時空管理局・本局食堂。
管理局員は常に激務に追われている。
そのため本局ではある程度の娯楽設備は揃っており、なにより食事には一層力を入れていた。
多種多様の人種、文化を内包するため特定の食材などがないとストレスになるのだ。
日本人は米を食わなきゃやってられないというのも、けして少数ではない。
食事とは単なるエネルギー補給ではない、食事とは文化なのだ。
味、食感、香り、盛り付けから完食に至るまでの過程。
さらに共に語り合う友人、家族、恋人との会話。
ただの栄養を摂取するだけでは、あまりにも勿体無いとは思わないかね?
なぁ、そこの男をはさんで強烈なプレッシャーを放ってる二人。
時間にして深夜明けの、利用する局員が少なくなる辺り。
夜間担当の調理師は嫌な顔一つせず鍋を振り、眠たげにコーヒーをすする局員たち。
彼らは徹底して無関心を装っていた、生命にダイレクトで干渉される案件だからだ。
「――くん、今度の休暇なんだけど」
青龍の方角、管理局の白い悪魔~!
「ほんでなぁ~新しい家具買うつもりなんやけどアドバイスが欲しいんよ~」
白虎の方角、蘇りし夜天の王~!
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」
黄龍の位置ー我らのイッチー
なんとかしろよ、おい。
互いに男の方にしか目を向けず、男は一心不乱に食事に勤しんでいる。
ここで彼をヘタレとか、根性なしと罵るのは簡単だ(やった瞬間ブレイカーになるだろうが)。
だが魔王の放つ魔力で空間が軋み、夜天の周囲は軽い霜が出始めていた。
なにか言えるか? 無理無理無理の大三元。
しかし行動しなければならない、そのためには動く活力が必要だ。
つまり男は今戦っているのだ、現状を打開せんがための準備。
標的を打ち抜くために、弾倉に弾丸をぶち込んでいる最中なのだ!!
「―――あ、はやてちゃん居たんだ」
「なのはちゃんやんか、気づかんかったわー」
しかし、状況は第二段階へと移行していたぁーーーーー!
「はやてちゃん、ダメって言うわけじゃないけど佐官が食堂を利用するのはやめた方がいいんじゃない?」
「ほら、みんな萎縮しちゃって食べづらいよ」
にこやかに毒を吐く魔王、魔王の毒霧攻撃だぁーーーー!
「せやなぁ、だからちょっとお誘いに来たんやけどデスクにおらへんかったんよ~」
「いくら仲がええからって、職場での異性交遊はよろしゅうないやないの~?」
「「公私混同」はあかんわぁ、ちゃんと公私は分けへんとねぇ」
牽制と見せかけたハードパンチ、いいやまだジャブレベルなのかぁ!?
「むしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」
ここは様子見、状況を見守るのですね!
ちなみに周りの人達はなれた御様子、だって彼らだけじゃないものね!
昔から女の戦いは苛烈なのだから。
関わらないように目を背け、さっさと食事を終えるしかないのだ。
「公私混同かぁ、はやてちゃんってば冗談が上手いよねー――くん」
「私情で部隊を立ち上げて、人事も身内に限定して」
「ちょっと「私」が入りすぎじゃないかなぁ」
あ、室温が何度か下がったぞい。
見てみて~熱々のコーヒーが冷め切って霜まで出てきちゃった。
「―――言うやんけ、ガッツリ私情入りまくっとるくせに」
「そりゃぁ尽力させられた側からすれば、ねぇ」
あ、空間が、空間が歪んで見えるよ。
ヘイイッチー、完全に失敗したって顔でいるけど大丈夫ー?
こっから挽回できるー?
「「…」」
いざ衝突かと思われた…その時、イッチが箸を置く。
「はやて、来週の午後に時間を作ってくれ。家具を見に行こう」
「!!! ええよ、一緒に見に行こな!」
先ほどの能面から一点、花が咲いたように微笑む八神陸佐!
おっと、なのはにだけ見える角度で勝者の笑みを浮かべたぞ!
魔王降臨まで、あと5,4,3,2
「なのは、次の休暇に海鳴に帰るつもりなんだが一緒に行くか」
タイムアップまで1秒、そこで導火線が踏みつけられるぅぅぅぅーーーー!
「久々に翠屋のシュークリームが食べたくなってさ」
実家訪問→家族への改めて紹介→もはや勝ち確なのでは。
「うん、ヴィヴィオも連れて行こうね♪」
勝者と敗者が逆転、はやての口元は引きつっているも彼の腕を胸元にキープ。
お互いに譲れぬラインを再確認したところで…
「じゃ、仕事が残ってるから」
ここでイッチが逃げる、ええい臆病者ー!
魔王と夜天は視線を合わせず、そのまま食堂から出て行った。
はぁ、やっと終わったと食事を再開する局員たち。
「ねぇ、今度の休暇なんだけど」
おや、どうやら別口の修羅場が残っているようだ
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修羅場はいいねぇ、リリンの生み出した芸術の一つだよ(カ○ルくん