蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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婚約発表、或いは言ってみたくなる言葉

「……ゼノ!」

 「エッケハルト、お前はヴィルジニーを任せた」

 「おいこら違うだろ!?」

 痺れが取れるまでの時間稼ぎに口を回しながら、屋根の上の少年を見上げる

 

 子供の癖に特注の白いタキシードを身に付けた、金髪の男。顔立ちは……うん、何というか彫りが浅いというか、カッコいいにはカッコいいが日本人顔というか……

 シュヴァリエってあんな顔だっけ?となる

 って、原作では名前くらいしか出てこないモブだし、記憶に無くても仕方ないか。仮にも公爵家なのに出番が無いって何だろうな

 そんな彼が、光を覆い隠し闇夜をもたらす魔法と、指定した場所を照らす魔法(アルヴィナが本を読むのに使っているもののちょい豪華版だ)によりおれとヴィルジニーと彼自身が照らされた空間のなか、悠然と腕組みなどして立っている

 

 「それにしても、爆裂槍とは随分なご挨拶だ」

 「我のものへ触れるふとどきゅものが!」

 あ、噛んだ

 

 「ふとどきものめが!」

 あ、言い直した。にしてもおれが言えた義理ではないんだが、子供っぽさ無いなあの口調

 「それでも爆裂槍は無いだろ爆裂槍は」

 「爆裂槍なんて皇族なら涼しい顔で受けろよ!」

 「ダメージは無くても吹き飛ぶんだよ!」

 因におれにはダメージも通る。爆裂槍のダメージ計算式は力×3/4+武器攻撃力の3-防御。その後に出た数字(0以下は0)に雷属性扱いの魔法ダメージ5点(魔力25毎にボーナスで5点増えるが、ユーゴの魔力は25無いらしい)。そしてゲーム的な1マスノックバックと麻痺効果だ。魔法ダメージ部分は魔法防御0のおれに通る。流石におれの防御を抜いてくることは無かったのか、物理ダメージ部分は通ってないようだが

 力数値が参照されることでダメージが上がりノックバックも付いた雷鳴矢の上位版とも言って良い武器であり、ゲームでも崖際の敵を崖から落として即死を決めたり、門に叩き付けて扉破壊を起こしたり、他の敵に衝突させて詠唱阻害起こしたり、塞がれているマスを空けたりとhit時強制ノックバック効果が有効活用されまくった便利武器だ。麻痺はおまけ

 

 「国賓なヴィルジニーが居る所に投げ込む武器とは思えないんだがな」

 「怪我させたら護れない情けない皇子のせいだ!」

 「それはそうだが、投げ込んだ当人にだけは言われたくない」

 むう、痛いところを突く。実際に怪我した日にはまずおれが悪いとなるのは自明の理だ。皇族が付いていながらと言われるのは避けようがない

 だとしても、おれが守る前提で投げるなよ!?せっかくの料理が床に食べさせられてるんだが!?

 作ってくれた人に申し訳ないとか思わないのかあいつ。アナなんて同い年の子供達が騒ぎながら食べたから床に落ちている切れ端をメイド服で掃除しながら溢してご免なさい無駄にしてご免なさいしてるぞ

 いや、あれはちょっと考えすぎだけど。手を付けた食べ物は残さないとしているアルヴィナくらいでちょうど良いんだが

 

 「……そもそも我のものに近付いた悪い虫が悪い!」

 「仮にも皇子を虫扱いするな!犬猫レベルはある」

 「うるせぇ忌み子!」

 低レベルな言い争いに発展しかけたその時、別のスポットライトが突如庭の真ん中辺りを照らす

 

 其処に居たのは、さっきまで居なかった大人二人と、ちょこっと所在無さげに立つ青いドレスに着替えたクロエ

 一人の顔は分かる。ユーゴをそのまま大きくしたような顔……よりちょっと彫りが深い40歳前後の小太りの男、シュヴァリエ公爵だ

 にしてもあの人肥えたなー、と出た腹を見ながら思う。ユーゴの曾祖父、つまり公爵の祖父の代辺りは大団長と呼ばれる騎士団長の長、つまり軍のトップやってた家柄なのにな

 今では名ばかり公爵、当主も太っただらしない体か

 

 だがもう一人は知らない人間だ

 そして、知らなくとも何者であるかは分かる人間だ。その髪を見れば分かるに決まっている

 エメラルドのような輝きを持つ、毛先にかけて銀に変わってゆくグラデーションの髪を背後で束ねた髪型。それを見間違う道理はない。こんな髪色、他に居ない

 「お父様!?」

 エッケハルトの腕に抱かれたまま、オリハルコングラデーションの少女が目を見開く

 そう。お父様。ヴィルジニーの父、ストロベリーブロンドのグラデーションの娘を持つ枢機卿である

 

 「枢機卿猊下(げいか)

 慌ててまだ痺れた膝を折り、片膝を付いて礼を取る。床に溢れたソースが膝を汚すがそこは気にせず、おれは仮にも完全に目上である相手に礼の形を取る

 片膝を付くのは騎士の礼。平伏するものに比べれば浅く、大体は貴婦人に向けて取るものだが……仮にも此方も皇族だ、許してくれるだろう

 あとユーゴとエッケハルト、お前らも礼するんだよ、忘れるな、相手は仮にも異国の実質トップだぞ

 

 「何事か」

 「おれ……いや、わたしの名は」

 「繕わずとも良い」

 慣れない敬語に初動からミスしたおれを気遣ってか否か。エメラルドのグラデーションの男は、静かにそう告げる

 それを無視して敬語を使うのもまた無礼。おれは普段の口調で話し始める

 「おれの名はゼノ。帝国の第七皇子です」

 「お前は呼んでない!」

 と、飛んでくるユーゴの言葉

 うん、招待されてないな確かに

 「クロエはいーよって言った」

 と、いや友人と来たと言いかけたおれに助け船を出したのは少年の妹クロエであった

 まあ、ヴィルジニーの横に居たし、止めなかったからヴィルジニーの味方なのだろう

 「クロエ!?何で」

 「そっちの方が盛り上がるかなって?いーでしょ?」

 無邪気に笑う妹少女。その言葉に納得したのか、礼も取らない金髪の兄はだよなクロエが我を裏切るとか無いよなと納得のうなずきを返す

 ……前言撤回。味方とは限らない

 

 「帝国皇子として、彼女……睨下の娘の身を預かる父皇シグルドの此処での名代として、あの暗闇が何者かによる襲撃であるならば彼女を護れるようにとその手を取ったのですが……」

 ちらり、と屋根の上を見上げる

 「どうしてか、そのせいで不興を買い、爆裂槍を投げられてしまったようで」

 「……婚約者ある身に軽々しく触れるでない、忌み子よ」

 重苦しく告げられるのは、おれへの非難

 そして流れる婚約者という言葉。ああ、やはりというか……枢機卿は向こう側か。何があったのか知らないが、ユーゴとの婚約を良しとしている

 此処で手紙で急に届いたという事から考えていた、実は枢機卿は全く婚約を認めておらず、既成事実を作ろうとシュヴァリエ側が手紙を捏造したのではという可能性は消えた

 同時、では此処に居る枢機卿は偽者なのでは?という疑問が生じるが……。それは無い

 オリハルコングラデーション。神々から与えられた特別な髪色。魔力の色を強く出す鮮やかな髪は染料を弾くので物理的に染めることは不可能であり、また、魔法で幻覚を見せようとしても上手く行かないのだ。例えば見たものに変装できる影武者お得意の火属性の魔法"陽炎の鏡"でヴィルジニーの姿になろうとしても髪はグラデーションしていないストロベリーブロンドにしかならない

 神から与えられた奇跡の力では、神が特別に与えたものを騙る事は出来ないという事なのだろう。故にかの髪は特別視され、神を抱く七天教において、ガチで神の声を聞ける神の子の血を受け継ぐ御子である教皇以外では珍しく世襲で高い地位にあるのだから

 

 「婚約者?何の事でしょうか、猊下

 そもそも、何故(なにゆえ)猊下が帝国にいらしているのですか?父皇からは貴方の到来など聞いていませんが」

 おれの言葉は無視し、異国から来た男はパン、と手を叩く

 

 「静まれ!」

 それは鐘の音のように低く、良く響く声。それを受け、ひそひそと話していた皆はぴたり、と会話を止めて男を見る

 同時、喉に溢れる血を、その苦い飛沫を、バレぬようにおれは飲み込む

 《鮮血の気迫》。やはりというか何というか、彼の声には従わなければというように精神誘導する力があるらしい

 だからトップなんてやれているのだろう。凄い力だと思うし、悪用されなければ別に罪な力だとも思えない。それくらい、上に立つものなら持ってても不思議ではないだろう。帝国皇族にも、圧倒的な力という我を押し通す力はあるのだしな

 

 だが、だからこそ分からない。彼は何故、正直言って出会った瞬間に馬鹿なんじゃないかこいつ?と思わせるユーゴをそんなに推すのか

 「私は忌み子皇子の呼ぶ通り、聖教国枢機卿である

 此度はこの場に集まった皆のものに福音を告げに来た。この場に居られたものは幸福である」

 ふっ、と屋根の上でユーゴが笑う

 その笑みがどこか邪悪に見えて

 

 「猊下!」

 「枢機卿猊下!」

 「我々の救世主!神々の代弁者!」

 どうでも良いが、建前の上では神々の代弁者は教皇で、神々の言葉の影響が強すぎるが故に自らは動かない教皇の御告げを受けて動く代理人が枢機卿のはずだ

 精神に作用する力ゆえか、ノア姫の時を思わせる変な熱狂が渦巻いている。大丈夫かこれ

 いや、毎月始めに聖教国であるらしい枢機卿猊下のおはなしは毎回信者大熱狂らしいしこんなものなのか?

 

 「おおーっ!猊ぶっ!」

 あ、エッケハルトの奴も叫んで、ヴィルジニーの肘食らってやがる

 というか、お前仮にも辺境伯子だろ?辺境伯という伯爵より侯爵に近い高位貴族の嫡男だろ何普通に影響食らって熱狂してるんだ

 

 「此処に、私は我が娘ヴィルジニーと、シュヴァリエ公爵家嫡男であるユーゴ・シュヴァリエの婚約を……」

 「お父様っ!」

 実際に見るまで、信じていたのだろうか

 父は本当はそんなこと思ってないと。嘘なのだと

 それを裏切られ、グラデーションブロンドの少女の瞳に涙が浮かぶ

 

 「異議あり!」

 その涙を吹き飛ばすように、おれは言い終わられる前に叫んだ

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