まほチョビ(甘口)   作:紅福

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タイトルは、強引ですが「でぃすく」とお読みください

こちらではまるっと省いてますが、渋い方ではR-18シーンも書いてます


(4/4)円

【まほ】

 

 一夜明け、港にて。

 昨日、学園艦があった場所には当たり前だが何も無い。景色が丸ごと無くなったような、何とも不思議な感覚に陥る。

 

「ううっぐ」

「あう、ふうぅ」

 

 千代美とダージリン、呻く二人をベンチに座らせ、一人で海を見ている。

 酔い止め、二人にも飲ませてあげれば良かった。

 

「知ってたなら、教えなさいよ」

「いや、知ってたというか何というかだな」

 

 昨日は、車酔いと区別が付かなかったせいもあって、きちんと判断が出来なかったのだ。

 今朝、素面で乗ってようやく確信した。島田のおばさまは、ヘリの操縦が乱暴過ぎる。

 いや、あれはまともに操縦できる腕がありながら、わざと乱暴に操縦して私達を怖がらせて楽しんでいたという感じだった。全く、たちの悪い人だ。

 ともあれ、おばさまのお陰で我々は学園艦を降り、港に帰って来られた。それに関しては感謝しなくてはいけない。

 

 はーあ。

 

 億劫だが、近いうちに千代美を連れて実家にも顔を見せなくてはならないな。

 悪いことをしているつもりは無いが、無いつもりだったが、自然と足が遠退いていることを思うと、矢張り疚しかったのだ。

 昨夜のおばさまの言葉は『気にせず顔を見せろ』と言っているようにも聞こえた。

 

 まあ、そのうち。

 

 そのうちだな。

 

「ううぅ」

 

 最早、どちらが呻いているのかも分からない。

 

 まあ、ダージリンはいい。

 どうでもいいとまでは言わないが、とりあえずいい。

 

「まほー、わたししぬかもー」

「死ぬな死ぬな」

 

 朝一で例のミートパイを食べさせられて受けたダメージの分、ダージリンより千代美が辛そうだ。

 島田のおばさまもダージリンも美味そうに頬張っていたが、あれはだめだ。私も千代美も嫌な顔をする訳にも行かず、無心で食べた。

 おばさまは『娘にも食べさせる』と言ってミートパイを買い込んで行ったが、果たしてどうなるものやら。

 

 早々にコーヒーで口直しをしたが、まだ腹の中が靄々する。

 千代美もそうなのだろうと察しがつくし、それに加えてヘリ酔いである。可哀想。

 彼女の隣に腰を降ろすと、すかさず私の肩に頭を載せてきて、『あー』と声を吐いた。

 しかし何を思ったものか、千代美はその頭をすぐに降ろし、真ん中に座れと言い出した。

 

 真ん中、千代美とダージリンの間。

 

「どうしたんだ」

「いいからー」

 

 言われた通りにすると、私の肩に今度は両側から頭が載せられ、『あー』という声もステレオで聞こえた。何だこれは。

 まあ、二人とも疲れてしまったのだろうと思い、暫くこうしててやる事にする。

 

 なんとなく、ダージリンの頭を撫でてやった。振り払われるかと思ったら、何も言わず私の胸にぐいぐいと頭を擦り付けて来た。少し痛いが、まあ、怒ってはいないようだ。

 

 ふと、千代美が私の手の甲をつねった。

 

「痛っ」

「ふふ」

 

 私がダージリンに構うせいで怒らせてしまったのかと思ったら、どうやら笑っている。何だ何だ、気味の悪い。

 

 すると今度は、反対側の手の甲にも痛みが走った。

 ダージリン、結局お前もか。

 

「何なんだ二人とも」

「うふふ」

 

 私の肩に頭を載せたまま、二人はくすくすと笑いながら代わる代わる私の体のあちこちをつねったり、つついたりした。私はそのたびに、ぐう、とか、むう、とか声を上げる。それが面白いらしい。

 なんだか二人の戯れ合いに私が付き合わされているような気分になってきた。真ん中に座ってはいるが、これではまるで二人の玩具だ。

 私からは二人の頭が見えるばかりで表情が読めず、くすくすという笑い声ばかりが聞こえる。

 どうにも蚊帳の外のような感じだ。真ん中なのに。

 

「お三方、こんな朝から何をやってるんですか」

「見せ付けてくれますわねえ」

 

 顔を上げると、オレンジペコとローズヒップ、二人が立っていた。昨日と全く同じ現れ方である。

 どうやらこの二人はコンビのようなものらしい。ダージリンの引っ越しの時にも二人一組で居たな、そう言えば。

 

 千代美とダージリンは急いで姿勢を正した。

 まあ、後輩に見られたい格好ではなかったな。

 

 というか、随分と早い到着だ。ダージリンからの帰還の連絡に、すぐに向かいますと返信があってから、幾らも経っていない。

 昨日、ダージリンを投げ飛ばしたあと、ハイタッチをしてそのまま走り去るところまでは見ていたが、どこか近場に宿でも見付けて泊まっていたという事なのだろうか。

 

「それは、その、うふふ」

「やだ、ペコさんったら。夕べの事は秘密ですわよ」

 

 あ、詮索は止した方が良いやつだろうか。

 心なし、昨日に比べて親密になっているようにも見える。

 

 ともあれ。

 ダージリンは投げ飛ばされる際に彼女らに預けた手荷物を受け取り、その中から鍵を取り出した。

 

 彼女の、車の鍵。

 

「やっと帰れるわね」

「千代美、酔い止め飲むか」

「ちょうだい」

 

 こんな関係が、果たして一体いつまで続くのだろうか。

 

 まあ少なくとも、まだ暫くは安心しても良さそうだ。

 

 確証は無いが、そういうものだろう。

 

 そう思った。




「急に用事を言い付けたりして悪かったわね。助かったわ、ありがとう」

「いえいえ、とても楽しかったわ。三人とも良い子ね」

「あら、二人じゃなかったの」

「もう一人居たわよ、とっても良い子が」

「ふうん」

「気になるのかしら」

「んん。そんなことよりも」

「伝言でしょ。心配しなくても、ちゃんと伝えたわ」

「本当かしら」

「『なるようになるし、悪い思い出には絶対にならないから安心して過ごしなさい』でしょ。一字一句、違えずに伝えたわよ」

「そう、良かった」

「もっと長い言葉で伝えたかったくせに」

「そ、そんな事は無いわよ。ともあれ、ありがと」

「ふふふ、どういたしまして」

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