一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
今は開き直ってイベント進めてます。
「ハァ……ハァ……!!」
刀を地面に刺し杖代わりにしながら武蔵は荒い呼吸を繰り返していた。その身体は傷に塗れ、血に染まっている。
「見事。同じ霊格であれば勝てたかどうか」
対して大剣のセイバーは傷一つなく……否、その鎧に細かな傷を付けていた。
さりとて余裕を十分に感じられる佇まいである。
「冗談……あんた、バケモノじゃない」
「否。我が霊基は『揺らいでいる』。
だからこそ貴殿の魔眼も上手く働かぬ。こと我に関することにはな」
加えて『神霊』。
正規ではなくとも確かにこのセイバーの霊基は神霊なのだ。
「……む?」
ふと、セイバーは背後に目を向ける。その先には光の柱が佇むばかり。
「
セイバーの呟きの直後、武蔵も現れたソレの『あまりの魔力量に驚愕した』。
ただしくは強大な気配に勘付いた。
「……まさしく神さまってとこかしら」
口では笑いながらも心の底ではかのマスターの心配をしていた。
なにせ、あまりにも強大すぎる力を持つ巨神。武蔵がいる場所までビリビリと伝わってくる『呪詛』はとにかく『痛ましい』がゆえに。
ようやく祭壇のある湖に辿り着いた時、すでにそこには『両面宿儺』が悠然と佇んでいた。
黒と赤の体色をした巨躯の鬼。数十mはある。
「馬鹿でかいな……、いやネギたちの反応は」
全身を視界に収めて改めてその巨体に圧倒されながらも、まずはネギたちの安否を確かめるべく魔力を探る。
「全員無事か、あとエヴァも来てるみたいだな」
幸いにもネギたちの反応は健在で、両面宿儺から逃げるようにして移動していた。
「マ、マスター。水が……」
メカエリチャンの声に水面に目を向けると、両面宿儺の周囲の水が黒く濁り、ブクブクと泡立ち腐っていた。
意識するとほんのりとだが腐臭が漂ってくる。
「なんだありゃ……腐ってるのか?」
水が腐るなど、どういう原理だ。
「報告。……工房との通信が繋がったようです」
続けて告げられた言葉に俺は僅かな安堵を覚えた。
ダ・ヴィンチちゃんに解析してもらえば対処法が分かるかもしれない。
「通信、繋ぎます」
ピピ、という機械音の後にメカエリチャンの目から通信映像が投影された。
ザッピング音を交えながら画面が映し出されそこにダ・ヴィンチちゃんが映る。
『やっと繋がった。大丈夫かい、リツカくん?』
どうやらあちらから通信を繋いでくれたらしい。
「すまない。連絡が遅くなった」
それから俺は手短にここまでの経緯を伝える。
通信をしようとして敵に襲われたこと、そのまま敵の追跡に戦闘と続いたために通信する暇がなかったこと。
もちろん、魔神柱や例のセイバーのこともデータ付きで送る。
『……なるほど、魔神柱とはね。
いや、それならば尚のこと早々に連絡を寄越してもらった方が良かったのに』
全くもって返す言葉がない。
こんなことになるなら追う前に一報入れておいたほうがよかった。
『いや、今は両面宿儺とやらのデータ解析が先だね。
……メカエリ君から送られたデータを見るに、ああこれは確かに“神霊”クラスだ』
やれやれ、と溜息をこぼしながらもダ・ヴィンチちゃんは話を続ける。
『獅子王ほどじゃない。アレは完全な女神だったが、この巨神は違う。
「俺も把握している。魔力量はふざけているが、絶対に倒せない相手じゃない」
加えて、あの低速。理性も働いていないように見える。
『ただ、
続くダ・ヴィンチちゃんの言葉に息を飲む。
「それはつまり、
『この速度だと、あまり時間は残されていないように思える。
我々は何としても覚醒前にアレを仕留めなきゃならない』
ダ・ヴィンチちゃんが手元で端末を操作して画面内にデータを表示する。
『今分かっている情報を伝えるよ。
まず、アレは祟り神だ。辺りに強力な呪詛を撒き散らしながら進んでいる。目的地は不明、ただ特に目標はないと思われる。
また、放たれている呪詛は非常に強力で周囲の水が腐っているのは見間違いじゃない。アレは確かに腐っている。
存在の根本、概念に相当する深部にまで侵し
現状、アレに近付くだけでも極めて重度な『呪い』をその身に受けることになるだろう』
ならば遠距離か。
エヴァがいるのであれば協力してもらいたいが。
『流石に彼女もこんな末路は望まないだろう。彼女自身は無事だったとしてもね。あまりにセンスのない結末だ』
なんか、ここ数日で急激に理解を深めたようなダ・ヴィンチちゃんとエヴァ。予想よりも上手くいってるようだ。
「そうだな。……よし、ならばメカエリチャンにはスカートフレアとソニックシャワーでの攻撃を。
エリちゃんには『竜鳴雷声』での超
「音波ね!? あれ超音波!!
前にも何回か言いそうになってたけど遂に言ったわね子イヌ!」
今はそのようなことを論じている場合ではない。
音波でも音痴でも然程変わらん。結局攻撃だ。
プンスカするエリちゃんは元気そうで微笑ましい。
「マスター。和むのは後で。今は敵の対処を優先させましょう。……あと、和むのなら私のメンテナンスで和んでください」
冷静に言い放つメカエリチャン。さらっと上級者向けな要求をしてきているが俺はロボ娘のメンテナンスでも欲情できる自信がある。
安心してほしい、俺はロボ娘の味方だ。
「よし、やる気出てきた。
さぁて、始めるか二人とも!」
「了解。……武装のロックはもはや必要ありませんね。
全武装、ロック解除」
ガション、とかっこいいSEを鳴らすメカエリチャン。そういうとこマジでイカしてる。
「はぁ、流石にこう続けてだと私の喉も渇れてくるんだけど」
喉に手を当てて発声を確認するエリちゃん。今日も可愛いよ。
「エリちゃんの声、まだまだ聴きたいなぁ」
「えっ、そ、そう?
……仕方ないわねー、それじゃあアンコールに応えるわ!」
鶴の一声とはこのことではないだろうか。
声援一つで限界突破する彼女は、その点においては立派なアイドルだと感心している。
『くれぐれも油断はしないように。
分かってると思うがアレは『確かに神霊級だ』』
「ああ、先ずはネギくんたちと合流する。
別々に動いてもメリットはないからな」
というか、両面宿儺に追われている現状は看過できない。
だが、今、彼らは祭壇におり湖に架けられた橋は両面宿儺に粉砕されてしまっている。
「メカエリチャン、俺を乗せてくれ」
「ハァ!? い、いきなり何を言っているのですか!
この状況で……正気ですか!?」
提案したらいきなり怒られた。
一瞬意味がわからなかったが、すぐに彼女の勘違いに思い至る。というか俺だって、こんな場面でセクハラ働く気力はない。
それよりも度重なる礼装の使用で意識を保つのも少々危うくなってきているのが事実だ。
「違う、背中ね。背中に乗せて飛んでくれってこと」
「え、ああ……紛らわしいですね。
……ほら」
そう言って両手を広げてこちらに向くメカエリチャン。
いや、ほら、と言われましても。
「何してるの、早く乗りなさい」
「え、いや、へ?」
背中だって言ってんだろ。
「どこって、私に乗るのでしょう?
抱っこしてあげるから、ほら」
ほら、て。
マジで?
「え、なに。何してるの二人とも?」
エリちゃんが困惑したようにこちらに問いかけてくる。
別にいやらしいことじゃないのに、なんか恥ずかしくなってきた。
「ええい、まどろっこしいわね!」
と。突然俺を抱き上げるメカエリチャン。
その様はまさしくお姫様抱っこ。
「ひ、ひぇぇ……」
「なぜ顔を覆っているのです?
……まあいいでしょう、発進します。しっかり掴まっていなさい」
羞恥心で死にそうな俺を他所に、彼女は急速発進。ゴォォ、と空へと飛び上がってしまった。ふわりと浮く感覚が全身を覆い慌てて彼女の首に抱きつく。
あと、大事な部分がふわっとした。気持ち悪い。
「むう、エリチャンアイの邪魔です。もう少し離れてください」
飛行中に無茶苦茶言ってくるメカエリチャン。
「馬鹿言うなよ、これ以上離れたら落ちちゃうだろ!」
「なにを情けないことを……
この程度で落ちませんよ、落ちても拾います」
落ちてる時点で手遅れだよ!
「子鹿のように震えて、そんなに怖いのですか?」
「悪いかよ。俺、高所恐怖症なんだよ」
アドレナリンマシマシの時は大丈夫。
冷静に認識すると、一歩も動けなくなるアレだ。
前世でも飛行機とか毎度死なないように必死に神様にお願いしていたくらいだ。
俺は悪くない。
「……フフ」
「あぁ、笑ったな!?
今、笑ったろ!?」
情けなくて悪かったな!
今もなんとかちびらないように我慢している。
「いえ、卑下したわけではありません。
意外と、可愛い部分があるのだな、と。
そう思ったのです」
柔らかい笑みで語る彼女に、俺は思わず言葉を詰まらせた。
「……貴重なデータです。
メモリに厳重に保管しておきましょう」
「うぉい! やめろ、今すぐ消すんだメカエリ」
「消しません、帰ったら幾つか予備をコピーして……」
やめろぉ!
ていうかコピーってなんだよ、厳重に保管するんじゃなかったのか!?
「コピーして、それらを厳重に保管します。
末代まで残すべきですからね」
なにその壮絶な恥。
死んでからも情けない姿を子孫に見られ続けるってどんな仕打ちだよ。
「ほら、もう着きますよ」
「ゆっくりな、ゆっくり降りて!」
やれやれ、と言いつつちゃんとゆっくり降りてくれるメカエリチャン大好き。
着地時に、お姫様抱っこされている俺の姿にネギくんたちが何とも言えない表情をしていたのを、俺は認識しないようにした。
認めなきゃ無いのと同じだよ。
「ちょっと、置いてかないでよ子イヌ」
無事に地に足をつけたところで、隣にエリちゃんが実体化した。
発進時から霊体化して付いてきてるの知ってたからね。
「ちゃんと近くにいたのは感じてたよ」
「感じっ!? 子イヌって、そういうこと平気で言うけど人としてどうなの? やっぱり死ぬの?」
なんで死ぬことになるんだ……。
エリちゃんの謎理論は分からないが、俺はエリちゃんを愛しているからこそ堂々と言えるのだよ。
「お前ら、なんでこんな状況でイチャイチャできるんだ?
やっぱり死ぬのか、リツカ?」
げんなりした様子のエヴァにも言われた。
だからなんで死ぬことになるんだ……。
「……いえ、あなた方のおかげで少し、平静を取り戻せました」
乾いた笑みで語る刹那。
その腕には眠ったままの木乃香。
ネギくんたちは、祭壇の裏手にある方の橋を逃走中だった。
全員、焦燥しきった顔をしている。
……そして、その肌は所々黒く染まっていた。
『おっと、これはかなり呪詛を受けてしまっているね』
「うわ、びっくりした!!
なに!?」
俺の腕に取り付けられた機器から突然、映像が宙に投射されダ・ヴィンチちゃんが映し出された。
いきなり出てくるなよ。
今回に関しては明日菜に全面的に同意する。
「俺たちの、なんだ、オペレーター?
いや、上司?」
改めて考えるとダ・ヴィンチちゃんってどういう扱いになるんだろう。オペレーターではあるが技術者でもある。
加えて俺のサーヴァントでもある。
『まあ、細かい話は後にしよう、とりあえず気の良いお姉さんとでも認識してくれ。君たちの味方で間違いない。
……それよりも、君たちの肌。その呪詛の侵食率は捨て置けないな。
誰か、解呪、いや回復魔法を使える人物はいないのかい?』
ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、一同沈黙する。
刹那は生粋の剣士、明日菜はそもそも魔法使いじゃないし例の力もある。ネギくんも治療は苦手らしいし、エヴァも不死身の身体にかまけて治療系魔法の習得は怠っていたという。
詰みである。
まあ、木乃香お嬢様がネギくんとチューすれば万事解決なのだがな。どうしてか今も眠っているのが不可解。
『っ、リツカくん! 今すぐそこから離れるんだ、敵の攻撃が来る!』
急にダ・ヴィンチちゃんが慌てたように伝えてくる。
反射的に両面宿儺の方を見るとーー
「グ……■■■■■■ーーー!!!!」
大口を開けて、獣のような、狂人のような、また明確に形容し難い雄叫びのような何かを放っていた。
それらは数多の憎しみが文字のような、模様のようなナニカに視覚化され、さながら嵐のごとく風を巻き起こしながらこちらに迫ってきた。
理解が及ぶ以前の問題だった。
「エリチャンフィールド、展開!!」
そんな俺らの前に、メカエリチャンが庇うように立ち塞がった。
その身から『バリアのような何か』を出しながら、両面宿儺の放った咆哮を塞きとめる。
「メカエリ!!」
しかし、怨嗟の咆哮が激突した瞬間にバリアは殆ど損壊し、メカエリチャンは自身を覆うバリアを解除してそのリソースを俺らを守るためのバリアに回していた。
そんなことをして、ただで済むはずがない。
咄嗟に回復の礼装を構えた俺に、メカエリチャンが念話を繋ぐ。
『回復は不要です。この程度なら魔力を温存しなさい』
そうは言っても、彼女の身体はみるみるうちに破損し、傷付いている。
やがて、咆哮が止んだ頃には致命傷は無いものの見た目の損壊具合は深刻だった。
「データ解析。やはりあの呪詛は人間種にしか効かないようです。
現に鋼鉄ボディの私は『余波』によるダメージしか受けていません」
冷静にそう述べた彼女。
……彼女の言う通り、今は回復は後回しにしよう。
いざとなった時の『とっておき』、『反則』のために。
『彼女の言う通りだ。おそらくアレは『対人類用』、人を殺すためだけに存在している。そう考えるならば
ダ・ヴィンチちゃんも続けて見解を述べた。
人を殺すための呪詛、どこまでを『ヒト』と判断しているのかが不明だが、それならばやりようはあるか。
『ちなみに、今しがたざっと君たちの身体を調べた結果。
皆、一様に『何らかの要因』で完全な呪詛を受けていない。
まあこれは個々のプライベートに関わることなので言及は控えた方がいいのかもしれないがーー』
「いえ、ことは一刻を争います。私は構いません。ちなみに私は烏族のハーフです」
言い淀むダ・ヴィンチちゃんに刹那は強い意志の篭った目で答えた。
「私は今更言わんでも分かると思うが吸血鬼だ。
……おそらく、この中ではあのメカメカしいトカゲ娘に次いで呪いを受け難いと思われる」
それに続いてエヴァが述べた。
「……うーん、私はなんでか分からないんだけど、アーティファクトのおかげ?」
自信なさげに答えた明日菜だが、彼女の場合は出自の問題かもしれない。ほら、『魔法無効化』とかそういう異能を持った魔法世界人っぽいし。
『木乃香くんに至ってはおそらくその血だろうね。
『高貴な家柄』に連なる血筋と聞いているよ』
そうだろう。近衛家は確か『やんごとなき系譜』に連なると記憶している。だからって耐性を持つのは少々こじつけかもしれないが。
「僕は……よく、分かりません。
すいません、でも一応人間だと思うのですが」
一番分からないのはネギくんだ。
彼はナギの息子ではあるが、ナギも別段、特殊な血筋というわけでもない。なのに、なぜ。
「いや、それよも今はヤツの対処方か」
見れば咆哮の後に依然としてゆっくりとした足取りでこちらに進んでいるが、他に何かをするようなこともなく、ただ歩いていた。
「とはいえ、放ってはおけまい。
いずれ街中に至れば膨大な数の犠牲者を出すぞ」
エヴァの言葉に頷く。
現状、彼女とメカエリチャンが攻略の鍵か。
「リツカさん、アレは一体……」
考える俺にネギくんが問いを投げた。
「神霊だ。神話や伝承に語られるままの文字通りの神様。『そうなるからそうなる』なんてふざけた理屈で奇跡を起こす。
本来なら現代に降臨することはあり得ないのだがな、こうして出てきている」
「神か。なるほど私の魔法を弾くなどどういうわけかと思っていたが、文字通りの神というなら分からんでもない。
ふざけたことに違いないがな」
憎々しげに語るエヴァ。
相当悔しかったらしい。
「神……」
俺の言葉にネギくんは沈んだ表情を浮かべた。
その肩を明日菜が軽く叩く。
「何落ち込んでんのよ。神様でも、なんでも木乃香や皆んなを守るためならどのみち倒さなきゃいけないんでしょ」
顔では笑顔を見せているが、その足は恐怖で震えていた。
空元気という奴だろう。
「明日菜さん……」
「先生。私は何としてもアレを倒します。いえ、倒さないといけません。無茶でもなんでも、私はそう決めましたから」
相変わらず刹那はやる気に満ち溢れている。
消耗した様子ではあるが、士気だけは依然高い。
「そう、ですね……すいません皆さん。僕も、生徒のみんなを守るために、頑張ります!」
なんとか持ち直したネギくんは拳を握りしめた大鬼神をしっかりと見つめる。
これで十歳というのだから末恐ろしいことこの上ない。
いや、そうでなければこの先困るのだがな。
「悠長に話しすぎたか、敵が第二波の準備をしているぞ。
……私は奴の攻撃を阻止しに行く。刹那、援護しろ」
そう言って、蝙蝠で作った翼で宙に飛び上がるエヴァ。
遅れて刹那も明日菜に木乃香を託して純白の翼を広げて飛び立った。
「私も行きましょう。よいですね、マスター?」
有無を言わさぬ眼光でメカエリチャンは問う。
「ああ、俺はお前達を『信じる』。
だが無茶は無しだ、いいな?」
「当たり前です。……ではお先に」
そう言ってメカエリチャンも飛び立った。
見た目は損壊が目につくが戦闘に支障はないようだ。
「子イヌ、私は?」
冷静に指示を待つエリちゃん、真剣な眼差しはいつものドジっ子、トラブルっ子の気質はまるで感じられない。
「当初の予定通り、『竜鳴雷声』で遠距離だ。
メカエリには敵の遠距離の妨害を念話で逐一指示する」
「了解。よーし、行くわよー!」
なるべく鬼神の近くまで移動して槍を足元に突き立て、息を吸い込み始めるエリちゃん。
完全に砲台扱いだが、近接技術が別段得意な方でない彼女はこの方が理に適っていると思う。
「僕も行きます」
「待ってくれ。
ネギくんはおそらく一番呪詛を受けやすい。
何らかの耐性があるとはいえ、なるべく遠距離を心がけるんだ、いいね?」
何の加護を受けているのか分からないが、アレを相手に近接など下策。加えて周囲にばら撒かれている呪詛だけでも強力だ。
極力、射程外から魔法で援護に徹してくれた方が安全と思われる。
「はい、分かっています。
……エヴァンジェリンさんの魔法が弾かれた以上は僕の魔法も通じるか分かりませんが」
杖に跨りながらネギくんは苦笑する。
いや、君も潜在魔力だけなら膨大なはずだ。それを引きずり出せばあるいは通用するかもしれない。
「まずは命を最優先だ。君はまだ先生になったばかり、それにまだ子どもだ。無茶も無謀も時には必要だが、命だけは大事に……って、戦いだと俺が一番足手纏いなんだがな」
言ってて何様だと気づいた。
俺はあくまでエリちゃんたちを世界に繋ぐ楔。それ以外は単なる人間でしかない。
それに、ネギくんが苦難の道に進むのを黙認している。常識的に考えれば齢十の子どもに世界の運命を託してしまうなど外道でなくてなんだと言うのか。
「ありがとうございます。……なんだか、少しだけのどかさんの言っていたことが分かりました」
屈託のない笑みで告げる彼に、俺は内心動揺した。
違う、と口に出かけた言葉を飲み込む。
「では、行ってきます!」
覚悟の決まった力強い瞳で彼はそう告げて、エヴァたちの援護に向かった。
当たり前だが、俺は
少なくとも1400年の神秘を持つ相手に対して、それを上回る神秘を持つ存在がいない時点で勝ちは厳しく。カルナなどの最強格のサーヴァントに並ぶ者もいない現状で神霊を相手取るのは難しい。
それでも、メカエリチャンの耐久、エヴァによる最上級魔法や、エリちゃんのドラゴンブレス。
それらで足止めをするくらいはなんとか、といったところだろう。
ならば、最後の一押し。『魔性を討ち取る最高峰のサーヴァント』。それを呼ばねばならない。
「……」
メカエリチャンに念話で敵の攻撃の妨害を指示しつつ、俺は『見えない右目』のあたりを手で覆ったり、離したりする。
「ダメか」
やはり、見えない。
もう右目は使い物にならない。礼装の回復も効果がなかった。
左脚もこれ以上酷使すれば危うい。
全身は未だ、『激しい痛みに襲われていた』。
「っ!! ごぼっ!」
少し気を抜いた瞬間に、体内のどこかが激しく痛み、喉の奥から鮮血が駆け上ってきた。思わず膝をついてしまう。
手で押さえるも、指の間からボタボタと血が溢れて地に落ちる。
「っ!? ちょっと、あんた!!」
その様子を隣で見てしまった明日菜が慌てて俺の肩を掴む。
「すまん、大丈夫だ。まだ、やれる」
そうだ、ここで倒れるわけには行かない。
『世界の平和のために』。
「っ、くそ、そこまで侵食しているか!」
頭を振って必死に『抑止の干渉を振り払う』。
俺は違う、そんな、
エリちゃんのため、俺を、
「血が、こんなに……」
「まだだ、まだ……!」
俺はまだ屈していない。だが、身体は言うことを聞かず、意識を刈り取ろうと必死に痛覚が『損傷』を訴えてくる。
バカか。そんなので止まるわけには行かないだろう。
「魔性、神性……」
必死に思考を保ちながら、あのクソッタレの神霊を討ち倒しうる英霊を必死に考えながら、俺は『ポシェットに手を伸ばす』。
『やあ、もう出番かい?』
「喋った!?」
取り出して早々に陽気な声を出す精霊に明日菜が驚いていたが、今はそれどころじゃない。
「神性、魔性特攻……いや、この場合は鬼種特攻か?
なんでもいい、アレを倒せる英霊を教えろ」
『うーん、僕も英霊にはあんまり詳しくないからなぁ。
あくまで
こればっかりは
「使えんやつだ……!」
答えは分かっていたが、八つ当たり気味に悪態をついた。
だが、もう考えることにリソースを割けない。
さっきの吐血、あれで『どこか内臓がやられた』らしい。
「ごほっ、ぐっ!?」
溢れる血が止まらない。
くそ、ヨーグルトの言う通りか。あくまで身体は人間だと。魂が如何に上位に位置していようと、『器はただの人間』に過ぎない。
少なくとも、エリちゃんたちとの契約が保持されている間は。
ならばーー
「スカサハ……いや、手を貸してくれるとは限らんか」
間違えちゃいけないが彼女はあくまで彼女が気に入った者にのみ力を貸している。俺の縁、『あの世界の記録』からサーヴァントを呼ぶのであれば彼女も召喚可能だろうが。
彼女が従ったのはあくまであの世界の立香だ。
加えて
「誰か、だれかいないのか……」
呼ぶのであれば候補は一応いる。
だが、たぶん今の俺では呼ぶことすらできない。
あるいは、呼ぶと同時に
単純計算で五体ものサーヴァントへ魔力を供給しているのだ。魔力は世界が負担するとして供給は
本来なら既に死んでいる。
それでも俺が今も生きているのは
だが、身体は
ダ・ヴィンチちゃんが言うには『何らかの加護による補正、本来なら肉体はすでに砕け散っていてもおかしくない』らしい。それも精霊やヨーグルトの発言で真相が掴めた。
魂が強いから、肉体の負荷を軽減していたと。
それだって、パライソを加えた途端にこの様だ。
『契約はいつでも受け入れよう。もちろん、その身体のままで召喚するのでも構わない。僕は強制しない。決定権は君にあるからね』
感情のない精霊の言葉が心に刺さる。決意を揺るがす。
確かに、契約すれば何を召喚しようが死ぬことはなくなるのだろう。ただ、それをすれば俺は『世界に全てを支配される』。エリちゃんたちを優先することもできない、そればかりか彼女らが世界に不要と判断されれば『俺の手で殺すことになる』。
『君も、気付いているだろう?
冷静に、しかし明るい声で精霊は嘯く。
理には適っている。
俺は高尚な人間じゃない。ゲーティアに悠然と立ち向かうようなそんな勇気もない。あるのは、ただ
勇気も力も信念もない。ただの人間。当たり前だ、前世では
これまでの奇跡は、サーヴァントたちが俺に力を貸してくれたのは俺が
「グブッ!?」
悩む間にも俺は何度目かになる吐血をしていた。
あまりに吐き出し過ぎて、若干貧血気味だ。
「ど、どうしよう……こんな……リツカ、リツカ大丈夫!?」
必死に肩を揺すってくる明日菜。
大丈夫かと聞かれればあまり大丈夫じゃない。
あと、揺すられると余計に吐き気が。
『時間もないようだね。アサシンとの契約で君の身体は限界に達してしまった。このままでは召喚をする前に死ぬよ』
「っ、さっきからごちゃごちゃと……あんた何様なの!?
こんな、こんなひどい状態なのに、どうしてそんなことーー」
精霊の言葉に、明日菜はブチ切れていた。まさか俺のために怒ってくれるとは思わず正直嬉しい。だが、これは俺と精霊の問題だ。
『だって、僕は
僕はただ、
「ネギたちじゃ、勝てないって言うの?」
ビキリ、と額に血管を浮き上がらせながら明日菜が問う。
精霊はそれを気にした様子もなく、いつも通りの明るい声で応える。
『ああ、無理だろう。君たちにはいまいち感覚が掴みにくいのだろうが、
リツカくんはその点、十分に理解しているようだけどね』
神霊とは神。神代の終わりと共に誕生したものが神霊。神であったことの名残を残しながら、摂理の改変された現代に降臨することを許されない、文字通り世界の外側の存在。
神とは、自然現象に自我を与えて信仰の対象にした存在に他ならない。つまりは『自然現象の権化』。
その点は『自然そのもの』のアルクェイドの方がより星に近しい存在だが、力関係は不明だ。そも、神代の星の触覚である神霊と、現代の星の触覚であるアルクェイドでは寄る辺とする法則が違い比較にならない。
「契約……すれば、アレを倒しエリちゃんたちを?」
『救えるよ、それは100%保証する。
……代わりに、
まあ、そうだろうとは思っていた。
単なるこの場凌ぎ。それ以降はアラヤの指示に従うことになる。
「じゆういし……それって、『自分の意思が持てない』、そういうことなの?」
信じられないとばかりに明日菜は精霊に問う。
『おや、意外と物分かりがいいね。
抑止力というのはそういうものだ。
世界を守るためなら少数の犠牲など切り捨てて当然。そも、『人間の社会などそんなものだ』。そのサイクルがうまく回っているから今日までの人間社会が紡がれてきた。
その点は俺も重々理解している。
『世界と契約したならばそれ以後は世界の所有物だ。
以後は世界の敵と戦ってもらうことになる。現状は『あのバーサーカー』が対象だね。
他にも、『世界を脅かすモノ』ならば何であれ彼は排除することになるよ。今
世界の敵、たとえ誰であろうと敵なら殺す。
心配はいらない。リツカくんの魂ほどになればその気になれば『なんだって思い通り』にできるだろう。生体願望器だ、やったじゃないかリツカくん!
もちろん、制御はアラヤのものとなるが瑣末ごとさ。
なにせ、
懸念する『意思』も無くなっているさ』
「そんな……!」
「そうか」
悲壮な顔をする明日菜をどけて俺は精霊に向き直る。
「ちょっと、まさか、契約ってやつをやるつもりなの?」
「それで救えるならばな」
俺は彼女たちの、『エリちゃんのために生きている』。
「だが。
だからこそ、『抑止との契約など真っ平御免である』。
『……ふむ。理由を聞こうか』
興味深そうに精霊はホログラムを出し、顎に手を当てる。
あくまでこいつは『決定権を俺に委ねている』。
ならば答えは否だ。
「俺は俺の意思で戦って、命をかける。
これまでもこれからもだ。世界など、背負う気はない。
ただ、
『そうだね、そう君は以前から言っていた。
ならば、今のこの状況、どのように収める?』
「決まっている。抑止に頼らずに召喚する」
最初から決まっていた結論だ。
いくら考えても、何をどう議論しようとも。
そのためなら
「ダ・ヴィンチちゃん……の通信は切れてるか。やってくれたな精霊」
『これは僕と君との話し合いだ。部外者は極力引っ込んでいてもらわないとね』
本当によく回る口だ。そのポーカーフェイスも一生かけても崩せる気がしない。なるほど『抑止の傀儡』とはよく言ったものだ。
「いいさ、少し勇気と保証が欲しかっただけのこと。
覚悟は決まっている、準備をしろ精霊」
死ぬことなど許さない。俺は俺の身体にそう言い聞かせる。
『……ふむ、筋金入りのバカだな君は。
いや、いいよ。僕個人としては君のその愚かさは
九割方死ぬよ』
「なら、
その代わり
『なるほど、なるほど。賭けというやつだね?
面白い。前言撤回だ、君は
自分の価値をよく分かっているね、そうさ抑止はなんとしても君が欲しい』
「加えて、お前は
『ああ、
君にこそ決定権がある。そして僕は
いいよ、やろう。ぜひとも
言って、精霊は本を開いた。
その上に俺は手を置く。
「あんた……なにを……?」
「あの鬼神を倒す力を呼ぶ。大丈夫だ、『彼女』なら絶対に勝てる」
神秘に対して圧倒的なアドバンテージがある英霊、その中でも俺の呼びかけに応えてくれそうな、召喚を受けてくれそうな英霊。
『ふむ、一応聞いておくが、
「もちろん
加えて『バーサーカー』は魔力がすぐに枯渇する。
『はは、そりゃそうだ。
ならもう呼ぶ相手はは決まってるんだね?』
精霊の言葉に俺は静かに頷く。
『では、イメージしたまえ。君が呼ぶ英霊を、神霊すら屠るサーヴァントとやらをね』
その言葉の通りにイメージする。
強く念じる、俺に力を貸してくれと。
『彼女』に呼びかけ続ける。
「頼む、来てくれ……!」
『ハハハ、やはり君の縁は凄まじい。いや、『君のそっくりさん』と言った方が適当か。
なんにせよ『契約は結ばれた』。
おめでとう、これで君は神霊に勝つことができる』
褒めているのか貶しているのか分からない精霊の言葉の後に、本から眩い光が溢れた。
「サーヴァント・バーサーカー。『
召喚の呼びかけに応じ、参上いたしました」
光が治ると、その場には一人の女性が立っていた。
ところどころ『危ない』甲冑に身を包み、弓と刀を手に悠然と佇む長身の女性。
「久しい、と言うべきなのか……いえ、
ならば……ええ、はい。確かに、貴方の覚悟を受け取りました」
もはや、視界がぼやけて、屈み、こちらを覗き込む彼女の顔が見えない。ただ、片耳で辛うじて聞こえた声は確かに彼女だった。
身体の感覚はもう殆ど無い。
「……っ、っ……!」
必死に、事情を説明しようと、指示を出そうとしてもう声も出ないことに気付いた。
「ええ、存じております。あの『虫』を屠ればよろしいのでしよう?
……貴方が、命を懸けてまで、そこまでして倒したいと、私にあの虫を屠る鬼になれと申すのならば。
この頼光、喜んで鬼となりましょう。かの災いの神の成れの果てを殺す刃となりましょう」
そうか。
手を貸してくれるか。ありがたい。
……ああ、俺はまた、『彼の名を穢した』。
それに、彼女たちは無事なのか。
『約束』は。
それだけが気がかりでーー
『安心したまえ。約束は守るよ。
だから、今はゆっくり休みなさい』
初めて、『優しい声』で喋った精霊。
その言葉に安堵した。
俺は礼装の機能を『オート』にして『最低限、生命活動を維持するように設定する』。
「っ!!」
ちょうど操作を終えたところでビキッと『亀裂が入る音』が聞こえて、フッと力が抜けていく。
そのまま、俺の意識は闇へと沈んでいった。
魂が強ければなんとかなる(暴論
チートといえばチートなんですが。
まあ、そこは、ね?
いや、ツケは払いますよ。当然です、ママ呼んだんだからね。
ちなみに某弓兵というか火縄銃じゃないのは、
『こいつに手を貸すか?』
という理由です。リツカも自信なかったのでマッマになりました。呼ぶだけで好感度多少なりとも上がりますからね。
後が相当怖いけど。
まあ、是非もないよネ!
あと、スクナさんの『事情』を朧げながら理解していた、というか予想していたからというのもあります。