まほチョビ(甘口)   作:紅福

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二口女の褥

【しほ】

 

 久し振りの休暇。良い旅館を取って、千代と二人で温泉を堪能した。

 温泉のあとは部屋に運ばれてくる料理の数々に舌鼓を打ったし、空いた時間で旅館の周辺を散歩して、紅葉も楽しんだ。

 そうして丸一日楽しんで、心地よい疲れを感じながら布団に入り、旅館の消灯時間が近付きうとうとし始める頃。

 

 千代が私の布団に潜り込んできた。

 

 別に意外という程の事でもない。この旅行、私と彼女の二人で行こうと話した時点でこうなる事は容易に想像がついた。

 かつて好き合い、一緒に暮らしたこともあった二人。その二人で旅行だなんて、何が起きても不思議ではない、と思う。

 予感は、あった。

 

 そう、予感。

 それは、覚悟と言い換えても良いかも知れない。

 

「ふふ」

 

 千代は小さく笑って私の腕を引き寄せ、それを抱き締めるようにして身体を押し付けてきた。

 腕が沈み込んでしまいそうなほど柔らかな千代の身体の感触に、懐かしさがこみ上げる。こうまでされて狸寝入りを決め込むのも白々しい。私は寝返りを打ち、千代と向き合うように体勢を変えた。

 

「おはよう」

「おはよう」

 

 茶番のようなやり取り。

 すっかり上機嫌でいる千代とは裏腹に、私は少し憮然とした表情を作っている。

 

「何をしてるか分かってるの、貴女」

 

 そう、低く言って軽く睨み付けた。

 私達はもう、夫も子もある身。昔とは違う。

 

「こんな、ふしだらな」

「分かってるわよ、しほさんは何も悪くない。そうでしょう」

 

 千代はそう言ってにやりと笑い、身体ごと顔を近付けてきた。千代の胸が私の胸にぐいぐいと押し付けられ、彼女の吐息が鼻にかかる。

 唇を吸われるかと反射的に身構えたけれど、千代はにやにやと笑うだけで、それ以上何もして来なかった。それでも、彼女の吐息が顔にかかるだけで私の自制心がぐらぐらと揺れる。千代はたぶん、それを分かって何もしないのだと思う。私が自制心と戦っているのを、千代は間違いなく見透かしている。

 狙い澄ましたかのように、千代は私の唇に息をふうっと吹き掛ける。それで、自制心がぐらりと大きく揺れた。

 

 千代が悪い。

 そして、私も悪い。

 

 私は千代の腰に手を回し、半ば意識して強引に引き寄せた。

 逃がさないようきつく抱き締め、嬉しそうに身をよじる彼女の唇をこちらから塞ぐ。

 

「んん、ふ」

 

 千代は恍惚としたように目を細め、くぐもった声を漏らした。彼女は私に対抗するように腕を回してきたけれど、力は入っていない。反対に、私の腕は尚もきつく彼女を抱き締めた。こうしてやると、千代は悦ぶ。

 弛緩しきった彼女の口の中に舌をねじ込み、掻き回した。千代も負けじと舌を動かし、私の舌を絡め取る。ぐちゃぐちゃとわざと品の無い音を起てて互いの唾液を吸い、喉を鳴らし、口内を舐め合った。

 

「ぷ、はぁ」

「んく」

 

 口を離す時、千代が名残惜しそうに私の下唇を舐めた。雑じり合った唾液が糸になって、枕に垂れる。それでまた火がついて、繋がって、互いの舌を吸い合った。

 

 そして。

 

「ひゃ」

 

 千代を抱きしめたまま寝返りを打ち、彼女の身体を自分の上に乗せる。

 弾みで唇が離れ、そこでやっと短い会話を交わした。

 

「重くないかしら」

「全然」

 

 私に覆い被さった彼女の柔らかな身体の重みは、昔と変わらず心地好い。

 もはや我慢がきかず、つい浴衣の上から彼女のふっくらとしたお尻に手を這わせると、手触りに違和感を覚えた。

 

「貴女、下着は」

「着ける訳がないじゃない」

 

 当然のように言い放つ。

 呆れた人。薄々分かってはいたけれど、ずっと『その気』だったのね。一体いつから着けていなかったのかしらと考えるに、温泉から上がって浴衣を着た時以外にタイミングは無かった気がする。

 つまり彼女は夕飯の時も、散歩をしていた時も、浴衣の下には何も着けていなかったという事になる。全く、人に見られたらどうするつもりだったのかしら。

 そんなことを考えている間に千代は身体を起こし、私の上で帯を解いてあっと言う間に裸になった。

 

 ああ、綺麗。

 千代の肢体を見て、怒る気持ちが吹き飛んでしまった。

 豊満なのに型崩れをしていない乳房、肉付きの良い真ん丸なお尻。ふさふさとした濃い陰毛の奥はさっきの口付けだけで既に蕩け始めてしまったようで、まるで失禁でもしたかのように蜜が太股まで垂れているのが見て取れる。

 どこをどう見ても、おいしそう。

 

「ねぇ、しほさん。私を上に乗せたって事は、続きがしたいんだと思っていいのよね」

「んん」

 

 千代の声が降ってきた。

 私は彼女に見惚れていたせいで反応が遅れ、返事とも相槌ともつかない間抜けな声を出してしまい、それから少し遅れて頷いた。今ならまだ引き返せるかも知れない。けれどここで止めるなんて、出来る訳がない。

 

「じゃあ、脱いで」

 

 言われるまま私も千代に倣って帯を解き、下着を脱ぎ捨てる。いそいそと服を脱ぐというのは何だか滑稽だと思ったけれど、そんなことに構ってはいられない。

 そうして、ようやく二人とも一糸纏わぬ姿になった。

 

「しほさんの身体、筋肉質で素敵よ」

「やめて、恥ずかしいわ」

 

 彼女に比べれば胸もあまり大きくないし、陰毛も薄く、腰も細い。千代とは対照的な私の身体。恥じらってみせると、千代は満足気にころころと笑った。

 そしてまた私に跨がって覆い被さるように身体を倒し、耳許に唇を寄せて囁く。

 

「あんまり気負わないでね、しほさん。好きな人が沢山居るのは自然なことなのよ」

 

 そう言われ、ああそうかと思った。

 何も夫から千代に気持ちを移す訳ではない。況してや夫を嫌いになる訳でもない。夫のことも千代のことも、どっちも好き。そういう在り方もあるのねと、納得させられた。

 

 千代は体勢を変え、その大きなお尻をこちらに向けた。

 

 私の視界が千代の秘所でいっぱいになった。濃い陰毛に覆われている綺麗なピンク色をしたそこは、もうどちらかと言えば赤みが差しているようにも見えて、彼女も疾うに我慢が出来なくなっていることを示している。

 まだ何もしていないというのに蜜が漏れて、私の胸の上にてらてらと光る小さな水溜まりを作った。

 視線を少し上に遣ると、『前』よりも恥ずかしい後ろの穴がひくひくと蠢いているのが見える。

 

 全部。

 千代の全部が私の目の前にあった。

 

「舐めて」

 

 抗うことは出来なかった。

 

「私のもお願いね」

「ふふ、勿論」

 

 そんな短い会話を交わして、私は舌を伸ばした。


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