昨日の続きです。
お互いに竹刀を構えたままこう着状態が続いた。その状態を最初に破ったのは……………………
カゲルだった。
竹刀を正面に構えた状態から踏み込んだカゲルは素早く間合いを詰めると、たしぎの構えている竹刀へと強く当てた。
「…っ!」
そのあまりの力強さにたしぎは、思わず数歩後退してしまった。
そして、一瞬、ほんの一瞬だけ後退する際にカゲルから目を離してしまった。気がつくとカゲルが持つ竹刀が目の前に突き出されていた。
「えっ…」
「勝負ありです。たしぎ曹長。」
カゲルは唖然としているたしぎに向かって、静かに告げた。
「実力の把握は出来ましたか?スモーカー大佐。」
「あぁ、限界は見えなかったが、最低限の実力は把握できた。もう、模擬試合はやらなくていい。」
そうカゲルに言い渡すと、スモーカーは建物の中へと戻っていった。
それに続いて見物をしていた海兵達もそれぞれ散っていき、カゲルとたしぎだけが残された。
「さて、私たちも戻りますか。たしぎ曹ち」
「なんで…」
「え?」
「なんで…、最後に一撃を入れないのですか!」
「なんでって言われても…」
「私が女だからですか!」
「……それは違うよ、たしぎ曹長。」
「じゃあ⁉︎」
「君はスモーカー大佐の右腕だ。怪我でもさせて任務に支障が出るといけない。」
「………」
「それにだ、構えた時に君はいい眼をしていた。あれは『もっと強くなりたい』そう思っている人の眼だ。だから一撃を入れなかった。君はまだまだ強くなれる。また打ち合おう。今度は自分の武器を使って。」
そう言うと、カゲルはいつもの飄々とした笑みを浮かべた。
「はぁ…、今回は私の完敗です。では、私が強くなったらまた試合をお願いします。」
そう言って頭を下げたあと、たしぎも建物の中へと戻っていった。
---港---
処刑台前広場でカゲルの姿を見た後、グラナータはG-15支部に戻るため、港へとやってきた。
「おや?グラナータ大佐、早いお戻りですね。」
と、軍艦のチェックをしていた海兵が聞いてきた。
「えぇ、出航の準備は出来てますか?」
「もう少しで終わりますので、船室でお待ちください。」
「そう…。」
そう言うと、グラナータは階段を上がり軍艦へと乗り込んだ。
ローグタウンへと向かう際に、グラナータへと充てがわれた船室へと入ると、ベッドへと倒れ込んで、手近にあった枕を抱きしめた。
(数年ぶりに会えたのに、もうお別れか……。あぁ、もう少し話がしたかったな……。)
「できれば、褒めて……もらいたかったな………。一緒に暮らしてたあの時みたいに。」
処刑台前でのカゲルの姿につられて、グラナータも感傷的になっていた。
と、
コンコンッ
「失礼します。グラナータ大佐、カゲル大尉から小電々虫が来ています。通信室にお越しください。」
「え?」
海兵からそう伝えられたグラナータは、混乱しつつ通信室へと向かった。
「あぁ、グラナータ大佐、こちらの電々虫です。」
そう言うと、海兵はグラナータへと小電々虫を渡した。
「ありがとうございます?あの……、自室で話して来てもよろしいですか?」
「えぇ、構いませよ。」
海兵からの返答を聞くと、自室へと戻っていった。
「………カゲルさん、グラナータです。」
『あぁ、やっと繋がったよ。悪いね、ローグタウンまで一緒にいてもらって。』
「いえ……、私もスモーカー大佐には用があったので。」
『そっか……、でも、有難いよ。』
そうカゲルに言われ、グラナータの表情は柔らかくなった。
『数年ぶりに会って、正直驚いたよ。今じゃ、俺よりも立場は上になっているからね。初めて会った頃よりも感情も豊かになったしね。』
「全て……、あなたのお陰ですカゲルさん。あなたが私を拾ってくれなかったら、今の私はありませんから。」
『………迷いは消えたかい?』
「え?」
『さっきまでは、何か思い悩んでいるような声だったけど、今は、柔らかい声になっているよ。』
「あっ……、その、ありがとうございます。カゲルさん。」
カゲルに電々虫越しで心情を悟られ、その羞恥心で顔を赤く染めたグラナータは声が上ずらないよう気をつけつつそう返した。
(あぁ、やっぱりカゲルさんは凄いな……。)
「カゲルさん……、私もっと強くなります。」
『え?あー、うん。頑張って?』
「フフッ……、それでは、カゲル大尉も頑張って下さい。」
『了解です。グラナータ大佐。』
(ガチャ)
そのやり取りを最後に小電々虫は切れた。
「ふぅ……、さて、あの人に負けないように私も頑張りますか。」
そう言うグラナータの表情は先程とは違い、凛々しくも柔らかな表情となっていた。
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