走る、走る、走る。
背後から迫る脅威から、ひたすらに疾走する。
振り返っている余裕はない、あのロリハンマーはいつものように怒声をあげず静かに追い込みに来ているのだ。
ひぃ! 今玉がすぐ横飛んできたァ!
追いかけっこが始まってどれほど経っただろうか。
ヴィータに発見されて、屋敷内を鬼ごっこ。
数分なのか、それとも数時間なのか、緊張感と恐怖で時間の感覚がない。
スタミナはあとどれだけ保つ?
そもそも、もうすぐ後ろにいるのではないか?
浮かんでくる不安を押し殺し、すぐ先の角を曲がったところで。
踏みしめたはずの床がなかった。
「ッ、何処行った!?」
鉄槌の騎士は声を荒げるも青年の姿はなく。
歯ぎしりをして周囲をさがす以外できなかった。
◆◆◆
「危なかったわねぇ~」
手枷が外され、愛刀が手元に戻される。
ここまではいい、しかし問題なのは…
「どういう、つもりなんだ」
湖の騎士、シャマルが自分を助けたことだ。
空き部屋なのか、転移させられた先には物がなく。
いつものように、ニコニコと朗らかな笑みを浮かべるシャマルがいる。
それが、逆に不気味だ。
「はやてちゃんに賛同したのは事実よ、実際に止めなかったもの」
でも、と悪戯が成功したような笑み。
「貴方を助けない理由もないのよね、協力はするし邪魔もするけど、今のヴィータちゃんだと怪我じゃ済まないと思ったから」
「それはどうも…」
いやはや、どうしたもんかねこれは。
「理由…」
「???」
「何でこうなったのか、説明の一つは欲しいんですがねぇ」
それもそうねと、シャマルはこれまでの経緯を話しだした。
つまるところ、はやては焦っていた。
なのはが同棲プログラムという悪法(はやて談)で先んじて。
フェイトは俺から家に連れ込んだと思い込んでしまった。
どうやって情報を得たのか、特にフェイト…とにかく、彼女はもう我慢の限界だった。
ここはもう監禁してでも彼を守らなければと、だったらちゃんと五体満足拘束なしで守ってくれ。
「あ~~~~~はぁ、なるほど」
これは、アレかなぁ。
もしや俺の周りって、けっこう危ない状況なのでは?
今更な真実にたどり着きながらも、出てくるのは深い溜息ばかりである。
「んじゃ、俺は行くよ…誰かに仲立ちしてもらって話を進めようと思う」
「あらそう? なら怪我しないようにね」
あんたはどっちの味方なんだい…
「私は
ううん、なんか妙なニュアンスがあったような…まぁいいか。
まぁいいか。
◆◆◆
部屋を飛び出し、窓を突き破る―――ったように見せかけるため、そばにあった置物を投げ込んで破壊。
代金はあいつら持ちだ、緊急避難でFA。
しばらく身を潜め、玄関ホールに急行。
よし、これで脱出―――
「行かせへんよ」
四肢を拘束する魔法の鎖。
夜天の主、八神はやて。
SSランク魔導師にして、守護騎士たちを従えるもの。
「はやて、とにかく落ち着いて話し合おう! お前の気持ちは十分に」
「十分? なにが? まだ全然や」
ヴィータが、シグナムが、シャマルが後に続く。
今はいない駄犬以外の守護騎士たちが揃い、脱出の可能性がさらに下がっていく。
「ロード!」
ぬお!? 何かが頭の上に乗っかった。
アギトだ、姿が見えないと思えば。
「はやてちゃぁーん、ごめんなさいです~」
「バッテンチビに捕まるアギト様じゃねぇんだよ! ロード、ユニゾンしてはやく逃げよう!」
いや、そう思ったんだけどね。
このまま逃げると後が怖いのよねぇ。
「逃がさない、渡さない、もう二度と手放さない。絶対に、絶対に絶対に」
「はやてが望んだ、なら騎士が応えるだけだ、絶対逃がさねぇ」
「すま、ない、すまない、すま、な、いすまな、いすまな」
「あらあらまぁまぁ」
「逃がしませんよぉー!」
「ロードォ!」
うーん、このステレオ感。
「なんで、離れようとするん…? 全部、全部あげるからぁ! だから、ずっと一緒にいてやぁ!」
「欲しいものは全部あげる! 望むものも全部! それが、それが」
うーん…
でもなぁ。
「俺は、お前らとは違う」
家族は全員健在だし。
なにか厄ネタ抱えてるわけでないし。
右腕はなくしたがそれでも健康で。
悪くない人生を送ってると思う。
求められるのは悪い気分ではないし。
美女に囲まれた生活も悪くないよむしろ嫌いじゃないよ大歓迎だよ。
でもなぁ。
なにを勝手に俺の人生決めてるわけ?
魔法と出会い。
傷つき、傷つけ。
勧められ、指図され、流されてきたかもしれない。
でも最後は自分でそうだと決めた。
最後は自分で選んだ選択に従ったのだ。
「俺がどう生きて、どう死ぬかは俺が決める」
愛刀を引き抜く、たとえ相手が誰であろうとそれだけは譲れない。
それを譲れば、俺は俺でなくなるのだ。
「シグナム、お前はそれでいいのか?」
「あ…」
「主の過ちを正してこそ騎士だろう? 俺を傷つけたことを悔やんでいるんだろう?」
「なら清算すればいい、正しき行いで差し引きゼロだ。そうだろ?」
「し、しかし、私は、主はやての…」
「ああ、わかっている―――はやてを救うために、俺を助けてくれ」
口が回る。
いつもと違い、何かがとり憑いたかのように。
「シャマルさん、どうか手を出さないでくれないか?」
「私は、はやてちゃんの味方なのだけど?」
「俺の味方でもあるんだろう」
「ふふふ、そうね」
シャマルは数歩下がり、静観の構え。
シグナムは瞳に理性と使命に燃える意思が宿る。
「リイン?」
「ビクッ」
「お前は、誰の刃だ?」
「り、リインは、はやてちゃんの」
「ああそうだ、マイスターは、はやてだ―――なのに俺が使うのは、不誠実ではないか」
「あう、あうあ…」
「リイン―――君は、誰の刃になりたい?」
危機的状況、絶体絶命から一転。
戦力は、五分と五分。
特別な言葉を紡いだわけではない。
ただ、ただ否定できない青年の言葉が夜天の主から騎士を引き抜いたのだ。
ああ、それはまるでかの騎士の如く。
「――――――――ええなぁ、無茶苦茶にしてほしいわ」
「してやろうか、死ななければ」
え? この後? たぶん愛やらなにやらで目が覚めてチョークスリーパーでもくらうんじゃない?
◆◆◆
「はやてちゃん、そのチョーカーどうしたの?」
「ん~ちょっとイメチェンちゅーか、う~ん」
「所有物の証、かな」
ザッフィーはこのあとバリカン二刀流に追いかけられたよ