一般人生徒リツカ!   作:ブタどもの一人

6 / 45
エリちゃん大活躍といったな、

あれは嘘だ(ババン!


例によってカオスな話。

追記:244さん、どたまさん誤字報告ありがとうございます!!マジで気を付けます(汗


キーアイテムはいつも都合がいい時と場所にある。

「では、行くか」

 

「おう」

 

 三月某日、日曜。俺はエヴァを伴って図書館島の探索に赴いていた。

 

 探検部が使っている裏口から入りそのまま中を進む。

 図書館内部はハリーポ○ターの摩訶不思議空間になっていた。具体的には足場が複雑怪奇に入り乱れ、所々水路のようなものが通っていたりする。

 その中に本棚が置かれているのだ。

 

「改めて見ると作り雑じゃね?」

 

「まあ、素人が増改築など繰り返せばこうなるだろうな」

 

 しかも担当素人だったのかよ! そりゃこんなカオスな作りになるわ!

 一応、貴重な書物も保管してるんだからもっとしっかりした作りにしろよ。

 

「用があるのは魔法関連のエリアだ、一気に抜けるぞ」

 

「ああ」

 

 俺は先日、修復してもらった藁人形の力を使って疾走する。

 この『対物理硬度強化術式』はガンツスーツと称した通り、使いようによってはこうして擬似身体能力強化として使える。

 

 一般蔵書領域にあるトラップを越えて一気に魔法領域に至る。

 地下深部にあたる場所だ。

 

 周りの景色もハリポタから、どこか暗い雰囲気の普通の本棚に変わっている。

 もっとも、その広さは上階に負けず劣らず、広大だ。

 

 立ち並ぶ本棚の先が全く見えない。

 

「さて、この中から探すことになるか」

 

「いや、もっと奥に行こう」

 

 長期戦になると思い辟易としているとエヴァが提案してきた。

 

「どうしてだ?」

 

「貴様は虱潰しに探すつもりだろうが、ここらの蔵書なら純粋な魔法関連しかないのは私が確認済みだ」

 

 マジかよ、伊達に長年ここに住んでいないというわけか。

 

「あまりに暇だったのでな、私でもまだ下は見ていない」

 

 この下っていうと。

 

「地下図書室、とかいうやつか」

 

「当たりだ。奥に行けば行くほど重要な書物というのが通説だがここも例に漏れず、だ」

 

 俺は彼女に頷き、地下へと歩を進める。

 俺とて図書館島に関してはここ最近の知識と経験しかない。

 経験豊富な彼女に従うべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 地下図書室。もはやうろ覚えに等しい前世の知識を必死に絞って出てきた水没図書館というイメージ通りに、まさに水辺に浸かった本棚たちが散見される場所だった。

 壁が発光している関係で辺りは昼間と同じくらい明るく、上階の薄暗い雰囲気からは一転して幻想的な印象を受ける。

 

「いろいろ突っ込みたいところがあるけど、とりあえず探すか」

 

 なんで水に浸かってるのに本が無事なの、とか、なんで壁光ってんの、とか。

 

「っ! 待て。そこの本棚、上から三段目、右から二番目だ」

 

「え、なんかあんの?」

 

 突然、何かを察知したように早口で述べる彼女に従って本を抜き取る。

 

 よく見れば他の本と違って新品同然の綺麗さでーー

 

「『英霊召喚』だと?」

 

 まんまなタイトルが表紙にデカデカと書かれていた。

 

「当たりだな」

 

「いや、怪し過ぎるだろ」

 

 なんだこれ、明らかに人為的につい最近置かれたような本。これ見よがしに英霊召喚とか書いて。

 絶対、罠だろ。

 

「まさかお前が置いたわけじゃないよな」

 

「なんでそんな無駄な労力を割く必要がある」

 

 呆れ顔のエヴァ。まあそうだよな。

 じゃあ誰がこんなこと。

 

「とりあえず読んでから判断したらどうだ?」

 

 妙にノリノリなエヴァに違和感を感じるが、言う通りなので素直に従う。

 

 中は丁寧に日本語表記だった。

 

「えーと、『初めての英霊召喚を御手に取っていただきありがとうございます』」

 

 すごい俗っぽい入りだ。

 

「『本書では誰でも簡単に英霊を召喚できる方法をお伝えしていきます。どうぞごゆるりとお楽しみください』」

 

 前書きだ、普通の前書きだこれ。間違っても魔導書に書いちゃいけない類のやつだよ。雰囲気ぶち壊しだよ。

 

「『では、ここからは本書のマスコットキャラに案内をお願いしましょう。令呪くーん!』……は?」

 

 読み進めていくと、次のページに突然現れたのはまさに令呪と言うべき赤い線の集合体、令呪そのものに手足が付いたような気持ち悪いキャラだった。

 

『やあ、僕は令呪くん! これから君の初めての英霊召喚をサポートするよ! 大丈夫、ちゃんとできるように僕も手伝うから!』

 

 果てしなく気持ち悪い。何がって、令呪が手と足を付けてコミカルなセリフを吐いている図が。

 

「……それ、本当に魔術の本なのか?」

 

「俺に聞くなよ、おふざけ気味に書いてあるが少なくとも英霊召喚の方法は俺の知ってるものだ」

 

 触媒を用意して魔法陣を敷き、詠唱。

 その詠唱もまさに英霊召喚のものだ。

 

「じゃあ、やってみろ」

 

「マジかよ」

 

 こんな見るからに怪しい奴、使いたくない。

 

「ならば他の本を探すか? それこそ確実性に欠けるが」

 

「あー、分かったよ」

 

 仕方ない。現状、この本がこの世界で初めて発見できた魔術に関連する書物なのだ。

 今、手掛かりがこれしかないのなら例え嘘っぽい文面だろうと試した方がお得だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあいよいよ召喚だ! 大丈夫、僕も君が良い出会いを出来るように祈っているからね!』

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」

 

『本当は触媒があった方がいいんだけど。

 ……まあ()()()そんなもの無くても縁で引き寄せられるよね?』

 

 っ!!その一文にぞくりと悪寒を感じた。

 何処の誰だか分からんが、藤丸立華という人物を知っているような口ぶりだ。

 

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 描いた魔法陣から僅かに風が巻き起こった。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 ふと、脳裏をよぎるイメージ。

 

「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 ()()()。その背後には禍々しき触腕が無数にーー

 

「ぐっ! つ、告げる!」

 

「おい、大丈夫か?」

 

 呻き声を上げた俺を心配してエヴァが手を伸ばす。それを振り払い、俺は詠唱を続ける。

 

「 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 触腕が蠢く、鍵を絡め取らんとそのおぞましき腕を銀の肌に這わせる。じわじわと、じわじわと甚振るように絡まり絡まってーー

 

「ち、誓いを……ここに!」

 

 詠唱を始めてから突然脳裏に入り込んできたソレ。

 じわじわとこちらの精神を削るような狂気を流し込んでくる。

 気を抜けば正気を失ってしまいそうな、そんな『狂気』を。

 

 壊したい、殺したい、潰したい、引き裂きたい。

 

 ーー犯したい。

 

「っ! お前っ!」

 

 視界に捉えたエヴァが無性に魅力的に見えて、その肌を汚したくて、その無垢な心を蹂躙したくて。

 ーー待て待て。何考えてんだ。今は召喚の最中だろ。

 

「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 なんとか、自我を保ちながら絶えず脳内を掻き乱す狂気から逃れる。

 さっさと召喚を終えてしまえばこっちのもんだ。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 告げる。最後の一節を。

 

 途端、視界を覆う光が魔法陣から放たれ思わず目を覆った。

 

 

 

 

 

 

 まったく、気軽に英霊召喚とかするもんじゃないわ。

 危うく永続的発狂に陥るところだった。まったくもってシャレにならない。

 いきなり変なイメージが入り込んできた時は驚いたが、映像を見てからすぐにクトゥルフ関連だと気付いた。

 というか“あの神”を見てしまったらSAN値直葬だったと思うのだが。

 

「こんにちは」

 

 ふわり、と幼い少女の声が聞こえた気がした。

 閃光からしばし時を置いてから放たれた空気を震わせるその音は、とてもさっきまでの狂気とは無縁に思えるほどに幼く美しく無垢だ。

 

 やっと目くらましから解放された俺が瞼をしばしばさせながら開くと、魔法陣の上には一人の女の子が立っていた。

 

「き、君は……」

 

 見たことがある姿だった。

 いや、前世では見慣れた姿だった。

 フリフリのドレスのような衣装をまとった小さな女の子。

 金髪碧眼の少女。

 首から下げるネックレスには『銀の鍵』。

 

「私、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アビゲイル・ウィリアムズ。史実に記されるセイラム魔女裁判の中心人物にして最重要参考人にして事件の発端となった少女。

 二十名以上の死者を出した痛ましき事件だ。

 誰も彼もが魔女だと告発されて問答無用で処刑された、狂気の事件。

 真相は集団ヒステリーだと言われている。

 

 彼女が歴史に記されているのはそれだけ。本来なら英霊でもなく辛うじて幻霊と認められるかどうかの存在だ。

 当たり前だ、彼女に戦いの逸話などなく、能力もなく、ただ凄惨な事件の発端となり引き金を引いてしまっただけのただの女の子なのだから。

 

 ただ、fate世界においてはそうはいかなかった。

 とある作家の残した架空の神話に関わる物語において、彼女は関連付けられていた。

 その所為か定かではないが、かの世界において彼女は『あの世界』とつながる巫女としての力を有してしまっていた。

 それを悪用した魔神の策略により世界は危機を迎え、紆余曲折の末にカルデアが解決するのだが。

 

 とにかく、その出来事により彼女には『あの世界』を繋ぐ力が宿りその状態で座に刻まれる事態となってしまった。

 

 

 俺は前世において彼女を引き当てていた。給料をつぎ込んで。

 希少な新クラスであったこともあり、なにより可愛いのでめちゃくちゃ使っていた。パーティーには必ず入れていた。

 もしかしてその所為で彼女が呼ばれてしまったのか?

 

 

「アビー……」

 

「うふふ、お久しぶりねマスターさん」

 

 ふにゃりと年相応の笑顔を浮かべて嬉しそうに述べるアビー。

 うわあぁぁぁぁ! 可愛い、可愛いよアビー!

 

「驚いたな、まさか君が来るとは。いや、それ以前に」

 

 あの本が本物であったことも。

 

「っ!」

 

 不意に、手の甲に痛みが走った。令呪がある方とは別の方に。

 次の瞬間、刻まれる赤い線を見て衝撃を覚えた。

 

「二つ目の令呪?」

 

 それはまさしく令呪だった。もう片方を見てもしっかりと二画の令呪が残っている。つまり、まったく新しく三画の令呪を賜ったということ。

 

「チートじゃねぇか」

 

「おい、勝手に納得してないで私にも説明しろ!」

 

 じわじわと後戻りできないところまで来てしまっているような予感を感じていると、エヴァからの怒声が耳に響いた。

 

「そうだな、とりあえず魔術は成功だよ」

 

「なに? では、あの小娘が英霊とか言う奴なのか?」

 

 どうにも納得していない様子のエヴァ。

 確かにアビーは見た目ただの女の子だ。普段の言動もとても微笑ましいものが多い。

 だが、その身に宿す業は並みのそれではない。

 

「ああ、紹介しよう。彼女の名はアビゲイル・ウィリアムズ」

 

「こんにちは! 気軽にアビーと呼んでくださいな」

 

「むっ」

 

 アビーから差し出された手をエヴァはしばし見つめてから渋々握った。

 

「あなたのお名前は?」

 

「は?」

 

 名前を尋ねられ呆れた顔をした彼女はアビーの手を放してズカズカとこちらに近付いてきた。

 

「おいリツカ!!」

 

「はいはいリツカさんですよ」

 

「何だあれは! どこからどう見てもただの小娘ではないか!」

 

 だろうね。だって第一再臨状態だし。

 

「うん」

 

「うん、じゃない! どこが成功だというのだ!」

 

 他にも色々とまくし立ててエヴァはすっかりヘソを曲げてしまった。

 あれだ、彼女はアビーのことを本当にただの少女だと思ってる。

 あれ? 魔力とか感じないのかな?

 それともこの状態のアビーは一般人ほどの魔力なのか?

 

「落ち着けエヴァ。それでも彼女は立派なサーヴァント、英霊だ」

 

「証拠を見せてみろ」

 

 そんなこと言われても。

 仕方ないなぁ。

 

 困惑気味なアビーの方へと向き直りさっそく指示を出す。

 

「ごめんなアビー、ちょっとだけ力を見せてやってくれないか?」

 

「力? これでいいかしら?」

 

 スッと彼女が手をかざすと突然地面から光り輝く触手が幾つも生えてきてエヴァを一瞬で絡め取ってしまった。

 

「うおぉぉぉ!? な、なんだこれは!?」

 

 突然触手に捕まりエヴァも混乱したように叫んでいる。

 はは、魔力を封じられた状態では手も足も出まい。もっとも、力を取り戻してもこれに勝てるとはあまり思えないが。

 

「は、離せーー!」

 

「アビー、もういいよ」

 

「そう?」

 

 彼女がもう一度手をかざすと触手はパッとエヴァを放して消え去った。

 突然宙に投げ出されたエヴァはそのまま地面に落下する。

 

「ふぎゃ!」

 

「これで分かったろ、この子も英霊だって」

 

 落ちた時に尻を痛めたのか涙目でさすりながらこちらを睨みつけてきた。

 

「ああ……こいつ、先ほど一瞬だけ膨大な魔力を放ちおった。ともすれば全盛期の私に匹敵する量だ」

 

 そうだろうな、だって時空を支配する神だもん。

 アビーを介しての間接的な干渉とはいえ相当な魔力量を放っていることだろうよ、アビーにもそれは反映される。

 

「アビゲイル・ウィリアムズ。確かセイラム魔女裁判の関係者だったな」

 

 魔女という単語に、アビーが露骨に嫌な顔をしたが彼女を語る上ではその話も抜かすわけにはいかない。

 

「だが、あれはただの茶番でありアビゲイルという娘はただの少女だったぞ」

 

「その通りだ。ただこのアビーは色々あって神の力を宿しているんだ」

 

「神?」

 

「ヒントは『銀の門』『戸口に潜むもの』。クトゥルフ神話に詳しければ分かると思うが」

 

「ヨグソトースだと!?」

 

 

 ヨグソトース、或いはヨーグルトソース。ヨーグルトとも。

 クトゥルフ神話に語られる外なる神という神の一柱にして副王の地位にある存在だ。

 この神は時空の秘密を解き明かしているとされ、過去未来現在の全ては彼にとっては一つでしかないらしい。

 要はどの時間帯にも彼は存在しているという、ちょっと意味わかんないですね、という反則チート野郎だ。

 まあ、王であるアザトースに至っては宇宙の生みの親とか見るだけで死ぬとか色々とぶっ飛んでいたりするが。

 

 

「馬鹿な! アレは作り物だ、架空の話だ」

 

「“この世界では”な」

 

「……何が言いたい」

 

「だから、彼女がいる世界では存在していて過去のいざこざでその力を宿してしまっただけの話ということだ」

 

「そんな話があるか、英霊とは歴史に刻まれた英雄なのだろう。異世界の話など持ち込めばキノコ野郎とか緑の帽子の勇者とかなんでもありじゃないか!」

 

 例えが古い。あと、怒ってるのか興奮してるのか分からない顔はやめろ。そんな『くやしい、でも興味津々なの!』みたいな。

 

 確かに最近の英霊判定はなんでもありな風潮があるが。

 俺も彼女が来るのは予想外だった。よりにもよってエクストラクラスの中でもややこしい奴が来てしまった。

 

「マスターさん、もしかして私はお呼びじゃなかったのかしら」

 

 だが、しゅんと落ち込んだアビーを見てしまってはそんな考えは破棄する他無かった。

 だって俺が呼んじゃったんだしね。

 

 来ちゃったものはしょうがない。

 

 

 

 

「とりあえず関係ありな本は見つけたからな、今日はここまでにしよう」

 

「仕方あるまい。結局、正体不明の輩が二人に増えただけだったが、それはそれで面白い」

 

 左様ですか。

 俺はこの後、どうやってエリちゃんに説明すればいいのか悩んでいる。

 だって二年も彼女と二人でやってきたのにいきなり他のサーヴァント加えるとか言ったら拗ねちゃいそうなんだもん。

 

 俺もちょっと複雑だけど、

 

「マスターさん……」

 

 こんな困った顔のアビーを無慈悲に送還とか出来ないじゃんね。寧ろ送還とかしたら彼女の『お父さん』に外宇宙に放り出されかねない。

 あいつ、普段は子ども作っても放置なくせにアビーに関してはご執心らしいからな。まったく勝手な野郎だ。

 

「大丈夫だよアビー。エリちゃんもいるから」

 

「え! エリザベートさんもいらっしゃるの!?」

 

 一転、花が咲くような笑顔を見せるアビー。やっぱ知り合いがいると安心するよな。

 ところでリツカさんも知り合いだと思うのだけど。男はダメ?

 それとも変態紳士だからかな?

 

「マスターさん、なんだか少しだけ気持ち悪くなった気がするわ」

 

「ひどいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!? あなたアビー!?」

 

「お久しぶりエリザベートさん!」

 

 帰宅するなり先に帰っていたエリちゃんとアビーが感動の再会を果たした。

 聞くところによると、カルデアではフォーリナーという得体の知れないサーヴァントゆえに大半の面々が距離を置く中でエリちゃんは持ち前の“図太さ”で、外なる神とかまったく気にしないで親しくしてくれたらしい。

 さすエリ。

 

「子イヌ子イヌ」

 

「はい子イヌだよ」

 

「アビーもこれから一緒に暮らすのかしら?」

 

「まあね、故意ではないとはいえ呼んでしまったのなら一緒に暮らした方が安全だし安心だよね」

 

 たぶん俺のサーヴァントという扱いなのだろうし。

 

 あとでアビーに聞いた話ではやはり魔力に関しては世界樹が一任されているらしい。

 サーヴァント二人ぶんの魔力とか、枯れちゃったりしないのだろうか?

 

 前々から思っていたが、あの世界樹には謎が多い。ただ魔力を溜め込むだけのタンクならわざわざあの樹の周囲に街を作ってまで囲い込む必要はない。

 まあ、地下にはトンデモナイのが封印されていたり古いゲートが落ちてたりするが。それはあくまで後世に付けられたものであって、始めにこの地を街にしようとした奴は一体何を知っていたんだろうな。

 

 考えても分かることではないので今は推測をやめる。

 令呪もあの樹から貰ってるみたいだし、もしかしたらこの世界の『聖杯』に相当する存在なのかもな。

 

 

 

 

「美味しいわ! マスターさん、お料理も上手だったのね」

 

「はは、一人暮らしだったからね」

 

 二年前までの話だが。

 それからはエリちゃんのおかげで賑やかな生活を送ることができた。これからは更に賑やかになりそうだ。

 ご飯粒をほっぺたにくっつけながら微笑むアビーを見て思う。

 

「ほらアビー、ほっぺにご飯粒付いてるわよ」

 

 エリちゃんに指摘されアビーが急いで頬をペタペタと触る。

 

「え!? ほんとだ……恥ずかしいわ」

 

 頬を赤くして手で顔を覆ってしまうアビー。ぶかぶかの袖で顔を覆う姿はとても可愛い。(語彙力

 

 

 

 

 

 夕食を終え、就寝と相成った。

 エリちゃんの布団はそのままだが、アビーの分が足りないので俺の布団を貸し出し俺はソファで眠ることにした。

 

「俺ので悪いけど我慢してくれ」

 

「そ、そんなことないわ。でも、いいの?」

 

 申し訳なさそうなアビーが寝巻き姿で布団をぎゅっと掴む。

 

「別に気にしなくていいよ。学園長に言えば新しいのくれるだろうし」

 

「でも、サーヴァントに睡眠は必要ないわ。そう考えたらマスターさんが使った方がずっと合理的よ」

 

 実にロジカルです。

 いやまあ、そうなんだけどね。

 

「俺が居た堪れない気持ちになるからさ、アビーに使ってもらった方が俺も嬉しいよ」

 

 自分だけ寝てアビーを一人夜中に起こしておくとか正気の沙汰じゃない。罪悪感で死んでしまう。

 

「ありがとう」

 

 嬉しそうにはにかんだ彼女は布団に横になった。

 ちなみにエリちゃんはすでに寝ている。

「おやすみー!」と言ってすぐに寝てしまうのは長所だと思う。

 

 アビーの言う通りサーヴァントに睡眠は必要ない、食事も不要だ。

 でも、それって寂しいじゃんね。別に気にするほど金に困ってるわけじゃないし、魔法関連の事件を解決すれば金もらえるし。

 結局、俺は俺のやりたいようにやってるだけなので誰も何も気にする必要はないのだ。

 

 

「さて、俺も寝るか」

 

 一人つぶやいてソファに横になる。すると、気付かないうちに疲れが来ていたのかすぐに睡魔に襲われてーー

 

「ねぇ、マスターさん」

 

 夢の国に旅立とうとして、身体を揺すられる感覚に起こされた。

 

「……アビー?」

 

 目を開ければ、不安そうな顔のアビーが立っていた。

 両手で枕とぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながらこちらを見ている。

 

「あの、出来ればでいいのだけれど……一緒に寝てくれないかしら?」

 

 金髪碧眼幼女の上目遣い。いいと思います。

 

 しっかし、彼女がそんなことを言うとは。いや、怖がりなんだろうなぁっていうのは知ってたけどね。

 なんというか、俺にそんなことを言うとは思わなかった。

 

「え、と、それって一緒の布団でってこと?」

 

「……」

 

 恥ずかしそうに頷く彼女。きっと、こんなこと言うと子どもっぽいとか考えてるのだろう。

 大丈夫、俺得だよ。

 

 ふと、エリちゃんに頼めば、と思ったがそういえば彼女は未だに潔癖症を持っていたことを思い出す。イマイチ彼女の潔癖スイッチが分からないが、俺が触れるのはダメらしい。

 かなりショックを受けたのを覚えてる。

 

 ともかく。

 

「じゃあお布団行こうか」

 

「う、うん」

 

 未だに顔を赤らめたアビーを伴って布団に横になる。

 身長差からか自然、俺の腕を枕にする形になる。

 

「マスターさんの腕、やっぱり落ち着くわ」

 

 おいおい聞き捨てならんな。まさかあっちの立華くんはアビーに腕枕とかしまくっていたのかい?

 俺と似てる魂といえば確かにそんなことしそうだ。

 

「程よく筋肉が付いていて、でも暖かくて頼り甲斐のある……」

 

 リツカベタ褒めトークの途中でアビーはうとうとし出して、そのまま眠ってしまった。

 静かな寝息だけが横から聞こえてくる。

 

「寝ちゃったか」

 

 こうして寝顔を見てみると、本当にただの女の子だ。

 ずっと見ているとこっちもほんわか暖かい気持ちになってくる。

 

 ロリコンだなんだ言ってるが子ども好きなのは本当なので素直に微笑ましいと思った。

 世のお父さんはこんな気持ちになっていたりするのだろうか?

 

 まだ見ぬエリちゃんとの新婚生活を思い描きながらいつの間にか俺も深い眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『リツカよ……』

 

 暗闇の中、俺を呼ぶ声がする。

 

『リツカ、転生せしマスターよ』

 

 こいつ、脳内に直接! え? まさかルルイエの主人とか言わないよね?

 

 怖いけど、ずっと呼んでくるので仕方なく目を開く。

 

『リツカよ……』

 

 ……。

 

『……』

 

 よ、ヨーグルト!?

 

『ヨグ=ソトースである』

 

 目を開いたら七色の肉塊が喋ってた件。

 伝説のスレになると思います。

 

 ぎゃぁぁぁぁ!! 俺の正気がぁぁぁ!!

 

『くだらぬ三文芝居はやめろ、貴様も()()()()()だろう?』

 

 やめてください、俺は一般人なんです。前世は少なくとも一般人だったんです。間違っても音の塊とか光の柱とか肉の塊ではないんです。

 

『まあいい、それよりも我が娘をまたしても呼び出したらしいな』

 

 なんですか、しょうがないじゃないですか。俺だって誰が来るか分からなかったんだもん。その場のノリで呼んでしまったのは申し訳ないけど戦力的には大アップなので得した気分です。

 ダメなんですかお義父さん。

 

『お義父さんと呼ぶな!! まったく、性懲りも無くポコポコ呼びおってからに……』

 

 ぶつぶつと文句を言いだすお義父さん。

 え、まじでヨーグルトなの? 夢とか入ってくるの?

 というか、娘が心配で夢にまで干渉してくるとかキャラ崩壊どころの話じゃねぇよ、例によって俺のSAN値は無事だし。

 

 純粋に気持ち悪い肉の塊としか思えない。

 

『……であるからして、貴様にもアビーの契約者としての心構えをだな』

 

 ヨグの説教が長い。なんでこんな過保護なの? そんな心配なら直接出てきてアビーに語りかけてやれよ。

 

『出来ないからこうして貴様に頼んでいるのだろ』

 

 結局何しに来たんだよ、もういい加減寝させてくれよ。

 

『貴様が彼女をどうするつもりなのか、だな』

 

 どうするつもり? うーん、今の所は特にお願いすることもないけどとりあえず前みたいにサーヴァントとして戦ってもらうとか?

 

『彼女を危険な目に合わせたりしないだろうな?』

 

 状況によるな、ただ、彼女を故意に危険な目に遭わせるつもりはない。

 

『ほう、貴様ごときが彼女を守ると?』

 

 そりゃあ、時空の神の化身とか俺なんかの助けは必要ないかもしれないけどな。

 

 でも、俺だって彼女のマスターなんだ。前のリツカがどうだったかは知らないが、俺は彼女も守るつもりだ。

 

『笑わせる。どこまでいっても凡人に過ぎない貴様が? あの最後のマスターとて唯一無二の才覚を持っていた。それすら貴様にはないのだぞ? あるのは実に凡庸な精神と身体。

 罷り間違っても貴様では人理を守ることもできんだろうな』

 

 そんなことは分かってるよいちいち言うな。

 でも、だからこそ今、俺のサーヴァントである彼女たちに関しては最後のマスターに()()()()()()()()()()()

 

『なるほど、実に凡人らしい矮小でくだらないプライドだ』

 

 お前にはそうだろうよ。それでも俺にだって意地ってのがある。

 

『……ふん、まあいい。とにかくアビーに変なことしたら外宇宙に放り出すからな』

 

 へーん、ヨーグルトごときにやられるかっての。

 

『その威勢がどこまで続くか、時空の果てより見ているぞ』

 

 それだけ言い残すと肉塊はヨーグルトに変化してそのまま溶けて無くなった。

 

 

 

 

 

 やっぱヨーグルトじゃねぇか!

 

 

 

 

 




最後のはヨーグルトであって時空の神ではありません。



エリちゃんの活躍はバトルパートかなぁ。(遠い目

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。