もしもなのはに双子の妹がいたら?   作:赤いUFO

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お待たせしました。


番外編9:高町よつば『きっかけ』

 今でも覚えている。私が錯乱して拒絶したあの時の彼女がした泣きそうな表情。

 心は抑えられない程の恐怖に囚われているのに、相手のその姿だけは記憶から消えない。

 

 ――――だから、こんな夢を見るのだ。

 

 長い金の髪の女の子がひたすらに謝り続ける。

 

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、と。

 赤い瞳から流れる涙が胸を締め付けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「いや、アンタ気にしすぎでしょ」

 

 よつばの話を聞いたアリサが呆れて一言バッサリ切る。

 

「分かってはいるんだけどね……」

 

「分かってない!全然分かってないわよ!!」

 

 ビシッと指をさしたあとに鼻がくっ付くのではないかというほどにその整った顔を近づけた。

 

「もう10年も前の事なんだしいい加減吹っ切れなさい!向こうだってそうかもしれないでしょ!」

 

「そうかなぁ」

 

 アリサの言葉によつばは空を見上げて考える。

 なんとなく、あの少女はいつまでも引きずっているのではないかと思ってしまう。

 

「なら、一度会いに行ってみたらいいんじゃないかな?なのはちゃんやはやてちゃんにお願いすれば連絡くらいは取れるでしょ?」

 

「それは、そうだろうけど……」

 

 すずかの提案にも難色を示す。

 昔、はやてやリンディともいつかフェイトと向かい合うことを約束した。

 しかし、そう考えるとどうしても義手の付け根が痛み、あの日の苦痛が甦ってしまう。

 考え込んでいるとよつばの肩が横を歩いていた老人にぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい!?ぼうっとしてて!」

 

「いや、大丈夫だよ。こちらこそすまなかったね」

 

 流暢な日本語で話す外国人の老人は特に気にした様子もなく朗らかに許す。アリサもなにやってるのよーと怒りながらすずかとともに頭を下げた。

 

 相手の老人がよつばを見て僅かに驚いた顔をしていたことに気付かぬまま、別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に送らなくて大丈夫。なんならファリンに言って送ってもらう?」

 

「大丈夫だよ。すぐ近くにタクシー乗り場があるし、そこから家に帰るから」

 

「なら良いんだけど……」

 

 久々に3人集まって遊んだことで夜遅くなってしまい、心配して家の者に来て送ってもらおうか?というすずかの提案をやんわりと断った。

 10年前のあの事件以来、周りはよつばに対して少々過保護気味である。

 嬉しくはあるのだが、彼女とてもう19歳。もう少し信用してほしいなぁと思い始めている。

 

「ま、慣れ親しんだ町だし大丈夫でしょ。あ、でも帰ったら連絡しなさいよ!ちゃんと確認するからね!」

 

「うん、わかった。じゃあね、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

 手を振って別れると近くにあるタクシー乗り場まで移動する。

 もう少しで並ぼうとするところで走ってきた男に先を越されて前を並ばれた。

 

(急いでるのかなぁ)

 

 幸い利用者もよつばを含めて4人ほどでひとり分くらい良いかなと思い、気に留めず最後に並ぶ。

 並んでいた列の1番前の人がタクシーに乗ったところで電話が母の桃子からかかってきた。

 

「お母さん?」

 

『よつばー。今どこにいるのー』

 

「駅前のタクシー乗り場。そこから〇✕△のコンビニまで乗って家に帰るつもり。うん。連絡忘れててゴメンなさい」

 

 それから少し話して携帯を切った。

 話している間によつばの前の人がタクシーに乗り、あと少しだと思いながら少し遅れてやってきたタクシーに乗る。

 

「〇✕△のコンビニまでお願いします」

 

 よつばが行き先を言うとタクシーの運転手がはい、と答えてメーターを起動させて運転を始めた。

 夜に女性のひとり歩きは危ないのでタクシーを使ったが少し長く歩くくらいの距離だ。メーターも1回だけ金額が上がって目的地に着き、お金を払って降りる。

 

 ついでにコンビニの前なのだからなにか買ってから帰ろうと足を進める。

 すると突如後ろから手が伸び、誰かがよつばの口を塞いだ。

 

「!?」

 

「おい暴れるな!早く詰め込むぞ」

 

 ひとりではなく2人に取り押さえられてコンビニに泊まっていたワンボックスカーに詰められる。

 詰め込まれる際に手を後ろに縛られていた。

 よつばを乗せて男たちも乗り込むと急いで車が動かす。

 

「!?!?!?」

 

 手を縛られて寝かされる体勢を取らされているよつばは口も布を巻かれて話せずに混乱した頭で自分を詰め込んだ男たちを見る。

 彼らは全員顔全体を隠す、よくドラマの銀行強盗などで使いそうなマスクを被っており、車を出して少ししてからそれを脱いだ。

 素顔を見ると全員が大学生に見える男たちだった。

 

 そして運転している男は先程、よつばを追い抜いてタクシーに並んでいた男だった。

 

「上手くいきましたね、先輩!」

 

「な!言ったとおりだろ?」

 

 楽しそうに話している男たちによつばはさらに混乱を深める。

 するとよつばの傍に座っている見張りと思しき男がニヤニヤと気持ち悪い笑みで話す。

 

「俺らちょっと溜まっててさ~。ちょっと付き合ってもらうね~」

 

 言いながらイヤらしい手付きでよつばの尻を撫でられ、悪寒が走った。

 

「おい!あんまり触んなよ!」

 

「え~。いいじゃ無いっスか。どうせ最初は先輩に譲るんだし。ちょっとくらい役得があっても」

 

 軽い口調の男に先輩と呼ばれた男は舌打ちする。

 それから軽い口調の男はよつばの恐怖を煽るように話始める。

 

「俺らさ、色んなところでたまに女の子と遊んでもらってるんだよ。前は2ヶ月くらい前だったかな~。そん時は何やりましたっけ?」

 

「あ?アレだよ。確か山の奥まで連れてってさんざん犯ったあと、素っ裸で置いたんだろ」

 

「そでしたね~。しかもはんちゃんってドSだから、わざわざ見失わないギリギリの速度で走って裸のまま追いかけてくる女の写メとったりして遊んでさ~。アレは笑えたッスねぇ」

 

 ゲラゲラと笑う男たち。その間にその時撮った写真ををよつばに見せてきたり、これからよつばでどう遊ぶかで話し合っていた。

 自分がこれからどうなるのか。恐怖で震えるよつばを見てさらに男たちはサディスティックな笑みを深めた。

 そんな中でよつばが救いを求めたのは、次元すら越えて夢を追いかけに行った双子の姉だった。

 

(たすけて、なのちゃん……!!)

 

 それが届かないと知りつつ、他に助けを求める術を持たなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アレ?)

 

 自分の携帯を操作していると、すずかは異変に気付いた。

 これはよつばには教えていないことだが、もしもの時の為に彼女の義手には月村印の高性能GPSが搭載されている。

 もちろんすずかとて常に親友何処にいるのか詮索しているわけではなく、義手に強い衝撃が入った際に自分の携帯が振動して教えてくれるようになっているのだ。

 急いで確認するとなぜかGPSが指し示す位置がおかしかった。車で移動しているかのような速度で点が動いている。

 電話をかけてみるが、取らず、ますます何かあったのだと確信する。

 呼吸が荒くしながら高町家へ連絡を入れた。

 

『はい。高町ですが』

 

 出たのは姉である美由希だった。

 

「あ、あの!よつばちゃんはもう帰りましたか」

 

『それがまだ戻らなくて。携帯に掛けてるんだけど取らないの。何か知らない?』

 

 美由希の言葉にすずかは血の気が引く。

 それですずかもGPSのことを話した。

 向こうから息を呑む音が聞こえる。

 

『わかった。とりあえずこっちも車を出して落ち合いましょう!教えてくれてありがと、すずかちゃん!!』

 

 こちらが礼を言う前に携帯を切る美由希。

 すぐにアリサにも連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よつばを使ってどう遊ぶのか話し合っている男たち。

 その中で何故自分を狙ったのか話している。

 

「君がお友達と別れてタクシー乗り場でどこで降りるのか訊こうと思ったんだよ。でもお母さんとの電話で自分からゲロってくれて助かったわ。あーでもお友達も結構な美人さんだったじゃん。なんだったら君を使って呼び出して俺らと一緒に遊ぶ?」

 

 相手の下種な会話に嫌悪感を覚えながら怖がらないように必死で考えた。

 そんな中で先輩が急に不機嫌そうな顔をする。

 

「おい!なんでさっきからグルグル同じところを周ってんだよ!」

 

「ち、違いますよ!真っ直ぐ走ってる筈なのになんか同じところに」

 

「馬鹿かお前!ただ単に道に迷っただけだろうが!カーナビ付いてんのになに迷ってんだよ、愚図!!」

 

 運転している青年を先輩が小突く。

 しかしまったく景色が変わらず、中で焦りが生じた。

 そこで軽い口調の男が異変に気付く。

 

「なんかおかしくないっスか?俺ら以外誰も走ってないんスけど」

 

 もう夜中とはいえ車が全く見えないことに不安を感じた。

 それに先輩が我慢できなくなって車を止めさせた。

 

「あぁ!もういい!俺が運転する替われ!」

 

 一度運転席から降りると不意に女性の声が聞こえた。

 

「お、やっと止まってくれたわね」

 

 声の方へと顔を向けるとそこにはショートカットの桃色の髪をした女性が立っていた。

 

「な、なんだよ姉ちゃん!俺らになんか用か?」

 

 苛たたし気に訊くと桃色の髪の女性はわざとらしく大きなため息を吐く。

 

「まさか目の前で誘拐されるなんて思わなかったわよ。他ならこの世界の警察に任せるべきなんでしょうけど、あの子の友達に手を出したのが運の尽きね。まったく。父さまの最後の旅行にとんだケチが付いちゃったじゃない。どうしてくれるのかしら?」

 

「なに言ってんだ、おい!?」

 

「まさかいきなり車を壊すわけにもいかないから、アリアの結界で閉じ込めて止まるのを待ってたのよ。故郷とはいえ、管理外世界での魔法使用。後々のことを考えると頭痛いわ。あぁ、別にアンタたちは理解しなくていいわよ?私が訊きたいの2つ。痛い思いをして警察に突き出されるか、大人しく車の中に居る子を渡して無傷で警察に突き出されるかよ」

 

 女性の言葉の多くは理解できなかったが自分たちが女を誘拐したことを知られたというのは理解できた。

 どうする?と視線を送る青年に先輩は舌打ちして答える。

 

「決まってんだろ仕方ねぇからこの女も押し込め!多少手荒くなってもいい!!」

 

 ナイフを取り出す男に桃色の髪の女性は馬鹿を見るような眼で息を吐いた。

 

「つまり、痛い目見て警察に突き出されたいのね」

 

「あ?痛い目見んのはそっちだろ!いや、後でたっぷりと気持ち良くしてやるよ!」

 

「ばーか」

 

 一瞬舌を出すと女性は目にもとまらぬ速度で移動し、先輩の顎に掌を打ち込む。

 一撃で意識を刈り取られた先輩に青年が臆するが気にした様子もなく女性は鳩尾に一撃入れた。

 

 2人を気絶させ、よつばを助けようとすると、車の反対側から出た軽い口調の男がよつばに刃物を当てて叫ぶ。

 

「く、来るんじゃねぇ!こいつがどうなってもいいっスか!!」

 

「うわぁ‥…ベタな展開……」

 

 呆れたように言う女性に軽い口調の男は離れろだの指示を出すがむしろ女性はよつばにナイフが当たる前に無傷で奪える自信があった。

 しかし、その必要すらなかった。

 

「まったく。日本はもっと平和な国だと思っていたのだがね」

 

 軽い口調の男の後ろから男性の声が聞こえた。

 振り向こうとするがその前にドンと頭に衝撃が走り、意識を失う。

 同時に手を放して倒れそうになったよつばを抱えた。

 

「すまないね、若いの。辞職したとはいえ元公僕だ。こんな場面を見逃すわけにはいかない。ましてやあの子の大切な友人ならば――――」

 

 言いながらよつばにかけられた拘束を外す。

 

「あなたは……?」

 

「ギル・グレアム、と言えば分かるかな?」

 

 教えられた名前を言われて

 よつばは驚きの表情で相手を見上げた。

 

「グレアム、おじさん……?」

 

 はやてから聞いた昔の彼女の保護者。

 もっとも、よつばはかれが闇の書事件に関わっていることまでは知らないのだが。

 

 優しい笑顔を向けるグレアムに助けてくれた女性が声を荒らげる。

 

「お父様!アタシらに任せてくれる話だったでしょう!」

 

「すまないロッテ。だが私もたまには体を動かさないと鈍ってしまうよ」

 

「お父様ももう若くないのですかご自愛ください。それと結界の解除は既に終わりましたので」

 

 グレアムの言い分に別の所から現れた助けてくれた女性と瓜二つで髪の長さくらいしか違いの無い女性が釘を刺す。

 それにわかったわかったと苦笑していると見覚えのある2台の車が近づいてきた。

 

「よつば!?」

 

 中から現れたのは姉である美由希と父の士郎だった。

 美由希はよつばを見るなり駆け寄って抱きついて来た。

 

「よかった!よつば!よかったよぉ!?」

 

 また妹に何かあったら。士郎も美由希も今度こそ自分を許せなかっただろう。

 目尻に涙を溜めて良かったと繰り返す姉によつばは本当に体の力が抜けて、ごめんなさいと言った。

 ただ、父と姉が手にしている日本刀でなにをする気だったのか大いに気になるが。

 それから後ろを走っていた車からアリサとすずかだった。

 

 顔を真っ赤にし、美由希と同じように涙を溜めていたアリサはよつばの両頬を引っ張った。

 

「ア・ン・タ・は~ッ!!どうしてこう隕石みたいに突然強烈に心配させるのぉおおおおおっ!!」

 

「いひゃいっ!?いひゃいよっ!?あひはひゃんっ!?」

 

 よつばも半泣きになりながらアリサに抗議するよつば。

 

「よかった、よつばちゃん……」

 

 すずかも嬉しそうによつばに抱きついた。

 

 そんなよつばの無事を喜んでいる中、士郎がギル・グレアムに話しかける。

 

「失礼ですが、貴方は?」

 

「ギル・グレアムと申します。あぁ、八神はやてくんの元保護者と言えば伝わりますかな?」

 

 厳密には違うのだがグレアムは角が立たないようにそう答えた。

 士郎も彼が管理局の関係者であることは予想が付いた。

 

「これは初めまして。ですがどうしてここに?」

 

「えぇ、実は――――」

 

 人生最後の旅行にはやての故郷を廻ろうと海鳴を訪れた事。

 偶々娘であるリーゼロッテがよつば誘拐の現場を目撃して魔法を使い、彼らを結界内に閉じ込めて救出の隙を伺っていたことなどを話した。

 

「それは、本当にありがとうございます!おかげで娘が無事戻ってきました」

 

「こちらも高町なのは君には昔世話になりましたから。それにあの子の友人の危機を見逃すのは」

 

 などと話していながらリーゼ姉妹は誘拐犯たちを縛り上げており、アリサは怒りを込めて男のひとりの股間を思いっきり踏み付けにした。

 連絡した警察がもう少しで駆けつけるのでグレアムは先にこの場を離れることを告げた。

 彼にも話し辛いことが多いためだ。

 

「グレアムさん。本当にありがとうございました!もし良ければ何かお礼を……」

 

「気にしなくていいよ。はやて君の友人が無事だったのならそれで充分さ」

 

「でも……」

 

 気が済まないというよつばにグレアムは少し考えてとある提案をした。

 

「これは頼みと言うよりお願いかな。もし良ければ、もう一度フェイト・テスタロッサ君と話をしてあげて欲しい」

 

「え?」

 

「彼女は今も君との間に起きた不幸な事故を気にしている。赦せとは言わない。ただ話をしてあげて欲しいのだ」

 

 グレアムはつい先日新設の部隊を稼働させたことを知っている。その隊長陣になのはとフェイトを据えていることを。しかしあの2人が上手くいくのは難しいだろう。

 だから、これが何かを変える一手になるようにグレアムは願った。

 

 返答できないよつばにもしその気があるならはやてに連絡してみるといい、とだけ言ってグレアムはその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。よつばは親友の八神はやてへと連絡を入れていた。

 何度かコール音が続いてはやてが電話を取る。

 グレアムが言っていたフェイトはまだあの事件に囚われていること。

 それが本当ならば――――。

 

『よつばちゃん?久しぶりやなぁ。いきなりどないしたん?』

 

「うんちょっとね。はやてちゃんにお願いがあるの」

 

『ん?なのはちゃんやなくて?』

 

「うん……実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 




次で最後です。

最終話『遅れたはじまり』後の話を書きます。

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