日付が変わってからおよそ1時間。
青年は一人デスクで報告書を作成していた。
階級が上がれば給料だけでなく責任も増える、責任が増えればやることも増える。
無心で仕事をこなしていると、ふとこんな考えが浮かぶのだ。
何でこんな事やってんだろ…と。
必要だから、仕事だからと自分を誤魔化すことが多くなり。
今もまたそういうものだと自分自身で思考を断ち切る。
そこに端末の放つ電子音が響く、メールの着信。
二件あったメールの差出人は別人だが、結果は似たようなものだった。
【結婚しました】
こういった内容への反応は様々。
おめでとうと祝福する奴。
恨めしいと悪態をつく奴。
へえーそうなんだと流す奴。
しかし添付された写真を見れば誰もが目をそらすだろう。
死んだ目で相手の女性と腕を組み、彼女のお腹が大きくなっているのを見たら絶対に目をそらす。
中学時代の同級生、武装隊で新人だった頃の先輩、おっと再び着信。
…同じ内容で別部署に異動した後輩からだった、何これレ○プ目腹○テが流行ってんの?
しかも目が死んでるのが全部男だっていうのが、ねぇ?
「大切な人とこうして結ばれて幸せです~」
「全てはあの日、先輩から指導を受けられたからこそ~」
「経験を積み、生まれてくる子に恥じないよう~」
「手作りのケーキを作りましたので~」
最後あたりの文章が引っかかり、目を凝らす。
「たいせつなひと~」
「すべてはあのひ~」
「けいけんをつみ~」
「てづくりの~」
目を凝らす。
「た」
「す」
「け」
「て」
……………写真の中の後輩をもう一度見る。
目が死んでる、どこか助けを求めていそうな彼を。
すかさずメールを削除した。
ふぅー
重いため息、何気なく天井を眺め。
このままでは自分もこうなる、脳裏を走る確定的予感。
とりあえず今ある分の仕事を終えると、引き継ぎ用の資料作成に取り掛かる。
懐に辞表を忍ばせて
◆◆◆
1隻の名無し船
ウチの上司が辞表叩きつけて失踪したンゴ
2隻の名無し船
うん?
3隻の名無し船
(*´・д・)?
4隻の名無し船
えっとどゆこと?
5隻の名無し船
引き継ぎとかは?
6隻の名無し船
全部終わってる、一ヶ月念入りに準備してたっぽい
7隻の名無し船
えー
8隻の名無し船
えー
9隻の名無し船
えー
10隻の名無し船
別にいいのでは?
11隻の名無し船
んだんだ、ちゃんとやらずに失踪はいかんけど。
12隻の名無し船
それに合わせて部下は各部署のお偉いさんに尋問を受けています
13隻の名無し船
14隻の名無し船
15隻の名無し船
16隻の名無し船
17隻の名無し船
18隻の名無し船
19隻の名無し船
なんで?(三代目感
20隻の名無し船
行方知らず→情報を持っているのは部下→尋問
21隻の名無し船
ごめん、意味わかんない
22隻の名無し船
自分でもわかんない、飲みに誘われたと思ったらいつの間にか尋問に変わっているらしい
23隻の名無し船
あのーもしかして、失踪したのって武装隊のあの人?
24隻の名無し船
トップエースのハーレム築いている
25隻の名無し船
なんで?
26隻の名無し船
遠目で見るとハーレムだけどさ、近くによると悲惨だぞ
27隻の名無し船
普通にいい人なんだよなぁ
28隻の名無し船
いい人だから弾けたのでは?
29隻の名無し船
あれ、ラブな副官さんいなかったっけ?
30隻の名無し船
辞表の事実を聞きつけて、その後俺らから情報絞り出していったわ
31隻の名無し船
あちゃー
32隻の名無し船
寿退社になるかー
33隻の名無し船
せやなー
34隻の名無し船
それで、どうしたいん?
35隻の名無し船
目撃情報があったら教えて欲しい、できればすぐに
36隻の名無し船
無理やろ
37隻の名無し船
いきなりだなぁ
38隻の名無し船
なして?
39隻の名無し船
今夜が俺の番なんだ(汗
40隻の名無し船
どんまい
※局内掲示板で書き込まれたスレの一部を抜粋。
※辞表届は上司が青年を退室させた後に破り捨て、長期療養として受理した。
◆◆◆
ざくりと鍬で土を掘り返し、種を蒔き、水を注ぐ。
燦々と輝く太陽から降り注ぐ陽の光は、麦わら帽子を被っていてもきついと感じさせるほど強いものだ。
腰に下げた水筒から水を飲もうとするも、中身は既に空。
「あっついなぁ」
この星「エルトリア」に来てから何度目かの暑いを呟くしかなかった。
辞表を提出し、自由だぁーと適当な荷物だけを鞄に突っ込んだのが数日前。
これまた聞いたこともないような星に向かう巡航船に乗り込み、突然の機関不良による事故。
自分以外の乗員を脱出艇に放り込み、自分が乗り込む直前までは覚えている。
気が付けば荒廃した大地、巡航船の残骸、軽く焦げた自分。
何か悪いことしたかなぁと、空を見上げていた―――
「どうぞ」
濡れた水筒を胸に押し付けられた。
幼馴染と同じ顔、しかし髪は短くどことなくクールな印象を受ける女性。
かつてマテリアルと名乗り、敵対・共闘した彼女。
シュテル・ザ・デストラクター、星光の殲滅者が同じく麦わら帽子を被ってそこにいたのだ。
「まさかお前らにまた会えるとはなぁー」
とある戦いによって得た縁。
死にかけの星を救うため、仲間と共に旅立った彼女と再会できたのは驚きだった。
「耕運機のパーツが揃ったので、早速修理にかかりましょう」
「あいよ」
「お昼はディアーチェの作ったお弁当があります」
「いいねぇ、なんかスローライフっぽくて」
「そうですか」
気楽だ。
なんというか、凄い気楽。
ギスギスとした空気に悩むことなく、畑を耕す日々。
もう暫くはこうしててもいいかもしれない。
◆◆◆
荒廃した星、エルトリア。
あの双子からの要請を受けておよそ10年、まさか彼と再会できるとは思わなかった。
同じくらいの身長は、彼のほうがずっと伸びていて。
大きな体、大きな腕、偽物の手、変わったところは大きい。
「直りました」
つい最近まで使用していた耕運機を修理し終えると、彼は頬を赤らめてそっぽをむいた。
汚れるのでシャツとズボンだけのラフな格好のためか、程よく育ったシュテルの肌がよく見える。
私で欲情している、ということか。
それはとても――――都合がいい。
「見たいのなら、見せてあげますよ?」
アホかとさらに顔を赤くして、道具を片付ける彼。
可愛い、そう感じる思いは自分のものだ。
あの日からずっと、かつて少年だった彼との日々だけが胸に残った。
自分は高町なのはのコピーのようなもの、だが胸に芽生えた思いは自分だけのものだ。
会いたいと、思っていた。
好意に近いものがあった。
でももう二度と会うことはないだろうと、そう思っていた。
「でも会ってしまった」
抱えていた気持ちは、大きくなっていた。
封じ込めて、閉じ込めて、二度と出さないようにしていたのに。
開いてしまったから、溢れ出して歪んだのだ。
今すぐにでも愛を囁いて、粘膜的な接触で数日間過ごしてやりたいくらいに。
これはバグか? 致命的な故障か? 知ったことか。
とりあえずは――――如何にして
彼の性格を考えれば、責任を取ろうとするだろう。
既成事実で縛り上げ、そこからズルズルと引きずり込めばいい。
そう思えばアダムとイヴのようでどことなくロマンチックだ。
焦りは禁物ともいうが、双子や同じマテリアルたちがいつ行動を起こすかわからない。
彼という男はどことなくフェロモンを垂れ流している、孤独な質の人間ほどよく効くタイプの。
好意を抱いたらズルズルいく、罪作りな人なのだから。
「なのはや、ミッドチルダの捜索隊が編成される可能性もある…このままでは分が悪い」
なにせ自分が知らない間が存在するのだ、絆という意味での戦力差は大きい。
邪魔するものは焼き尽くす、それこそが殲滅者。
力と知恵で、欲するものを手に入れるのだ。
時系列的に主人公とシュテルたちとの間に時間軸のズレが発生しているとして。
そのままロリにしようかとも考えたが、結局オトナモードで落ち着きました。
シュテルはそれほど大きくないイメージ(何処がとは言わない