一般人生徒リツカ!   作:ブタどもの一人

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アイスクリームおいちー。





京都・十三

 アラヤの怪物。

 

 ガイアの怪物ではなく、アラヤ?

 

 

 

「あれが、そうなのか?」

 

『いや、アレは()()、本物じゃない。少なくとも『素体』は近しい存在だけど『中身』は……アレは本来の『意義』を逸脱している』

 

 どういうことだ?

 恨みを口にするからにはアレも怨霊の類と予想していたのだが。

 

 怨霊というのは末恐ろしい。

 ネギま続編である作品では世界滅亡一歩手前までやらかしかけた怨霊が出てたりするし。

 

『……あれが怨霊だと?

 ばかな、アレはもう()()()()()()()()()()!』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉に気を引き締める。

 引き締めたところで、考えなければ死ぬのだが。

 

 

 

「せいっ!」

 

 冷静に状況を俯瞰する俺に対し、頼光はすでに攻撃を仕掛けていた。怨霊の類であるならば漏れ無く彼女の領分ではあるが果たして。

 

「ふん……」

 

 やはりというか、ヤツは頼光の一太刀を一本の刀で容易く受け止めていた。

 

「なっ!?」

 

「容易いものよ」

 

 巨大な刀を人のサイズで振るうのと同じように扱い、一閃で頼光を弾き飛ばす。

 激突した衝撃で橋を粉砕しながらも、頼光は瓦礫に掴まり即座に立ち上がった。

 

 

「おい……なんで、お前はそんな冷静なんだ?」

 

 そんな俺にエヴァが声をかけてきた。

 いや、なんでと言われても。

 

「気をやれば現状を打破できるならそうしたいがな。

 そんなことを言っていては死んでしまうだろう」

 

『……このような状況では君のその『胆力』は長所だ。さてリツカくん、アレを倒すにはどうすればいいと思う?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんは常に冷静だ。

 そういうところは素直に好感を持てる。

 

「そうだな、とりあえずあいつはまだ『未完成』なんだろ?」

 

 概念に至る一歩手前といっていた。

 ならばそこが奴のゴールと想定する。

 

『そうだね、()()に近い状態だが完全じゃない。覚醒すればもはや我々では手のつけられない相手になるが、今ならば仕留めることも或いは出来るだろう』

 

 精霊をして或いは、と前置きするということはそれなりの難度があるということか。いやまあ、あんな『いるだけで絶望する』ような得体の知れないバケモノに勝てるビジョンは早々浮かばないが。

 

 “何事も考えればなんとかできる”。

 事実、そうしなければエリちゃん共々死ぬというならそうするしかないわけだ。

 

 頼光がなんとか抑えてくれているうちに打開策を考える。

 

「なら、倒すだけだ。

 メインアタッカーは頼光。彼女は神秘に対して圧倒的に有利だ。アレがまだ怨霊の域にいるのならその間に仕留めるしかない。

 おそらくだが他の面々でアレに太刀打ちできる戦力はない。

 そうであれば、他の全戦力でアレを押しとどめて、出来た隙を頼光に突いてもらうしかない」

 

 おそろしく脳筋な策だ。スパルタの血でも入ってしまったか?

 だが、そんな策しか浮かばない。

 この場は、頭一つ抜けてチートな頼光に頼った方が賢い。

 

「足止め、敵の隙を作るのが私たちの役目ですね?」

 

 冷静にメカエリチャンは問う。

 

「そうだ。消耗の激しいお前たちに頼むのは気がひけるがーー」

 

「了承します。

 ……あと、あなたは私のパイロット候補生なのですから、堂々と命令しなさい。知識も、そこのクソ精霊とキャスターに次いであなたはある。『メタ』知識はあなたの十八番でしょう?

 気後れする必要は微塵もありません。存分に命令なさい」

 

 彼女にお叱りを受けた。

 いや全く、その通りである。少なくとも、彼女らの命を預かる身として自信なさげに命令するなど侮辱でしかなかった。

 

「……子イヌ。あの、あんまり無理しないでね?

 まだ疲れてるなら休んでいてもーー」

 

「大丈夫だよエリちゃん。そもそも戦うには俺が魔力送らないとダメだろ?」

 

「うう……でも、あなたーー」

 

「問題ない。……エリちゃんは引き続き、砲台役頼めるか?」

 

 頭を撫でながらそう言うと、エリちゃんは最初心配そうに俺を見ていたがやがてゆっくりと頷いた。

 

「私も行こう。なに、足止めくらいならば余裕だ。

『対人類用呪詛』とやらも私には効かないようだしな」

 

 確かにエヴァは吸血鬼だ。

 加えて再生能力もあるのならば、地力の差も多少は埋まるか。

 

「ぼ、僕もーー」

 

 拳を握りながら申し出る彼を手で制す。

 

「いや、ネギくんは待っていてくれ。これはもう“俺たち”の領分だ。それに奴がその気になればおそらくーー」

 

 言いかけたその時、俺たちをすっぽりと包み込むように『呪詛の塊』が現れた。憎しみに満ちた呪文の数々が視界を蝕む。

 俺は咄嗟にスクナの方を見る。

 

 奴はこちらを視認しただけでコレを発生させていた。

 

『ぬんっ!』

 

 しかし、俺たちの前に立った吉備津彦が足元に刀を突き刺すと、俺たちを包んでいた呪詛は丸ごと弾かれた。

 同時に、吉備津彦の全身に裂けたような傷が無数に現れ鮮血を飛ばした。

 

「吉備津彦!!」

 

『問題ない。……しかし、貴様らを守るのが精々なのは事実。先ほどの一撃で葬るつもりが、失策であった。

 故に、命が惜しくば我の後ろから動くな』

 

 心配そうに駆け寄る木乃香を諌めつつ、吉備津彦は仁王立ちを続けていた。

 気づけば俺たちを囲うように今度は五芒星が足元に現れていた。

 

『霊地に残る魔力を投入しても、なお生き残るとは。

 やはり、1()4()0()0()()()()()は伊達ではなかったか』

 

 吐血しながら彼は立ち続ける。

 

「キビ……え、と神様、たぶん私も役に立てると思う」

 

 そんな彼に協力を申し出たのは明日菜だった。

 その手に持つハマノツルギを見ながら吉備津彦はしばし沈黙した。

 

『……やむを得まい。貴殿には補助を頼む。

 我の横で剣を構えよ、必ず奴の前に剣を構えておくのだ、ずらせば即座に呪いに蝕まれる』

 

「はいっ!」

 

 元気に返事をして彼女は、吉備津彦の横で剣を構えた。

 その時、彼女の剣に凄まじい量の『呪詛』が当てられた。

 

「くっ、うぅ!!」

 

『焦るな、しっかりと、腰を入れて構えておれば大丈夫だ』

 

 吉備津彦の助言通りに彼女はしっかりと構え直す。

 剣に分かたれるようにして呪詛は左右に避ける。吉備津彦の張った五芒星の結界に沿うようにして他所へとはけていく。

 

 それを見ながら俺はサーヴァントたちに念話で指示を出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むんっ!!」

 

 頼光が振り下ろす刀がスクナの持つ巨大な刀で受け止められる。遅れて発生した雷撃すらも甲冑と兜で防ぎきる。

 

「フハハハハハ!!!!

 平安の怪異殺しすら、この通り!

 軽い、軽いわぁ!!!!」

 

 高笑いしながら頼光を弾き飛ばすスクナ。

 事実として、このスクナは実に俊敏に動く。先ほどまでの理性なき獣のような単純な動きではない。確かな知性を感じる太刀筋に頼光は舌打ちをした。

 単純に、この巨体でサーヴァントの動きをするのだ。

 流石に魔力放出を全力で使う頼光ほどの俊敏さは無いものの、技量としては中々に高い。

 

「1400年、ひたすらに貴様ら『ヒト』どもに復讐するためだけに存在してきたのだ!

 剣の腕くらいは磨いておるわ!!」

 

 厳密には、彼の取り込んできた怨霊が持っていた技量をトレースしているに過ぎない。しかし、無名であれそれなりの剣士を何万人、あるいは何億と吸い続けた彼は、それらを元に独自の型を編み出すまでに至っている。

『ヒト』としての剣士の技量はないが『プログラムとしての技量』ならば完璧と言って相違ない。

 

 また、受肉し『クラスが変わった』ことによりスクナの肉体が変化したこともある。生前、というよりも本来の両面宿儺としての肉体がようやく現れたと言った方が適当であるソレは、鎧甲冑と兜。確かな武技を有する威厳ある鬼面もその影響。

 しかし、本来であれば『両面宿儺はバーサーカーでしか辛うじて現界することができない』。

 皮肉にも『中身が入れ替わった』ことにより、それに侵食される形ではあるものの正しい両面宿儺としての肉体を手にすることが出来た。

 

 

 とはいえ、あくまでサーヴァントの範疇。姿形が本来のものに近づいても未だ彼はサーヴァントであった。

 

 

『アヴェンジャー・両面宿儺(無銘)

 

 

 人類を憎む極東の大怨霊は未だ名を持たずにいる。

 

 それこそが弱点。未だ何者でもないならそれはまだ『怨霊、死霊というカテゴリーにいるのだから』。

 逆を言えば何らかの名前を得たが最後、この怨霊は『人を呪い殺す概念』として日本どころか世界を脅かす真なる脅威となる。

 

 だからこそ今倒し切らねばならない。

 それがリツカと頼光が共通して認識する事柄である。

 

 

 

 そんな彼女にマスターから念話が入る。

 曰く、“宝具の開帳を求む。味方の援護によって隙を作るのでそこに全力の宝具を放ってほしい”と。

 

「っ、正気ですか!?

 私が言うのも何ですが、私を戦わせるだけでも相当な魔力を消費します。それに加えて宝具など発動すれば……」

 

 マスターは死んでしまう。

 

 無茶なのだ、六人も従えてあまつさえそのうちの四人に全力戦闘をさせている時点で。

 加えて頼光はバーサーカー。その中でも特に消費の激しいサーヴァントと自覚している。消費量だけでいえばあの大英雄にも引けを取らないだろうと自虐もしている。

 

 だからこそ、頼光はその判断を肯定することができなかった。

 せっかく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 せっかく、自分を召喚してくれた人に出会えたのに。

 

 ここで、死んでほしくはない。

 

 そう告げる。簡潔に。

 

 

 

『いや、これしか策はない』

 

 なおもマスターは策を取り下げない。

 

 その間にもメカエリやエヴァ、エリザベートの援護により多少ではあるが余裕は出来た。それでも到底、自分が全力の宝具のための溜めをする時間が稼げるようには思えない。

 

 実際、このスクナは先ほどよりも遥かに強力である。

 スペックはそのまま、あるいはいくらか上昇した状態で知性もあるのだ。振るわれる神代の力は頼光よりも濃い神秘を纏っており、呪詛に至っては任意の場所を『消しとばす』ほどには指向性と威力を得ている。

 明日菜や吉備津彦に守られる面々はともかく、エヴァなど何度も吹き飛ばされている。その度に再生しているが、消耗も見受けられた。

 メカエリはそもそも一箇所に止まらないように動き回り、エヴァも彼女に攻撃がいかないように振舞っている。

 それでも当たる時は当たるし、掠っただけで激しい損傷を負っているのも確か。

 

 要するに無茶だった。

 彼女たちではスクナは止められない。

 

「私が押し切ります。このまま、削りきれば……」

 

『それはダメだ。貴女も分かっていると思うが、奴は()()()と推測される。完全に受肉する前に、世界に存在を刻みつける前に何としても滅ぼす必要がある』

 

 もはや死に体であろうに、冷静に述べるリツカに頼光はやはり『彼とは違う』と感じていた。

 だが、()()()()()()()()()。サーヴァントとはそういうものだ、自分が記録から呼び出された別人であることも理解している。

 だからこそ彼女はリツカを守ろうと決めていた。

 

 厳密には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、自分を頼ってくれた彼には多少なりと好感を持っているのは事実だ。

 

 だからこそ、受け入れがたい策なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■ーー!!」

 

 リツカたちが両面宿儺と激闘を続ける最中、足止めに残った千代女と楓も、鬼神となった隠形鬼相手に奮戦していた。

 

 影に紛れてただ首だけを刈り取りに来る相手に、千代女は呪としてのオロチを多数招くことにより対抗する。

 楓はその間に様々な術を編んで、実体化した隠形鬼に叩き込んでいた。

 

 鬼神となった隠形鬼相手に、アサシンのサーヴァントと生身の人間では実に分が悪い。戦力差は歴然。なにせ相手は『忍の元』とも言われる古の鬼。

 Aランク宝具に値する『隠形首落とし(オンギョウ・クビオトシ)』の存在がさらに戦力差を広げている。

 その効果は『レンジ内にある影に潜み、そこから気配遮断を新たに発動した状態で奇襲を仕掛ける』というものであり、千代女の『呪』と楓の配置した罠によって辛うじて防いでいる状態。

 

 すでに両人の身体は傷だらけとなっていた。

 

 

 

「三郎!!」

 

 影から抜け出た隠形鬼に、不可視のオロチが襲いかかる。

 それを隠形鬼は『獣の勘』で避けていた。

 

「なんのっ!」

 

 そこへ、すかさず楓が巨大手裏剣を投げつける。

 難なく両刃刀でそれを防いだ隠形鬼に、手裏剣に付与された捕縛の術式が襲いかかる。

 

「っ!」

 

 蛇を模した術式が一瞬にして隠形鬼に絡み付くも、それを糸切れの如く引き千切る。

 動きを止められたのは一秒ほど。

 

「はあぁっ!」

 

「ニン!」

 

 その間に二人は隠形鬼へと痛打を与えるべく突撃していた。

 千代女はオロチの呪と共に刀を逆手に持ち、楓は退魔の術式を込めた苦無を手に、近づくと同時に紐を引っ張り手裏剣を手元に戻して攻撃する。

 

「グォッ!?」

 

 まずは千代女の斬撃とオロチによる締め上げ。それに続いて退魔の力を込めた楓の苦無と手裏剣が隠形鬼の身体に叩き込まれた。

 衝撃に隠形鬼はバランスを崩してよろけるも、倒れることはなかった。

 

「しぶといでござるな」

 

「同意でござる」

 

 両人の消耗は激しい。しかし同時に隠形鬼の肉体もそれなりの損傷を受けていた。

 

 まず楓の退魔の術式。平安の世に生きた鬼には些か効きにくいがそれでも何度も喰らえばかすり傷では済まない。それも()()()()()()()()()()()()()()()()()ともなれば。

 なによりも千代女の『呪』は確かに隠形鬼の体力を削っていた。

 

 サーヴァントであれ『伊吹神の呪い』は無効化するには至らず、チマチマと与えられた呪いは確実に彼の命を削り取っていた。

 

 本来、千代女はこうした『持久戦』に秀でている。

 地味ながら確かなダメージを与えられる呪いを付与し続け、結果的に相手を呪殺するのだ。

 もちろん、効きにくい相手やそもそも効かない相手もいるが、この鬼はあくまで『サーヴァントの宝具で召喚された鬼』であり、加えて適正がアサシンともなれば対魔力に相当するスキルを有していないことが仇となった。

 

 いける。そう確信した。

 そんな彼女らにまるで計ったようにチャンスが訪れた。

 

「グッ……■■■■■ー!!」

 

 また、唐突に隠形鬼が苦しみだしたのだ。膝をつき雄叫びをあげる様に二人はここが決めどころと判断した。

 事実、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔力供給も儘ならない状態で、鬼神に戻るなどという無茶をしたのだ。本来ならば『拠点に戻り十分な魔力補給を受けた上で発動するもの』。

 しかし、アサシンとしての役割を担っていた彼は『他の三鬼と違い十分な補給もせぬままに此度の戦闘に参戦していた』。

 

 以上の二点から隠形鬼は魔力不足に陥ったのだ。

 このまま持久戦を続ければ勝手に自滅する。しかしそんなことは二人の預かり知らぬことであり、この特大のチャンスで一気にカタをつけることにした。

 

 楓は得意の爆炎術式の中でもとっておきのものを編み始め、千代女は自らの宝具の詠唱を始める。

 

「“呪え、我が血を。祟れ、我が罪を……”」

 

 ……だが、隠形鬼も黙って見ているわけではない。

 イタチの最後っ屁のごとく、瀕死の身体で自身の得物たる『首狩り刀』を千代女へと投げつけた。

 

「ぐぅ!?」

 

 最後の力を振り絞って投げつけられた刀を、千代女は避けきれずに左肩を深く斬り裂かれる。

 

()()()()()!?」

 

 思わず声をあげた楓、普段ならばそんなことはないが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼女は声を上げずにはいられなかった。

 しかし千代女はそれを手で制し、詠唱を続ける。

 

「……“甲賀流・退魔爆鎖円舞(たいまばくさえんぶ)”!!」

 

 それを見て自らの役目を優先することにした楓は先手として鎖と炎に包まれた手裏剣を全力で投擲する。

 動けぬ隠形鬼はそれを直撃で受けた。

 

「■■■■■■ーーー!!!?」

 

 叫び声をあげて炎に包まれる隠形鬼。だが手裏剣は咄嗟に挙げられた左腕を斬りとばし明後日の方向に逸らされる。

 しかし続けて放たれた千代女の宝具を防ぐ体力は残っていなかった。

 

「“甲賀三郎より幾星霜、雪げぬものが此処にはあろう。

口寄(くちよ)せ・伊吹大明神縁起(いぶきだいみょうじんえんぎ)』!!」

 

 真名解放により呼び出された『ヤマタノオロチの分霊』。彼女の足元より無数に飛び出し隠形鬼へと一直線に進む。それらは幾重にも隠形鬼に絡みつきその身体を『呪術的に』締め上げる。

 

 ギシギシ、と抵抗も許さぬ神の力に隠形鬼の肉体は軋みそして引きちぎられていく。

 

「■■■■■■ーーーーー!!!!」

 

 苦渋の叫びをあげる彼は、やがて埋もれるほどの数のオロチに絡みつかれて、絞り切られて、『破裂した』。

 

 

 バシャン、と周囲に飛び散る肉片、鮮血を二人は黙って見つめる。

 

「やった、でござるか?」

 

 千代女は周囲の気配を念入りに探り、もはや隠形鬼の魔力が残っていないことを確認した上で楓に頷きを返した。

 

 同時に、気が抜けたようにその場に倒れこんだ。

 

 

 すぐに楓は走り寄りその小さな身体を抱き上げる。

 

()()()()()……!」

 

「案ずるな。……拙者は忍、すぐにでもお館様の、加勢に」

 

 笑いかける千代女の顔は当然ながら生気がなく、また大量の汗が流れていた。

 そんな状態の彼女を楓が放置する筈もなく、元より忍としてはお人好しの気質がある彼女は無言で千代女を抱きかかえた立ち上がる。

 

「お、おい、お主……!」

 

「……先の戦いでは幾度も助けられた故に、その恩は返さねば気が済まぬでござる」

 

 そのまま楓は忍の歩法にて、リツカやネギが向かった先を目指す。

 とりあえずは千代女がお館様と呼ぶリツカの元へと届けるべきか、と判断した彼女は、腕の中で抗議する千代女を無視して森を駆けていった。

 

 

 ーー本来なら出会うことなどあり得ない祖先。厳密には『この世界の千代女』では無いのだが、彼女がそれを知っているはずもなく、たとえ知っていても、それでも彼女は千代女を助けるだろう。

 お人好し、なのもそうだが、なによりも『幼き頃より伝え聞いた伝説のくノ一・望月千代女』を前にして彼女が敬意を示さぬはずがないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、風鬼をたった一人で抑えていた龍宮も苦戦を強いられていた。

 

「■■■ーー!」

 

「ぐっ!」

 

 咆哮をあげながら、万物を切り裂くほどの風を操り迫る鬼神。

『魔眼の通常機能』により敵の攻撃は見えてはいても、避けられるかは別問題。

 妖怪の中でも最強の一角と語られる鬼、中でも鬼神に至る存在を相手にしては誰であろうとも苦戦は必至と言えた。

 

 術師型であった前の状態とは異なり、バリバリに爪を振るって近接戦を仕掛けてくる風鬼に、龍宮はなんとか銃で対抗し致命傷だけは避ける戦いを続けていた。

 

 そんなことをしていれば、いずれは抑えきれなくなるのは明白。

 

 絶え間なく叩き込まれる暴風に、隙を埋めるように振るわれる鋭利な爪。龍宮の身体は当然深い傷を負っていた。

 そんなギリギリの戦いの中で、消耗していた彼女はあろうことか手を滑らせて銃を落としそうになる。

 その隙を風鬼は的確に突いてきた。

 

 迫る大爪、四方より襲い来る竜巻。

 それらを前にして、龍宮はようやく『魔眼本来の力の一端』を解放した。

 

「“座標固定(ロック)……事象遅延(モーラ)”」

 

 呟くような『呪文』。これだけで彼女の視界内にある、その中でも自分の近くに存在するものは『その動きをスローモーにする』。

 その隙にすぐさま全ての攻撃の射程外に逃れる彼女。

 

 動きが遅くなったのは一瞬で、ギシリ、と空間全体が歪むような奇妙な音を立ててすぐに遅れていたモノたちは動きを取り戻す。

 

「っ!?」

 

 しかし、先ほどまで『そこにいた』彼女が一瞬にして消えたことに風鬼は少なからず動揺した。空を切る爪と、何者もいない場所を通り抜ける竜巻。

 龍宮もこの隙を突いて銃弾を浴びせる。

 

「■■■■■■ーー!!」

 

 だが、いくら彼女の持つ『悪魔殺しの銀弾』だろうとこの鬼神の肉体を貫くには至らなかった。

 単純に、硬いのだ。そこらの召喚悪魔を殺すものでは到底役不足。それは分かっていても彼女もおいそれと、とっておきを使うわけにはいかなかった。

 

「やはり、貫けないか!」

 

 舌打ちしつつ、すぐにけしかけられた竜巻を避けるべくその場を離れる。

 

 と。

 

「なにっ!?」

 

 竜巻を囮にして風鬼はすでに彼女の退路へと回り込んでいた。このような頭脳プレイをするなど聞いていない、そう彼女が思う間に鬼神の剛腕はその細い首をガッチリと掴んだ。

 

「がっ……はっ……ぐ!」

 

 じわじわと締め上げるようにして力を強める鬼に、必死で銃弾やら蹴りやらを入れるもまるで効く様子もない。

 

「座標……固定(ロック)……“逆行(アド・プラエタリタ)!!」

 

 絞り出すようにして『詠唱(キー)』を唱える。

 途端、彼女の魔眼は『宝石のように煌めき』、今度は『風鬼の動きが逆再生され始めた』。

 

「■■ッ!?」

 

 自ら獲物を手放した、『動きを逆になぞった』事実に風鬼自身も訳もわからずに混乱した。

 ……当たり前のことだ、時間を操るなどそれこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ! 使い過ぎたか!」

 

 つつ、と左眼から垂れ流される血に悪態をつきながら彼女は即座に魔法陣から中折式水平二連散弾銃を『二丁』取り出し、風鬼の土手っ腹に同時発射した。

 

「ッ!!」

 

 ズガン、とけたたましい音を立てて放たれるのは魔力による強化を施された特製の弾丸。衝撃で腕が軋む。

 しかし風鬼を後方へと弾きとばすことは出来た。

 

「はぁ……はぁ……!!」

 

 残弾の無くなった二丁を放り投げて、新たに黒塗りの拳銃を取り出す。

 コルト・ガバメントで知られるそれは『M1911A』。

 片手には『刻印』の入った黒いナイフ。

 どちらも『対魔性用』にカスタマイズされたもの。

 銃に至ってはあまり原型を留めていないが。

 

 彼女の今所持するとっておきの一つ。

『エジプトでとある女性から貰ったモノ』と『神戸で出会った女性から貰ったモノ』。

 どちらも『対魔性』特性を付与されており、単純な威力では『純粋概念』の武装には遠く及ばないものの、それ以外の退魔、『対悪魔』用兵装としては上位に位置する代物である。

 ちなみにこれらを受領した時期は彼女がまだ『彼』と共にいた頃であり、思い入れのある代物でもあった。

 

「だからこそ、信頼できる」

 

「■■■■ーーーー!!!」

 

 先ほどの近距離射撃で裂かれた腹からボタボタと血を流し雄叫びをあげる風鬼を前に、CQCの構えを見せる龍宮は『報酬のために』不退転の覚悟を新たにする。

 

「“過去(プラエタリタ)参照(レフェッレ)

 記録再現(ウォカーレ・モヌメントゥム)”!!」

 

 詠唱と共に、彼女の魔力が『数倍に跳ね上がる』。

 同じく腰の翼はより鮮明に姿を現し、身体には『呪文のような模様が浮かび上がる』。それらは等しく『緑色に発光していた』。

 応じて左眼からの出血も増える。

 

 ……しかし負っていた傷は急速に塞がりつつあった。

 





魔法じゃないです。二つの意味で。
『権能』とかそこらへんのお話。

スクナMk-2さんも獣さんじゃないです。
隊長は魔改(界)造の被害者なんです。
ちなみに古菲も次回ちょこっと出ます。

だって、半魔族で魔眼持ちで他不明じゃ訳わからんのだもん…
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