

 冷たい視線に、すぅすぅと眠りつつおれの指をしゃぶっていたアルヴィナの肩がびくんと跳ねた

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