一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
紅茶が飲みたいネー!
「新免、武蔵……宮本武蔵だ!!」
誰かがそう叫び、周囲のギャラリーは一斉に沸き立ち始めた。
当初、聞き慣れぬ名乗りにざわめいていたギャラリーだったが、その叫びで一気に盛り上がりを見せた。
ここはシネマ村、武蔵ファンだっていてもおかしくない。
「すご……アイドルみたい」
周囲の熱狂は凄まじかった。
それもそのはず、宮本武蔵といえば日本でその名を知らぬものがいないほどの有名な剣豪。その剣舞となれば見物人も盛り上がる。
またシネマ村に訪れる者たちは多かれ少なかれ、皆時代劇好きであることが殆どである。
「……その気配。ふむ、『異聞の者』か」
興味深そうに呟くのは風を操る鬼。
その一言は『英霊が召喚される世界を知っている』ような口調。
「情報に無い敵だ。しかし、『邪魔だてする者』は何であれ排除対象だ。金鬼」
「おうさ」
呼ばれた金鬼は既に動いていた。
「っ!」
先ほど見せた『サーヴァントの動き』。人智を超えた動きに、しかしこの剣豪は正面から受け止める。
「ぬぅ」
音速からの拳撃。止められるのは英霊の域に達した者のみ。
されど異聞とはいえ、
「っ、ぐぉ!?」
加えて、自らが拳を一撃見舞うお返しに数多の剣閃を目にも留まらぬ速さで繰り出されては立つ瀬がない。
「へぇ、金剛の守り。金鬼ね、噂通り硬い硬い!」
対して武蔵は、伝承の通りの鬼の硬さに感服していた。
その動きが人外のそれであるにも関わらず、ただ剣を極めたことで獲得した『技』にて彼女は対抗する。
剛腕を寸でのところで避けながら鬼の身体に剣を突き立てる。弾かれるのは承知だが、必ずどこかに『綻び』があるはずだと。
音速で繰り広げられる戦いの中で、この鬼の剛腕を一度でも受ければ劣勢になるであろうことを読み取っていた。
金鬼。
その身体は『金剛』にて、いかなる武器をも受け付けぬ鉄壁の守りを持っていたという。
この逸話、あるいはそれが『何物も傷つけられぬ』という単一の概念であれば、ついぞ傷を付けられたことがない事実からまさしく文字通りの無敵となれたことだろう。
しかし、それはあくまで『金剛』の守りであるという逸話なのである。そこに『隙』がある。
また、守りを盤石にしないことによるメリットもあった。
それこそが武蔵の警戒する『剛腕』。その身が『金剛』であるならば振るわれるその拳も『金剛』。かの帝釈天が使った金剛杵も『金剛製』である。
ランクにしてA相当の筋力値を誇るまさしく剛腕。加えて『人外』ゆえのスキルも持った金鬼の拳は、語られる鬼神の如き力を持っていた。
「ふむ……」
とはいえ、無空に至った武蔵の技を前に金鬼は劣勢であった。
そう思った鬼の片割れは、三度、風を操る。
「むっ!」
持ち前の勘にて背後より迫る『魔の風』を察知した武蔵は咄嗟に回避行動を取る。
これが『魔術師、魔法使いの起こす風』であれば避ける必要はない。
対魔力Aを誇る武蔵には最高峰の魔術、魔法しか届き得ないのだ。
「躱すか。面白い」
しかし、この鬼の操るそれは『魔術でも魔法でもない』。もっと原始的で根本的な。
術式というカテゴリーに属さないその技は人外たる鬼ゆえに許されたもの。かつて
それを勘で
「潰れよ」
「なんの!」
その僅かな隙を突くべく金鬼も拳を振るう。
かくして、踊り狂う風を避けながら金剛の鬼と、刀と拳をぶつけ合うさながら剣舞のごとき見事な動きを武蔵は披露していた。
「す、すげぇ……!
あの風、どうやってんだ?」
「武蔵役の嬢ちゃんの動きもパネェ!」
大作映画のようなアクロバティックかつ雄大な演出に、観客たちはさらに沸き立つ。
「ぬぬぬ、新たなライバル!」
それを見てエリちゃんは勝手にライバル心を燃やしているのだった。
「っ、なんだ?」
月詠と剣を交わしていた刹那も、武蔵に沸き立つ観客の熱狂ぶりに気付き意識を向けていた。
「余所見はあきまへんえ〜!」
しかし、目の前の剣士も十分に強敵。ふざけた態度とは裏腹に的確すぎる攻めに刹那は苦戦していた。
加えて自身と同じ流派の者となれば自分がケリをつけなければならない案件。刹那は木乃香を守るという思いと、その義務感によりなんとか月詠と渡り合っていた。
「……お嬢様!」
武蔵、鬼の乱入により混沌とするシネマ村とは対照的に、ネギたちは小太郎らの襲撃を撃退し、結界を抜けると共に逆に小太郎を結界に封じることで一時の安寧を得ていた。
そうなると必然、堂々と騒動に巻き込んでしまった宮崎のどかへの魔法事情の説明が必要となってくる。
騒動に巻き込んでしまった詫びも含めてネギは彼女へ魔法のことを告げるのだが、のどかは比較的すんなりと受け入れ、逆に楽しそうな様子も見せていた。
その姿にリツカは、危機感の薄さを感じていたが特に何を言及することもなかった。
……隣で何か言いたげに彼を見つめるメカエリチャンをチラチラと確認していたが。
「……えと、リツカさん。ですよね?」
こちらの機嫌を伺うような上目遣い。小動物オーラ全開の、のどかが俺に話しかけてきた。
まあ、そうなるよな。
中学生の修学旅行先に現れた知り合いの高校生。
怪しすぎる。
「うん、リツカだよ」
「リツカさん、って本屋ちゃん知り合いなの?」
なんでこんな変態と、などとつぶやきながら明日菜は訝しむように俺を見る。待て待て、彼女にはセクハラしてないぞ。
「は、はい。探検部の関係で、少し」
恥ずかしそうに語るのどか。いやなんも恥ずかしくないだろ。誤解を招くような態度はやめるんだ。
「ふーん、あんた、何したの?」
黒と決めつけたような明日菜の言動に俺は反論する。
「待て。ただ図書館島の探検に手を貸してもらっただけだ。それ以上は何もなかった、断じて」
「リツカ、さん」
なぜか泣きそうなのどかに、明日菜は益々疑いの目を向けてきた。
結局、のどかの証言で事なきを得たが、どうにも俺はアスナ姫に嫌われてしまっているようだ。
「じゃあ、リツカさんも魔法使いさんなんですね」
「うーん、ま、そんなところだな」
面倒臭いのでそういうことにしておこう。
ちなみにネギくんは小太郎少年との戦いで負傷していたが、それらは明日菜とのどかの応急処置を施すことでなんとかなった。
まあ、これから本山を目指すのだろうしそこで本格的な治療を受ければどうということはないだろう。
『では、皆様、今のうちに親書をーー』
と、そこまで言って式神ちびせつなはフッと紙っぺらに戻ってしまった。
どうやら刹那本人に何かあったらしい。
慌てた面々は、カモミールの提案によりネギの式神を作成しそれを連絡用に送ることを決めた。
対して俺は通信機を使ってエリちゃんに持たせてある小型通信機に連絡を入れる。
普通の電話の呼び出し音がしばらく響く。
やがて、プツという音の後に通信がつながった。
「お、エリちゃん?
そっちでなんか異常はないか?」
確かあちら側も何か襲撃があったような記憶があるが。
『あ、子イヌ!
今、敵の襲撃を受けてるの!』
やはりか。
「ねぇ、誰と話してるの?」
不思議そうに明日菜が声をかけてきた。
今の俺は側から見ると独り言を言ってるようにしか見えない。
「通信だ、エリちゃんに待たせた小型通信機を通じてな。あちら側も襲撃を受けているようだ。……エリちゃん、詳しい状況を教えてくれ」
もしかしたらあちらも正史より戦力を増員している可能性があるからな。
『えと、刹那は敵の剣士と交戦中。でも大して強くなさそうよ。で、そいつが召喚したマスコットみたいな召喚獣たちをクラスのみんなでボコボコにしてる』
カオスな状況だ。口調からして無害な召喚獣なのだろう。
そして、剣士とはおそらく月詠のこと。
あの「べ、別にあんたなんか好きじゃないんだからね!」とか言いそうな声の戦闘狂、イっちゃってる女の子。
ネーナ系列のくぎゅである。
『そうそう、それとね!
今、
女剣士?
エリちゃんの知り合い?
誰のことを言ってるんだ?
『名前は、なんだっけ。さっき名乗ってたんだけど……シンメン、タンメン……あ、そうだ、
「武蔵だと!?」
思わず声を荒げてしまった。
予想だにしない名前が飛び出してきたのだ、仕方あるまい。
『うん!
なんか私を殴ってきたキンなんちゃらって鬼と、増援で来た風を操る鬼を相手取って戦ってくれてるわ!』
キン? 風?
いや、それよりも武蔵とは……エリちゃんの知る武蔵ってまあ彼女のことを言ってるのだろうが。
一体、あっちはどういう状況なんだ?
「敵は鬼なんだな?」
『ええ、キンなんとかってのはめちゃくちゃ硬くて黄ばんだ体の色してて、もう片方は不健康そうな青い色してる奴。あ、なんかプロペラみたいなの持ってるけど、アレ何かしら?』
キンと名の付くもので黄色、めちゃくちゃ硬い鬼。記憶にある中ではキンキが思い当たる。
そしてもう片方の青くてプロペラ持ってる奴。
「青いやつの顔って、でっかい穴空いてないか?」
『よく分かったわね、子イヌ!
そうなの、顔面陥没してるわ。
あれってどうなってるの?』
やはりか、そいつはフウキ。
どちらの鬼も女神転生ってゲームで見かけたビジュアルしか知らないが、能力は伝承とも合致している。
金鬼は金剛のような身体を持ってどんな攻撃も受け付けないディフェンス型。風鬼は風を自由自在に操ることしか知らないが、どちらも一軍を退けた逸話を持つ強力な鬼である。
加えて、エリちゃんを殴り飛ばし、武蔵ちゃんと互角に戦うとなればまず並みの鬼とは思えない。
これは助けに行くべきか。
しかし、負傷したネギくんと少女たちを置いていくわけには行かない。その状態で放置するのは危険だ。
俺は引き続き、エリちゃんに状況報告をするように頼んだ。
「ぐぬぅ、異聞であろうと武蔵の名は伊達ではないか」
幾度も拳と刀を交わすうちに金鬼も武蔵の達人をも超える技の冴えを感じていた。
接近戦で攻める金鬼と、あくまで遠距離から風を操る風鬼。
その連携は武蔵をして侮れないものであった。
「そっちこそ、仲がいいみたいね」
ひょい、と風の刃を避けて武蔵は軽口を飛ばす。
「ふむ。我の生前には見ることもなかった類稀なる武勇よ、異聞の武蔵。ならばこちらも
「っ!!」
ズズ、と周囲の『マナ』を吸い取りながら風鬼は魔力を高めていく。何やらデカイ一撃を見舞うつもりであると武蔵は直感した。
しかし、そうなれば周囲の人々にも被害が出る。
「むっ!」
しかし、何かに気付いた風鬼はピタリとそれを止めた。
金鬼も武蔵を追うのをやめて停止する。
そんな彼らの視線を追うと、何やら城の方が輝いているのが見えた。
「……勝負はお預けだ剣豪よ。遠からぬうちにまた
その間に、金鬼風鬼の両名は即座にその場を飛び退る。
「あ、待ちなさい!
……えーと、エリザベートさんだっけ?
私はあいつらを追うわ、立華くんによろしく伝えておいて!」
「ちょ!? ジャパニーズSAMURAI!?」
言いたいことだけ言って、エリちゃんの返答も聞かずにすぐさま鬼の後を追う武蔵ちゃん。
屋根をひょいひょい飛び移り、一瞬で遠くまで走って行ってしまったその姿にエリちゃんは呆気にとられた。
「サムライ、ニンジャ……」
一方、城の方では木乃香を庇って重傷を負った刹那を、無意識に魔法を使った木乃香が治療して事なきを得ていた。
応じて刹那たちに襲いかかっていた敵も撤退、刹那たちの方に来ていた式神を通じてネギたちにも連絡が繋がる。
ネギたちが本山近くにいることから、一旦態勢を立て直すべくひとまずは本山の加護に入るべきという結論に至り、協会本部、即ち木乃香の実家で合流することになった。
「でも、リツカさんも魔法使いさんだったなんて、ほんとびっくりしました」
合流を待つ中、手持ち無沙汰なのどかが声をかけてきた。
図書館島絡みの関係だったとはいえ彼女にも色々と助けられたことがある。
「ごめんね、一般の人に安易に吹聴してはいけない決まりだったから」
「いえ、またリツカさんと一緒に冒険とか出来るなら、嬉しいです」
まるで太陽のような笑みを見せてくれるのどかちゃん。
ほんま天使やで……。
「俺ものどかちゃんたちには助けてもらったから。これからもよろしくね」
……これからは楽しいことばかりではない、過酷で悲惨なものを見ることもあるだろう。俺はその未来を知っている。
だが、今後の『戦力』として彼女は必要である。
俺は彼女が魔法に関わることになんの苦言も呈さなかった。
「そんな、私も図書館島では色々と。あ、そういえばリツカさんに教えてもらった絆創膏、ちゃんと使ってますよ」
ほら、とカバンから取り出した絆創膏の箱を見せるのどか。そういやそんな話を彼女とはしていたこともあったか。
サブカルの分野では彼女と意気投合したりもした。結構、ファンタジー系には詳しい彼女。神話等の知識も豊富だ。そこらへんの話が一番盛り上がった。
そのせいかこうして懐かれているのだが。
「はは、それは良かった。でも怪我しないのが一番だからね。危ないことは控えるように」
そう言って頭を撫でる。
「ふわわ……」
彼女の甘い声を聞いて、もはや癖のように彼女の頭を撫でてしまっていることに気付く。
「ああ、ごめん。つい癖で」
「あっ……」
パッと手を離すと彼女は少し寂しそうな顔をした。
いやいや、公衆の面前で頭を撫でられたら嫌だろうに。
「……」
しゅん、とした彼女を見ていると居た堪れない。
俺だって撫でたいけどさ。
「……撫でた方がいい?」
「……はい」
一応、確認をとってから優しく、再度頭を撫でる。
相変わらずきめ細やかでサラサラと手触りのいい髪質をしている。撫でる手を止められなくなりそうだ。
「なんか、兄妹みたいねあなたたち」
そこへ明日菜も声をかけてきた。
その言葉にもじもじしながらのどかちゃんが応える。
「は、はい。私も、リツカさんみたいなお兄ちゃんがいたらなぁ、なんて」
マジか。
恥じらいながらも穏やかな笑みで彼女は述べた。それもやはり天使である。もはや『天使』という単語が『ローマ』みたいな扱いになってきている。
俺も君みたいな妹が欲しいよ。
「こんな可愛い妹なら断然欲しいな、俺も」
「か、可愛いなんて……そんな」
顔を赤らめて恥じらうのどかちゃん天使。
そうだ、今度から彼女は天使と呼ぶべきだ。
天から舞い降りた神の贈り物、とかどうだろう?
彼女にぴったりな気がする。
「……まあ、いいけどさ」
少し驚いたような顔でこちらを見つつ明日菜が述べた。なんだよ、文句あんのかよ。
「……霊体化します。何かあれば呼んでください」
なぜか少し冷たい声でメカエリチャンはさっさと霊体化してしまった。解せぬ。
そんな俺らの元に、なにやらガヤガヤと騒がしい声が聞こえてきた。
声のする方へ目を向ける。
そこには、木乃香たち含むネギクラスの面々が。それも一般生徒も含んでいる。
どうなのだろう、これは。
俺がいてはまずくはないだろうか。
「あーー!! あなたは!!」
そんなこと考えてる間に夕映吉に見つかってしまった。
こらこら人を指差すもんじゃないぞ。
とてとてと駆け寄ってきてはガン飛ばしてくる。
「奇遇だな夕映吉」
「夕映吉などと、馴れ馴れしいですよリツカ」
「お前こそお兄さんを呼び捨てにするとは。ちょっと生意気が過ぎるんじゃないかい?」
「リツカなどリツカ呼びで十分です。変態は牢屋にお帰りいただけますですか?」
「はい文法おかしいですぅ、やり直してくださーい」
「何やってるのよ、あんたら……」
呆れたように明日菜が声をかけてくるが、俺はこの小娘を何としても『再教育』してやらねば気が治らん。
セクハラは自重するが、それとこれは別だ。
「あの、そろそろ本山……木乃香さんのご実家の方に」
おずおずと話しかけてきた刹那に、俺も仕事を優先すべきと判断して渋々了承する。
「おや、逃げるのですか?
ふふん、やはり変態ロリコンでは私には勝てないようですね」
それ、暗にお前がロリであることを認めちまってるぞ。
「ちょっと、夕映、この人知り合いなの?」
興味津々な早乙女嬢が夕映にコソコソと耳打ちしている。残念ながら礼装の集音機能を使えば聞こえてしまうのだよ。
「ふん、ただの変態ですよ」
ちょ、お前、初対面の相手になんつー紹介を。
内心慌てて、されどあくまで冷静に早乙女嬢に声をかける。
「初めまして。私、エリちゃんのプロデューサーを務めさせていただいております。藤丸立華と申します」
こんなこともあろうかと作ってあった名刺を取り出し挨拶する。ちなみに『カルデア事務所』なるものは存在せず、エリちゃんは未だ無所属のスクールア◯ドルである。
「これはご丁寧に。……エリちゃんのプロデューサー、ホントにいたんだ」
まさかの早乙女嬢もそんな反応を示した。
彼女たちの間ではどれだけプロデューサーの存在が都市伝説化しているのだろうか。
その後ろではエリちゃんが不服そうにこちらを見ていた。
「やあ、エリちゃん。連絡、ありがとね」
「ふん、子イヌは私たちが戦ってる時にのどかとイチャイチャしてたのね」
再開早々、そんなことを言われた。
全くの誤解である。確かにのどかは可愛いがそれは『ロリっ子ぐへへ』な意味じゃ無くて普通に、妹的可愛さというか。
欲情はしていない。断じて。
「誤解だ。俺はエリちゃん一筋、変わらないよ」
「ふーん、子イヌってよく耳障りのいいこと言うけどどうにも信用できないのよねぇ」
まあ、ね。セクハラしまくってるし。
いや、ほら、でも恋愛的な憧れ的な意味ではエリちゃん大好きだし。
だめ?
「ごめんって、気に障ったなら謝る。でも好きなのはエリちゃんだからね?」
「っ……そんなハッキリ言わなくても、分かってるし」
怒ってたやん……。
「な、なになに、え? エリちゃんの彼氏なの、その人!?」
話を聞いていた早乙女嬢が熱心に聞いてくる。
いやぁ、彼氏じゃないよ。まだ。
「ち、違うし! 子イヌはプロデューサー!
私の子イヌなの!」
子イヌとは。
エリちゃんの中で子イヌという単語はきっと数多の複雑な意味を持つに違いない。
俺は改めてエリちゃんの偉大さを感じていた。
「ほら、もう行きますよ、みなさん!」
いつまでも進まない俺たちに刹那が珍しく叱責した。
「あ、アレじゃない!?」
「レッツゴー!」
大きな門が見えてきた頃、元気の有り余る一般生徒たちは意気揚々と走って行ってしまった。
「あー、ちょっとみんなー!!」
その後を慌てて明日菜たちが追う。
それを苦笑交じり見つめながら刹那、木乃香もそのあとを追った。
『行かないのですか、マスター』
「いや行くよ。ただ、その前にちょっと確認したくてね。
例の、魔神柱に関して」
姿は見えないながらも、自然と彼女も気を引き締めたのが感じられた。
歩きつつ語る。
「第一に、アレは本物か?」
『残存するデータと照合した結果。
アレは確かに我々の敵、魔神柱に間違いありません』
「そうか」
メカエリチャンも退去時までの記録を有した存在。加えてロボであるため記録に残されたデータは全て詳細に閲覧可能なのだ。
しかし本物か。
まあそうだろうけどさ、そうなるとあいつはどの個体だ?
確か、亜種特異点の制覇で生き残りは殲滅したはずだが。
『該当するデータがありました。しかし……』
「どうした?」
言い淀むメカエリチャンに違和感を感じる。
なんでもズバズバ言うのが彼女の特徴なのに。
『……あくまでデータ上の話として聞いてください。
あの魔神柱の名は、
「なに……?」
その名前には聞き覚えがあった。
最後から三番目に機能停止した個体だったはずだ。それゆえに記憶にも残っていたのだが。
「確かに、死んだんだよな?」
『カルデアにはそう記録してありました』
時期的にメカエリチャンは時間神殿の戦いを経験していない。だからこそ困惑しているのだろう。
死んだはずの個体。それがこうして自分たちの前に姿を現したのだから。
「どうやったのかは知らんがいるのは確かだ。
……拠点に着いたら、一度ダ・ヴィンチちゃんに連絡をーー」
ふと、自分たちがすでに門のところまで来ていたことに気付く。
と同時に、門の側に、どうしようもなく見覚えのある顔を見つけてしまった。
あり得ない遭遇。思わず呆気にとられてしまった。
「おや、これはなんとも懐かしき顔よ。
よもや、
粋な着物を纏った青年。青いポニーテールが特徴のNOUMIN。ただ、燕を斬るためだけに『魔法』の領域に足を踏み入れた剣豪。
「小次郎……?」
「いかにも。
サーヴァント・アサシン。
……会えて嬉しいぞ、マスター」
花鳥風月を愛でる空位の剣士に出会った。
深く考えるな、感じるんだ!!