一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
「ほほう、ここが今の君の部屋かぁ」
自室に戻るなり、ダ・ヴィンチちゃんは部屋をじっくりと見回していた。実に興味深そうに観察している。
「おかえり子イヌーーって、あんたなんでここに!?」
ニコニコしながら部屋の奥から駆けてきたエリちゃんは、傍らのダ・ヴィンチちゃんを見るなり目を見開いて驚きの声をあげた。
「やあ、久しぶりだね。今日からまたよろしく頼むよ」
あくまで
対してエリちゃんは、少し責めるような目つきでこちらに視線を移した。
「子イヌ?」
「ああ、彼にはまた力を貸してもらうことにした」
昨日の今日で薄情かもしれん、だがなんと言われようと俺はこれから訪れる災厄に立ち向かわねばならないのだ。
俺は藤丸立華であっても最後のマスターではない。
そんなことは分かっている。
だからこそ、
そうしないと俺はただの凡人のまま大きな力に押しつぶされて消えてしまうことだろう。
「まあ、ダ・ヴィンチさん。万能の人ね!」
遅れて何事かと玄関に来たのはアビー。
エリちゃんとは対照的に、また増えた顔見知りに顔を綻ばせていた。
「久しぶりアビーくん、元気にしてたかい?」
「ええ、ええ! 日に日に増えていくのね、まるでカルデアにいた頃のようで懐かしいわ」
無邪気に喜ぶアビーは、ダ・ヴィンチちゃんの手を引いて部屋へと誘う。彼も困った風に諌めながらも、満更でもないように口角を上げていた。
「カルデア、ね」
俺はそれを直接目にしたことはない。されど彼女らとの間に縁を結んでいる。
俺は直接、魔神王と相対したわけではない。されど人理焼却事件の解決は俺の実績となっている。
後者に関しては転生の話をスムーズに進めるため自らついた嘘だが、前者は俺が知らないうちに結ばれていたものだ。
俺は思う。
果たして、最後のマスターではない俺を呼ぶ意味はなんなのかと。
素直に『彼』の方を転生させておけば良かったのでは、と。
結局、何と口にしようと俺は偽物でしかなく彼のように強い意志を持つことも、万人に慈愛を向ける博愛精神などさらさら持ち合わせていないのが俺だ。
「……子イヌ? 大丈夫?」
気づいた時には、エリちゃんの顔が真横に迫っていた。
透き通るような青い瞳が俺の視線の先で揺れている。
とても綺麗な瞳だと思った。
「ああ、大丈夫だよ。さ、部屋に戻って。急いでご飯作るよ」
いや、今するべき考え事じゃない。今はとりあえず彼女らにご飯を作らないと。
「いやぁ、君がまさかここまで料理上手なんてね。……もしかして前からだったかな?」
夕食を終え、エリちゃんたち二人を寝かしつけた俺たちはリビングに置かれた椅子に腰掛けながら談笑していた。
わずかに、探るような物言いだと感じた。だが悪意の類は感じない。
「……ダ・ヴィンチちゃん、防音、できたかい?」
表情に出すことなく自然にそう問い掛ける。
「うん……大丈夫だよ」
ダ・ヴィンチちゃんは少し戸惑うような仕草を見せて、頷いた。
彼は聡い人物だ。どれくらいかというと、俺を基準としてその千倍くらい。
万能の人、そう呼ばれる彼はあらゆる分野に精通すると共に、人の心の機微に対しても敏感に感じ取ってくる。
「じゃあ、改めて。
彼に対しては限りなく誠実でなければと俺は思った。
「ああ、
やはりこちらの全てを見透かしたような目で応える彼。
隠し事などする気はないが、もししたとしても形骸でしかないだろう。
「率直に聞きたい、貴方はどこまで分かる?」
「君があの少年と同じ名前、同一の魂、
「いや、自分で話すよ。自分で話さなきゃいけないことだと思うからね」
俺は素直に彼に全てを打ち明けた。転生の詳細、俺がなぜ彼らを知っているのかも全て。
自分でも不思議なくらい口が軽いと思った。もともと、俺ら以外の人物を諦めて見てきた俺だからこそ、彼に対して感じる不思議な抱擁力に心地よささえ感じていた。
「……なるほど。君は、やはり、彼とは違うんだね」
全てを話し終えて、俺は妙な脱力感を感じていた。
清々しいと思う反面、もはや何事をも些末なものと感じてしまうほどに不思議なほどの虚無感を覚えた。
「ああ、全てを知っているように見せかけて誰でもない、その他大勢の一人に過ぎないのが俺だ」
覆しようがない事実。
俺は、これまですべてにおいて自身とエリちゃんとアビーのみを優先していた。その他の数多関わる人物は根本的に自分と相容れない存在であると判断し、自身が
改めて考えることも憚られるような悍ましく浅ましい欲得だ。
だが、先日、遠坂たちが俺を気にかけてくれていたことを知って、俺の心には迷いが生じた。
果たして、俺の選択の数々は合っていたのか、切り捨てると判断したのは本当に正しい選択だったのか。
疚しい、卑しい、浅ましい。
それだけが俺の考える俺の評価だった。
別に構わないと信じてきた。いずれは道を違える存在。せめて俺のハッピーエンドの礎になってくれとさえ。
そんな、くだらない俺を遠坂たちは気に掛けた。如何程の覚悟も、能力も無いと
そして、エリちゃんは、エリザベートはこんな俺でも側にいると言ってくれた。
これまでの二年が虚偽であったとは思わない。しかし彼女もいい加減気付いているはずだ、彼女の知る藤丸立華とこの俺は別々の存在なんだと。
いくら魂が似ていようが俺にカルデアでの記憶なぞ無いし、たった一人で人類史を焼却した相手に立ち向かえる勇気もない。
所詮はその程度の凡人なのだ。
……だから、そんな力不足な俺が、全てを救いたいなんて。
そんな思いを抱くのは傲慢だろう。
「……俺は最後のマスターではない。それでも俺に力を貸して欲しい」
渦となって脳内を掻き乱す数多のバッドエンドを必死に思考の隅に追いやりながら俺は平静を装い問いかける。
「……」
ダ・ヴィンチちゃんは俺の瞳をジッと見つめながらしばらくの間沈黙を続けていた。
「……ああ、全く。これは彼というよりも、『君』に似ているよ■■■」
そして、ゆっくりと瞼を閉じて呟いた。その言葉は耳に入って来なかったが。彼が何らかの決断をしたのは確かだった。
「いいよ、何せ君は私のマスターだ、命令には素直に従うさ」
やはり令呪は偉大。そう思った。
「ありがたい。俺の当面の目的は話したと思うが……」
「ああ、こちらの世界に転生してきた彼ら。魔術師の集団・裏生徒会への助力だね」
話が早いのは良いことだと思う。
「その通りだ。ついでに調べて欲しいことも幾つかあってなーー」
「ふむふむーー」
「ーーで、ーーの開発もお願いしたい」
「なるほど、そりゃ面白いね!」
「ついでにーー」
「ーーほぅ、それは」
新たに契約したサーヴァント、ダ・ヴィンチ。
彼の洞察力、発想、叡智は噂の通りで、俺は理解力のある彼に次々とお願いを伝えていった。
「……おや、いつの間にやら日が昇っていたようだね」
ダ・ヴィンチの言葉に、窓へと視線を向ければ穏やかな朝日がカーテンの隙間から漏れ出ていた。
布団で安らかな寝息を立てる二人のサーヴァントが実に微笑ましい。
「すまないねマスター、興味深い話だったからつい話し込んでしまった」
「いや、礼を言うべきはこちらだ。やはり貴方を呼んでよかった、俺の目的も裏生徒会の目的もスムーズに進むことだろう」
本の解析、その他調査はもとより、新たな礼装の開発にも存分に力を発揮してくれるに違いない。
魔術だけではない。
魔法という異なる技術であっても彼なら十全に使いこなしてみせるだろう。
「……だが、最優先すべきことは」
「彼女たちと、
「ならいい。まだ道は長いのだから……万全に」
少しばかりの目眩。視界がブレて平衡感覚が乱れる。
「おっと、大丈夫かい、マスター?」
「ああ、ありがとう」
ふらついたところをダ・ヴィンチに支えられた。むにゅん、と頬に当たった柔らかい感触ですっかり目が覚めた。
「大丈夫だ。それより今、何時だ?」
「五時だけど……君、休んでる?」
心配そうに尋ねるダ・ヴィンチに「ああ」と答える。
別に徹夜したわけでも激しい運動をしたわけでもない。
ただ、アルビレオの話が本当なら今この時でさえ一刻の猶予もない。出来ることはなるべくやっておくべきなのは確かだ。
「そうか……どうだろう、朝食は特別に私が作ってあげようか?」
ニヨニヨしながら顔を近づけるダ・ヴィンチ。
「……ああそうだな、一度、ダ・ヴィンチちゃんの手料理を食べてみたかったんだ」
そう答えるとダ・ヴィンチは「任せてくれたまえ!」と腕を捲って、鼻歌交じりにキッチンに向かった。
「……」
なんとなく、俺はキッチンでテキパキと料理する彼の姿をしばらく眺めていた。
その後、裏生徒会本部にダ・ヴィンチちゃんを送り届けた俺はその足でエヴァのもとへと向かった。
学園の外郭に位置する大きなコテージ、その扉をノックする。
「おや、藤丸様、マスターにご用ですか?」
扉をあけて出てきたのはエヴァの専属メイドにして相棒たる絡繰茶々丸。見た目からして明らかなロボである。いや顔は可愛いが。
「ああ、休みにすまないな。メンテナンスだ」
ちなみに学校は春休み期間。あのエヴァのことだ、今頃はベッドで惰眠を貪っていることだろう。
「なるほど、マスターはすでに起床しておられます。中でお待ちください」
「お邪魔します」
無機質な声に誘われ、コテージ内に入る。
エヴァが朝から起きているなど、珍しいこともあるものだ。
リビングに誂えられたソファに腰掛けながら静かに待つ。
「なんだ、休みに」
そうこうしてると階段から気怠そうな声が聞こえてきた。
見ればネグリジェ姿のエヴァが不機嫌そうに目を擦っている。
あれ、起きてたんじゃないのか?
「すまん、また壊れちゃった」
藁人形を懐から取り出してみせる。
「お前……なんだ、最近の一般人はそんなに死亡フラグ立ちまくってるのか?」
まさしくその通りである。
俺は改めて並行世界の藤丸立華に敬意を捧げた。
「分かった分かった、いいから貸してみろ」
俺から藁人形をふんだくっていじり始めるエヴァ。
修理に集中している彼女をよそに、俺はその身体をじっくりと脳裏に焼き付けておく。
透き通るような白い肌、露わになったその太腿、足、腕、端整な顔もしっかりと脳に記録する。
……ふぅ。
「藤丸さま。不潔な視線をマスターに向けないでください」
じっくりとロリババアの身体を堪能していると、急に目の前に茶々丸氏が現れた。
というかざっくりバラすなよ。
「……おい、せっかく私が直してやってるのに、そんなことしてたのかお前」
俺の視線に気付いたエヴァが憤怒のオーラを出している。
「いやまて、逆に考えるんだ。
“私の身体に恥ずかしいところなんてないんだから、見せちゃってもいいや”と考えるんだ」
ジョースター理論は偉大である。
「アホか貴様! 好き好んで貴様のような変態ロリコン野郎に見せる奴がいるか!!」
やっぱ知ってたのね、俺がロリコンって。
「しょうがないだろ! お前がそんな格好してるから、俺だって内なる
「逆ギレするな! おい、寄るな、それ以上こちらに近づくな変態!!」
藁人形片手に必死にこちらをしっしっ、と拒絶するエヴァ。ああ、なんていじらしい。魔力も封じられか弱い少女でしかない君に俺を拒むことなどできようか?
「お戯れが過ぎます、藤丸様。それ以上進まれるなら即刻排除いたしますよ」
ガチャン、と腕を砲台に変形させた茶々丸が立ち塞がった。
「待て待て、本気で××するわけないだろ。ジョークだよジョーク」
俺の今世での貞操はエリちゃんに捧げると決めている。
「いえ、貴方はデータ上変態ロリコンとして登録されています。その発言は信用に値しません」
データ上ってなんだよ、そんな不名誉なデータ残ってんのか。
いや普段の行動からして他の記録にもそんな感じで残ってそうだが。
「ふむ……よく見るとお前もなかなか可愛らしいデザインじゃないか」
「は?」
茶々丸。ネギクラスの葉加瀬とエヴァ、超の共同開発で完成した魔法と科学のハイブリッド人形。
その関節部はロボのものではあるが、顔立ちは整い、そのプロポーションは十分美女のランクにある。
「俺の守備範囲は広い。ケモノやもちろんロボ子だってばっちこいだ」
「……理解不能」
無表情で無機質な声だがなんとなく侮蔑の感情が込められているのは理解した。
「問答無用!!」
だが俺は行く。嫌われようとボコられようとそこに幻想郷があるのならば行かずしてなんとする。据え膳食わぬは男の恥、は違うか、
「そうですか」
「え」
予想外にも微動だにしなかった茶々丸の胸部に勢いのまま突っ込んでしまう。
ゴチ。
「い……ってぇ」
しかし思っていた感触とは真逆の、胸部の鋼鉄具合に俺はジンジン痛む額を必死に抑えて悶えた。
それを見下ろしながら茶々丸は平然と告げる。
「私のボディは鋼鉄製、それでも辱められるというならばどうぞ好きになさってください」
どこか勝ち誇ったような物言いに、しかし反論する気力は残っていなかった。
「お、お、おのれ……俺のキューティクルなお顔に傷を、ぉぉ」
「なにやってるんだお前ら……」
その様子を呆れたようにエヴァが見ていた。
納得できん。
「納得できんぞ茶々丸ぅぅぅ!!」
「はぁ……懲りない方ですね」
飛びかかる俺を意に介してもいないような冷めた視線、ちょっとキタのは内緒である。
しかし甘いな茶々丸。俺が貴様の弱点を知らないとでも?
「隙あり!!」
「っ、まさか!」
俺は飛びかかった勢いで後ろに回り、茶々丸の後頭部にあるネジへと手をかけた。そして全力で回す。
「うおぉぉぉ!!」
「ぐっ! あなた如きの脆弱な魔力、で……うひゃん!!」
え。
「……う、うおぉぉぉぉ!!」
「ああ、やめなさい! 今すぐやめーーひぅ!」
……聞き間違いではない。
ネジを回す手を緩めずに俺の脳内は茶々丸が発した嬌声に興味を集中させていた。
バカな、俺でも彼女を喘がせることができるとは。
「うおぉぉぉぉ!!」
「な、なぜ、このような、ひゃん! お、男のーーはぁん!」
なぜかは分からない。しかしこれが実に良い結果であることは確か。俺は夢中になってネジを回し続けた。
「魔力、こんな量、ひっ! ど、どこからぁぁん!」
俺に聞かれても知らん。
だがとてつもなくいけないことしてる気がする。
「いい加減、やめんか」
「もぷっ!?」
エヴァが投げつけたクッションを顔面にくらい、俺の手からネジが離れていく。ああ、我が友よ!
「くっ、こ、この!!」
慌ててクッションを退けると、見たこともないくらいに憤怒の感情を顔に浮かべた茶々丸が複数の砲身をこちらに向けていた。
バリバリの戦闘モードである。
「ちょ、待て待て待て、シャレにならんぞ!?」
「吹き飛びなさい!」
しかし俺の声は届く間も無く、砲口が火を噴いた。
ドドド……ともはや部隊規模の砲弾がこちらに迫る。
「うわぁぁぁぁ!?」
俺は無心になってとにかく走った。避けた、のかも分からないほど心を捨て今を生きぬくことだけを考えた。
「ほう、辛うじて避けているのか。すごいな」
「まだ生きているのですか、これで!!」
がしゃん、と嫌な音がして見てみれば茶々丸の背中から特大のミサイルが現れていた。
いや、サイズが明らかにお前よりも大きいのだけど!?
「対象・変態ロリコン、いや、アガルマトフィリアクソ野郎に固定。
ロックオン……」
ロックオンすんなよ、狙い撃つのは兄貴の特権だよ!
「吹き飛びなさい!!」
「待て茶々丸、それ私の家も吹き飛ぶから」
今まさにミサイル発射! といったところの茶々丸の肩にエヴァは手を置いた。
「あ……」
我に返ったかのように冷静な眼差しで家を見渡す茶々丸。
それはもはや家と呼べる状態にあらず、無残な瓦礫が積み上がった廃墟のようになっていた。
ちなみに、奇跡的にも階段と柱が生き残っていたらしく二階は無事だった。
「私、は……」
「うん。私もあの変態には腹に据えかねるものがあったが家は壊しちゃダメだよな」
悟りを開いたような眼を向けるエヴァ。そうだな、今のお前では茶々丸は抑えきれないよな。
エヴァのコテージは、一階が開放的になった。
「ま、マスター! 私の即刻破棄を具申いたします! もはや、もはやこのような!!」
あの茶々丸からは考えられん、実に感情のこもった声と仕草にしばし放心してしまった。
「……すまん。家、直すの手伝うよ」
居た堪れなくなった俺は素直にエヴァに投降した。
「うん……そうだな。今度は開放的なのもいいか、あははは」
家の修理の前に、壊れてしまったエヴァの修理を請け負うことになった。
茶々丸ってこんなに感情豊かな子だっけ……
全然関係ないんですけど、夜中に絵馬が棚から落下してきました。