一般人生徒リツカ!   作:ブタどもの一人

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まさか水着イベで黒幕候補を潰されるとは思いませんでした。
これは本格的に■■■■■案件か?

あと、あの騎士はやっぱり彼女なのでしょうか?
私、気になります!!





京都・十一

「誅伐、執行」

 

 軽鎧甲冑を身に纏う女性は、静かにそう宣言した。

 途端、周囲に天から幾つもの(いかずち)が降り注ぐ。

 

 雷鳴が辺りに響き渡り、湖を割り、砕き、腐り果てた水を焼き蒸発させていく。

 

 天災のごとき有様の中心を女性は歩いていく。

 

 その間も絶えることなく何度も雷鳴が轟き、周囲の黒き水を『呪詛』ごと破壊していく。

 

「お覚悟を、飛弾の大鬼神」

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、今度はなんだ!?」

 

 突如として戦場に現れた雷撃の嵐にエヴァは周囲を見渡す。

 鬼神への警戒もほどほどに。

 それに続いて刹那も雷嵐の中心に目を向けた。

 

「あの方は……?」

 

 悠然とこちらに歩み寄る一人の女性。

 背のほどはあの召喚士の男性よりもなお高い。

 片手に弓矢を、もう片方に日本刀を持ちて歩いている。

 

 

「バーサーカー……まさか、あのバカ!!」

 

 バーサーカーの姿を確認し、メカエリチャンはすぐにマスターの仕業であることに気付いた。

 それはつまり、あの身体のままにこのような無茶をしでかしたということを。

 

 

 

「ボエェェェェ!!

 ……って、アレ? なんかすっごい雷落ちてる」

 

 音波攻撃の最中、ようやく自身の周囲で雨霰のごとく雷が落ちていることに気付いたエリちゃんはきょとんと首をかしげた。

 その横を、バーサーカーはふらりと通り過ぎる。

 

「うわぁ!? え、あんたも、なんで?」

 

 唐突に現れたバーサーカーに腰を抜かすエリちゃんに声をかけることもなく彼女は進み行く。

 その身体にはバチバチと電流が走り、纏う雰囲気は怒りに満ちていた。

 

 

 

 

「グ……?」

 

 大鬼神も突然の雷に意識を向けていた。

 そして、その中でこちらに進みゆく一人の女傑に気付く。

 

「鬼退治の真髄、ここにしかと示してごらんにいれましょう」

 

 誰にともなく呟くと共に、バーサーカー頼光は足場を蹴り、一直線に両面宿儺に斬りかかった。

 

「■■■■■■ーー!!」

 

 一閃。瞬きの間に大鬼神の顔に一本の深い斬り傷が刻まれていた。堪らず呻き声をあげて暴れる鬼神を尻目に、頼光は暴れる鬼神の腕を足場として一気に駆け上がり、もう一太刀、今度は縦に一閃を加える。

 十文字傷を与えられた鬼神は怒り、その大口から瞬時に呪詛を吐き出す。それらは点を狙ったこれまでのそれとは異なり周囲を汚染する広範囲型のもの。

 

「っ!」

 

 直感で攻撃を感知していた頼光は身を翻し、鬼神の腕を蹴って範囲外に逃げる。そうして下部に至った彼女は、駆け抜ける間に鬼神の胴体を斬り刻む。脚を斬り刻む。

 怒りのままに振るわれる巨腕の合間を潜り抜けながら、その身に幾つもの刀傷を刻んでいく。

 

 動きの全てが合理の果てにあるかのような効率的な剣舞、しかしそれらが超高速で行われていることがなによりも異常であった。

 

 先ほどまで自分たちが苦戦していたのはなんだったのか、と言わんばかりの無双ぶりに刹那を始め、ネギやエヴァも口を開けて呆然としていた。

 尚も、頼光は手を休めることなく。その超高速立体起動の舞いも休むことなくただ鬼神を斬って斬って斬りまくる。

 

 

「■■■■■■■■ーーー!!!!」

 

 身体全体から瘴気を撒きながら、剛腕を振り回しながら、『バーサーカーでしかない鬼神』は徐々に体力を削られていた。

 

「はああっ!」

 

 空を斬る一閃と共に、その斬撃が雷を帯びて鬼神の巨体に叩き込まれる。大きな傷を作るも、それは数多蠢く怨念の顔に覆われて補修されていく。

 ほんの僅かな戦闘で数多の傷を付けられた鬼神の身体は、おびただしい数の苦渋を浮かべる怨念の顔で埋め尽くされていた。

 

「せいっ!」

 

 一息で振るわれた一太刀で鬼神は大きく身を怯ませる。

 お返しとばかりに身体から濃密な瘴気が放たれ、頼光は雷撃に『乗って』それから逃げる。

 

 ようやく橋の上に降り立った彼女は、今度は刀を納刀して左手の弓を構える。

 腰の矢を瞬時に抜き番えた彼女は、『目にも留まらぬ速さで矢を連射した』。

 

 ズバババ、と鬼神の身体に刺さったそれは雷撃を発して追加ダメージを与える。

 それを見届けてから、再度地を蹴った頼光は宙空で刀を抜き、振り下ろした。

 

「失せなさい!!」

 

 叫びと同時に、鬼神目掛けて特大の雷が天から落下した。

 空気を破るような爆音と、目を開いていられないほどの閃光がバチバチと明滅し、それらに混ざって鬼神の悲鳴が辺りに轟いた。

 

 

「うわぁ!?」

 

 衝撃波を受けたネギは杖から振り落とされそうになりながらも、必死にしがみついて耐える。

 

「ぬぅ、なんなのだ彼奴は……あの鬼神をいとも容易く」

 

 閃光に、手で目を覆いながらもエヴァは闖入者たる頼光の力に動揺を隠しきれなかった。

 神にも比肩しうる力を持つ女傑。

 アレは何者なのか、と。

 

 事実として頼光は牛頭天王の化身である。

 生まれてすぐにその強大な力を恐れた父・満仲に捨てられるも、後年にその力を惜しんだ父に呼び戻され主に賊討伐や怪物退治に駆り出された女性。

 

 天賦の才だけでは片付けられない強大すぎるその力の正体は、彼女が身に秘めている『魔性』に由来する。

 牛頭天王の化身として生を受けた彼女は、その恐ろしい力を無意識に押さえ込み、心の奥へとしまい込んでいる。

 それこそが伝説では兄弟とされている『牛御前』に他ならず。

 

 神と鬼、強大な力を二つも有しそれらの一切を押し付けられた人格こそ牛御前である。

 とはいえ、この二人は『同一人物に違いはない』。

 人格の乖離は起こしているものの、根本が同じであり他の英霊のように切り離して別側面として出ることもなく、常に彼女の中にあるもの。

 百貌のハサンのように分離することもないのはおそらく、どうしようもなくこの二人が同じであるからだろう。

 否、二人と数える時点で間違いである。

『常に源頼光は一人でしかない』。

 

 

「思い上がりましたねぇ!

 ふふ、あはははは!!!!」

 

 狂気の滲む顔で笑い声を上げる今の彼女もおそらくは『魔性の部分が表面に出過ぎている』状態にあるのだろう。

 だからこそいつもの以上に魔力放出の出力が上がっている。

 

 常に周囲に落ち続けている雷がその証左。

 

 

 対して、両面宿儺も腐っても神霊。

 その根本が歪んでいようとも、元の信仰が絶大であったために魔性に堕ちながらも強大な力は健在なのである。

 次第に頼光の動きに合わせて動くようになっており、効率的な動きで呪詛を吐きながら巨腕を振るう。

 

 無尽蔵に近い体力を有するそのカラクリはしごく単純なもの。

 キャスターの陣地作成を利用して作られた四つの拠点。そこから吸い上げられる霊脈の魔力を使ってこうして神霊サーヴァントの降臨と制御を行なっている。

 ちなみに、かの四鬼の魔力もここから供給されており、通常の聖杯戦争ではまず不可能に近い『京都のほぼ全域支配』を成し得たからこそ可能となる大規模な手段に違いない。

 

 だが、今はそのうちの三つを『武蔵に陥落させられている』状況であり、予定ではすでに神霊へと戻っていておかしくない両面宿儺がこうしてサーヴァントの範疇にギリギリ収まる状態で停滞しているのも仕方ないことであった。

 

 両者ともに神に近い力を持ちながら、頼光の苛烈な攻めと両面宿儺の膨大な体力により、頼光が優勢ながらも戦いは拮抗していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子イヌ、子イヌ!!」

 

 橋にてリツカの身体を抱き上げながら泣き叫ぶのはエリザベート。

 血塗れのままにピクリともしないマスターの姿を確認するや一目散に駆け寄りその身を抱いて必死に呼びかけていた。

 

「また、このような無茶を……!」

 

 冷静に見えながらも、拳を握りしめて震えるメカエリチャンも内心動揺一色だった。

 どうしたらいいのか。センサーで辛うじて生命活動は維持されていると分かっていても、意識を取り戻すほどの体力がないのは事実。

 

『……一体何がどうなってるんだ。いきなり通信が切れたと思ったら次の瞬間にはこの有様とは』

 

 ホログラム上のダ・ヴィンチちゃんも突然の事態に対応が遅れていた。ただし、どこまでいっても冷静さを欠かない彼はすでにリツカの今のデータを解析しながら、すぐに真相に至った。

 

『精霊……君だね?』

 

 少しの怒気をはらんだ声に、皆一様に地に放られたままの本に目を向けた。

 やがて、沈黙に耐えかねた精霊がホログラムを出す。

 

『そうとも、僕が召喚を許可した。いや、そもそも僕にそれを決める権利はないからね。

 僕はあくまで彼の決定に従うまでさ』

 

『ああ、君の性格はだいたい理解しているとも。

 その上で聞くけど、()()()()()()()()()()()()()()()?』

 

 予想はついていた。しかし、当人の口から直接語らせたかった。

 

『いや、単に()()()()()()()()()()()()()()()()()()を問うただけだよ。

 しかし君たちのマスターは実に強情だね。死ぬと忠告したのにそれでも召喚を強行した。バカだが、その覚悟は嫌いじゃないよ』

 

「やはり……」

 

 精霊の言葉にメカエリチャンは歯を軋ませた。

 彼は、私たちの力を信じていなかったのかと。

 悔しかった。それが。

 愛しいからこそ、信じると言ってくれたのに勝つことは信じていなかったことが悲しかった。

 もっと力が欲しいとも。

 

『なぜ、通信を切った?

 切る必要は無かったはずだ。私も交えて話し合えばもっと無難な策を講じれたかもしれないのに』

 

『愚問だねキャスター。初めから二択しかなかったよ。

 僕、いや、世界と契約して奴隷になるか。

 それを拒絶して勝つ為に命を文字通り賭けに使うか。

 

 ……それにこれは彼の問題だ。

 彼が自身で悩み決断するべき案件だと僕は判断したまでだ』

 

『っ……! 帰ったら覚えていたまえ精霊』

 

『ははは、八つ当たりとは君らしくない。

 とはいえ、今の状態で保つのか。それは些か心配ではあるね。

 どうしようか?』

 

 まさか、そんな悠長に重大なことを言うとは思わなかった。とその場にいた誰もが思った。少なくとも『リツカの価値を認めているから従っている』と思っていたメカエリは精霊の『どう転んでも構わないような態度』に焦りを感じた。

 

『まあ、死ぬことはないと思うけどね。

 彼は意識を失う前にそう礼装をセットしていたし』

 

『なに……?』

 

 それは聞き捨てならなかった。

 そもそも礼装はそんな長時間仕様に作ってはいない。

 つまり、『彼が無理やり魔力を通してそのように酷使している』ということ。

 礼装の強度に問題はない。問題は彼自身の体力である。

 

『そんなことをしたら……』

 

『ああ、最悪()()()()()使()()()()()()()()()()だろうね。運が良くてもどこかの機能が()()のは間違いないだろう。

 既に片目も見えていないようだったし』

 

「あなた、そこまで分かっていてなぜ止めなかったの!?」

 

 珍しく感情をシンプルに表に出したメカエリチャンは精霊に食ってかかった。しかしホログラムの身体は触れることも出来ずにすり抜けてしまう。

 

『何度も言わせないでくれ、これは彼の問題だ。

 彼が決める権利を有している。君たち()()()が横やりを入れる権利はないはずだよ。

 それに君達は『過去の写し』でしかない。今を生きる彼の尊厳を侵害しないでくれたまえ』

 

「っ!!」

 

 ギリッと歯を食いしばったメカエリチャンは即座にソニックシャワーを構えた。

 

『……何の真似かな?』

 

 精霊も『凄まじい殺気』を放ちながら問いかける。

 その場の誰もが精霊の『本質』を垣間見た。

 

「ここで排除します。

 貴方は『マスターのためにならない』。

 どこまでもあの人を堕としてその上で『全てを奪うつもり』でしょう。そんなことはさせません」

 

 彼女の言葉の意味をダ・ヴィンチだけは理解していた。

 この精霊の、否、『人理記録帯』の本質を。

 

『言い掛かりはやめたまえ。僕は彼を()()()()()。その上で()()の指示にも従わねばならないのは窮屈だが僕なりに譲歩しているつもりだよ。

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 透き通るような瞳。空っぽな瞳で語る精霊に、メカエリチャンは思わず射撃してしまいそうになる。

 

『フェアじゃないのは好きじゃないから言っておくけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ただ、今後新たなサーヴァントを召喚することが難しくなるのは確かだと思うけどね』

 

『その点に関しては私の方ですでに調査済みだ。

 君が()()()()()()()英霊を呼び出していることもね。

 ……悔しいが君の能力は唯一無二のもの。我々だけでは世界間を超えてサーヴァントを呼び出すのは困難を極めるだろう』

 

『そうだね。()()()()()()()()()()僕だけの特権だ。ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 専ら()()()なんだよ』

 

 睨み合う三者を他所に、エリちゃんは未だリツカにしがみ付いたままに涙を流していた。

 

「子イヌ……うぅ……!」

 

 これが『血の伯爵夫人』と恐れられたエリザベート・バートリーとは余人から見れば分かるまい。

 それほどまでに『彼女とマスターは絆を育んできた』。

『複雑な関係』にありながらも二年間、リツカの側にいたのは彼女であり、リツカが今のような情熱を抱くようになったのも全てエリザベートによるものである。

 

 リツカ以外はだれも信じないだろうが『事実である』。

 エリザベートとの交流が、生活が一般人でしかなかった彼の中に『だれにも譲れない意地』というものを生み出した。

 それは数多語られる英雄に匹敵し得る唯一の長所であり、巷に数多語られる強力無比な力を手に入れた者たちとも異なる経緯にして結論。

 

 何の力もないがために『文字通り死ぬ気で戦うことにした一般人』それこそが藤丸リツカの真実、正体である。

 

 死ぬことで彼女らを助けられるならば『本望』と本気で宣う歪んだ精神を持つ『異常者』。

 その点においては『怪物』に近い性質を持つ者。

 だからこそ『底なし沼のような愛』を持つ、あるいは欲するモノが集まる結果となった。

 意図せずして集まった彼女らとリツカ、その共通点こそがリツカの本質を見抜く重要なピースとなることは明白である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、この場は一旦戻りましょう」

 

「なに? 私に逃げろというのか?

 敵前逃亡をしろと言うのか?」

 

 いつになく気が立っているエヴァがネギに食らいつかんばかりに吠える。

 

「はい、事実として僕たちは『足手纏い』です。

 あの人が味方であるならば、いえそうでなくとも今はこの場に留まる方が危険かと」

 

「ぬ、ぅ……」

 

 冷静なネギの言葉にエヴァも言葉を詰まらせた。

 

「私は賛成です。

 ……どうにも彼女らの戦いに割って入る勇気はありませんので」

 

 冷や汗を流しながら頼光と両面宿儺の戦いを見つめる刹那が呟いた。

 

「く、仕方あるまい。

 ……なにやら、待機組の方でも動きがあったようだしな」

 

 ちらり、とエヴァが目を向けたのはリツカたちのいる場所。

 そこには『あの精霊』に対して射撃の構えを見せるメカエリと、血塗れでエリちゃんの腕に抱かれたリツカの姿。それらを見つめながらどうすることもできない明日菜。

 おまけにリツカの礼装からホログラムを出したダ・ヴィンチが一様に集まり剣呑な空気を出していた。

 

「っ、戻りましょう、エヴァンジェリンさん」

 

「わかっている」

 

 くどい、と手を振りながらエヴァは先に橋へと戻っていく。その後に続いてネギたちもリツカたちのいる場所へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『当たり前だが、貴様らに自由はない。

 我らの加護を受けられるだけありがたく思え』

 

 

 リツカたちが精霊と揉めている間、木乃香の意識はずっと『誰かの記憶の中』を彷徨っていた。

 幼少から始まったその記憶はすでにその『誰か』が成人し、家庭を築いたところにまで至っていた。

 

 薄汚れたあばら家のごとき家。

 そこに『代々』、『男』の一族は住んでいた。

 

 掘っ建て小屋と言われても、廃屋と言われても不思議ではない家の中で『男』とその妻は正座している。それらを見下ろす男はこの場において場違いなほどの煌びやかな服装をしていた。

 

『はい、『近衛六蔵(このえろくぞう)』さま』

 

 高圧的な男の態度に、『男』と妻は粛々と従い頭を下げている。

 そして、この嫌な男の性が自らと同じことに木乃香は驚いた。

 加えてどうにも見覚えがないことも。

 

『ふん、殊勝な態度だが腹の中では何を考えているか分からん。常に監視されていることを忘れるな』

 

 吐き捨てるように言い放ち高圧的な男は去っていく。

 

 “なんや、あのおじさん嫌な感じやなぁ。べー”

 

 その背に木乃香は精神体のままであっかんべーをする。

 これまで『男』が壮絶な迫害を受けてきたのを知っているからこそ、木乃香はすでに彼を虐げる存在に悪感情を抱くようになっていた。

 

『すまない……お前にまで、こんな仕打ちを』

 

『気にしていませんよ。私はあなたと一緒になりたくてなったのですから。何があっても、私はあなたと共にいます』

 

 まるで監獄のようなひどい生活の中でも妻は変わらず優しい笑みで夫を支えていた。

 その姿に夫である『男』は涙し、ゆっくりとしっかりと妻を抱きしめていた。

 

 木乃香もその光景に自然と涙を頬に伝せている。

 

『ただいま!』

 

 そんな彼らの元に年頃の一人娘が元気に帰ってきた。

 だが、その身体は汚れと傷に塗れていて、すぐに彼女が『学校で虐げられている』ことに思い至る。

 

 それでも彼女は気丈に振る舞い、両親に心配をさせないように出来る限り傷を隠して常に笑顔で振舞っていた。

 

 そんな健気な姿に木乃香も彼女に好感を抱いていた。

 同時に、なんとかして自分も彼女を守ってあげたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、貧しく厳しく迫害にまみれながらも小さな幸せを喜ぶ穏やかな生活を送っていた彼らの元に、『ヤツラ』が現れた。

 

 その日、『男』は仕事に赴いており家には妻と学校から帰って家事を手伝う娘しかいなかった。

 

 そこに玄関を押し破って男どもが雪崩れ込む。

 

『っ、ど、どなたですか?』

 

 突然、家に押し入ってきた男たちに妻は咄嗟に、震えながら訪ねた。もしかしたら近衛家の人たちかもしれないと。

 

 そんな彼女に男たちは下卑た笑みを浮かべながら、下品な眼差しを向け舐め回すように女の肢体を眺める。

 

『へへ、あいつの女は結構な美人だと聞いてたが。こりゃ予想以上じゃねぇか』

 

 男の一人が場もはばからず宣う。

 

『ふん、盛るな。

 ……さて、■■■■。貴様の夫の家柄、血筋。その役目については知っていよう』

 

『……それが、なんですか?』

 

『簡単なこと。我らは『反西洋魔導連隊』。

 貴様の夫が呪殺した反大戦派の同志である。

 我らは西洋のハイエナどもの下僕にはならぬ。その信念のもとに長年、西洋勢の排斥を訴え続けてきた。

 その同志を、奴は殺した』

 

『ま、早い話が報復よ。薄汚ぇテメェの旦那に殺された仲間の敵討ちってところさ』

 

 リーダー格の男の話を要約するように、傍の男が語る。

 

『そういうことだ。

 ……ただ、殺すだけでは飽き足らんのでな。

 此奴らに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 男の言葉に即座に意味を理解した妻は、駆け出してその場から逃れようとする。

 

『おっとぉ、へへ。娘がどうなってもいいのかい?』

 

『っ!!』

 

 その前に拘束された状態で差し出されたのは最愛なる一人娘。

 流石にいつもの笑顔はなく瞳は恐怖に怯え揺らいでいた。

 

『まったく穢れが往生際の悪い真似をするな。

 貴様らに救いはない。長年の罪と共に地獄に堕ちろ』

 

 スッとリーダーの男が手を挙げた途端に一斉に男たちが妻と娘に襲いかかった。

 

『いやぁぁ! やめて、私ならなんでもします!

 だから娘だけは!!』

 

 当たり前の懇願。しかし男は一切の慈悲のない暗い瞳でそれを一蹴した。

 

『ダメだ。貴様らに救いはないと言ったはずだ。

 穢れの娘共々、この者共の慰み者になるがいい』

 

『っ!? そんな、だめ……お願い、やめて!』

 

 妻の懇願虚しく、娘共々その衣服を剥ぎ取られ、破られ、露わになる極上の肢体に男どもが舌を這わす。

 

 それからの出来事は壮絶な一言だった。

 汚され、貶められ、嘲笑れながらその身をただただ蹂躙されていく。

 

 “っ、ひ……ぅぅ……!”

 

 木乃香はとても見ていられなかった。

 泣き叫ぶ二人の声を上書きするように下卑た笑い声と、何処までも悍ましい穢れた音を響かせる光景を間近で見せられているのだ。当然の反応だった。

 

 だが、瞼を閉じようとも、耳を塞ごうとも。

 精神体でしかない彼女には克明にその光景と音が伝わってきた。

 

『いやぁ……ごぶ!? だ、ぁ……ぅ』

 

『ギャハハハハハ!!

 こいつはすげぇ、生娘の中でも最高の名器だぜ!』

 

 “やめて……もう、やめてぇ!!”

 

 彼女の叫びも虚しく、悪夢ような狂宴は日を跨いで続けられた。

 見たくないのに、聞きたくないのに、人間の最も汚い部分の片鱗をまざまざと見せつけられ木乃香の精神は急速に消耗していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて、丸一日が経過した頃に、『男』が帰ってきた。

 

 “…………”

 

 家の中には無残に蹂躙された家族。

 妻はすでに息をしていなかった。暴行の後を鮮明に残す無残な死体のままに、火に包まれる家の中に転がっていた。

 

 屋外では、『男』の前に同じく死体となった娘の身体が放り投げられた。

 

『……』

 

 男たちの嘲笑が響く空間で、『男』は呆然と娘の死体を見つめていた。やがてゆっくりと、近付いて。

 その頬に手を触れる。

 

 “……”

 

 木乃香はずっと目を閉じていた。耳も塞いでいた。

 それでも、これは記憶であり彼女に伝えようとする『誰か』はずっと彼女の精神体に直接映像と音声を届けてくる。

 

 そして、『男』は壊れた。

 

 

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

『血涙』を滝のように流しながら、彼は自身が持つ呪術を最大限解放し『闇に呑まれ』ながら男たちを虐殺した。

 

『ひぎゃぁぁ!?』

 

『腕が、あ、がぁあ!?』

 

『見えねぇ、目が!?』

 

『おごぉ! ゲ、ガ……っ!』

 

 飛び散る脳髄。腑。

 千切れ飛んだ手足が木乃香の目前に落下してくる。

 

 “ひ……ぃ……!”

 

 ただ怖かった。何もかもが。

 男や、ヤツラが。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 血と肉片に塗れた阿鼻叫喚の地獄絵図を前に、『男』は嗤い、泣き、叫んでいた。

 

『人類ニ、報復ヲ!

 光二満チタ、道ヲ歩ム者共二、災イヲ!!』

 

 もはや、彼は彼ではなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それと共に、記憶の世界は歪み割れる。

 後に現れたのは膨大な量の記憶。

 

 男だけではない、それよりも遥か昔から続く人類の負の歴史。

 この日ノ本で延々と続けられてきた惨劇の歴史。

 

 古代、『男』の先祖が歪められたその時から悲劇は始まっていた。

 

『対人類用殺戮兵器』

 

 その名称が用いられるのは近代に入ってからだが、歪められた神の本質は『人を憎むもの』に規定されていた。

 その力の源泉たるは『人類の怨み』。この日ノ本で敗者となった者たち全ての憎しみがエネルギーとなって鬼神の中に溜まっていた。

 

『朝廷に逆らう者どもに罰を!!』

 

 時には『独善』を振りかざす官軍によって、無辜の民が蹂躙された。

 

『朝廷許すまじ。奴らに報復を!!』

 

 時には蹂躙された者たちが怒りのままに官軍を蹂躙した。

 その際に用いられたのが『両面宿儺』という土着神だった。

 

 鬼神と、祟り神となって数多の敵を呪殺していく。『反転』の影響を受けたその神の力は絶大だった。

 

 しかし、朝廷の派遣した『英雄』の前には成すすべもなく討ち取られることになった。

 

『……『住吉双神箭(みすよしそうしんせん)』」

 

 ()()()()()()()()となっていた()()によって討ち取られた。

 その後、鎮圧に赴いた軍にいた陰陽師たちにより厳重な封印を施されることになる。

 その際に封印からも溢れ出る『悪意』をどうにかしようとして鬼神の子孫を『二つ目のキー』とすることになるのだがーー

 

 

『それが、我らだ』

 

 “……!!”

 

 突然、目の前に現れた『黒いナニカ』に木乃香はビクリと震えた。

 辛うじて人型と分かるものの、『悪意が凄まじく輪郭が認識できなかった』。憎しみや恨みといった強烈な感情が視界さえ阻害するほどに『黒いナニカ』を覆っているのだ。

 

『我らは背負わされた。古よりの、祖先の咎だけではない。

 ()()()()()()()()()。幾千の時の中でずっと背負わされてきたのだ』

 

 それらは『周囲からの異常な敵意』として発現する。

 何もかもが『この一族のせいだ』と無条件に信じてしまう悍ましい呪い。それこそが彼らに課せられた『負のサイクル』。

 おまけに、それでも彼らを救うおうとした者には『もれなく不幸が訪れる』。如何な幸運の持ち主だろうと『この一族の誰かを愛した時点で悪意に塗り潰されて、全ての運を使い果たしてしまうのだ』。

 

『我々は、その地を追われた。愛することを知ってしまった祖先の誰かはそうして放浪の旅に出る。

 行く先々で虐げられながらも、必ず安住の地があるはずだと信じて。

 

 しかし、結果はどうだ?

 

 呪術を求めた『貴様らの家』に傅いてみれば、他ならぬ貴様らの命令で動いたツケでこうして家族を失った!!』

 

 “ひっ!?”

 

 ぞわり、と目の前の『ナニカ』からあふれ出した黒い影が木乃香に纏わり付くように蠢く。

 

『許さぬ、許さぬ。我らを利用するだけして捨てた貴様らを許さぬ。その事実を抹消した貴様らを許さぬ。

 富に溺れる者を許さぬ。

 希望に満ちた道を行く者を許さぬ。

 生殺に関わらぬ貴様らを許さぬ。

 幸運を有する者を許さぬ。

 

 ()()の嘆きを知らずして光の道を行く者タチヲ、許サヌ!

 全テ、全テ!!

 コノ日ノ本ニ住マウ、生キトシ生ケル者、全テ許サヌ!!

 

 アア、貴様モ、此処デ、共ニ憎悪二塗レルガイイ!!!!』

 

『人を殺すモノ』として、もはや人であった頃の面影を残さぬ『ソレ』は木乃香を取り込もうとその身を広げて、飲み込まんと襲い掛かった。

 その時ーー

 

『ーーー……』

 

 一つの光源が現れた。

 天から舞い降りるようにして、『ソレ』の上に手を広げて、抱きつく。

 たったそれだげで『ソレ』の動きが止まった。

 

 何が起きているのか、そもそもこの世界は何なのか、訳もわからずにいる木乃香のもとにも、もう一つの光源が現れる。

 人型であり、体つきは女性のように見えるそれは、木乃香を優しく抱きしめる。

 

『ーーー、ーーーーー』

 

 “っ……!”

 

 何事か、木乃香の耳元で囁くも、それは音として認識できないほどに小さなものだった。

 だが、不思議と木乃香は暖かい感覚に包まれて平静を取り戻す。穏やかな想いが身体全体に行き渡り、どこか、懐かしいような感覚さえ覚えた。

 

 ふわり、と連れ去るようにして木乃香の身体が『ソレ』から離れていく。

 

『逃サヌ、逃サヌ!!』

 

 それに気付いた『ソレ』が必死に『影』を嗾けるも全て、二つの光源が発する光によってうちけされ、『浄化されていく』。

 応じて、段々と木乃香の意識も遠のいていた。

 

『大丈夫。私が守るわ』

 

 その時、初めて自分を包み込む光から明確な声が聞こえた。

 聞いたことはない、だけど、『知っている』。

 

 殆ど、妄想に近い直感で正体に思い至った木乃香が慌てて声をかけた。

 

 

 

 “待って、待って! ()()()()!!”

 

 

 その叫びも虚しく、直後に木乃香は意識を失った。

 

 

 

 

 

 






お嬢様強化フラグ。

……それだけです。

今回で三分の二が終わった形になります。
次回から終盤戦に移行です。



……もしかしたら割と早く決着になるかもしれん。
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