一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
「ねぇねぇ子イヌー」
俺のベッドの上で寝転びながらパタパタと足を揺らすエリちゃん。
……お前、潔癖症なんじゃなかったのかよ。
「え? なんか言った?」
いや、何でもないです。たぶんその設定忘れ去られてるよなぁ。とぼんやり思いつつ、こんな状況に陥っている経緯を思い出す。
とりあえずエリちゃんを受け入れたのはいいけれど、そうなると問題となるのが麻帆良にある結界と魔法先生たちである。
エーテル体、すなわち魔力の塊であるエリちゃんがいることでもう既に彼らには気づかれていることだろう。
もう数分もすれば突入してくるんじゃないかと思う。
そうなってくると必然、魔法業界に関わることになるので原作のインフレ上等魔境バトルに巻き込まれる危険性が飛躍的に上がる。どころか下手にネギ君たちにちょっかいを出して、まさかのバッドエンドになってしまったらもう目も当てられない。
旧世界に住む身としてはあまり関係ないと思うだろうが、MMに残党でも残っていれば確実にややこしいことになる。後々の歴史にも大きな歪みを齎すだろう。
それくらい、ネギ君の活躍は重要なのだ。
「子イヌってばー」
「はいはい、なんだいエリちゃん」
しつこいので返事をする。すると彼女は手に持っていた雑誌をぐいっとこちらに見せて来た。
「これ! このでっかいやつ!」
そう言って見せられたのは麻帆良に数ある劇場の一つだった。
「これが?」
「私、ここでライブやりたいわ!」
とワクワクしながら語って来た。
なんて無茶なことを。
「あのね、一介の学生でしかも中学生だよ? 貸してもらえるわけないでしょ」
呆れつつ雑誌を取り上げて棚に戻す。
「あー」と残念そうに手を伸ばしていたがやがてその手もパタリと落ちた。
しばらく沈黙が続く。ベッドに倒れ伏し微動だにしないエリちゃんとそれを気にせず本を読み耽る俺。
痺れを切らしたエリちゃんが動いた。
「うがーー! なんだか子イヌ、おとなしくなってしまったわ!」
急になんだようるさいなぁ。思いつつ「なにが?」と返す。
「だって、カルデアにいた時はもっと構ってくれたもん!」
「いやいや、だから俺はお前の知る立華じゃないの。Pだって言っただろ」
「だから立華でしょ!?」
確かにプレイヤーではあったが。
ふと、そういえば、と気になったことがあった。
「エリちゃん」
「え、なに?」
真剣な表情で俺は語る。
「カルデアでのこと、詳しく聞かせてくれない?」
“この”エリザベートの記憶を聞く。そうして分かったのは、どうして彼女が俺の魂がマスターと同じだと言ったのか。その一端。
FGOというゲームのシナリオについて二つの憶測が俺にはある。
一つはシナリオパートにおいて語られたストーリーそのもの。もう一つはプレイヤーとして俺が戦ったバトルパートにおいて連れて行ったサーヴァントとのストーリー。
普通に考えれば前者だろう、しかし、バトルパートにおける激闘を示すのならば後者だ。
つまり何が言いたいのかといえば、ほとんどマシュ一人をサーヴァントとして戦い抜いたシナリオパートではどう考えても無理があるということ。
そして先ほどエリザベートと会話した限りではどうにも殆ど全ての特異点において出向いた記憶を持っている可能性があった。
以上の推論からの質問だったのだが、果たして事実は後者であった。
確かに俺はプレイヤー時代、つまり前世でエリちゃんをこよなく愛していた。いや、今でも愛しているがそれは一先ず置いておこう。
とにかく、俺は殆どの特異点攻略にエリちゃんを連れて行った。シナリオパートで登場していなくてもちゃんと、連れて行っていたのだ。
だから、彼女からちゃんとその記憶があることが聞けただけでも俺は嬉しかった。無駄ではなかった、と。単なる自己満足ではなかったと。
まあ、絆はついぞ十にならなかったけどな。
それはさておき。
「そうか、時間神殿での戦いも覚えてるんだな」
「当たり前じゃない! あ、でも魔神柱狩る時の子イヌはちょっと怖かったと思うけど」
そうかあの採集決戦のことも。
マシュやロマンだけじゃなくて、ちゃんとエリちゃんもその場にいたのか。
ああ、安心した。
「おーい、子イヌー?」
眼前で手を振るエリちゃんの姿にふと我を取り戻す。
だが、そうか。エリちゃんも覚えてるかー。
「これからもよろしくな」
「え、ええ。さっき言ったばかりだとおもうけどーー」
妙にテンションの上がってしまった俺に若干引き気味のエリちゃんだったが、不意にその顔が真剣なものに変わった。
先ほどまでの明るくアホっぽい姿から一瞬で凛々しいサーヴァントのそれになる。
実際見ると、やっぱりカッコ可愛いと思った。
「二、いや三人……来るわ!」
と和んでいたら突然部屋のドアが開け放たれた。そこから二人の教師がズカズカと入ってくる。いくら教師とはいえ夜に生徒の部屋に勝手に入ってくるのはどうかと思いますけど。
「こんばんわ、リツカ君」
「こんばんわ、高畑先生」
果たしてその教師は見知った男だった。
高畑・T・タカミチ。女子中等部二年B組の担任を務める男で、度々、不良生徒への正義の鉄槌を下していることから『デスメガネ』などと呼ばれていたりする。
そして俺のゲーム友達だ。
「夜分にすまないね」
「いえいえ、先生と俺の仲じゃないですか」
終始穏やかに話す俺たちに、高畑と一緒に来ていたもう一人の先生、葛葉刀子が困惑した表情をしている。
まあ、先生と俺はもはや戦友とも呼べる間柄なのでお互いの言いたいことくらいなんとなくわかる。とりあえずモ○ハン最高。
「ありがとう、で、要件は分かるよね?」
「はい、でも、エリちゃんは絶対渡しませんから」
「子イヌ……」と横でマイクスタンドを構えていたエリちゃんがキュンとした顔でこちらを眺めていた。
本当に渡す気はない。
「では、ついて来てくれるかな? さすがにこれは断ってほしくないけど」
言いつつ高畑の腕に力が入った。
「ええ、話します。だからエリちゃんには指一本触れないでください」
「子イヌ〜」
横のエリちゃんの好感度が天元突破しそうだ。警戒など忘れて胸の前でいじらしく手をモジモジさせている。
その様子に高畑も若干引きながら苦笑している。
「えーと、じゃあ行こうか」
高畑と刀子先生に連れられて歩く間、後ろからはグラサンの渋いおじさんがこっそりとついて来ていた。多分監視だろう。
確か魔法先生の一人だった覚えがあるが名前は忘れてしまった。グラサンしか覚えていない。
誰だったか。
そんなことを考えているといつの間にか学園長室についていた。部屋には魔法先生がずらりと並び、あのグラサン先生もいつの間にか列に加わっている。
そして目の前には妖怪ぬらりひょん、じゃなかった、学園長が座っていた。
「ほう、君が藤丸立華くんかね」
「初めまして学園長先生」
ぺこりと頭を下げる。たとえ相手が妖怪だろうと、十歳の子どもに先生をさせる鬼畜だろうと学園長だ。礼儀は忘れない。
というかこの人がネギ君を先生に据えなきゃ魔法世界は終わってしまう。
「ほほ、そう畏まらずとも良い。さて、では質問といこうかの」
朗らかに笑ってからスッと真剣な色を見せた学園長。こうして直に見ると迫力が違った。学園最強と言われるだけはあると思った。
前世での印象は『マジ傍迷惑なジジイ』だったが、とてもそんなことは思えなかった。
「彼女は何者かな、おそらくは君が召喚したのだろう?」
「ええ、彼女は俺が召喚したサーヴァントです」
サーヴァントという単語に疑問の声が部屋のあちこちから聞こえる。これまで一般人と見ていた少年がいきなりサーヴァントとか言ったら驚くよな、普通。
「サーヴァント、使い魔ということかね?」
「ええ」
それで合ってる。サーヴァントとは聖杯戦争において駒として召喚される使い魔だ。聖杯戦争においてはサーヴァントの存在が儀式の最高に関わってくるのだが詳細は省こう。
「ふむ、しかし見た所、平均的な使い魔よりも高位の存在のようじゃが」
まあそうなるよな。魔法使いとやらは、魔力の機微に敏感らしいし、特に学園長ほどになればその格も分かるのだろう。
「ドラゴンに連なる種族かの?」
「まあ、あながち間違いじゃありませんね」
だが探るようにこのままちまちまと話しても仕方ない。
ここはネタバレしておこう。
「厳密に言えば彼女は英霊、人類史に名を残した英雄の魂を現世に転写したいわば分霊にあたります」
「なんじゃと?」
いざネタバレするといよいよ部屋の空気もどよめいた。やれ「ありえない」だの「こんな子どもが……」だの。だが実際問題としてこうしているのだから現実的な建設的な話をしよう。
「彼女の名はーー」
「ちょちょ、ちょっと子イヌ!」
いざエリちゃんの名を語って、バババーン! とみんなを驚かせようとしたら寸前で彼女に止められた。
「どうしたの?」
「いやいや、これいつもの特異点じゃないのよね? 言っちゃって、いいの?」
まあ、その危惧は正しい。俺が転生者でなければ絶対にこんなところで言わない。
だが何の戦闘能力もない俺がこの場で彼らに対して出来ることは“出来る限りの信用を得て戦闘を回避すること”。
まず俺は戦力になり得ず彼女も戦闘向きのサーヴァントではない、文字通りのアイドル系だ。
相手は戦闘慣れした達人が少なくとも二人、加えて囲まれた状態でおまけに相手の領域のど真ん中だ。
どう足掻いても勝ち目はない。いや、エリちゃんのみならワンチャンあるが俺という足手まといがいる。
だが、これが麻帆良の魔法使いというのが幸いだった。これがMMだったら目も当てられない結果になっていただろう。最悪、俺が瞬殺されてあっさり終わっていた。
麻帆良の魔法先生は“比較的”良心的だ。その良心を信じることにする。
ただ、ガンドルフィーニだけはあの妙な正義感からMMに密告する恐れがあるのが痛い。いや、別に嫌いなわけではないのだが。
「そうだね、安易に真名を知らしめる必要性もない」
「ふむ……」
少し学園長の威圧が増した気がする。
確かにエリちゃんの言う通りこの場でこのメンツに言うのは好ましくない。
「高畑先生と、学園長にのみお教えいたします」
学園長の指示により高畑を除いた先生が退出する、その最中、やはり彼らは少し不満げだったが学園長に対する信頼が勝るのかまはたまた命令に従っただけか特に反論はなくおとなしく部屋を去った。
「さて、では詳しい話を聞かせてくれるかな?」
高畑に促され俺はゆっくりとサーヴァントについて語った。
「まず、使い魔と言っても彼女たちは学園長の言う通り高位の存在です。普通に使役できる存在ではなく、俺自身も完全に支配下に置いていないし置きたくない」
俺はおもむろに手の甲を先生方に見せる。そこにある令呪を見えるように。
「これは令呪と言います。どうしてもサーヴァントを強制的に動かしたい時、奥の手としてこれを使用することで大半の無茶は通ります。ただし使用回数は三回のみ。すでに一角使用しているので残り二回。加えて三画全て使い切ればもはや干渉は不可能となります」
つまり実質一回しか令呪は使えない。我ながらお茶ごときに使ってしまったことを悔やむ。
「そして彼女らが英霊と呼ばれるからにはそれ相応の伝説があり、逸話があり、それに付随する弱点があることになります」
伝説の部分でエリちゃんの顔が曇る。彼女にとっては辛い『未来』であり、だが絶対に忘れてはならない『過去』。
俺はカーミラさんも大好きだ。
「なるほど、だから皆には聞かせたくなかったと。でもどうして僕たちなのかな? 最悪、学園長だけでも良かったと思うけど」
「俺の信用できる相手が他に貴方しかいないからですよ」
「それは光栄だが、はは、少し買い被り過ぎじゃないかな」
困ったように後頭部をかく高畑。いや、俺の経験則として正しく自分に謙遜を抱く人間は信用できると思っている。
それにゲーム友達だし。
「エリちゃんも、それでいいかな?」
少し、恐る恐る聞いてみる。エリちゃんの心情を鑑みて場合によっては敵対ルートも厭わない覚悟だ。そもそもが彼女を優先すると決めた俺だ、彼女が拒むならやむなし。
「子イヌがそう決めたならそれに従うわよ、いつもそうだったでしょ?」
しかしエリちゃんは嬉しい返事とともに笑い返した。
「分かった。なら、改めてご紹介いたします」
刮目して見よ! 彼女こそサーヴァント界一のアイドル。
拝聴せよ! これこそ彼女の真名。
「エリザベート・バートリー。俺の自慢のサーヴァントです」
彼女こそ最カワサーヴァントだ!
エリザベート・バートリー。別名バートリ・エルジェーベト。
『血の伯爵夫人』の異名を持ち、あの伝説の吸血鬼『カーミラ』のモデルとなった人物。
処女の娘の生き血で満たされた『
連続殺人鬼。それが彼女の後世における評価である。
「エリザベート・バートリー……バートリ・エルジェーベト!」
高畑はそちらの名の方が馴染み深いだろう。いや、殆どの人間がそちらの名で認識する。
あとは吸血鬼としての『カーミラ』あたりか。
どれも今の彼女にとっては辛い話だ。が、同時に受け止めるべき話だ。俺はどちらであっても弁解する気はない。これは彼女自身が己の問題として覚悟していることだから。
「まさか、あの伝説の」
「彼女はエリザベートです」
ただ、俺は藤丸立華であっても最後のマスターじゃない。マシュはおらず他の多くのサーヴァントもいない。
今はエリザベート・バートリーのマスターだ。
「諸々、逸話はご存知と思われますが今の彼女はあくまでエリザベートでしかありません。そこを誤解なきよう」
「子イヌ……」
と言っても難しい話か。仕方ない、サーヴァントの別側面についても語るべきか。
「英霊には別側面というものがあります。例としてアーサー王を出しましょう
つまり、英霊とは同一人物でありながら複数の個体が召喚される可能性がある存在なのです」
「ああ、なるほど。わかったよ、リツカくん」
高畑は俺が何を言いたいのか分かったようだ。学園長も何かを察したように目を瞑る。
やはり彼らに話して良かった。彼らは優しい、大人としては甘すぎる面もあるがこの際はありがたい。
「そしてこれが本題なのですが、俺は彼女を使ってどうこうするつもりは一切ない。言うなれば彼女の召喚は再召喚であり俺は彼女と静かに暮らしたい」
「ええ、こ、ここ子イヌ!?」
「そそ、それって!」と顔を赤くしながらエリちゃんが詰め寄る。いや、別に愛の告白じゃない。いやいや、確かにエリちゃんは愛してるけどそういうのじゃないというか。
「ふぉふぉふぉ、なるほどのぅ……だが、さすがにワシらもただそう言われて素直に頷けん立場なのじゃ」
でしょうね、頷いたらそれはそれでちょっと不安だった。
「では今後、全面的にあなた方に協力することを誓いましょう。なんなら強制契約も厭いませんが?」
本気だ。ただし全ての事柄はエリちゃんを優先させる条件付きだがな!
「いや、そこまではせんでいいよ。君はそういう人間には見えんからの」
バ○タン星人みたいな笑い声を上げながら述べる学園長。俺としてはありがたいがそれで本当にいいのだろうか?
というか彼は何かしら魔眼のようなものでも持っているのでは、と疑いたくなる。それとも長年鍛えた人を見る目とでもいうのか?
どちらでも構わないが。
「ではそのように。有事の際は俺までどうぞ」
「ありがとう、そしてすまなかった」
頭を下げる学園長に「いえいえ」と返す。彼の判断は立場的に正しいものだ、そしてちょっぴり甘いが。
「……すまないね」
部屋を出る際に高畑にも謝られた。
謝るならやらないで欲しかったけど。
「これも仕事でしょう、少なくとも俺は正しい判断だと思いますよ」
ちょっぴり甘いけど。ただ俺としては御の字だ。
俺は悠々と学園長室を出た。
「子イヌ……その、ありがとね」
帰り際、エリちゃんがそんなことを言い出した。しおらしいエリちゃんもたぶんに可愛いが、それでもいつもの元気一杯な姿の方が好ましい。
「なんのこと?」
だから惚けてみる。
心底わからないといったアホヅラで首をかしげた。
「……ううん、なんでもない!」
エリちゃんもそれ以上何も言わずすぐにいつもの見ていたあの明るい雰囲気に戻った。
EXTRAの彼女は確かに悪だった。だが“あの彼女”は自身の過ちを認めて消滅した。
FGOでは過ちを認めた状態で召喚された。だからこそあんなにも愛される存在としてみんなに愛でられていた。
そしてこの場にいる彼女は全ての記憶を持ちながら全く新しく“俺のために”来てくれた彼女だ。
だから俺は彼女の味方でいることを決めた。俺と一緒に戦ってくれた記憶を持っていると知ったから。余計に彼女と共にあることを選んだ。
今後は魔法関係のいざこざに巻き込まれることも増えるだろう、当然ながらネギ君に関わることも増えると思う。
「これから、二人で頑張っていこうな」
「うん!」
だが、彼女と一緒ならきっと大丈夫。
そう思えた。
冬は本番を迎えたばかり、未だ寒い夜の続く夜道の中で、俺と彼女の周りだけは少しだけ暖かい気がした。
エリちゃん単騎でどこまで戦えるか!ヒントは再臨と聖杯とフォウ!
愛さえあれば何でもできる。小次郎に聖杯あげた男の言葉である。
ー追記ー
英霊云々で誤解を招く記述をしてしまったので訂正しました。
ご迷惑おかけしました。