蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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過去、或いは強壮の草

「彼女……メリッサは南方倭克の国に訪れた聖教国の巡礼者だった」

 そう、青年は語り始めた。倭克と聖教国の間にはうちの帝国があるが、別に通行に制限とか掛けてないからな、違和感はない

 

 というか、と少しだけ思案する。桜色の髪ということでひょっとして出身はそっちではなくトリトニス方面なのかと思っていたが、無関係か?

 

 が、横の白桃色の髪の青年は楽しげにノア姫が魔法でカップの中身を温める姿を眺めているだけで反応がない。見分けがつかないな

 そもそも桜色というか桃色というか、綺麗なピンク髪って自然発生はしないが七大天の加護をある程度受けてると発現するしな……。リリーナが良い例だ、一族固有の色でもない

 

 「巡礼者?」

 「ああ、私が旅をして魔神の脅威を伝えるという手法を取ったのも、彼女の影響が大きい

 医療や回復魔法に携わる知識を学んだ女性で、人々を救いたいと旅をしていたと本人が教えてくれた」

 そう告げる青年の声音は珍しいことに何時もより沈み気味

 

 「珍しいな」

 「彼女自身が、何かやらかした事があったらしくて、その罪滅ぼしだと何時も、まともに代金を取らずに治療を行っていた。だから、私や父さんが気になって、滞在中の彼女に関わるようになったという経緯で、私達は出会った

 決して、良い出会いでは無かった……と言えるだろう。明らかに怪しいと地位あるものがボランティアの裏事情を探りに行った訳だ」

 苦笑する青年は、懐かしそうに己の手の剣の柄を見た。今はメンテ中の為刀身が発生していないエクスカリバーだ

 

 「皇子は早々に私を認めたというのにな」

 「それ、おれが真性異言だからだろう?竪神頼勇を知っていたから出来たことだ」

 「そうかもしれないが、な

 信じていい雰囲気というものを、私は分かっていなかったのだろう」

 おれのフォローにも肩を竦めて流し、青年は再び空を見上げた

 

 「まあ、そうして出会いは良くはなかったが、彼女の本気さは伝わった

 それにだ、彼女の倭克へ来た目的は魂の医療技術の確立だった。その為に、私……いや」

 『YES I am』

 ……久し振りに聴く声

 「父の貞蔵と交流を図ろうとしてきたのもあるのだろう」

 頼勇の左腕には父の魂を物質化したレリックハートが埋め込まれている。魂の医療というならば、この技術は何かに役立つ可能性に懸けてみたくなるだろうな

 

 技術的には禁じ手だった筈のレリックハートの事を知っている?となると、少し違和感があるが……

 

 「結果論から言えば、私は彼女に師事していたような関係だったと言えるのだろうな

 彼女の医療技術には、興味が沸かなかった。ただ、生き方を見ていたかった。憧れというものが何なのか、あそこで分かった気がする」

 手を握り、空を見上げ、青年は語り続ける

 

 それはどこか、吐き出すように苦しげで。瞳を珍しく閉じているのが、痛々しくて。らしくないと言いたくなる。だがこれが、スパダリスパダリ言ってきた彼の歳相応な部分なのだろう

 

 「だが、結局だ。彼女は倭克を去った。技術を学び、医療の術を活かし、そして……信頼を得て診療所を貰ったその直後、姿を消した

 私が見付けた書き置きには、余所者を歓迎していない者が多いこと、そして救うべき人を更に探したいことの2つが書かれていた」

 語る言葉は寂しげで。珍しくその背が小さく見える

 

 「死んだって話じゃなかったか」

 「ああ、彼女の死を聞いたのはそれから4ヶ月(はんとし)後の事だった。聖教国のとある街で死んだ、と

 詳しい身元がはっきりしていなかったから、彼女の遺品の中にあった道具から私達に話が来たということらしい」

 「どうして?」

 「流行り病の治療を行い続けた彼女は、自身が罹った際に余所者だからと治療を受けられずにそのまま亡くなったと、そう聞いている」

 その言葉におれは違うと首を振った

 

 「聖教国の巡礼者だろう?身元がって言われるのか?」

 「彼女は七大天様以外にも何かの神を……人々の救いとなるものを見出そうとしていた。だから、だろうか」

 「そうね。異端だから記録が消される、人間にはありがちでは無いのかしら?」

 「ノア姫」

 「そうね。ワタシはそう感じたけれど無遠慮な話だったわ、忘れて、ごめんなさい」

 ちょっとおれも思った事を告げたエルフは口を挟むもすぐに黙り込む

 謝るって余程だな、確かに遠慮は無かったが、違和感は拭えないし仕方ない点もあるだろう

 

 「異端、か。自棄に距離は近かったが、そこまで異端という思考回路はしていなかった気がしたが?」

 ちらり、と目線が向けられておれは目をしばたかせた

 

 「何でこちらを見る」

 「一見距離が近い、誰かの為にならばという線引きが狂っている、けれども異端と呼ぶには他者に向けた害がない」

 ふぅ、と息を吐いて青年は空けた左手を差し出してきた

 「何というか、皇子とロダキーニャの間の子といった趣だった

 いや、外見はリリーナ様か」

 悪魔合体か?というか、うーん、おれとリリーナ(恋じゃなくて原作の本物)ってある種の同族嫌悪で攻略対象じゃない説とかあったっけ?

 となると、本当に本家リリーナとなら似てるんだなその人は。罪滅ぼし……では無かったはずだし医療技術方面に行く話もなかった筈だが、方向性が違うだけで根っこは多分同じだ

 

 ちらりと、こういう話題なら乗ってきそうな青年を見る。が、一気に温かな茶を飲み干して、真剣な顔……じゃないな、グラサン付け始めた

 いや、グラサン付けてるだけで何か感じてると分かるんだが……何を待っている?

 

 「評価高いな」

 「皇子の私評も同じだろう?」

 言われ、ぎこちなく笑い合う。言われるのは良いんだが情けなさもあるよなこれ

 

 「それはそれとして、だ。私が知る彼女についてはこの通りだが……」

 と、不意に香るのは桃のような甘い香り。不意に肩を叩かれる

 そう直感で理解して、思わず飛び下がって距離を取る

 

 少女は……何処までも自然に、其処に居た。ショートボブな桜色の髪も、緑の瞳も、そして何より雰囲気すらも

 何もかもが違和感なく其処に溶け込んでいて、ぽんと手を置こうとして避けられた事実に目をぱちくりさせていた

 

 だが、可笑しい。彼女は……アレは誰だ?

 「…明日が来るはずの空を見上げて、そんなに迷うものじゃないよ、君」

 「……メリッサ」

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