もしもなのはに双子の妹がいたら?   作:赤いUFO

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この作品、今日お気に入りが急に伸びてなんと千を突破しました。
だからなんとしても今日中に投稿しなければと思いました。

お気に入り、評価、感想、誤字報告をくれた皆さまに心からの感謝を申し上げます。


番外編6:月村すずか『その夢は私たちみんなの夢だから』

「ねぇ、お姉ちゃん。やっぱりその機能は要らないんじゃないかなぁ」

 

 呆れるようなすずかの声に姉である忍は力強く説得する。

 

「なにを言ってるの、すずか!これはよつばちゃんの身を守るのに必要な機能よ!」

 

 すずかが中学生に上がり、最初の夏休みを迎えた8月の終わり頃。2人はあーだこーだと意見を言い合っていた。

 それはすずかの親友であり、忍の将来の義妹となる少女。高町よつばの義手についてだ。

 数年前、不幸な事故で片腕を失い、将来の夢を絶たれた少女。

 月村姉妹はそれを何とかしようとここ数年、義手の製造を独自に行っていた。

 月村の家は訳あって高度な工学技術を保有している。

 最初は忍から知識を学んでいたすずかも、今ではこうして意見を言えるようになっていた。

 

「でもお姉ちゃん。ロケットパンチなんて1回使ったら腕が飛んでいっちゃって回収が大変なんじゃないかな。それに機械の腕を飛ばすだけの推力なんてよつばちゃん自身が逆に飛んじゃいそうだよ」

 

「うぐっ!?な、ならワイヤー式にするのよ!飛んでいっても巻き戻る感じにして―――――」

 

「それだとワイヤーに引っ張られて最悪また崖から落ちちゃうんじゃないかな?」

 

「……」

 

 すずかの指摘に忍は頭を悩ませる。すずかとしては確りと動く腕ならいいと思うのだが、忍としてはどうしてもそうしたオプションを付けたいらしい。

 だが、忍の言い分も分からなくはない。

 よつばが崖から落ちたのは見知らぬ人に絡まれたのが原因と聞く。もしもの時の為に自衛手段が必要という意見は間違っていない。

 

「な、なら手の平から銃弾が飛び出すのはどうかしら!これならそう危険もないわ!」

 

「それもう銃刀法違反だよね!?よつばちゃんに危険がなくても相手が死んじゃうよ!?」

 

 ただ、アイディアが斜め上を行っている感は否めないが。

 

 忍が義手の機能に拘る傍ら、すずかはその見た目に拘っていた。

 あの少女の夢を叶えるなら、見た目はなるべく本物の腕に近い方がいい。

 その為に多くの材質を試している。

 

 2人で意見を出し合っていると部屋の外からノックの音が聞こえた。

 

「すずかお嬢様。そろそろお時間です」

 

「え!も、もう!?」

 

 室内にある時計を見るとそろそろ外行きの支度をしないと間に合わない。

 話に夢中で時間を忘れていた。

 

「じゃ、じゃあ私、行ってくるね!お姉ちゃん変な機能つけちゃダメだからね!」

 

 姉に釘を刺して慌てて作業場を出るすずか。

 そんな妹に忍は苦笑しながらはいはいと手を振る。

 妹が部屋から出たのを確認して部屋に置かれている機械の腕を見る。

 

「もう少しで完成するのね」

 

 4年の製作期間を経てようやく形となった義手を忍は嬉しそうに撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴメン、遅れちゃった!」

 

「いやいや。時間ピッタリやよすずかちゃん」

 

 最後に合流したすずかが謝罪するとはやてがフォローする。

 夏休みも終わりを迎える前に皆で盛大に騒ごうと集まった。

 

「今日はどうする?」

 

「とりあえず、ショッピングモールに行けばいいんじゃないかな?あそこなら映画館でもカラオケでもなんでも在るし」

 

「カラオケかぁ。ええな。久しぶりになのはちゃんとよつばちゃんのデュエット聴きたいわぁ」

 

 そう話しながら足はショッピングモールへと向かう。

 先ずは買い物からとデパートの中にある洋服店に着いた。

 

「そういえば、2週間前の旅行は面白かったわね」

 

 アリサが始めた話題によつばは口元をひくつかせる。

 夏休みに2泊3日の旅行で山奥にある少し遠出の宿に泊まった。

 景色の良い場所で泊まったその日は祭りなども催していて大いに楽しんだ。

 

 そして2日目の夜に始めた肝試しで2人1組になってよつばはヴィータと一緒に目的地まで決められたルートを歩いていた。

 仲の良いヴィータと歩いて知らない道だったが楽しんでいたのだが、月村忍が本気を出して製作した着ぐるみ。

 それはオバケや妖怪というより、もはやエイリアン。

 無駄にクオリティを高めたその着ぐるみを着た恭也が脅かしに現れた際にそれを見たヴィータは一瞬驚いたが他の世界で数多くの怪物を相手にしていたからかすぐに平静を取り戻した。

 しかし、よつばはそのまま無表情で立ち尽くしていた。

 さすがにまったく反応のないことを不審に思った恭也が声で正体を明かして近づくと膝を折って倒れてしまった。

 どうやら恭也が脅かしに現れた瞬間に失神したらしく、ちょっとした騒ぎになって朝方まで意識を失ったのだ。

 

「いやー、あれには呆れたわー」

 

「そうそう。着ぐるみ着たままのお兄ちゃんがよつばちゃんを背負って戻って来て」

 

「思い出させないでよ……あの後、みんなに笑われてすっごく恥ずかしかったんだよ?アリサちゃんとはやてちゃんなんてお腹抱えて笑ってるし」

 

「拗ねない拗ねない。面白かったわよ」

 

「お姉ちゃんもあそこまで驚いてくれて作った甲斐があったって喜んでたよ?」

 

「フォローになってないよ……」

 

 ぷい、とそっぽ向くよつばを4人が笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 小物売り場で少しバラけて行動している。すずかはよつばと一緒に行動していた。

 

「あ、これかわいい!」

 

 置いてあるポーチに触れる。そんな無邪気な親友の姿にすずかは話題を振った。

 それは、もうすぐ完成する義手に気持ちが浮ついていたのかもしれない。

 

「ねぇ、よつばちゃん。少し、訊いてもいいかな?」

 

「なぁに~、改まって?」

 

「うん……最近は、その……お料理、とか……お菓子作りとか、しないの?」

 

 すずかの質問によつばは一瞬表情が消えたがすぐに笑みを作った。

 

「あはは……今は、全然。ほら、右腕もコレだし、邪魔しちゃ悪いから。今じゃなのちゃんのほうがおいしいもの作れるよ、きっと。昔の私より」

 

 それはとても寂しそうで、悔しそうという2つの感情を内包しながら、全て笑みを作ることで覆い隠してしまった見ている方が辛い笑顔。

 

「よつばちゃん。私ね。子供の頃。よつばちゃんに憧れてたの」

 

 すずかのよつばに対する自分の想いを告白した。それに目を丸くするよつば。

 

「すごく真剣にお菓子を作ってる姿を見て。将来、翠屋で働きたいって眼を輝かせてたよつばちゃんをカッコいいって思ってた。今もそれは変わってないから」

 

 すずかの言葉に申し訳なさそうに視線を逸らしながら言葉を返す。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……もう、私は……」

 

「『もう』、じゃない。『まだ』、だよ」

 

 すずかがよつばの左手を握る。

 手を握るすずかの顔はとても哀しそうだった。

 

「絶対に、よつばちゃんの夢を私が繋いで見せるから……だから、『まだ』諦めないで……!」

 

 それは祈るように、伸ばされた可能性。

 戸惑いながらもよつばはその想いに少しだけ心を寄せる。

 

「子供の頃。わたしが作ったお菓子を食べて、美味しいって言ってもらえるのが嬉しくて好きだった。お母さんに少しずつ認めてもらえて。アリサちゃんにアドバイスを貰ったり。わたしが作っている後ろで楽しみに待ってくれる家族や。はやてちゃんたちにも、いつか、わたしが作ったお菓子を食べて欲しいって思ったこともあった」

 

 以前は、稀に八神家でお菓子作りを手伝うことはあったが今はもうそれすらご無沙汰だ。

 

 もうどうしようもないから、諦めた。

 夢に拘って痛々しい自分を見て表情を曇らせる家族を見るのがもう嫌だったから興味を失ったフリを続けている。

 でもやっぱりやりたいことと訊かれて、1番に思い浮かぶのは。

 

「今でも思うの。あの事故が起きなかったらって。そうしたらさ、色んな事がもっと上手く回ってたんじゃないかって」

 

 例えば復学したばかりの頃に距離を取られた子たちとも今でも仲が良く。嫌がらせも受けることも無く。

 今も無邪気に将来を信じて歩けたのではないか?

 

 でも、もうそれは取り戻せない過去の未来で。

 あの事故の原因を作った2人から謝罪を聞いた。

 真剣に、心から悪いと思って謝ったことは理解している。赦したいという思いもある。

 それでも、在りえたかもしれない未来を思うと、どうしても心が搔き乱される。

 もしかしたら自分は、自分が思う以上に心が狭いのかもしれない。

 

 それでも、そんな自分の夢に『まだ』が、在るなら。

 

「よつばちゃんの夢は、私たちみんなの夢だよ。それを叶えるために私も出来ることをするって決めたから。祈るから。願うから。だから、諦めないで!」

 

 強く諭すすずかによつばはこれ以上言葉を紡ぐことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少し時間が進み、月村姉妹が訪れる。

 

「これは……?」

 

「義手です。ここ数年、ずっと製作していました」

 

 桃子の問いに忍が説明する。

 よつばの事故以来、月村家が義手や義足などを製造するメーカーを立ち上げたこと。

 今回持ってきたのはその試作品であること。

 

「義手を付けるために傷口を合わせる必要などがありますから一度手術と入院は必要ですが、自由に動かせるようになれば本物の腕と同じだけ動かせるはずです。触覚も再現されてますから尚のこと」

 

 説明を受けながら戸惑う高町家。

 そこで受け取るよつばは躊躇いがちに拒否する。

 

「あの……せっかくですけど、貰えません、こんなに高そうな物……」

 

 よつばとて中学生だ。物の価値はある程度分かる。これが、お友達からのプレゼント感覚で貰っていい物でないことくらいには。

 

「それは気にしなくていいんだけど……それにこれは試作品だから、データを取るためにも付けて欲しいの、ダメ?」

 

 忍に可愛らしくお願いされるがよつばはどうしたら良いのか判断できない様子だ。

 そんな妹に恭也が息を吐く。

 

「よつば、貰っておけ」

 

「お兄ちゃん!」

 

「実は黙っていたが父さんたちもお前にいずれ義手を付けるつもりだったんだ。そのために昔の伝手から信頼できる企業を探していた。まぁ、お金の問題とかもあったしな。忍やすずかちゃんが作った物なら他の物より俺たちも安心できる」

 

 よつばが隻腕になって高町夫妻も義手について考えていた。

 しかし、よつばが遠慮してしまうことでどう説得するか悩んでいた面もある。

 すずかがそこで発言する。

 

「よつばちゃん。この義手ね。見た目も本物の腕と変わらないように頑張って作ったの。もう一度、よつばちゃんに夢を見て欲しくて。私、またよつばちゃんが作ったお菓子、食べたいな」

 

 すずかの言葉に少し前、よつばの夢を繋ぐと言った発言を思い出す。彼女は慰めでも強がりでもなく、ずっと自分のために頑張ってくれていたのだと気付く。

 これを受け取らないのはその気持ちを捨てる行為で。

 

 よつばはすずかと忍に頭を下げる。

 

「よろしく、お願いします」

 

 頭を下げて、とても嬉しかった。泣くのを堪えるのが大変な程に。

 自分はこんなにも周りに恵まれている。

 それが誇らしくて。そんな周りに胸を張れるようになりたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話がまとまりよつばは義手を取り付けるための検査を受けた。

 それに合わせて月村姉妹も義手を調整する。

 

 手術を終えて義手を繋いだ当初はまったく動かせなかった腕もリハビリと練習を重ねることで少しずつ動かせるようになっていった。

 肘が動き、手首が動き、指が動いて物を持つことも出来るようになった。

 

 家族や友人の世話になりながら、少しずつ右腕はその動作を増やしていった。

 弱音を吐かず、よつばはずっとリハビリを続けた。

 

 そして―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、中学3年の最後のクリスマス・イヴ。

 前夜は仲の良い友達。特に最後の学生としてのクリスマスとなるなのはとはやてのために親友だけで集まってパーティーをすることになった。

 

 そしてクリスマス当日は家族と過ごす流れになる。

 

 

 5人は今日、はやての家に集まっていた。

 はやてとリイン以外の家族は今日までミッドチルダで仕事があり、帰って来るのは明日の昼頃になるだろう。

 

 だからこの場に居るのはいつものメンバーとリインフォース・ツヴァイだけだ。

 

「なのはたちは来年卒業してミッドチルダ(向こう)に行っちゃうのよね。なんかまだ実感湧かないわぁ」

 

「にゃはは。実はわたしも。向こうで仕事するのも慣れてきたけど、ひとり暮らしするって実感はね」

 

「わたしはもう向こうで家買ってこっちの家は引き払うことになるやろなぁ」

 

 アリサとすずかに魔法や次元世界のことを話したのはよつばが義手を取り付けて、自分の夢をまた追うことを決めて、なのはに自分のやりたいことを再確認させてからだ。

 

 初めは中学を卒業後、あまり会えなくなるという話にアリサが怒ったりしたが、最終的には本人の意思を尊重した。

 

「ま、来年は会えるか分からないって言うし、今日は全力で騒ぐわよ!」

 

『オーッ!!』

 

 アリサの号令に全員が握り拳を掲げた。

 これまでの思い出を語り、これからの展望を話し、クリスマスプレゼントを交換したりして楽しそうな声が室内に響き続ける。

 

 最後によつばが持ってきたケーキの切り分けに入った。

 ケーキを切るよつばにリインが質問する。

 

「よつばさん。どうして1回ケーキを切るたびに熱湯に包丁を浸けるんですか?」

 

「こうしないと、ケーキのカスとかが付いて綺麗に切れないからだよ。ケーキ屋さんとかのケーキはすごい綺麗に切り分けられてるでしょ?」

 

「あ、なるほどですぅ!さすがよつばさん、詳しいですね!」

 

 感心したようにはしゃぐリインによつばはむず痒い気持ちになって熱湯に浸けた包丁を布で拭く。

 切り分けたケーキを配り終わる。

 今回持参したのはよつばが作ったお手製のケーキだ。

 

「美味しい!前に食べたときより美味しいわ。今度作り方教えてくれへん?」

 

「ダメです!わたしが作った物だけどレシピ自体は翠屋の物だからお教えできません!」

 

 指でバッテンを作って断るよつばにはやてはちぇーと口元を尖らせた。

 

「よつばは高等部に上がったら翠屋で本格的に働くの?」

 

「うん。今まではウェイトレスや広告を張ったりとか調理関係も誰でもできる部分しか手伝わなかったけど、高校から本格的に厨房にも関わらせてもらえるから」

 

「う~。あまり家のお仕事を手伝わなかった身としては耳が痛いなぁ」

 

 なのはの自虐に笑いが起こる。

 その間によつばはすずかの横に座る。

 

「ありがとうね、すずかちゃん」

 

「どうしたの突然?」

 

「色々。こうしてまた好きなことができるようになって、やっぱり嬉しいなって再確認したから……義手のこともあるけど、1年の夏休みに諦めて不貞腐れてたわたしに檄を飛ばしてくれて」

 

 皆にはお礼を言っても言い足りないが、あの時励ましてくれたすずかには特に言いたかった。

 

「ねぇ、よつばちゃん」

 

「んー?」

 

 よつばを反応するとすずかは生クリームが塗られたケーキのスポンジをフォークで切り、口に運ぶ。

 うん、と頷いて自然と笑顔になる。

 

「美味しいね、とっても」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




余談ですが、よつばの義手には自衛目的で忍が仕込んだスタンガンが内蔵されています。最大出力でNARUTOの千鳥ゴッコができます。


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