一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
塩基配列:ヒトゲノム
霊器属性:『悪性』・中立
「ネギ君からかうとホント面白いよねー!」
「この一年間、楽しくなりそーね」
わいわいと賑やかな教室。
ここは麻帆良本校女子中学校にある三年A組の教室だ。
新年度早々に身体測定を予定している彼女らは教室にて着替えを行なっていた。
ただ、女子中ということもあり、さらにはこのクラスはその身体測定でさえも騒がしかった。ちなみに測定の都合上、下着姿にも関わらず色気は皆無である。中学生では致し方なし。
その際に必然、話題となるのは『胸』のこと。
「まき絵はぺったんこだからねー!」
パンツ一丁で仁王立ちするのはクラスの中でも一番の低身長、ロリ体型を誇る双子、鳴滝姉妹の姉。
「お姉ちゃん、言ってて悲しくないですか……?」
極めて冷静な妹のツッコミはしかし姉の耳には届いていなかった。
その一方、我らがエリちゃんの方でも同じ話題が繰り広げられていた。
「暴力です、あれは暴力装置ですよのどか」
クラスメイトの
隣には親友ののどか、エリちゃんと続き奇跡的にも貧乳三人娘の様相を呈していた。
「ぼ、暴力とか……那波さんに聞こえたらどうするのー」
ワタワタとしながら親友の暴言を諌めるのどか。やはり親友同様に下着姿でも色気はない。
「まったく、胸の大きさで女の良さは決まらないわよ」
そこで極めて真っ当な反応を示したのは同じく貧乳であるエリちゃんだった。
予想外の反応に夕映は驚いた。
まさか、仲間と思っていたのに、と。
「意外と、冷静ですねエリちゃん」
「はぁ? ふ、所詮は肉の塊よ。……それよりも」
すす、と滑るような動きで夕映の背後に回るエリちゃん。その動きはリツカにも通ずるところがある。
滑らかな手つきでエリちゃんが
「ひゃあ!?」
「うーん、すべすべね。やっぱり女の子の肌は新鮮で……ピチピチね」
じゅるり、と舌舐めずりを繰り出すエリちゃんの表情は妖艶で、唯一目撃したのどかは無意識に身体を強張らせた。
「うふふ、ここかしら? ここがいいのね、夕映!」
「あ、ひゃん! だ、だめ……ですぅ」
「あわわ……」
すりすり、と手指を這わし夕映の全身を◯撫するエリちゃん。見た目とは裏腹に恐ろしく熟練された手つきで夕映の太もも、腰、脇、そして首筋を撫で回す。
それをのどかは両手で顔を覆いながらも、指を開いてガン見していた。親友を助けることができない、という不甲斐なさと、嫌なのに感じちゃう! という倒錯的な快楽に身を苛まれながら……。
「ちょ、エリちゃん何やってんの!?」
そこへ、夕映・のどか両人の親友にして保護者役の
「あらぁ、ハルナ。貴女もやりたい?」
「ふぁ……パル……た、助けーー」
ビクンビクンと身体を痙攣させながら必死に、ハルナことパルに手を伸ばす夕映。
しかし無情にもその手が取られることはなかった。
「やりたい!!」
恐ろしく真面目な顔で即答するパルに、夕映とのどかは凍りつく。
悪ふざけに定評のあるパルまで参戦しては、もはやどうあっても自分たちは助からないだろう、と。
「そうねぇ……じゃあ、そこで見ている白くて柔らかそうな肌の彼女を貸してあげるわ」
「え」
ねっとりとした眼を向けるのはのどか。先ほどまで弄り回される親友を見てモジモジしてしまっていたいけない子だった。
「大丈夫、私が教えてあげるわ。貴女は身を委ねていればいいのよ」
エリちゃんの優しくも悪魔のような囁きに完全に硬直してしまうのどか。さながら蛇に睨まれた蛙のようでもある。
「ひ……」
「あらあら、怖がっちゃって……可愛い。うふふ、ついでだから貴女も可愛がってあげるわ、ハルナ」
「え」
予想外の展開にパルの表情も固まる。まさか、自分まで標的にされようとは。いじるのは慣れているがいじられるのは慣れていないのが彼女であった。
「さあ……」
だが、『嗜虐のカリスマ:A』をフルに発動している彼女に逆らえるはずもなくーー
「何!? まき絵がどーしたの!?」
突如、ざわめき出した教室に、エリちゃんも名残り惜しそうに絡めた手足を解いた。
解放されたのどか・夕映の両名は立つ気力もなくその場にヘタリ込む。
「ふにゅ」
「ふにゃ」
そのまま床の上でビクビクと痙攣したままな二人を前に、パルはただただ戦慄していた。
「ま、まさか……このクラスにあんな逸材がいたなんて」
ただ、湧き上がる感情は恐怖というよりも、寧ろ新たな『性癖』を開拓してしまったような歓喜に似ていた。
早乙女ハルナ、BLに加え百合の園への扉を解き放つ。
地味に、原作よりも創作の幅を広げてしまったハルナなのであった。
「ほんの少しだけど、確かに『魔法の力』を感じる……」
保健室にて件のまき絵の様子を見に来ていたネギは微かに残された犯人の残滓を読み取る。
身体測定を行っていたネギクラスに慌てて駆けてきた
急いで、彼女の運ばれた保健室にきてみれば、未だ彼女の意識は無くその身体には僅かに残った魔法の痕跡しかなかった。
「……(僕の他に魔法を使えるのは……ま、まさかエリザベートさん!?)」
だが、悲運というべきか彼がまず思いついたのはネギクラスの一人たるエリザベート・バートリーであった。
ただ、それも無理からぬことである。
なにせ、エリザベート・バートリーが歴史に記される彼女本人の英霊であると知り、その逸話まで知っているとなれば真っ先に疑うべきは彼女となる。
エリザベート・バートリー。『血の伯爵夫人』と呼ばれた彼女は老いをなによりも嫌い、美貌を保つために何をトチ狂ったか少女の生き血をその身に浴び、飲み、若さを保とうとした。
その末に貴族の令嬢を手に掛けたことで幽閉され、獄中死にも等しい非業の死を遂げるのだが、それは歴史に記されたことだ。
この場には、その彼女を英霊と、使い魔として召喚された存在がおり召喚者である人物からの直接の報告も受けた。
「いや……まだ決まったわけじゃない」
だが、他ならぬ召喚者に『守る』と言ったこと。何よりも自分の生徒でありいつも明るく快活な彼女がこんな卑劣なことをするはずがないと。そう思ったことも確か。
結局、彼は原作と同じくまき絵の見つかった桜通りでの張り込みを行うことを決めるのだった。
「ただいま、子イヌ!」
「おー、おかえりー。ご飯もう出来てるからな、手洗っといで」
バン、と扉を開けたエリちゃんに俺はにこやかに言葉を返した。
時刻はもう夜と行って差し支えないもので、すでに晩御飯は出来ており、アビーなんかテーブルの前でスタンバイしていた。
「おかえりなさいエリザベートさん!」
エリちゃんの帰宅に気付いたアビーは彼女にダイブに近い形でハグをする。筋力:Bの少女の突撃にエリちゃんは若干よろめきながらもしっかりと受け止めていた。
これが錬鉄の弓兵なら難なく受け止めていただろうに。(唐突なdisり
「もう、しょうがない子ね。ちょっと手洗ってくるから先に待ってなさい」
「はーい」
なんだかんだ言ってエリちゃんは面倒見がいい。いつも破天荒な彼女だから心配していた頃もあったが、当初からアビーの面倒をよく見ていた。
俄かに信じがたいかもしれないが、彼女がアビーを見る目はとても愛おしそうで……あれ? もしかしてエリちゃんアビー食べようとしてる?
「ダメだぞエリちゃん。絶対に腹壊す」
「は?」
手を洗って戻ってきたエリちゃんに釘をさす。何言ってんだこいつ、みたいな反応を返されたが俺は騙されんぞ。
確かにアビーは柔っこいし、プニプニほっぺただし、抱き枕にしたくなることだって『俺もある』。
だが、彼女はその身に得体の知れない異形を宿しており、何より大切な『仲間』である。セクハラは俺が許さん。
「え、なんでそんな怖い顔してるの……わ、私、何かしちゃったのかしら」
とはいえ、「うるる」と今にも泣き出しそうなエリちゃんを見てしまったらそんなのは『頭から飛んで行った』。
「ご、ごめんエリちゃん。怒ってないよ、怒ってないから泣かないで! ほら、今日はシチューだよ、美味しいよ?」
「え、やったぁー! 子イヌ大好き!!」
しかし、食べ物でつればほらこの通り。
エリちゃんはだらだら考えない性質なのだ。
すでにホクホク顔で席についている。
「じゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」
「神よ、あなたの慈しみに感謝してーー」
アビーは信仰者だ。何のかは言わなくてもわかるだろうがいつも食前の挨拶が長いので俺たちは先に食べ始める。
「あ、そういえば子イヌ。今日はね、なんかまき絵が倒れちゃってたんだって、桜通りで」
「ほう……そりゃ大変だったな」
もうそんな時期か。確か、これはエヴァによる吸血鬼騒動だったはず。
エヴァといえばこの間まで家の修理してきた仲だが、精神も無事に持ち直していたようだし原作通りにネギくんと戦って彼の成長を助けてくれることだろう。
とはいえ、あれだけ関わっておいて問題がないところを見ると、意外と原作を気にしなくても大丈夫かもな。歴史の修正力というかなんか抑止っぽいの働いてそうだし。
「それでね……私、たぶん、なんだけど。エヴァちゃんが犯人なんじゃないかと思うの」
見事今回の犯人を言い当てるエリちゃん。こういう変なところで勘がいいのも困り者だ。そういうのはここぞという場面で発揮してもらいたい。
「そうだな、たぶんあいつだろ」
「やっぱり!」
「でも、手を出さなくても問題ない」
「えぇ!?」
あっさりと言い切った俺にまたもエリちゃんが驚愕していた。これ何回やるんだろうな。でもエリちゃんだから可愛い、許す。
「言ったろ、俺は限定的に未来予測ができる。だから彼女にクラスメイトを害する意思はないと言い切れる」
「そんなこと言ったっけ? でも子イヌがそう言うなら……」
エリちゃんとも長い付き合いになる。さすがに慣れてきたのかあっさりと引き下がった。俺を信頼してくれるのは有難いがそこを敵に付け込まれないか心配だ。
あ、ダメだこれフラグ臭い。今のなし!
エリちゃんは完璧! はっきり分かんだね!
なんとなくこの先の展開に妙な不安を感じながらも、食事を終え風呂も入ってその日はさっさと寝た。
「ううん、マスターさん……」
ちなみに、夜は怖がりなアビーと
同じ布団で寝ている。
大事なことなので二回言った。
あと、変なことは何もしていない。していない。
これも大事なことなので(ry
「……子イヌ、私、ちゃんと見てるからね」
「ひっ!?」
少しだけ、匂いだけでも体内に取り込んでおこうとしたら背後から冷たい声が聞こえてきた。
夜だからか小さい声なのに、なぜかはっきりと耳の奥、鼓膜を的確に揺らされるように聞こえてきた。
「だ、大丈夫だよ。アビーは仲間。変なことはしないよ」
「今、匂い嗅ごうとしたよね?」
バレている。すごい怖い声で、全身が震えるような声ではっきりと言われた。
「え、エリちゃん……俺はーー」
「別に、子イヌはそういう奴だって知ってるからいいけど。
もう寝るね、おやすみ」
言い訳もさせてくれずエリちゃんは終始冷たい声で言い切ってそっぽ向いてしまった。振り返った時にはもう彼女の背中しか見えない。
「すぅ……すぅ……」
すでに寝ていた。微かに向こうから寝息が聞こえてくる。
本当に寝るなよ……。
「まあ、別に俺だって本気でアビーに変なことしようとは思ってないけどさ」
だって、アビーも俺の数少ない『味方』なのだ。
どうして無闇に傷つけられようか。
少し思考が鬱になってきたので大人しく
翌日、特にこれといった出来事はなかった。
強いて言えばエリちゃんから、『わ、私の洗濯物、やっといてくれてもいいんだからね!』と謎のツンデレを聞いたくらいか。
洗濯カゴを見てみればパンツにブラに靴下と一式揃えて放り込まれていたので素直に洗ってあげた。
翌日、この日も何もなかった。放課後は裏生徒会に集まったのでダ・ヴィンチちゃんに
帰宅早々にエリちゃんから洗濯のことを聞かれたので、ちゃんと変なことしないで洗っておいたことを告げる。
だが、なぜか怒ったエリちゃんから槍で突かれた。
運良く着ていた戦闘服が無ければ即死だった。いや、藁人形もあるからストックだけは二つほどか。
とはいえ、なんでそんな怒ったのか訳もわからず俺は混乱しながらも口を聞いてくれないエリちゃんに謝罪を続けた。
まあ、俺はエリちゃんになら殺されても
翌日、またもや平和な学校生活を送った後、どこにも寄らずに帰宅。
すでにアビーとエリちゃんは帰宅済みであった。
なんだ、最近は友達と遊び行ったりしてないのか。
そう思いつつ、心の底では彼女と過ごす時間が増えたことに歓喜していた。
と。
「……ん?」
リビングにてアビーとエリちゃんの二人が重苦しい表情で座っていた。表情もそうだが、何より空気全体がずん、と重力マシマシみたいに重かった。ここは地球、惑星ベジータではない。
「え、今の寒かった?」
即興のギャグだったのだがそもそも惑星ベジータを知らない彼女たちからのウケは悪かった。
ごめん、俺も寒いと思ったよ。
「あのね、子イヌ。き、昨日のこと、なんだけど……」
「うん?」
ここでようやくエリちゃんが口を開いた。なんか深刻そうに告げられたけど、それって昨日のブスリってやっちゃったことだよね。
「ご、ごめんなさい!! わ、私、危うく貴方を殺してしまうところだったわ!」
とか思っていたらなんかすごい勢いで謝られた。どうした。
「私、ついカッとなっちゃって。私の槍で刺したら絶対死んじゃうのに……本当に、ごめんなさい」
そう言ってポロポロと泣き出してしまったエリちゃん。
え、なんでなんで!?
慌てて彼女に駆け寄り震えるその肩を掴む。
「待て待て。別に怒ってないよ、なんでそんな泣くんや?」
「ひっく、だ、だって……し、死ぬところだったのよ? 私、貴方のことを……ぐす……うわぁぁぁん!」
そして声をあげて泣き始めてしまったエリちゃん。
何がどうしたのか、咄嗟にアビーに目線で訴えかける。
どういう状況や、これ。
「マスターさん。エリザベートさんはあなたに槍を向けたわ。英霊の力でそんなことをすれば普通の人間であるマスターさんなんか一瞬で肉の塊さんになっちゃう。
だから、叱ったの」
恐ろしく冷静な声で語るアビー。
俺はなんとも言えない気持ちになる。
「叱ったってお前……」
「ち、違うの……わた、私が、相談したの。どうしたらいいのかって……あなたを命の危険にさらして……こんなの……前の私と同じーー」
その一言に、自然と俺は反論していた。
「待て。まず、俺は何も怒っちゃいない。そりゃ死にそうになって少しちびったかもしれんが……
とにかく怒ってない、いいか、二人とも?」
「こ、子イヌ?」
「正気なの、マスター?」
困惑するエリちゃんと、鋭い視線を向けるアビー。君からその言葉が出てくるとは意外だが。
「ああ、何かエリちゃんの気に触ることをしてしまったのかと落ち込んだだけだよ。別に怒ってないし嫌いにもなってないよ」
嘘偽りなしにそう言い切れる。
「マスター? ちゃんと、私たちの言ってることを理解しているの?
あなたは死にかけたのよ!?」
「
だって
そもそも一度失った命だ、さして執着はない。
まあ、原作のゴタゴタで死ぬとか真っ平御免ではあるが、一度は愛を失って死んだ人生だ、
「何か、おかしなこと、言ったか?」
「子イヌ……?」
混乱にも似た状態のエリちゃん。どうやら俺の意図が伝わっていなかったようだ。
「えーとな、つまり、俺は基本死ぬ気はない。でも、お前らは俺の仲間で家族……とか言ったら厚かましいか。
少なくとも他の奴より断然、大切に思ってる。
だから別に殺されても平気なんだ」
“知識の成長が早い我が子を内心恐れた両親”とか、権謀術数でこちらにカマかけをしてくる老いぼれに、“可哀想な運命”に囚われた少年少女なんかよりも、
だが返せるものが少ない俺だ。
「
「マスター……あなた」
複雑そうな表情を見せたアビーを見てから、エリちゃんに視線を戻す。
「あとさ、この際だから言っとくけど、俺、エリちゃんの過去とかで軽蔑とか説教とかしないから。そういうのは散々受けただろうし俺には言う資格がない。
俺は世間体とか倫理観よりもエリちゃんの方が大事だから」
これを世間では悪と呼ぶのだろう。俺もそう思う、およそ、殺人鬼に発していい言葉ではないし、百人に聞けば大半が俺を非難するだろう。
でも、
正直、俺は
俺が大切なのは彼女たちだけだ。もちろん、ダ・ヴィンチちゃんだって含まれてるが、彼はきっと合理を選ぶ、そういう人だ。
「……でも、もし罪悪感とかで辛くなったら俺に言ってくれ。俺が背負えるもんは少ないかもしれないけど、でも俺は絶対にエリちゃんの味方だから。何があっても、永遠に」
俺とて、当初はそんな気はなかった。もともと二度目の生など興味がなかった俺だ。ただ、痛いのはやだし死ぬのも怖かったから生きていた
でも、彼女からカルデアの話を聞いて、日常を過ごす中で彼女の優しさに触れて、明るさに救われて。今がある。
結局、この場に俺がいるのは彼女のおかげだと思ってる。
「守るよ、絶対。頼りないかもしれないけど、
「子イヌ……本当に……? 本当に、私を見捨てない?」
「約束する、何なら契約でもなんでもしたらいい。本気で命賭けてるから。
というか前から言ってるでしょ? 俺、過去現在未来関係なくエリちゃんの味方だって」
「初めて聞いたわ……でも、よかった」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔で、エリちゃんはようやくホッとしたように表情を緩めた。
「だから安心してよ、エリちゃん」
「うん、うん……!」
ひしっ、と俺に抱きついて静かに彼女は嗚咽を漏らしていた。なんとか理解してもらえたか。
一応言っとくが、俺は別に彼女に好かれなくても
魔法世界など滅んでしまって一向に構わん。
こっちの世界が滅ぶのは結果的に俺らが死ぬから困るが。
「でも、しっかりと私を律して。私、まだ
だから、もし
「それが君の望みなら守るよ。絶対に、死なせないけどね」
エリちゃんが俺を抱き締める力を強める。ちょっと痛いけどここは我慢しておこう。
「マスター。もう一度問うわ。ちゃんと意味を理解して言っているのね?」
アビーは未だこちらに鋭い視線を向けている。だがそこには煮え滾るほどの
「ああ、本気だ。
それに、お前もだぞ、アビー」
「え……?」
何を惚けた顔してる。言ったはずだ、俺はお前たちが何よりも大事だと。
「お前も、俺のかけがえのない存在だ。
何があっても守るよ」
「ちょっと、子イヌ……私、今結構本気で信用してたのに、早速浮気?」
「いやいや、勘弁してくれよ。
「!! そ、それなら、ゆ、許してあげないことも、ないけど」
「なんてひどい方……マスターさん、私は遊びなのね」
よよよ、と袖で目元を覆うアビー。
「いや、
俺の問いかけに、アビーは確かに口の端を歪めた。
やっぱ、悪い子だなお前は。
「ええ、ええ……つまり貴方は私が
「
それについては無責任にならざるを得ない。
だって、本気で
まあ、諦めることはないと思うが。
「まあ、まあ! うふふふ……本当に、無責任でちっぽけで、救いようがない方なのね
本当にその通りだ。絶対、俺、最後のマスターみたいになれないし。彼のことは本気で尊敬するが絶対に同じにはなれない。
「お前も気付いてるだろ、俺が
「もちろんよ、だってあの人なら私のことを絶対に
そうだろう。彼ならば救うことを諦めない。
でも、俺にはできない。約束する勇気も力もない。
だから、救うとは言わない。
「俺は悪い人だ、それでも構わないなら今後も力を貸してくれ」
「アハハハ、本当に言うのね。救うことは約束出来ないって、私が悪い子なのは認めるくせに」
「そうだな。でも味方であることは絶対やめない。お前を敵と認識することは
お前が世界を壊すなら止めよう、世界を痛みに堕とすなら阻止しよう、大いなる異神を召喚するなら叩き返す、その上で娘をもらうと宣言してやる。ヨーグルトを見ても発狂しなかったんだ、ならやりようはあるだろう。
「なんて楽観的な、いえ、お粗末な結論かしら」
「そうだな。でもお前の味方でいるのはやめない」
「矛盾してるわ。悪い子だって、私が世界を
「そう言った。……確かに世界を壊すなら止める、だが憎まないし嫌わないし恨まない。さっき言ったはずだが?」
「っ! 本当に、度し難い凡人よ。本当……救いようがない悪い人だわ」
そう言いながら俺の背中にそっと寄り添うアビー。
俺は、おそらく何よりも無責任で横暴な願望を口にした。
秩序や『善性』とは程遠い宣言をした。
「……なら、絶対に、私を離さないでね。マスター」
だが、震えながらこちらに手を差し伸べてきたこの少女の味方でいようとすることはきっと間違いではない。
いや、間違いとは思わない。
「ああ、必ず、永遠に離さないよアビゲイル」
「うん……よかった」
そう言って俺の背中にもたれ掛かった彼女は、すぐに寝息を立て始めていた。
彼女は不安定な存在である。その身体も精神も。あの忌々しい肉塊に毒されている。
だが、それを彼女が許容するなら俺も許そう。
「子イヌ……」
「安心してエリちゃん。俺、死んでも君だけは守るから。絶対に裏切ることも見捨てることもしないからね」
「……ありがとう」
子どもに言い聞かせるように、優しくそう語りかければ、エリちゃんはとても穏やかそうな顔で、アビーと同じように眠ってしまった。
ポスッと俺の胸板に頭を預けて寝息を立てている。
どうやら毎日睡眠を取らせていたら人間と同じような睡眠習慣が身についてしまったらしい。
べつにそれは構わないが、どうやってこの二人を起こさないように布団に運ぼうか、という難題を俺は小一時間考える羽目になったのはきっと幸せなことなのだろう。
なんとかして二人を布団まで運び、俺も自分の布団敷いて就寝した頃、おそらくは夢の中なのだろうと朧げに理解している曖昧な
「またお前か」
『ヒトザルの分際で随分な言い様だ。小僧』
なんとなく予想はしていたが、やはりというか目の前には以前にも見た七色の肉の塊、即ち時空の神『ヨグ=ソトース』がいた。
これも予想していた通りなのだが、俺の精神は発狂することなく平静を保っている。理由もなんとなく予想付いてるのだがーー
「何の用だよ。言っとくが俺はお前に用はないからな」
『よく吼える獣だ。だがそれも許そう、貴様は
「いや、俺ちゃんと手足ついた人型だからな」
肉の塊どもと一緒にされたくない。
『貴様はこの世界では
我々でも干渉できぬ圧倒的上位者、或いは我々の行動をも自在に操ってしまう絶対的存在。それこそが貴様の魂』
言わんとすることは分かる。メタいことを言えば、クトゥルフ神話もfateも架空の存在だと確定している世界のことを言っているのだろう。
まさしく俺はその世界の出身だ。
『故にこそ貴様には多くの権利があり、同時に多くの義務があるが、それを強制することは我にも出来ぬこと。
しかし、肉の体は紛れもなくこの世界のものであり、こと物質での戦いとなれば貴様は塵芥にも等しい』
わざわざ嫌味言いに来たのかこいつ。
すごい嫌な奴だ。
『だが一つ、我には一つだけ貴様に確認せねばならぬことがある。
貴様も気付いていようが、それは我が娘のことに他ならぬ』
「アビーは
全くいい事を聞いた。精神が重要になってくるクトゥルフにおいて俺の方が上手とは。
『貴様は、あの子の味方でいると言った。同時に世界も守るとも言った。その真意を問いたい』
「真意も何もそれがすべてだよ肉団子」
『……本気で、そのような甘い考え、稚拙な理想を掲げるというのか? 貴様には現実世界で満足に戦える力も無いというのに?
それでも我が娘を守りながら世界も守ると?
まったくもって笑わせる。これは傑作だ』
「なら笑えよ。稚拙なのも到底難しいことも理解してるさ。
だが、絶対に心は屈しない。俺はそう決めている。
いや、さっきの出来事で腹を決めた」
『なんと、加えてその決意の底も浅いか。
なんとも哀れな魂よ、捨て切れぬ、憎みきれぬと迷い続けた挙句、その迷いのままにハリボテの理想を掲げるか。
よもや、『あのマスター』を模倣したわけでもあるまい?』
「それこそ悪い冗談だ。彼は俺なんかよりも
それでも、俺は俺の境地を目指す。いや、決意だけは決まってる。なんならここでやり合うか? 俺ってばお前の世界よりも上位の世界の魂だぜ?
負ける気がせん」
『ふん……。ならばこれまでと同じく我はそれを眺めよう、見定めよう。味方でありながら破壊を阻止せんとするならばやって見せよ。
行動の伴わぬ決意など塵も同然、“まつろわぬものども”でさえ目も向けぬだろうよ。“愚かしくも救い難い醜悪なもの”としてな』
「言いたいことはそれだけか?」
『……ふむ。やはり貴様、
それだけ言うと、肉の塊はやっぱりヨーグルトになって溶けて消えた。
今更ながら、なんで一回ヨーグルトに化ける必要があるのか俺は疑問に思うのだった。
ちなみにリツカの覚悟は本物です。
良し悪しはともかく覚悟はガチです。
ヨーグルトの言葉は大体が煽りなので、それを分かっているリツカは全部に言い返したりはせず寧ろ無視して煽り返してます。
子どもかっ!