蒼き雷刃のゼノグラシア ~灰かぶりの呪子と守る乙女ゲーシナリオ~   作:雨在新人

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三章 第七皇子と迅雷の刃
皇帝、或いは事後報告


「はっ!」  

 悪い夢に魘されるように、おれは目を覚ます

 「寝てろ、馬鹿息子」

 「あれ、父さん?」

 響く声に、そう呟く

 

 眼前に、銀の髪の皇帝が居た

 「そうだ!アステールは!皆は!?」

 嫌な予感に突き動かされ、おれはそう叫んで

 「あぎゃがぁっ!」

 全身に走る痛みに口から変な声が漏れ、おれはベッドの上を転げ回った

 「……安心しろ」

 「良かっ、た……」

 口から黒煙を吐き、おれは胸を撫で下ろす

 「良かった、ではない馬鹿息子

 お前が、(オレ)が来るまで護り抜いたのだ。それをまるで他人事のようにだな……」

 鏡で時折見るおれの苦笑をそのまま大きくした表情で、父はおれの髪をしゃくしゃと撫でる

 「今回ばかりはお前が頑張ったのが大きい。誇れ」

 

 「……どうなったんだ、父さん」

 漸く落ち着き、おれはそう問い掛ける

 「ああ、あの後か?」

 「ああ」

 「知っての通りだが、転移魔法は何時でも何処でも好きに飛べるわけではない。特に貴族の屋敷など、大抵は転移妨害されるものだ。なので、話を聞いた(オレ)は出来る限り近くに飛……んだところでな、突然デュランダルが何処かへ飛んでいったという訳だ

 そうして、変なこともあると思いつつもシュヴァリエ邸に来てみれば、お前がデュランダルを手に(オレ)の真似事をしていた

 

 全く、仮にも第一世代神器を使うとは、それも真性異言(ゼノグラシア)の力か?」

 燃える瞳がおれを見据える

 血の色の透けたおれと似た色で、より鮮やかな赤の……焔の魔力を纏う瞳が、おれを見透かすように爛々と輝く

 「分からない

 でも、どんな代償があっても良いから力を貸してくれって叫んで、それで……」

 思い出そうとして、上手く思い出せない。あの辺りから酸欠で、意識が朦朧としていたからだろうか

 半ば無意識の行動で、ぼんやりとしか思い出せない

 

 「帝祖が、手を貸してくれた気がした」

 「流石は帝祖、実にお前の理想系らしい」

 邪気の無い笑みを浮かべ、父はその手の火の収まった剣の腹を撫でる

 「帝祖の話が出る当たり、緊急的にお前に手を貸した、といったところか」

 ほい、と父はその手の剣をおれに投げる

 

 「おわっ!」

 思わずおれは手を出して、その剣を受け取ろうとして……全ての指の皮膚が一つにくっついて円筒状になった右手。それでは持てるはずもなく

 そもそも指に触れる前に弾かれ、剣は父の手に戻る

 「ふっ。随分と気に入られたな、ゼノ。普通ならお前が吹き飛ばされるところを、自分が吹き飛んで返ってくるとは」

 

 ……父の言葉を聞き流し、おれは自分の手を見ていた

 ……何というか、似たものを見たことがある気がするんだが……

 ああ、そうかと内心で納得する。おれにゲーム機ごとあのゲームをくれたお姉さんの家に飾ってあったハイグレードってシリーズのロボットプラモデルだ。あのプラモデルの手は確か武器を上から刺す形の武器持ち手で穴の空いた造形。円筒みたいな姿をしていた覚えがある

 「ナニコレ」

 「何って、お前の手だ。溶けて冷え固まったな」

 「これ、手なの?」

 「何だお前、自覚無かったのか?」

 「あの時はいっぱいいっぱいで、自分がどうなってるのかなんてところまで気が付いてなかった」

 不滅不敗の轟剣。HPが50%を切ると炎を纏って全ステータスが+20と大幅に上がるデュランダルの特殊効果。ゲームでも猛威を振るった……なんてことはなく、ゲームでは所有者であるシグルドのステータスがシンプルに高すぎる事もあってあまりHP50%を切らず使いにくかったソレを自分が発動している高揚、負けられないという思い、それらしか脳になかったというか……

 

 「気が付いてみると、ボロボロだな……」

 けほっ、っと煤けた咳を吐く

 肺に灰が溜まってるな。って誰だよこんなシャレみたいな体なの

 いや、おれなんだが

 

 「あはは……」

 「普通ならば七天の息吹で済む訳だが……

 お前の場合、全治何ヵ月だろうな」

 「何ヵ月だろう」

 思いつつ、少しだけ高くされた枕から頭だけ浮かせ、おれは自分の体を見てみる

 ……うん。分からん!とりあえず動けない事だけは確かだ

 「父さん、ユーゴは……

 あと……」

 「そう焦るな。もう1日経っている、全部終わった後だ」

 優しく、父はおれを諭す

 

 「順番に話してやるからそう急くな

 まず、あのボケの事だが……」

 「ボケ」

 「ユーゴとかいうボケには逃げられた

 成程な、あれがお前が出会ったというおかしな真性異言の力か。確かに、世界の理に外れている」

 「逃げたのか……」

 「ああ、(オレ)の目の前で……虚数グラビティカタパルトだったか?変な音声と共に発生した渦に呑まれて消えた

 何処に行ったのか、魔法ではないらしくて探知も効かん。行方知れずだ

 残りは捕獲したが、誰一人知らんらしい」

 「……それで、皆は?」

 「シュヴァリエ家は潰した

 

 バカな男だ。欲を出さなければ、不味い飯を食う事にはならなかったろうに」

 おれから目線を逸らし、少しだけ落ち着いた声音で父はぼやく

 「まあ、そこまで問題はないのでな、クロエ嬢には国賓を護ろうとした勇気ある行動を称え、と新シュヴァリエ領を与えはしたが……それでどうなるかは微妙なところだろう。余裕があれば気にかけてやれ」

 「そう、か」

 それは良かったとおれも頷く

 

 「ヴィルジニーは?」

 「婚約は無し。今回の事は流石に此方に非は無いとして、留学を続けるらしい」

 「アステール……ちゃんは?」

 一番気になるのはその少女の事

 EX-シルフィード・カリバーだったか。あの必殺技が放たれる前に抱えあげて屋上から跳躍した。そこまでは覚えていて

 その先は分からない

 

 「……ああ、あの狐娘か。存外あっさり枢機卿に連れられて国に帰ったぞ?少しはごねられると思ったが、大人しくな

 何だ、気になるのか?」

 好かれてその気にでもなったか?と父は茶化すように笑う

 「……気にはなるよ」

 「婚約相手を決める際、(オレ)が候補にも出さなかった理由がか?」

 「いやそれは普通に分かる」

 とても簡単な理由だ

 おれにとっとと婚約相手をと言ったのは、おれの皇子としての後ろ楯の用意のため

 それだけ聞くと、教皇の娘というのはとてつもない優良な話に聞こえるだろう。だがしかし、一つだけそこには問題があるのだ

 教皇の娘の婚約者、というだけならば良い。だが、そもそも今の教皇には表立って娘は居ない。亜人の娘なんてと監禁して隠していたっぽいからな。だがまあその点は何れ解決するとして……

 アステールが隠されているから娘の話がないということは、他に娘は一人も居ないという事でもある。何なら息子も居ない

 つまり、だ。アステールは一人娘だ。地位ある立場でそんなたった一人の愛娘を嫁に出す奴はまず居ない

 ならばどうなるか。最早語るまでもなく、婿を取る方向の話になる。では、おれがそこに立候補し、もしも選ばれたとしたら……おれはアステールの婿になる訳だな

 それの何が問題かって?帝国皇子が他国の偉いさんの娘を嫁に取るんじゃなく、おれが帝国皇子としての継承権等を放棄して婿入りする形になる訳だ

 

 アイリス派として、妹を次代皇帝に推す皇子としての地位を固めるための婚約で、おれ皇子辞めるわ宣言は本末転倒に過ぎるだろう

 そんなことした瞬間、おれはお前もう外様だろとアイリス派ですら居られなくなる

 

 「おれは帝国の皇子だ。そうでなきゃいけない」

 「……辞めたければ別に(オレ)は咎めん

 諦めるのは自由だ……」

 青年……というには実年齢は外見に反して少し高い男が指を鳴らすや、焔が辺りに灯る

 「と、少し前までなら言っていたがな。既にそうもいかん」

 「そうなのか?」

 「その通り。向こうが……それこそコスモに言われたとしても、今のこの馬鹿を聖教国に渡す訳にはいかん

 それだけの理由が出来た」

 「何なんだそれ」

 理由が分からず、おれは首を傾げる

 

 「まさか次の皇帝がおれ、な訳ないよな」

 「んな訳があるか阿呆。自分が皇帝の器だと思うのか?」

 「思わないから聞いてる」

 「……だが、それと話は似ているな

 お前は一度、仮にもデュランダルを振るった。その事は口止めなど流石に効かん」

 「……そういう、ことか」

 漸く納得する

 轟火の剣デュランダル。帝国皇帝に伝わる……という訳ではないが、基本的に歴代の使い手はほぼ全てが皇帝だ。といっても、帝祖ゲルハルト・ローランドと父シグルドの間には5人しか所有者が居ないんだが

 唯一の例外は、当代皇帝である姉を護ろうとした皇弟。つまり、事実上あの剣は帝国の神器であると言えるだろう

 そして、デュランダルのような第一世代神器の特徴は本来ただ一人にしか扱えないこと。継承されることはあれ、おれがあの時引き起こした、拒絶反応か自分も燃えるがデュランダル自体は扱えている現象は明らかに異例の事なのだ

 

 因みにゲームでもそんな展開は無かったのでゲーム知識もアテにはならない。いや、実はおれ……というか、"第七皇子"ゼノ(皇子でなくなった"迅雷の傭兵"ゼノでは何故かは知らないが不可能)に関するバグで、何故かデュランダルを専用フラグ無視で装備できるってのはあったが……

 いやでもあれ明らかにバグだしな。一度だけ試してみた記憶はあるんだが、あの後常にステータス欄には表示されないが内部で【炎上】の状態異常に掛かっている扱いになっているわ、アイテム欄がバグって何を持たせてようが装備している筈のデュランダル含めて何も持ってない扱いになるわ、その状態でアイテムを受け渡ししようとしたりアイテムをゼノが拾おうとしたり、或いはデュランダル装備時のゼノをロストさせてみたりするとバグったアイテム欄を参照して操作しようとするせいかまず間違いなくフリーズするし……

 なにより装備時のモーションが明らかにデュランダルのものじゃない。没データの月華神雷のものらしく、それはほぼ月花迅雷と同じ刀による抜刀術モーションなので鞘に手を当てる動きなどで完全にデュランダルの刀身に手がめり込んでいたりする

 とある最小ターン数RTAでは使われてたけど、あれも解説に『セーブ無しで突っ込みます(※このマップの負け筋はバグゼノのやっつけ負けで、その時点でフリーズしてセーブデータが壊れるのでセーブしても意味がないです。祈りましょう)』ってあったしな……

 

 というか、この世界ひょっとしてバグもあったりするのか?

 轟火の剣では使えなくなったが、ステータス共通の透明の聖女がマスに居て実質2回行動でき、しかも居ない扱いなのでドッペル側は前線に放り込んでも敵から狙われないというドッペルリリーナバグとか。あとは怨念封鎖バグ……ってこれは移動距離を伸ばすバフ魔法を掛けた=バフの反転で移動不可効果を受けたゼノを味方を巻き込める範囲魔法の遅延発動で直後に殺したらゼノが居なくなった事で本来消える移動不可フラグがマスに残るバグだから使いたくないな。おれが死なないと検証出来ない

 それはそれとして、RTAでも使えたバグがこの世界で出来れば割と生き残るのとかも楽……かは分からないが、あって困る選択肢ではない

 

 閑話休題。少なくとも今バグの存在の検証とか無理だ

 幾らバグに近い事が起きていても、この世界はゲームそのものじゃないわけだしな

 

 「轟火の剣の持ち逃げとか、散々に言われそうだな」

 「流石に(オレ)は直接言われればそれを阿呆がと一蹴できるが、広まる噂まではどうしようもない

 だからお前は帝国の皇子でいなければならない。それだけの理由が出来た」

 くすり、と皇帝は笑う

 「残念か?」

 「いや、おれが皇子である意味が増えて嬉しい

 そもそも忌み子なおれは、まず第一に結婚とか出来ないし。何時かおれとの婚約を後悔しないように、最初から無理な方がお互いに良い」

 「お前なぁ……

 父親にそんなことほざくな。後、今の婚約者にもそれで良いのか」

 「良いよ、あれは互いに打算だから」

 少しだけ酷いだろうか

 そう思いつつ、おれは仮にも婚約者であるニコレットとの関係を評価して

 

 「ところでなゼノ」

 不意に、奇異の目でおれの……正確にはおれの見えなくなった左目(擂り潰した薬草を混ぜ混んだポーションに浸したガーゼで覆っている)ではなく、その上を見ている皇帝に気が付いた

 「父さん?」

 「お前が落ち着いたら聞こうと思っていたが……お前、仮装趣味でも出来たか馬鹿ゼノ?」

 「はえ?」

 おれの頭の上で、くすんだ銀色の耳がぴくりと揺れた


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