4話か5話程で無印を終わらせてエピローグ的な形でsts時代を1話書こうと思います。
「それじゃあ、もうよつばのお見舞いは大丈夫な訳ね?」
「うん。よつばちゃんも大分落ち着いてきたから。午前に忍さんもお兄ちゃんとお見舞いに来てくれるって」
「良かったって素直に喜べないね。その、右腕のこと……」
「……うん。落ちた時に体を右腕で庇ったことと壊れてた柵の尖った部分が刺さってて。それに右の足首も骨に罅がって」
一時、ジュエルシードの捜索とフェイトのことで頭を悩ませ、距離が出来てしまったなのはとアリサはよつばの事故で急速に関係が修復された。
よつばの事故がショックで塞ぎ込んだなのはを叱咤し、立ち直らせたのがアリサだった。
事故を自分のせいだと責めるなのはを見るなり頬を張り、怒鳴りつけた。
「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!よつばの事はあの子に絡んだヤツが悪いに決まってるでしょっ!!」
「なのはちゃん。なのはちゃんが自分をそんな風に責める必要はないんだよ?」
よつばの事故の経緯を大まかに知った2人はそう言って慰める。
魔法のことを知らない2人だがこうして自分を気遣い、励ましてくれる親友が居たからこそなのはは精神を安定させることが出来た。
ユーノは、この件を機にジュエルシードとは関わらないことを薦めた。
今回の件は明らかにジュエルシードの存在の所為だ。だからなのはにはもうこちらには関わらずによつばの傍に居てほしかった。
しかしなのはは首を横に振る。
「ジュエルシードが危険な物だってことはこれまでから充分解ってるし、それにフェイトちゃんがよつばちゃんをあんな目に遭わせたなら、わたしは―――――」
そこから先は口にしなかったが、その声には強い怒りが込められていることをユーノは感じる。
こうなるとなのはは自分の言葉では退かないだろうと思うし、結局、ユーノひとりではジュエルシードの封印は難しいこともあり、現状のまま協力してもらうことになる。
本来、こうした事件を解決する時空管理局も本局から遠く離れた地球にいつ来てくれるか定かではないという理由もある。
ユーノは自分の無力さに憤り、なのはとよつばに申し訳ない気持ちになって項垂れた。
「いらっしゃい。みんな」
病室の寝台から上半身を起こしていたよつばが嬉しそうに笑みを浮かべる。
読んでいた雑誌を閉じ、3人と向かい合う。
至る所に包帯が見える親友を痛ましいと思いながらすずかは笑みを作って声をかける。
「よつばちゃん。その……身体はどう?」
「うん。まだあちこち痛いところはあるけど大丈夫。お医者さんからも思ったより早く退院できるかもって」
そんなすずかによつばも笑って答える。
しかしすずかとアリサは窓側にあったよつばの失った右腕を見て目を見開いて言葉が詰まる。
よつばの状態に関しては2人とも聞いていた。しかしそれを人伝で納得できるほど2人は大人ではなかった。
もしかしてなにかの間違いで、病室に着いたらいつも通りよつばの右腕は存在しているのではないか、とアリサとすずかは無意識に思っていたのだ。
そして隻腕になった親友を目の当たりにして即座に声をかけられるほど彼女たちは人生経験が豊富ではなかった。
そんな2人に気付いてよつばはシーツで右腕を隠した。
「あはは。ゴメンね?落ちた時に右腕の傷が酷かったらしくて……その……」
よつばから見せられる笑顔は明らかにさっきよりもぎこちない笑顔で。なんと言ったらいいのか分からず、ただ唇だけを動かし続ける。
そんな親友の姿にアリサは―――――。
「やめなさい――――!」
確かな怒りを抱いた。
その表情は泣きそうなのにそれ以上に怒りで顔を歪ませていた。
「1番大変で1番辛いくせに、そんな作り笑いなんて止めなさい!」
「―――――っ!?」
言葉を詰まらせるよつばにアリサはさらに言葉で詰め寄る。
「わからないと思ったの?馬鹿にすんじゃないわよ!そんなバレバレの作り笑いなんてバレるに決まってるでしょっ!!」
アリサは悔しかった。
目の前の親友の状態もそうだが、その親友が、自分たちに弱音ひとつ吐こうとしないことが。
アリサもすずかも歳の割に将来の夢はしっかり持っているほうだと思っている。
しかし、その為に今、何か特別なことをしているつもりはない。
だがよつばは、将来お両親の喫茶店で働きたいという夢のために彼女なりに努力していることを知っている。
たまに食べさせてくれるよつばのお手製の菓子を出された際に感想を聞く時、真剣な表情でそれをメモしていることを知っている。
だから、アリサも真剣に今までお菓子の感想を言った。たとえそれが言い辛いことでも。
よつばが本気だと知っていたから、アリサも本気でそれを応援したのだ。
「言ってよ!辛いって!苦しいって!そんなことも受け止められない
言いながら、アリサも泣いていた。
きっとアリサにはなにもできない。
よつばの腕を元に戻してあげることも。夢の手助けも。
だからこそせめて親友の弱音くらい受け止めてあげたいのに、それすらさせてくれない。
どうして、この姉妹はそれすらさせてくれないのか。
「や、だ……」
アリサの言葉を聞いてよつば表情を崩して涙を流す。
「こんなの、やだ……やだ、よ……っ!なんで、こうなっちゃったの?わたし、なにかした?わたしは、ただ―――――!」
よつばは家族の前で泣いた時と同じように。もしくはそれ以上に涙を流した。
どうして自分が?
その疑問のままにまだ受け入れるには辛すぎる現実から逃れたくて。泣くこと以外に吐き出す術を知らなかった。
そんな親友をアリサとすずかは左右から抱きしめて頭を撫でる。
3人を眺めながらなのははよつばが見つけたジュエルシードを手の平で血を流すほど強く握りしめていた。
「ああああああああああっ!?」
暴力的に魔法をぶつけてくる目の前の少女にフェイトは混乱していた。
涙を流しながら獣のように攻撃を連発してくる少女。
回避を繰り返しながらフェイトは少しずつ情報を整理していく。
そもそも、あの高さから落下して快癒していることがおかしいというところから始まり、数日前崖から落としてしまった少女の様子や目の前の少女の言動から2つの存在は別人で、且つ目の前の少女の近しい人物である可能性。
フェイトは頭の回転が速いが故にその結論に辿り着いた。
辿り着いてしまった。
「―――――っ!?」
戦闘はフェイトが一方的に圧されていた。
この世界に来てからジュエルシードの捜索をしていた疲労。
ひとりの少女を崖から落とし、心労を重ね、不眠による集中力の散漫。
実母からの仕打ち。
それらが重なって本来のポテンシャルを発揮できず、なのはに押され気味になっていた。
そこで使い魔のアルフから念話が届く。
『フェイト!なにやってんだい!ジュエルシードをプレシアの所に届けるんだろ!?』
その言葉にフェイトはハッとなる。
フェイトにとってなにより優先すべき目的。
たとえ目の前の少女が自分たちの行動で傷ついていたとしても、自分はそれを踏み潰さなければいけない。
気持ちを切り替えて、強い意志を持って愛機であるデバイスを握り締めた。
そこで、第三者の介入が行われる。
「時空管理局執務管、クロノ・ハラオウンだ!2人とも武器を引くんだ!」
その介入によって戦闘は中断された。
高町なのははアースラと呼ばれている見知らぬ戦艦に招き入れられていた。
途中で喋るフェレットだと思っていたユーノが実は人間だと知ったりとか次元世界のこととか色々と説明を受けていた。
アースラの艦長。リンディ・ハラオウンから次元世界のことやロストロギアの危険性。そしてジュエルシードの危険性を聞いていた。
そしてクロノがこれはもう、民間人が介入するレベルの話ではないと言ったところでなのはは感情を爆発させる。
「なら、どうして……どうしてもっと早く来てくれなかったんですかっ!!」
突如大声を上げるなのはにハラオウン親子は目を見開く。
「あなたたちがもっと早く来てくれれば、よつばちゃんは―――――よつばちゃんは……っ!?」
そこまで言ってなのはは言葉を切る。
なのはとてわかっている。
自分がもっと上手にジュエルシードを回収できれば妹があんな目に遭うことはなかった。
それでも思う。
ジュエルシードの回収がこの人たちの仕事なら、最初から協力してくれれば、よつばはあんな目に遭わなくて済んだのではないかと。
その思いを理性で飲み込むには、なのははまだ幼すぎた。
なのはの事情を知らないリンディたちは狼狽するが事情を知るユーノが後で念話で説明してくれた。
「あの子の妹さんがね。やり切れないわね」
なのはとフェイトの戦闘記録を観賞しながらポツリと呟く。
ジュエルシードの存在を知って時空管理局とて何もしていなかったわけではない。
だがやはり、管理外世界への派遣は管理世界への移動より多くの書類や審査、承認が必要となる。
彼女たちが法の番人を自称する以上、自分たちが定めた法を違反し、強行するわけにはいかなかった。
言い訳だけどね、と誰にも聞こえない声でいう。
「艦長はあのなのはという子をどうするつもりですか?まさか、彼女をこの艦に置く気ですか?」
「部隊を指揮する貴方の意見は?クロノ」
「僕は反対です。彼女が管理外世界の民間人ということもそうですが、現状彼女は精神的に不安定と言わざるをえません。そんな人間に協力を要請するなんて」
「でも、下手に突っぱねて勝手な行動を取られたら対処することが増えてしまうわ。それにジュエルシード。アレを封印するには小手先の技術よりも魔力量とパワーがモノを言う。この艦でそれができるのはクロノか私くらいでしょうね。それにこのフェイトさんの後ろにいるであろう人物も気になるわ」
フェイトの画像に指差しながらリンディは言葉を重ねる。
あんな子供が単独で全てを整えたとは思えない。きっと裏で操っている大人がいる筈だ。
「なのはさんは自分から自重してくれるならそれが1番だし、フェイトさんもこちらの投降に応えてくれるのが最善なのだけれど」
そうはいかないでしょうね、とお茶に口をつけた。
面会時間終了ギリギリに双子の姉が現れてよつばはびっくりした。
「どうしたのなのちゃん?」
「うん。ちょっと。これからお見舞いにあんまり来れなくなりそうなの。だから顔見せに」
なんで?と訊こうとする前になのはよつばを抱きしめた。
「よつばちゃん。よつばちゃんをこんな目に遭わせた子を、必ずここに連れて来るね。絶対に謝ってもらうから。少しだけ、待ってて」
それだけを言い終え、なのははよつばの返答を聞かずに退室した。
「お姉ちゃん。お願いがあるの」
夜、すずかは姉である忍の部屋に訪れていた。
予想していたのか、忍は険しい表情で妹を見る。
「よつばちゃんのことね?」
「うん」
「はっきり言って大変だと思うわ。ただの義手ならまだしも、あの子の夢を叶えられるほどの義手を造るのは」
すずかは自分が親友になにができるか考えた。
それでもやはり辿り着いたのがよつばの失った腕を自分が造ることだった。
「難しいことが諦める理由になんてならないよ。私は、よつばちゃんにこのまま自分の夢を諦めてほしくないの。だからよつばちゃんの腕は、私が造る。だから教えて欲しいのお姉ちゃんが知識と技術を」
すずかの言葉に忍は目を見開いた
忍はすずかが自分によつばの義手を造ってくれるよう頼むのかと思った。
しかし妹は自分で造ると言った。
真っ直ぐに自分を見て。
昔なら場に流されて事の成り行きを見守っているだけだっただろう。
そんな妹が自分から親友の力に成りたいと師事を求めてくる。
その成長が忍には誇らしかった。
「えぇ。教えてあげる。ビシビシとね。だから、一緒にあの子の腕を造りましょう。なんたってあの子は将来私の妹になる子なんだから」
「うん!ありがとうお姉ちゃん!」
こうして、月村すずかは自分の行く道を定めた。