蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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咎エルフ、或いはかつての友

「……」

 そうして、おれは父を追って、エルフ種の少女の居るだろう場所に駆け付ける

 見付けられたのは簡単だ。分かりやすい場所に居たから

 

 エルフの少女はおれが書類を貰ったりお金を払ったりしたあの場所に居て、焔の壁に囲まれていた

 困ったような表情。その手には、しっかりと貨幣の袋が握られていて……

 ん?あの袋、見覚えのある紋が付いているな。確か、どこかの伯爵家の紋だったか。娘の護衛にと上級職になった元冒険者の奴隷を買ってたのを覚えている

 ということは……

 

 「泥棒?」

 「……そのようだ。金が必要だということは、どうやら嘘ではないらしい」

 エルフ少女を捕える焔の壁の中。炎に照らされる銀の髪を揺らし、父はそう告げた

 「……!」

 必死に何かを此方に訴えてくる少女

 けれども、その声は……おれには届かない

 いや、正確に言えば……何を言っているのか分からない。多分エルフ語なんだろうけど……帝国共通語というか、この大陸全土で使えるティリス共通語で話してくれないだろうか

 「……ティリス共通語じゃないから分からない

 おれに分かる言葉でお願い出来ないだろうか」

 そんな言葉に、少女は愕然とした表情を浮かべて何かを言うも、それすらも分からない

 ……うん。外交には向かないな、おれ

 

 そんな苦笑を他所に、父はくつくつと笑う

 「人どもの使う下等言語など覚える気も無い、とさ」

 「エルフ語分かるのか父さん」

 「分からん。単純に、魔法で翻訳しているだけだ

 故、もしかしたら訳し間違いなどあるかもしれんがな。まあ良いだろう

 

 言葉に乗せて魅了を唱えんとする奴の言葉など」

 瞳を細め、皇帝は静かに言葉を紡ぐ

 焔の壁と皇帝の存在に、既に他の人は此処に居ない。皇帝の邪魔にならぬように移動したのだろう、途中ですれ違ったしな

 居るのは囚われのエルフと、帝国の象徴、そして帝国の面汚しことおれだけだ

 

 「『……下等生物が』と

 あまり家の息子を馬鹿にしないで貰おうか。確かに、頼れん事は事実ではあるが

 お前達に言われる筋合いはない」

 轟!と、火の粉が吹き荒れる

 熱く、そして燃えぬ魔法の炎

 それが収束し、一つの形を取って顕現する

 

 「……デュランダル」

 「……!?」

 「ストーップ!」

 突然姿を現した燃えるような赫い大剣に、思わず叫ぶ

 轟火の剣デュランダル。おれに向けてお前は弱いと突きつけ発破しようとしたあの日にも見た、父の神器

 少なくとも、今持ち出すようなものではないと思うのだが

 

 「……何!?何する気なんだ父さん!?」

 「変な気を起こさせん。その為に」

 「いや、わざわざ人間のお金を奪っていこうとする辺り、悪戯ではなくて本当に困ってることは確かなんだろうし

 その状態でこれはちょっとやり過ぎだと思う」

 「……無礼にはそれなりの礼儀を

 そう思ったが、お前がそう言うならばまあ良かろう」

 特に不満も無さげに、父皇は剣の腹を撫でる

 「悪いなデュランダル。お前の助けは過剰だそうだ」

 その言葉と共に、焔となって轟剣の姿は空に消えた

 

 ……やはり、とその光景を見て思う

 土塊に変わったあの時の刹月花は、本当の神器では無かったのだろう

 「……まあ良い。お前が欲しいと言ったのだ

 (オレ)は、正直な話帝国を舐め腐る行動をするな、用があるならば正規に頭を下げろ、とそこの娘を捕えて告げるくらいで良いと思うがな」

 「いや、それはエルフ種に喧嘩売ってるだろ!?」

 「エルフなど、あまり話が通じん」

 「でも」

 「……そこなエルフ娘もお前には分からん言葉で言っているがな

 かつて、(オレ)もエルフと和平をと思ったことはある。10年前の話だ」

 「……そう、なのか」

 父は今までそんなこと語らなかった

 だから、静かに聞く

 「だがな、ある日突然、その交流は切れた

 咎エルフの言葉など知らぬ、とな」

 「咎エルフ?」

 聞きなれない言葉に首を捻る

 

 「咎エルフとは、眼前のこいつのように白い肌のエルフではないエルフの事だ。この白い珠肌こそが女神の寵愛の証、それを喪うは女神の寵愛を喪った咎人として、元々が何であれ迫害されて追放される

 

 そして、エルフってのはおかしなことに、下等な相手と思っている者達に絆されたら咎落ちするらしい

 なあ、お前の兄はどうなった、ミュルクヴィズ」

 「……父さん」

 「(オレ)も、昔はエルフを信じたこともあった

 それだけだ」

 ぽつり、と呟くサルース、の名前に、父にも何か色々とあったのだろうと思う

 

 それでも、だ

 アルヴィナにああカッコつけたんだ。ここで、じゃあと諦めたらそれこそ馬鹿だ

 手を伸ばせ。たとえはね除けられるとしても、手を伸ばしたという事実は心に残る。だから……

 

 「それでもおれは、一度だけ信じるよ」

 「そうか

 ……そこのエルフは馬鹿にしたように暴言を吐いているがな」

 「……それでも、だ

 何時か魔神王が蘇ったとして、その時に、手を取り合える兆しになるかもしれないし」

 「何だ、馬鹿息子。あの七天教の予言を信じているのか」

 そう意外そうでもなく、からかうように父皇はエルフの少女を睨みつつ、そう軽口を叩く

 「何だ。本当はお前の会ったという変人の言葉を信じているのか?」

 「信じてないよ。おれは、アルヴィナを信じてる

 親父こそ、本当はアルヴィナを疑ってるのか」

 少し語気を荒げ、そう返し

 「阿呆。『生け贄というのは、自分には自分で選んだその女を、己に惚れさせる事等出来んと思い込んだ負け犬の言葉だ』、と婚約者選びの時に(オレ)は言ったぞ?

 あの娘が何者か、魔神か否かなど、(オレ)は興味がない。あの狼耳の娘については、お前に全て任せている。魔神だとしたら、向こうから交遊関係を仮にでも結びに来たのだ。そのまま惚れさせて此方に引き込んでみせろ」

 「……気軽な事を」

 「エルフについてもだ

 (オレ)は見限ったが、お前が信じて行動するというならば好きにしろ。一度だけ親として手を貸してやる

 諦めるなり、エルフ全体を惚れさせて動かすなり、やるのはお前だ、馬鹿息子」

 

 「……ああ

 それで、父さん」

 呼び方を戻し、エルフの少女に向き直り

 「まず、通訳を頼んでも?」

 そんなことを言ったのだった

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