もしもなのはに双子の妹がいたら?   作:赤いUFO

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長くなりそうだったので前後編に分けます。





番外編10:機動六課編『はじまりの続き』前編

 機動六課の宿舎。

 その食堂で高町なのはとフェイト・T・ハラオウンは向かい合っていた。

 互いに緊張した面持ちで何を話したら良いのか分からない様子だ。

 そんな中でなのはから話題を切り出す。

 

「あ、あのっ!!」

 

「は、はい!?」

 

 なのはに呼ばれてフェイトも姿勢を正す。

 

「そ、その……ご趣味は?」

 

 周りで見守っていた一同が転ける音が一斉に起きた。

 

「だぁああああっ!?お見合いかお前らっ!?なんで仕事だと問題ねぇのに私事だとそうなるんだよ!!もっと普通に話せ普通に!!」

 

 バンバン!とテーブルを叩きながら2人の距離感に焦れったさを感じて爆発したヴィータ。

 

「だ、だって何を話したらいいのか分からなくて……」

 

 なのはも今の会話がおかしいと感じて視線を宙に游がせて小声で言い訳する。

 

「お前の特技は暴走車みたいに迷惑がられても突っ込んで行くことだろうが!!ガキの頃のみたいに押していけよ!」

 

「例えが酷すぎるよ!?それにさすがにわたしもこの歳でそこまでの突進癖はないよ!!」

 

 なのはの言い分を無視して次はフェイトに捲し立てる。

 

「テスタロッサもだ!もうビクビクする必要なんてねぇんだから堂々と普通に話せよな!」

 

「その……つい緊張しちゃって……」

 

 なのはとフェイト。2人の確執は10年にも及び、つい最近その理由が取り除かれた。

 だからと言って10年もの溝がポンと埋まるわけもなく、互いにぎこちないのは変わらない。

 それでもこうして歩み寄ろうとしているだけ以前に比べてマシなのだが。

 

 そんな2人に部隊長である八神はやては目尻に涙を溜めて笑っていた。

 

「いやー。おもろいからわたしとしてはええんやけどな!」

 

 2人の間にいたはやてからすればようやく始まったなのはとフェイトの関係は喜ばしい限りだった。

 同じ部隊に彼女たちを誘ったのも能力の優秀さもあるが、何か起きて仲直り出来ないかな、という期待もあった。

 まぁ、それは高町よつばによって隔たりが取り除かれたが。

 そして以前の事務的な話しかしないピリピリとした空気は殆ど見られなくなっている。

 代わりにじれったいというか、歯痒い雰囲気ではあるがそれも時間が解決してくれるだろうとはやては思っている。

 

「それじゃあ毎朝恒例のなのは隊長とフェイト隊長の公開コミュニケーション時間は終わったことやしお仕事の話に入ってええか?」

 

「見世物じゃないよ!?」

 

 フェイトの抗議を聞き流してはやては今朝送られた資料をテーブルに広げた。

 

「急な話で申し訳ないんやけど、お昼前にとある世界で発見されたロストロギア回収に出向くことになってな。危険はないと思うけど一応主要メンバー全員で出動やね。こっちはグリフィス君とザフィーラが中心になってもらう」

 

 はやての説明にスバルが質問する。

 

「その世界って遠いんですか?」

 

「うん。第97管理外世界惑星名『地球』。その小さな島国の都市。海鳴市や」

 

「それって……」

 

「そ!わたしとなのはちゃんの出身世界で故郷。向こうの協力者には連絡を入れてあるから、皆も制服やなくて私服で来てな。あと、ひとり随伴者が付くけど今回の任務とは関係ないから気にせんでええよ」

 

 それだけ伝えてはやては話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はやて!」

 

 朝食が終わると場を離れたはやてに後ろからフェイトが話しかける。

 

「どないした、フェイトちゃん?」

 

「その……今回の任務、私も行かなきゃダメ、かな?」

 

「う~ん。危険はないと思うんやけど万が一を考えてフェイトちゃんにも付いて来てほしいんよ。なんや都合が悪い?」

 

「そういう、わけじゃないんだけど……」

 

 フェイトにとって海鳴市は決して良い思い出の土地ではない。

 その原因となった少女から赦しを得られたとしても自分が再びあの地を踏んでいいのかと躊躇う気持ちが強いのだ。

 もしかしたら自分があの世界に行くことで良くないことが起こるのではないか?そういう根拠のない不安が胸をざわつかせる。

 

「実は向こうの協力者。アリサちゃんって言うんやけど、その子がもし機会が有ったらフェイトちゃんを連れてこい言われててな。出来れば来てくれるとありがたいんよ」

 

 アリサ、という名前はフェイトにも聞き覚えがあった。

 少し前になのはから聞いた親友のひとりの名前。きっと自分に対して好い感情は持っていないだろうことは想像に難くない。

 

「たぶん、フェイトちゃんが考えているようなことにはならん思うけどな。それに、今回随伴するのもフェイトちゃんの身内やから一緒に来てくれた方がええと思うで?」

 

「私の身内?」

 

 フェイトは首を傾げた。

 それもすぐに分かるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー今回一緒について行くアルフです。みんな、よろしく!」

 

「アルフ!?」

 

 現役を退いた自分の使い魔が現れたことにフェイトは驚きの声を上げた。

 それにアルフと面識のあるエリオが質問する。

 

「随伴者ってアルフのことだったの?」

 

「そ。ちょっとアタシも海鳴に用事があってね。あぁ、はやてから聞いてるだろうけどそっちのお仕事とは関係のない私用だから気にしないでくれよ。アタシのことはホントにおまけとでも思ってくれていいから」

 

「はぁ」

 

 アルフの返答に曖昧な返事を返すエリオ。

 そこで何かを察したなのはが話しかける。

 思えば、彼女と話すのは闇の書事件以来かもしれない。

 

「アルフさん、用事ってもしかして……」

 

「たぶん、なのはの考えている通りだよ。それとこの姿でさん付けとかは色々と不自然だから呼び捨てでいいよ」

 

「そう?じゃあ、アルフで……」

 

 アルフは10年前の高校生くらいの見た目ではなく、エリオやキャロと同じくらいの見た目へと変化していた。

 そこで全員が合流を終えるとはやてが指示を出した。

 

「それじゃあ、なのは隊長。そっちの引率よろしくなー」

 

「任せて!」

 

「八神部隊長は一緒じゃないんですか?」

 

「うん。わたしと副隊長たちは別の転移装置から移動や。広域捜査になるから二か所からサーチャーをバラまこ思て」

 

 後で合流なー!と手を振りながら場を離れる。

 入れ替わりに昔のはやての服を着た人間サイズの姿を取ったリイン曹長に新人たちが驚いたりということがあったが問題なく転移装置で海鳴まで跳ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移した先は緑の広がる。湖畔のコテージだった。

 ここは海鳴現地の協力者が局員の待機所として提供している別荘である。

 ミッドとほとんど変わらない風景に地球に来たことのない新人たちはその景色に様々な感想を持っていると1台の乗用車が近づいて来た。

 

「なのは!」

 

「アリサちゃん、久しぶり!」

 

「もう突然じゃない!来るなら来るでもっと早く連絡寄越しなさいよ!」

 

「ごめんごめん!急に決まったから」

 

 なのはと親しそうに話しているアリサは後ろに居る他のメンバーを見て自己紹介を始めた。

 

「初めまして。なのはとはやての親友でアリサ・バニングスです。貴方たちがなのはの生徒?」

 

「そうだよ。みんな、自己紹介して」

 

 新人がそれぞれ自己紹介する中、最後にフェイトが名前を名乗る。

 

「なのはとはやての同僚でフェイト・T・ハラオウン、です」

 

「……へぇ」

 

 フェイトが自己紹介をするとアリサはさっきまでの友好的な表情が僅かに変化し、肉食動物が獲物を観察するような視線に変わる。

 そんなアリサにフェイトは肩を僅かに跳ねるがアリサの表情はすぐにさっきまでの友好的なモノ戻った。

 

「とりあえずコテージは勝手に使っていいから。アタシはすずかと合流するわね。あ、なのは!時間があるなら翠屋に顔出しておきなさいよ!桃子さんたちも心配してるんだから!」

 

「にゃはは。うん。後で時間を見つけて会いに行くつもり」

 

「ならよし!」

 

 手でジェスチャーするアリサに皆がついて行く。そんな中フェイトはお腹を押さえてネガティブな思考と戦っていた。

 

(やっぱり私、こっちに来ないほうが良かったんじゃないかな?)

 

 緊張でお腹が痛くなったような気がした。

 そんなフェイトにアルフが心配そうに名前を呼ぶ。

 

「フェイト……」

 

「大丈夫だよ、アルフ。堂々と……ってわけにはいかないけど。私もいつまでも逃げているわけにはいかないから」

 

 高町よつばは勇気を出して自分に会いに来てくれた。

 なら自分も彼女の親しい人。特に家族に会う決意くらいは持つべきだ。

 相手になんて言われるかは分からないが。

 

 なのはに早く来るように促されてフェイトは足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貸し出されたコテージでなのはとフェイトは今回の任務の説明に入る。

 

 ロストロギアの反応は複数でしかも移動しており、まだ被害などが出ていないことから危険性は低いと判断されている。

 仮に六課の目的であるレリックだとしても魔力資質を持つ者は極端に少ない地球なら暴走の可能性も低い。

 それでもレリックを狙う者との戦闘を想定してフェイトなども連れて来ている。

 

 陸と空を移動しながら各所にサーチャーの配置や探査魔法でロストロギアの探索を進めて行く。順調に進めば夜までには回収できるかもしれない。

 そこではやてから新情報がもたらされる。

 

 今回のロストロギアは運送中の手違いで海鳴に落ちてしまい、事件性はないこと。高価な物なので出来る限り無傷で確保してほしいという旨。

 

 それらを聞いて全員が僅かに肩の力を抜く。

 最後に夕食はアリサとすずかが用意してくれるらしい。

 

「でもアリサちゃんたちに全部用意してもらうのも悪いし、手ぶらで帰るのもなんだしね」

 

 言ってなのはは携帯を取り出して電話をかける。

 

「あ、お母さん!」

 

 その言葉にその場にいた新人たちが驚きの声を上げる。

 

 なのはの家族で思い出されるのは双子の妹である高町よつば。

 以前六課を訪問したときはそう話す時間は取れなかったがなのはに似てやはり別人と判る雰囲気をした女性。

 

 短い会話を終えて携帯を切るとなのは笑顔で指示を出した。

 

「それじゃあ、わたしの実家のお店まで案内するから、付いて来て」

 

「え、と……喫茶店でしたっけ?」

 

「はいです!オシャレでおいしいお店ですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、お母さん!」

 

「なのは久しぶり!元気にしてた?」

 

「うん!」

 

 喫茶翠屋に着くと母である桃子となのはが親子としての会話をしている。それは当然なのだがなのはにある種の偶像がある新人たちは驚きながらその会話を聞いていた。

 というか両親の見た目の若さも含めて驚きだったのだが。

 

 母の桃子、父の士郎、姉の美由希。そして最後に厨房の奥からよつばが出て来た。

 

「なのちゃん、おかえりなさい」

 

「ただいま、よつばちゃん」

 

 姉妹で軽く挨拶を躱すと次によつばは新人たちに視線を向ける。

 

「前はあまり話せる時間が取れなかったけど、今回は少し、お話出来るといいな。むこうのなのちゃんの話も聞きたいし。それと――――」

 

 最後にフェイトの方を見る。

 

「テスタロッサさんも。後で話せるの楽しみにしてますから」

 

「え、と……はい……」

 

 10年前の事故など無かったかのように振舞うよつばに違和感を覚えながらもフェイトはその態度に感謝して頷く。

 そこでよつばがフェイトの横に立っているアルフに目をやった。

 

「その子はもしかしてアルフさんの妹さんかなにかですか?お姉さんにそっくりですね」

 

「いえ、その子は違くて……」

 

 アルフの頭を撫でるよつば。

 よつばからすればアルフの高校生くらいの見た目しか知らない為、まさか縮んでいるとは思わないのだ。

 フェイトが違うと答えるとよつばが驚愕した表情になる。

 

「も、も、も、もしかして娘さん!?で、でも昔あった時は高校生くらいであれから10年だから……」

 

 アルフの見た目が10歳くらいなのを見て、指で年齢を予測しているよつばにアルフが訂正する。

 

「本人だよ。その久しぶり、だね……」

 

「え?でも歳が……」

 

「使い魔のアルフはある程度見た目を操作できますから。今は私の負担を抑えるために子供の姿で居てもらってるんです」

 

「あぁ、そういうこともできるんですね。そういえばはやてちゃんのところのザフィーラさんも前に小さくなってたっけ。ビックリしたぁ」

 

 謎が解けて胸を撫で下ろすよつば。

 

「それじゃあケーキは今箱詰めしてるから、座って待ってて。あ、何か飲んでく?」

 

「い、いえ!お構いなく!」

 

 桃子の質問に新人の年長であるティアナが緊張してそう答えるがクスっと笑って返す。

 

「遠慮しないで。向こうのなのはの話も聞きたいしね。あ、よつばが考えた新作のクッキーがあるの!良かったら食べて行って!よつば、お願い」

 

「は~い」

 

 桃子に言われてテキパキと用意するよつば。

 それに新人たちがなのはに良いんですか?と視線を投げかけるが笑って頷いていることから良いらしい。

 

 緊張した様子で出された紅茶とクッキーを食べている新人と慣れ親しんだ様子で美味しそうにクッキーを食べているリイン。

 

 そんな新人たちとは少し離れた席に座っているフェイトに士郎が同じものを置く。

 

「紅茶で良かったかな」

 

「あ、はい!ありがとうございます!」

 

 新人たちとは違う意味でフェイトにとってここは居心地が悪い。なにせ昔大怪我させた相手のお店だ。

 こうして自然に接せられると逆にどうすればいいのか分からなくなる。

 

 そんなフェイトに士郎がしみじみと懐かしそうに呟く。

 

「10年、か……」

 

 その呟きにフェイトは顔を上げた。

 

「君やよつばからすれば長い時間だったのかもしれないが。俺や桃子からすればあっという間だった気がする」

 

 もしかしたら責められるのかもしれないと身体を強張らせるフェイトに士郎は苦笑を返した。

 

「正直に言えば、よつばのように俺や桃子はまだ割り切れないのが本音さ。情けないことにね」

 

 被害に遭った娘が流したのに自分たちは、という気持ちはある。しかしフェイトからすればそれは当然のことだった。

 

「それは、そうだと思います。私も簡単に赦してもらえるとは思ってません」

 

 確かによつばからの赦しは貰った。だからと言って彼女と親しい者たちが自分を赦してくれるなどと思えるほどフェイトは楽観的ではなかった。例えば、先程会ったアリサという女性も、きっと自分に好い感情は抱いてはいないだろう。

 

「いや、違う。そういうことが言いたいんじゃないんだ」

 

 首を振る士郎。

 

「よつばが君に会いに行って帰って来た日。嬉しそうに話してくれたよ。出来ればもっと話したかったと名残惜しそうでもあった」

 

「え?」

 

「自分が作ったお菓子を食べて美味しいと言ってくれたこと。赦す、と言った際に君が泣いたこと。そして長い間苦しませてしまった申し訳なさとか。まぁ、色々とね」

 

 そこで士郎は穏やかに笑った。

 

「フェイトちゃん。10年前、俺たちは君に赦すことは出来ないと言った。正直に言って今君を見てわだかまりを感じたり、どうして?と黒い感情が出ない訳じゃないんだ。それを流すには俺たちにももう少し時間がかかることだと思う。それでもあの子が、よつばが赦して、なのはもそうしようと決めた。なら、俺たちも少しずつそういった負の感情を流していきたいと思ってる。ありがとう、10年もあの子を傷付けた痛みを背負ってくれて。でも、もう楽になってくれていいんだ。あの子もそれを望んでる」

 

 その言葉を聞いて、フェイトは手にしていたカップが震わせていた。

 

 どうして、この家族はこんなにも優しいのか。

 一方的に拒絶されたり、敵意を向けられても仕方ない自分に、こうして歩み寄ってくれるほどに強く在れるのか。

 

「ありがとう、ございます……」

 

 下げた頭。その顔には涙が僅かに光っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




書き始めれば割とスイスイ書けるんだよなぁ。書き始めるのに時間がかかる。

後半はフェイト対アリサ・すずかとよつば対アルフの会話が中心になると思います。

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