※今回も掲示板要素はありません
フローリアン姉妹の妹、キリエは不満があった。
彼女は自動作業機械ギアーズ、即ちロボットである。
しかし見た目は紛れもなく美少女であり、質感も体温も人間と変わらない。
加えてバツグンワガママボディ(自称)の持ち主なのだから、そんな自分に体を押し付けられて
グラっとこない男はいない!(推定)
そのはずなのに…
「いやぁーしかし、だんだん暑くなるなぁ~」
背中に胸を押し付けているというのに、顔色一つ変えてない青年が気に食わなかった。
◆◆◆
エルトリア再生のため働き始めておよそ三ヶ月。
たまには休んだほうがいいと、湖に釣りに来たのだが…
「ちょっとキリエさん、重いんだけど」
「女の子に重いとかデリカシーなさすぎぃ!」
何故かそれにキリエも付いてきて、背中へ胸を押し付けながら釣り糸が揺れる様子を覗いていた。
そこで顔色一つ変えずに釣り針に餌を付けようとする青年に対して、上記の如くキリエはご立腹。
女としての魅力が通じてないことが不満、劣情を催した青年が彼女らを襲わないかという不安。
前者はともかく、後者についてはこの三ヶ月一切その手のアクションがない。
そもそも女性関係に疲れた末に逃げ出したというのに、逃げた先で致すという考えはなかった。
なにより経験上、下手に反応するとからかわれるのがオチだという考えから無反応の構え。
実際には下半身に流れる血流を止めんと、筋力を総動員させているのだが…
安心すれば不満が顔を出す、まともな恋愛経験などないなんちゃってギャルはハリボテの余裕を
見せつつ唸っていた。
「(ここで退いたら女が廃る!)ねぇーねぇー釣れないのー?」
「(シャンプーの匂いと柔肌が…)釣りなんてのはそんなもんさ」
キリエがさらに密着させれば、鉄の意志で青年が耐える。
耐えれば耐えるほど意固地になって、これぞ幸福の生殺しスパイラル。
「こらぁー! な、ななな、何してるのーーーーー!」
幸福と地獄がブレイクダンスしているところに、救いの主参上。
長い髪を三つ編みにしたお姉ちゃんこと、アミティエが顔を真っ赤にしてこちらを指差していた。
「キリエ! な、なにをは、はしたないことを!」
「え~お姉ちゃんってばかたぁーい」
「キリエ!!!」
「はぁ~いっと」
ごめんねーと小悪魔(内心赤面)気味に微笑むキリエが歩き去るが、姉の矛先は青年へと向かう。
「君も!キリエの悪戯に付き合う必要なんてないんですよ!」
「はっはっは、いやはや面目ない」
一部分の硬化を解除させつつ、頬をかく青年。
「(こ、このままでは間違いが起きてしまう…)」
アミティエもまた、まともな男性経験などない。
経験豊富を装う処女ビッチとどっちがマシかは不明だが、その知識は創作物によるものが大半。
しかし長女として、過ちを見過ごすわけにはいかないのだ。
「ほ、本当に、お互いに好きあって、その、いるなら!私は何も言いませんけど!言いませんけど!こ、こういうのはダメです!!!」
「だからもし!耐えられなくなったら私が!「はいストップー」もぎゅ」
お弁当に渡されたサンドイッチを彼女の口に突っ込む。
「年頃(と言っていいか分からんが)の女性がそういうことするのはNG、自制は効きますんで勘弁してください」
「…私じゃ、不満ですか」
「いやだから、そういうのじゃなくて」
むしろバッチコイだが、多少…多少?トラウマになっている青年としては曖昧な表現で留めるしかなく。
アミティエも女性として魅力がないと言われれば、それはそれで不満が出るので。
「勿論、貴女も素敵な女性ですから。ほら、そういうのは困るというか」
―――などと抜かせば、集音機能をフルに使ったキリエが面白くない。
その日からフローリアン姉妹との奇妙な張り合いが始まってしまうのであった。
◆◆◆
「どうしてこうなったんかなぁ」
お前の自業自得やぞ。
青年に対する女の魅力分からせ勝負は、時が経つごとに姉妹喧嘩の延長から変化してきていた。
というのも、要所要所で青年が最適解というべきか、パーフェクトコミュニケーションを連打していたからだ。
時には、姉として毅然とせねばならない彼女を(居候として)慰めたり。
小悪魔な彼女を包容力で(居候として)受け止めて諭したり。
あの性格的にも戦闘力的にもヤバ過ぎる女性陣を宥めるため、自然と磨かれたスキルを発揮されてしまったのだ。
年下を相手する(意味深)事が増えたためか、あるいはハーレム推奨娘の義父ポジになったためか、青年には「父性」が宿ってしまっていた。
フローリアン姉妹にそれがクリティカル、その結果…
「キリエ、今は私の時間なんだけど…」
「お姉ちゃんこそ、邪魔しないで」
おい、どうすんだよ(呆れ)。
そろそろ寝ようかとしてベッドに入ると、アミティエがお酒でもどうかと誘い。
アルコールが回り始めると、アミティエが徐々に距離を詰めつつ服を…といったところでキリエが乱入。
こちらも強めの酒を片手に、青年の手を取ると自分の方へ引き寄せる。
そうなればアミティエが蕩け始めた表情を硬質化させ、青年を抱き寄せるのだ。
おっと、鍛え抜かれた体がミシリッと音が出たぞぉ?
お互いに下着姿のまま火花を散らす姉妹を横目に、青年は死んだ魚の目で天井を見上げていた。
やっぱ無人世界が無難だと、二人に気づかれぬよう部屋の外へ出られないものかとドアに視線を向けると…
(‹●›_‹●›)
(‹●›_‹●›)
ハイライトOFFのシュテル&レヴィがドアの隙間から覗いてました。
ホラーかな?
王様は赤面しつつプルプルしながらこちらを覗いている、王様マジ天使。
「どうしてこうなったんかなぁ」
お前の自業自得やぞ。
◆◆◆
「うーん、どうしたものでしょうか」
夜食の麻婆豆腐を食べつつ、恋愛原子核(病み)の様子をカメラで覗き見するのはユーリ・エーベルヴァイン。
かつては闇の書事件に続く事件の中核にいた彼女は、真黒い笑みで修羅場を眺めていた。
「今のままでも十分に面白いんですけど、もっとこう広く…どうにかしてミッドと連絡が付けば」
もし、今の状況を彼女らに見せられれば…
もし、勘違いした彼女たちを説得、あるいは逃げ出そうとすれば…
「――ああ、見てみたァい(ニチャァ」
こちらは未だにロリなためか、邪悪な笑みがおっそろしいこと。
「よぉーし、なんとかやってみせましょう」
最後の一口を放り込むと、センサーに反応あり。
「これは、転送…?」
どちらだ?
招かれざる客人か、待ち望んだ客人か。
答えは…
「はい、彼は奥ですよ―――なのはさん」
ふははははははははははははははははは! なるほど、任せたまえよ! 私の頭脳に不可能はないさぁ!!!
気づいたら、懐かしき我が家へと戻っていた。
あれは夢だったのだろうか、いやきっと事実なのだ。
意識を失う直前に耳にしたあの轟音は、自分の予想を裏切ることはない。
トントントンと、何かを切るような小気味よい包丁の音。
鼻腔くすぐるのはカレーの匂い。
さぁ、そしてここで一つクイズといこう。
キッチンで料理をしているのは、い っ た い 誰 な の だ ろ う か
考える。
考えて。
考えた。
その結果…
「寝よ」
「ご飯できたよー」
まっとうなバトル物でも書いていようかしら