一般人生徒リツカ! 作:ブタどもの一人
「……なぜ、リツカがここにいるのでしょうか?」
本棚を漁っているとデコ助が声をかけてきた。
怪訝そうな顔で。
「ん? 言っただろ、エリちゃんのプロデューサーだって」
自己紹介したと思うのだが。
「いやおかしいでしょう! なぜプロデューサーが中学生の担当アイドルとこんな場所まで勉強に来るんですか!」
ご最もな意見で。
「違うなゆえっち。プロデューサー
「は?」
「プロデューサーとは、アイドルをサポートする人間だ。それはただ仕事の斡旋、営業をすればいいってだけじゃない。
エリちゃんという学生の身分でアイドルを務める子にこそプライベートにおけるケアも必要、必然、学業におけるサポートも必要となる。
現に346プロダクションでは、その年代に合わせて遊園地に連れて行ったり晩酌に付き合ったり、もちろんだが勉強に付き合ったりもしている。
果てには、アイドルの恋愛欲を紛らわすために擬似デートをーー」
「……いや、騙されませんよ? なにそれらしい理論付けで逃げようとしてるんですか」
ぐ、こいつ意外に知恵をつけて来やがった。もちろんだがこの世界に346も765も存在しない。後世になれば設立されるのかもしれないが2002年の日本にはない。全国のPは泣いていい。
あ、パラケルススさんはご遠慮ください。
まあ、ゆえっちはバカレンジャーの中でもかなり聡い。
それどころか非現実に対する対処も他のクラスメイトよりも早い。
頭の回転は早いのだ、彼女は。
それが勉強に向かないというだけで。
「あー、まあエリちゃんとは元々知り合いだったんだよ。
で、お前達が行方不明だっていうから一緒に探しに来たわけ。一応お前には恩があるしな」
「あ、そ、そうなのですか? それは申し訳ないことをしました……」
少し気まずそうに俯くゆえっち。
言った手前、気にするなってのもおかしな話だがーー
「特に気にすることじゃない。俺に関しては空気と思ってくれて構わないから」
「そ、そんな……私のせいでこんな場所まで来ていただいて、まだ帰れるかも分からないのに」
まあそうだよな、普通に授業してる方が神経図太いというか、鋼メンタルというか。
普通は勉強なんぞよりも脱出を優先する。
「ほう、ではいつぞやの約束を果たしていただきたいのだがね」
「? なんの、ことですか?」
不思議そうに小首を傾げるゆえっち。
忘れたとは言わせんぞ。
「この前の自販機での一件、まだ約束を果たしてもらってないのだが」
「なっ!? ま、まさか本気で言っていたのですかあなた!?」
顔を上気させて怒るゆえっち。まさか冗談だとでも?
俺はいつも全力全開、お前の全裸お散歩を今か今かと待ち続けていたのに。ゆえっちときたらガン無視スルーなんだもんな。
正直、痺れを切らしています。
「ほら、今ならネギ先生とクラスメイト五人に見られるだけで済む。ダメージは少ないぞ」
「いや、大ダメージですよね!? 身内に知られるのが一番ダメージデカイですよね!?」
いやそれは間違いだぞゆえっち。
「公然猥褻で前科を食らう方がよっぽどダメージがでかい。なにせその後の人生全てで『変態』という業を“公に晒しながら”背負い続けなければならなくなるからな」
履歴書以前の問題、“やっていようとやってなかろうと”、『実刑』が降ってしまえばそいつは『変態』なのだ。
ムショに入れられでもしたら目も当てられない。
経験者は語る。
「なんか、妙に説得力を感じる言葉です……もしや、あなたーー」
「おっと、俺は
性に関する法律にはな。
暴行とかは知らん。魔法使いさんたちの法的に“得体の知れない使い魔を連れた高校生”がどれだけ手を出すことを許されてるのか。
神のみぞ知る。
「まだって何ですか、まだって……」
胡散臭そうに見つめてくる。そう見つめるな、照れるだろ。
「というかそんなので誤魔化されんからな。早く全裸お散歩始めるぞ」
「やらないですよ!? なに当然のように催促してるんですか!?」
「おいおい、そりゃないぜゆえっち。そうなると、もうーー」
手をワキワキさせてゆえっちににじり寄る。
彼女は反射的に身の危険を感じたのか己が身を抱きしめながら後ずさる。
「直接的手段に出るしかなかろうて!!」
一気に駆け出す。
ちなみに俺の短距離のタイムは7.20。しかし、ロリッ子を前にした時、俺の身体は限界を超えてーー
「ハイヤー!!」
「ぶほぉ!?」
藁人形を使って速度を上げようとしたら唐突に俺の腹に飛び蹴りが突き刺さった。
何が起きたのか理解する間も無く吹っ飛ばされ壁に激突する。
「ぐ、はっ!」
ばたり。
訳も分からぬまま俺は地に倒れ伏した。もはや指一本動かせない。
よもやエリちゃんとイチャイチャするという夢を叶えることなくこの世を去ることになろうとは。
無念。
「アイヤー、危なかったアルね夕映」
「くーふぇ!!」
俺が立っていた場所には道着姿の拳法少女・古菲が立っていた。
そのほどほどに豊かな乳房に、ゆえっちは泣きながら飛び込む。
「ぐす、こ、怖かったですぅ……」
「よしよし、もう大丈夫アルよ。変態は始末しといたアル」
咽び泣くゆえっちの頭を優しく撫でる古菲。
中国拳法の使い手により変態は滅んだ、世は平和を取り戻したのだ。
「……なんて言うと思ったか小娘どもめ!!」
「まだ生きてたアルか!?」
「いや、さっきからずっと寒いナレーションを一人でぶつぶつ言ってたです」
寒くねぇよ、俺の心はいつでもぬっくぬくだ。
あとガチで殺す気だったのか君。
危うく意識を飛ばしそうだったがミソラ嬢に日々殺されかけていたおかげで大事にならず済んだ。未だ藁人形も効力を保っている。
俺はまだ、戦える!
「見誤ったな拳法少女……変態の底力を舐めるな!」
「変態の底力……恐れ入ったアル。まさか必殺の一撃を耐え抜くとは」
やっぱり殺す気だったのか。
これ、一応少年漫画だよね? なんでこんな一般人に殺意満々なヒロインがいるの?
「いや、一般人では無い。そう、俺は変態。紳士のマナーを破った恐るべき変態!!」
「お、恐るべき変態?」
「クク、変態とは常、自らの欲求と良心の狭間で揺れている。
これを制御できるもの変態紳士と呼び我々変態は畏れ敬う。……だが、この欲求を抑えることなく解放した時!
我々変態は真なる力をーー」
「長いアル」
鳩尾に一撃。俺の意識は一瞬で刈り取られた。
「で、こいつどうするよ、ネギ?」
気がついた時、俺は何処かに吊し上げられていた。
ギッチギチに身体を拘束された俺の前で明日菜嬢が鋭い視線を向けている。……アリだな。
「えーと、この人、変態さんなん?」
先ほどはお手洗い(場所はヒミツ)に行っていたこのかお嬢様も合流していた。
初対面からこの状態である。第一印象は最悪であろう。
間違いない。
「ええと、本当にそんなことしたんですか、この人?」
気まずげにゆえっちに問いかけるネギくん。
「ええ、この人は私に全裸・首輪付きで連れ回そうとしていた紛うことなき変態です」
断・罪。暴かれる罪にリツカはただただ黙ることしかできなかった。
でも首輪は言ってなくね?
「あと、フィ◯トフ◯ックやス◯トロプレイも要求してきたです」
言ってねぇよ! どんだけアブノーマルな性癖だと思ってんだ!!
ていうかそれお前が言ったことだろ!
俺は健全なロリコンだ!!
「俺は健全なロリコンだ!!」
「え……」
思わず口をついて出てしまった言葉に、明日菜嬢が凍りついた。
いや待て、もし高畑だったら許したのかお前は? 年齢的にはそっちの方がアウトだろ。
でも許すだろうなぁ、致し方なし。
それとこれとは話が別なのである。
「うわぁ……」
「変態でござるな」
「極刑しかあり得ないアル」
まき絵嬢、楓嬢、そして古菲。三人ともに軽蔑の視線を送られた。
「うん、これは変態さんやな」
おまけにお嬢様まで。ニコニコしているが何処から持ってきたのかその手にはフライパンが握られている。いやほんと何処にあったのそれ?
「う、嘘よね? 子イヌ、お願いだから嘘って言ってよ!!」
でも必死の形相で涙ながらに訴えるエリちゃんはかなり心にきた。いや、ガチな方で。
まさか、ただこちょこちょで済まそうとしただけでこんな大事になるだなんて。誰が予想できただろう?
まあ、殆ど俺の言動のせいなのだが。
「スカ……? とかってなんのことですか?」
一人だけポカンとしているネギくんが眩しい。
こんな純真無垢な子どもが今時いるだなんて。
2002年という時代を考えても珍しい。
「とりあえずコイツは放置しとくしかないわね」
「まったく、無駄な時間を費やしたアル」
「ニンニン」
「なんというか、可哀想な人だったね……」
「うちも変態さんはお断りやわ〜」
バカレンジャー+αから物凄い侮蔑の感情をひしひしと肌に感じる。
「子イヌ〜……」
一人、俺のもとで静かに泣くエリちゃんに俺の心もそろそろヤヴァイ。
精神を十七分割されそうだ。辛い。
「……」
そんな俺のもとへトコトコと歩み寄ってきたのはゆえっちだ。
「……なんだ、笑えよ、この無様な変態の末路を。俺は終わりだ、こんなにもエリちゃんを悲しませて。
ただ、おふざけ感覚で変態行為をした結果がこれだよ。
……なんで、俺はもっとエリちゃんのそばにいてやれなかったんだ」
「いや、これは使い道がありますね」
涙を流す俺に、ゆえっちがニヤリと笑った。
「はーい、じゃあこの問題を解いてください。制限時間は十五分。解けなかった場合はーー」
あちらの変態が解き放たれます、とネギくんに代わりゆえっちが指を指すのは俺。
俺は今、なぜか置いてあった動物用の檻に入れられている。
「こ、これは一大事、是が非でも解かねば」
「……(古菲がアルを付け忘れるとは、これは侮れない御仁でござるな変態殿)」
「うわわわ、早く解かないと……!」
「なんでウチまで〜!」
「く、こんなところで変態の餌食になるわけにはいかない! 高畑先生を射止めるまでは!!」
射止めた後なら味わってよろしいと?
ほう、俄然やる気が湧いてきた。
俺の変態パワーも最高潮に達している。
「な、なんか変態さんがフーフー言ってます……」
「ご心配なくネギ先生。我々は奴と同質の檻に守られてるです。奴の解放はこのボタンをポチッと押すだけです」
変態も使いようです、とゆえっちはこちらをチラ見して宣う。
檻に囲まれた教壇というシュールな光景を物ともしないその自信。素直に感服する。
だんだんと俺の扱いが分かってきたみてぇじゃねぇかゆえっち。
もうデコ助とは呼ばない、お前を俺のご主人様と認めてやろう。
「ああ、もう五分切ってます! 明日菜さん!!」
ネギくんがあわあわしながら告げる。
「わ、分かってるわよ! ああ、早く解かないと!!」
「明日菜早く! 変態がウォーミングアップを始めてる!!」
「急ぐアル、明日菜!!」
「フライパン、もしもの時はウチのフライパンを使うんや!」
先に問題を解き終えたバカレンジャー+αから熱い声援が送られる。
それを聞きつつも俺は完全なる変態RPへと移行していた。
「あ、明日菜さん!」
「うぅ……あ、と、解けた!!」
ストップウォッチの針が頂点を指す直前、バン! とネギくんの前に提示される明日菜の解答用紙。
苦虫を噛み潰したような顔でストップウォッチを止めるゆえっち。どうにも彼女は変なスイッチが入ってしまっているらしい。
「ふむふむ……す、すごい、正解です明日菜さん!!」
まるで自分のことのように喜ぶネギくん。それを見て明日菜の表情もパァ、と明るくなった。
「やったーー!! これで全部の問題を終えたわね!?」
「はい! 皆さん、これ以上ないほどに学力を上げています!
これなら期末試験も安泰でしょう」
ネギくんからのありがたいお言葉にバカレンジャー+αはようやく安堵の表情を見せた。
そんな中ーー
「ふふん、私の名案に感謝するです」
ゆえっちは誇らしげに無い胸を張った。
「はい! 本当にありがとうございます!
じゃあ次は綾瀬さんの番ですね!!」
「え?」
ネギくんの言葉にフリーズするゆえっち。
バカレンジャーの中でゆえっちを除く面々は、俺という恐怖の変態を背後に感じながらも設問を解くという試練を見事乗り越えた。
復習も兼ねて何度も同じ範囲の問題を出して、それらを完璧に解いて見せたのだ。これほどの集中力向上に繋がるとは俺も思っていなかった。
しかし、最初から先生側に立っていたゆえっちは一切勉強をしていなかった。
「さあ、綾瀬さん、あちらの席に」
「え、あ、いや……」
ニコニコと一切の悪意を感じない笑みで席に誘うネギくん。子どもはいつだって残酷である。
「た、助けてくださいみなさん!!」
涙ながらに懇願するゆえっちに、しかしバカレンジャーは救いの手を差し伸べることはなかった。
「が、ガンバだよ、夕映ちゃん!」
「この試練はなかなかに為になるでござる」
「私の普段の修行にも引けを取らないアル!」
「言い出しっぺのあなたがやらないでどうするの?」
「ごめんなぁ、ウチにはどうにもできんのや」
これまた熱い声援を送るバカレンジャー。そんな彼女たちを見てガクリと膝を折るゆえっち。
「そ、そんなぁ……」
まさか想定していなかったわけではあるまい。
もしそうなら詰めが甘い。
俺は静かにウォーミングアップを再開した。
「綾瀬さんはずっと授業を見ていたので上達は早そうですね、じゃあ制限時間は十分に設定しておきます!」
本当にニコニコといい笑顔をしながらストップウォッチを設定するネギくん。たぶん、ゆえっちに絶大な信頼を寄せているのだろう。
彼女なら大丈夫だ、と。
「お、お慈悲を……!?」
「それではスタートです!」
ならば、俺も全力で役目を全うすることにしよう。
さあ、勝負だ、ゆえっち!!
結論から言って、バカレンジャーの勉強はこれ以上ないほどに上手くいった。
気づけば原作通りに徹夜での勉強会となったが結果として皆の学力は原作通りに上がったようなので安心である。
「いやぁ、助かりました藤丸さん」
「なに、俺は俺にできることをしたまでだ。これは紛れもなく君たちの努力の賜物だよ」
「簀巻き状態でそんなこと言われても素直に喜べないのです」
俺は今、檻から解放されている。が、野放しには出来ないという皆の意見によりロープのような何かでぐるぐる巻きにされた状態でエリちゃんに運ばれている。
「……」
「本当にごめん。もうこんな暴挙には出ないから、許してほしい」
しかし、先程から常々謝り続けている俺をガン無視しているエリちゃん。
どうやら本当に怒らせてしまったらしい。
これまで平気だったからと調子に乗りすぎた。
俺は藤丸立華であっても最後のマスターでは無いのだ。彼のような眩し過ぎるほど綺麗な人間ではないのだ。
そこを履き違えてはいけなかった。
「こんな状態で言うことじゃないのだけど、俺が本当に愛しているのはエリちゃんただ一人なんだ」
「浮気する男の常套句ですね、聞き流して良いですよエリちゃん」
ゆえっち、ちょっと黙っててほしい。
「頼むよ……俺、エリちゃんじゃなきゃダメなんだ。他の誰かじゃなくて、エリちゃんしかあり得ないんだ。
お願いだ、俺を見捨てないでくれ」
ホロリと涙が溢れる。
思えば、ここ最近、エリちゃんと過ごす時間が減っていた。
原作だ、英霊だ、などと他の事柄に気を取られすぎていた。
中三から二年間も俺と共にいてくれた彼女を蔑ろにしてしまっていた。
全ては過ぎたこと、けど、それでも俺はエリちゃんと共にいたい。
「……本当に、私が一番大切なの? 欲しいの?」
しかし、女神は降臨した。否、すでにここにおられた。
「っ!! 欲しい! あ、いや一緒にいられたらそれで十分なんだ!! どうか、どうか最後の慈悲を!!」
「し、仕方ないわね。子イヌったら本当に私がいないとダメダメなんだから」
ツン、とした態度で顔を背けるエリちゃん。
ああ、何ということだ。俺は、俺はエリちゃんに許された!!
こんなしょーもない男を、彼女は見捨てないでいてくれた。とても不愉快だろうに、潔癖症の彼女が、俺を、側に置いてくれると!
……俺には本当にもったいないサーヴァントだ。
「ありがとう……ありがとう、エリちゃん」
どうしよう、涙が止まらない。いや無理に止めることはない。
この喜びを素直に感じよう、そして脳裏に刻みつけるのだ。
俺は改めて生涯をエリちゃんに捧げると誓った。
「おかしいですね、どう聞いても駄目男の言い訳にしか聞こえないのに」
「すっかりデレてるね……」
ゆえっちとまき絵嬢の言葉が痛い。
ぐうの音も出ないほど的確な発言だから。
「ま、まあ今の暮らしも悪くは無いし? 子イヌが本気でロリコンだなんて思ってないけどね」
……。
「そそそ、そうだよ。ろ、ろり、ロリコンなんて、そんな変態的な趣味が、おお俺にあるわけないだろ。ジョークだよジョーク!」
「ポーカーフェイスは完璧なのに噛み過ぎですね」
「うん、残念なイケメンって感じだよね」
まき絵嬢の言う通り、ガワはいいのだ、あくまでガワは。
事ここに至り、俺は並行世界で戦う藤丸立華ご本人に非常に申し訳ない気持ちになった。
ほんと、“他人のガワ”で失礼な真似しちゃダメだよね。
「じゃあ皆さん、一応これまでの復習をもう一度しておきましょうか」
「あ、ちょっとだけ待ってネギくん」
準備をしつつ告げるネギくんにまき絵嬢が待ったをかけた。
ほら、あれだよ。ここ二日間お風呂に入っていなかったから。
「あ、なるほどアルね。私も時間が欲しいアル」
意外に気の利く少女、古菲が手を挙げた。
「そうですね、そろそろ休憩時間にしましょうか」
ネギくんの一言により女子たちは一斉に水辺へと駆け出した。
「どうしたの、エリちゃんも行きなよ?」
「え、でも……子イヌが」
気まずそうにこちらを見つめるエリちゃん。
察するに俺が簀巻き状態なのに自分が水浴びに行くことを戸惑っているようだ。
なんという気遣い、月の聖杯戦争の頃には見られなかった細やかな気遣いが出来るようになっていたとは。
「ありがとう。でも、俺はいいんだ。これは言うなれば俺の罪、その贖罪と見ていい。それよりもエリちゃんが楽しめないのはもっと嫌なんだ」
俺の痴態の末路、それが簀巻き。
なんだかんだ言って、最近は俺の方がエリちゃんを振り回してしまった感があるからね。
ここらで息抜きの一つでもしてもらわないと。
次の休日は二人でどこかへ遊びに行こう。
「……うん、子イヌなら大丈夫よね。じゃあ私も水浴びしてくるわ!」
そう言ってエリちゃんは元気にみんな元へと走っていった。
一瞬、微笑ましげな顔で俺を見てから。
「……ああいうところなんだよな、ほんと」
俺もこれからはもう少し頑張んないとな、色々と。
とりあえずは遠坂に奪われた本の奪還から開始せねば。
いや、まあ、俺よりも魔術に詳しい彼女が持っていた方がいいとは思うけどね。
「本当に、仲がよろしいんですね」
簀巻き状態で地面に横たわっていると、おもむろにネギくんが話しかけてきた。
そういえば彼とはしっかりとした自己紹介をしていなかった。
主に魔法関連について。
「時にネギくん」
「はい?」
俺の学園での立ち位置というのもしっかり説明しておくべきだろう。
「昨日、俺が魔法関係者であることは語ったと思うが、俺は魔法生徒というわけじゃない。
厳密には雇われに近い身でね、魔法関連の事件に協力する代わりにこの学園においてもらってる」
「へぇ、そうなんですね。じゃあ以前はどこかで魔法を学ばれたんですか?」
おっと、そういう質問が来るか。
「あー、ぶっちゃけ魔法に関しては専門外だ。というか知らん」
「えぇ!? じ、じゃあどこで魔法のことを?」
そりゃあ学ばなくても存在を知る機会なんて数え切れないくらいあるだろうよ。
ただ、俺に関してはその限りではないが。
「なんというか、俺は特化型でね、使い魔召喚専門というか。正直俺の価値はエリちゃんが大半だよ。学園もそう見てる」
あくまで俺という個人ではなく、エリちゃんやアビーという英霊。加えてそれらを召喚できるという特異性をこそ学園は注視している。
極端な話が、英霊とそれらを召喚・操る術さえ剥奪されれば俺は用済み、魔法の存在を知っているだけの一般人、最悪の場合、英霊や魔法に関する機密のために消されるだけの存在だ。
これが学園と俺の関係を複雑にしている。
俺単体ならどうとでもできるが、仮に俺を消した場合は英霊が野放しとなり十中八九復讐に来ると考えられている。
英霊単体にしても高畑や学園長レベルの実力者でないと相手にすらならないうえに、エリちゃんはともかくアビーは正体不明。
学園側は手を出せない。
対して俺も、社会的立場としては学園側よりもはるかに低い位置におり、仮に学園側から追い出されでもすれば味方は実家の一般人両親しかおらず、機密のために刺客を差し向けられでもしたら目も当てられない。
故に、学園側に取り入る必要がある。
つまり、学園は俺に手は出せず、俺も学園に逆らうわけにはいかない。
互いに利害の一致した状態での協力関係、共生関係となっているのだ。
だが、今のネギくんに語ったところで意味はない。
「……まあ、単なる傭兵みたいなもんさ」
「よ、傭兵ですか……」
学園に雇われた傭兵。まるでアニメや漫画のような設定である。
いや、魔法とかある時点でお察しどころかぶっちゃけこの世界そのものが漫画なんだけど。
そんなこんなネギくんと交流を深めているとーー
「キャーーー!!」
水辺の方から悲鳴が聞こえてきた。
……そういえば、このタイミングで学園長の入ったゴーレムが襲撃してくるんだった。
なにぶん、十年以上も前の記憶なのでそこらへん曖昧なのだ。
あと、すごくどうでもいいがネギくんと全裸の女子たちが戯れるサービスシーンが、簀巻きの変態との会話でカットされてしまった。
許せ、ネギ。
「この声は、まき絵さん!?」
声でわかるとかすげーな。まあ、色々と個性的なクラスだけどさ。
「あ、でも、藤丸さん……」
今すぐにでも生徒もとに行きたいが、此の期に及んで変態の身を案じてくれるネギくん。なんて優しい子なんだ。
「案ずるな少年、俺はこのままでも行ける!!」
そう言って地面を転がって移動する俺。
「あ、ま、待ってくださいー!」
後からネギくんも追いかけてくる。
目指すは水辺、大体の見当はついているので一目散に転がり進む。
……運良く行けば彼女らのポロリも見れるかもしれんからな。
ゴロゴロと高速で転がっていると、ようやく現場らしき場所が見えてきた。女子たちは布一枚だ。これでもかなり満足ししてしまう。
いやぁ、眼福眼福。
そのまま一気に転がり進む。ていうか意外と痛いな。
「とぉーう! ぶほっ!」
斜面を利用して勢いよく飛び上がったのだが、なぜか古菲に叩き落とされた。
勢いよく水面に落ちる。
着水。
「ごふぁ!? ごぽごぽ!!」
い、息が!! 簀巻きなので泳ぐこともできずひたすら身体を捻ることしかできないまま沈んでいく。
「よっと」
だが、我らが救いの女神エリちゃんが男らしく俺を持ち上げてくれた。
その姿はさながら大魚を抱える釣り人のよう。
「ぴ、ピチピチしてる……」
ゴーレムに捕まっているまき絵嬢も俺を見てなんとも言えない顔をしている。
『な、何をしとるんじゃお主……』
心なしかゴーレムもげんなりしているように見える。黙れぬらりひょん!
元はと言えば貴様のくだらん計画のせいで俺はこんな目にあってるんだぞ!!(八当たり
「すまんエリちゃん、拘束を解いてくれ!」
「任せて!」
二つ返事で頷き、俺を縛る縄をマイクスタンド型の槍で引き裂く。
解き放たれた俺は一回転して着地、もとい二本足で着水する。
「へ、変態が解き放たれたアル!!」
「バカ言ってる場合か、早くまき絵嬢を!」
俺の言葉にハッとした古菲は一瞬でゴーレムとの間合いを詰め、その巨体に拳を叩き込んだ。
「よっ、と」
ゴーレムが緩んだ隙を突いて今度は楓ちゃんがまき絵嬢を取り返す。
忍者の歩法はやはり常識はずれである。
というか忍者なのにニンニン言うなよ、バレバレだよ。忍べよ。
「あ、本!!」
その最中、ゴーレムの首元に置かれた『魔法の本』に気づいたまき絵嬢が、どこから出したのか新体操用のリボンを器用に操って本を簒奪する。
『フォ!? 本が!?』
ゴーレム改め学園長もワタワタと慌てている。
いや、ジジイのそんな姿は誰も求めてねぇ。
「よぉし、今こそ日頃の恨みを晴らす時だな。エリちゃん、俺らでこの老いぼれを畳んじまうぞ!!」
よくよく考えたら俺が原作云々で四苦八苦してるのも全部、このジジイがエリちゃんをネギクラスに入れてしまったからに他ならない。
今まで二年間我慢してきたが、それもここで終わりである。
「ネギくん、ここは俺たちに任せて君たちは脱出口を探しに行け!」
「じ、じゃあ僕もーー」
「ばか、お前まだ
思わず荒っぽい言い方になってしまったがネギくんも自分が『三日間魔法を封じて』いるのを思い出したようだ。
実は彼は、図書館島に来る前のいざこざで自ら魔法を封印しているのだ、詳しくはネギま!二巻を読んでね!
『フォフォフォ、無駄じゃよ、歩いてここを抜け出すには三日はかかるのじゃから』
隠す気のない喋り方でゴーレムが語る。
というかそれならなぜこんな場所に誘い込んだのか、それとも自分の魔法で送り届けるつもりだったのか。
ご乱心期の学園長の思惑やいかに。
「いいからさっさと行けネギくん! エリちゃんなら俺が責任持って届けてやるから心配するな!」
「そうよ、ネギ先生! 私と子イヌならこんなへなちょこエネミー、チョチョイのチョイよ!」
実際そうなのだから他に言いようがない。
学園長が中の人とはいえ相手はゴーレム、エリちゃんが本気を出せば一撃でスクラップだ!
「……わかりました、必ず、また会いましょう!!」
涙を飲んで駆け出すネギくんを確認して、俺はゴーレムに視線を戻した。
まあ、ぶっちゃけネギくんがいると色々とやり難かったというのが本音ではある。
『というか、お主、こんなところで何してんの?』
正論ありがとう、しかしお前は許さん。ここで会ったが百年目、ドサクサに紛れて暗殺してやるわぁ!
「何気安く話しかけてんだゴーレム! 貴様なんぞ知らん、やってしまえエリちゃん!!」
「OK! 久々の戦闘だから、昂ぶるわ!!」
好戦的な笑みを浮かべるエリちゃん。
その顔は加虐精神を刺激されているようにも見える。
一応、サドだからなぁエリちゃん。
というか、エリちゃん水浴び出来なかったんだね……幸運Bもあるのになんてついてない。
それもこれもこのゴーレムのせいである。
「よし、プランBで行くぞ!!」
AMSから光は逆流しないよ?
「ラジャー!」
元気に駆け出すエリちゃん。
すでに一般人たる俺の目には追えない速度を出している。
『フォゥ!?』
おいこら、フォウくんのモノマネとか許さんぞクソジジイ。
とか言ってる間に、ゴーレムの側頭部にまでたどり着いたエリちゃん。
「もらったぁ!」
振るわれるマイクスタンドもとい槍がゴーレムの頭を打ち払った。
『グォ!? 待て待て待て、ワシじゃよ?! 気付いてるよね!? わざとだよね!?』
知らんな、貴様など記憶の片隅にもない。
「俺にゴーレムの知り合いはいねぇ」
「行っくわよぉ!」
尻餅をついたゴーレムの前にはすでに槍を頭上に振り上げたエリちゃん。
これでチェックメイトだ。
「やったれぇい!」
「やらせませんよ?」
だが、唐突に乱入してきたローブの人物に掌打を叩き込まれエリちゃんは吹き飛ばされた。
「ぐぅ!?」
「エリちゃん!」
ローブの人物はふわり、とゴーレムのもとに降り立つ。
「やれやれ、何をやってるんですか近右衛門」
『た、助かったわい。こいつら、ドサクサ紛れにわしを葬り去ろうとしおってからに……』
ゆっくり起き上がったゴーレムが恨めしげにこちらをチラ見した。
お、なんだやんのか?
というかエリちゃん殴るとか隣のテメェは死刑な?
処す。
「出番だ、アビー!!」
「やっとね!」
俺の声に、霊体化からようやく実体に戻れたアビーが嬉しそうに声を出した。教会からここまでずーーーーーと、霊体化させて忍ばせて置いた甲斐があった。
突然、俺の横に降り立ったフリフリドレスの女の子にゴーレムとローブの人物までもが驚愕する。
「に、二体目ですか。それに、なんだか彼女の方が危険な気がするのですが……」
たじろぐローブの人物の背後から、エリちゃんが奇襲を仕掛けた。
「そぉれ!」
「っ!」
槍の横薙ぎをスレスレで躱すローブの人物。その姿は未だ余裕を残しているようにも見える。
ん?
「ローブに敬語……?」
その後、闇雲に槍を振り回すエリちゃんを軽くあしらい続けるローブの人物。
埒があかないと見たエリちゃんは離脱して俺の近くに着地する。
「く、手練れみたいよ子イヌ」
悔しげにエリちゃんが告げる。
案ずることはない、こちらにはアビーもいるのだから。
「一撃でも貰えば致命傷ですからね、慎重にいかないと。
ここは私に任せて、あなたは生徒たちを」
『かたじけない……なんとか本だけは取り替えさんとなぁ』
ゴーレムがドシンドシンと駆け出しネギたちの追跡を開始した。
しかし、目の前のローブの人物の警戒が凄まじくこちらも動くに動けない。
結局、ゴーレムの相手はネギくんたちに任せることになりそうだ。
「さて、では私たちも始めましょうか」
ローブの人物、いや男が余裕綽々に告げる。
素人目にもわかるほど魔力が高まっていく、というか魔力風で周囲に突風が。
まあ、これだけの魔力、戦闘技能、そしてここが地下ということからこいつの正体は大体は割れていた。
「一体、何のつもりなのかな?
ちなみにエリちゃんは成績は別に悪くないので問題ありません。
おつむが悪いからって勉強出来ないわけじゃないと思うの……。
アビーに関してはマジでずーーーーと霊体化させてます。