蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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リリーナ・アルヴィナと聖女乃兆

「ひとつ、良い?」

 眼前のかつて兄であった珍獣に問いかける

 

 「おっ、何だアルヴィナ?兄ちゃんに何でも聞いてくれ」

 「どうして、リリーナ?」

 「ん?リリーナがどうかしたのか?」

 「リリーナ・アルヴィナ。どうしてボクがそう名乗る必要が?」

 それは、ずっと思っていた疑問。偽名を使うのは良い

 ブランシュという名前が、魔神の名前として残っていないとは限らないから。名乗った瞬間に警戒されるかもしれない。だけどボクがボクの事だと認識できない変な偽名でも困る

 だから、リリーナ・"アルヴィナ"と、姓をアルヴィナにしたのは分かる。でも、リリーナというのが分からない

 あの皇子も、時折リリーナという桃色の髪の少女に絡まれていて、少しだけ困ったような眼をしながらも相手をしているのを見た

 たまたまなら別に良い。でも、わざわざボクの考えた偽名ではなく、リリーナと名前を指定してきたのか、そこに意味がある気がして

 だって、ボクの案の中で、似た感じで一番面白味がないイリーナでも良かったのに。わざわざ少し違うリリーナにしてくれと言うなんて、考えてみれば可笑しい

 

 「あーそれな」

 「気になる。他に、リリーナという名前を見たから」

 「おっ、どっち?ミュルクヴィズ?」

 「ミュルクヴィズ?」

 何だろう、と記憶を辿り、一人の名前に辿り着く

 ミュルクヴィズ……確か、昔々、神話の時代、ボクがまだ産まれていなかった頃、魔神族を世界の狭間に閉じ込めた伝説の英雄に、確かそんな名前のエルフが居たはず

 積乱の弓ガーンデーヴァを持つエルフ、その名前が……ティグル・ミュルクヴィズ

 孤高の勇者ティグルとして、エルフながら人間の神話にも出てくるはず。お前達の為じゃない相手が邪魔だっただけだ馴れ合う気はない、と言いつつ何だかんだ助けてくれる、ぶっきらぼうで孤高気取りで、それでも心優しいエルフの青年として、読んだその神話には描かれていた

 真性異言によって書かれたものだと、女の子だったら『つんでれもえ』という謎の評価だったけど、そこは良く分からない。ツン?デレ?燃え?火属性に何か関係があるの?

 

 「あー、違うのか

 じゃあ、淫乱ピン……桃色の髪の方?」

 「そっち。どっちかは知らないけど」

 「やっぱ主人公その子かぁ……」

 「?」

 主人公という単語は分かる。ボクだって本を読む

 そして、真性異言がこの先の未来をある程度知っているらしいことも知っている。つまり、主人公というからにはこの先の未来で、あのピンクい髪の少女が何らかの重要な役割を果たすと彼等の脳内にはあるのだろう

 

 「……殺す?」

 「いや。魔神王ルートがあるからそいつを狙う

 殺すんじゃなく、堕とす」

 そこは好きにすれば良いと思う。ボクも、目的は似たようなものだし

 「それで?ボクと何か、関係があるの?」

 「大有りだアルヴィナ」

 うんうんと、青年珍獣は頷く

 「賢ーいアルヴィナなら、何か気がつくんじゃないか?」

 また頭を撫でて一言

 ……止めて欲しい。帽子がずれるから

 

 「同じ、リリーナ?」

 「そう、その通り!リリーナって名前なら、真性異言がそのピンクの子と間違えて近付いてこないかということを」

 「嘘」

 一言

 それだけで、言葉は途切れる

 「それなら、どっちとは聞かない」

 「うんうん、そこに気が付くとはやっぱりアルヴィナは賢いなぁ~うりうり」

 なおも続く過激なスキンシップに、帽子を外し、腕の中に抱く

 この帽子を、あんまり汚したくないから

 

 「この先、魔神族が世界の狭間から解放されて起きる戦乱には、人間側に5人の主人公が居る

 そのうち同時に登場しうるのは2人だけなんだけどな

 で、その5人が……。まず、アルヴィナが会ったっていうピンク髪、リリーナ・アグノエル。次に、人間に惚れて人側に付く裏切りの魔神、リリーナ・アルヴィナ。三番目に、咎落ちしても人間と共に戦いたいと思ったエルフの王女、リリーナ・ミュルクヴィズ

 四番目が異世界から召喚される炎の勇者アルヴィスこと、有馬翡翠。そして最後に、リリーナではないもう一人の選ばれし者、アナスタシア・アルカンシエル」

 「……アばっかり」

 「始まりの音だからな」

 少しずらした反応に、青年は苦笑して。また、ボクの頭を……今度は伏せた耳を重点的に撫でる

 止めて欲しい。耳は、あまり人に触らせたくないし見せたくない

 だから、この帽子が嬉しかった。その気持ちを汲んで欲しいけれども、今の兄はそういった気遣いが無くなっている

 前のテネーブル様は寡黙で取っ付きにくくてと言う者達も多いけど、ボクにとっては昔の方が良かった

 

 「アルヴィナ、気が付いたか?」

 「……ボク?」

 「そう。昔の忌まわしい神話のように聖女足り得るのが四人、勇者が一人居る

 その可能性の中に、アルヴィナが居るんだ」

 「……でも、ボクは」

 「分かってるよアルヴィナ。これはあくまでも可能性の話だ。今居る可愛いアルヴィナは、そんな事しないよなー」

 勝手にボクの体を抱き締める珍獣

 ……本当に裏切ってやろうか、なんて。そんな事も思ってしまう

 魔神は結局魔神で、人の側に付くなんてとても馬鹿馬鹿しい話だけど。それでも

 アルヴィナを信じるよと言った彼の手を、取ってしまいたくなる

 

 ……でも、駄目。それは、駄目。それでは彼は、ボクの為にボクを守る事をしてくれないから

 あの日、本当の事を言っても彼はきっと受け入れてくれた。護ってくれた。でも、それは……皆を救える者として。その皆の中にボクも居るのかもしれないけど、あくまでもそれは国民皆のため

 皆の為に、ボクを守る。それは、嫌だから。ボク以外を見て、ボク以外の為に傷付いて、そんな彼ならいらない。あの明鏡止水の眼を、ボクだけに向けさせたい

 だから、分からない。少しだけ死霊術で覗いてみたあの少年の記憶。確かにカッコ良く成長していて、けれども明鏡止水の瞳を喪った屍天皇なんて姿の彼を手に入れて、あの世界のボクは満足だったんだろうか

 今より外見のカッコ良さは倍。瞳の見惚れる綺麗さは1/10以下。釣り合いが取れてないと思う。ボクなら、あの彼よりはまともに成長した彼の方が良い。勿論、明鏡止水の瞳でボクだけを見てくれるなら、屍天皇は理想だと思うけれど

 強い想いは屍になっても遺志として残る。意思は消えても、遺志によって勝手に動くことがある。それが死霊術の大前提。そんなのあの世界のボクも知らない訳無いのに。あんな、誰かの為にボクに殺されることを良しとしたからだろう濁った眼でボクを見る彼を、何で永遠になんかしたんだろう。ボクにはちょっと、理解できない

 

 「アルヴィナがそんな事するはずないもんな。惚れるような相手も居ないし」

 そんなボクの思いとは別の事を考えてると思ったのだろう

 珍獣は、変なフォローを入れる

 ……失礼だと思う。自分にはこれと思った相手がいて成長した姿になってるからって

 ボクも……と、思うけれど、いっそ成長しなくて良い、と思い直す。成長した外見でなくても、彼に可愛いと言われたこの姿で良い

 

 「でさ、同時に存在しえるのは勇者アルヴィスと、アナちゃんorリリーナ・アグノエルの合計二人だけ。それ以外の場合はたった一人

 なんで、アルヴィナが聖女になる事はないんだけどさ、一応それっぽく名乗れば釣れないかなって」

 ……その言葉に、間違いに気が付く

 そんな筈はない、と

 

 アナスタシア・アルカンシエル。今はそんな名前ではないけれど、皇子を皇子様皇子様と慕うあの銀の髪の少女は、兄の言葉によれば聖女だ

 とすれば、魔神のボクを勘定に入れなくても既に二人、聖女が居る

 とすればきっと、エルフの聖女も居るのだろう

 そう思うけれど、教える気にはなれず

 「わかった。ありがとう」

 きゅっと、帽子を握り締めた

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