もしもなのはに双子の妹がいたら?   作:赤いUFO

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この作品ではハラオウン親子は地球に移住してません。




第6話:回想

「あの、もしかしてなのはさんとフェイトさんって仲が悪いんですか?」

 

 そう訊かれて機動六課の部隊長である八神はやては茶菓子として出そうとした羊羹を切る手を止める。

 

 この羊羹、ミッドチルダで数少ない日本人が作った和菓子だ。

 色々な世界の人間が住むミッドチルダで地球。それも日本人は当然少ない。

 

 ミッドチルダには幾つかの和食・和菓子屋が存在するが、その殆どが日本人のはやてから言わせれば許容し難い程のパチモノである。

 トマトスープやコンソメスープに盛られた日本蕎麦とか。ソースで煮込まれた煮物とか。

 刺身にわさびの替わりに唐辛子が添えられているとか。

 

 それで本場の味を再現などと書かれているのを見ると店主に物申したくなる。

 

 その中でこの羊羮を取り扱っている店の店主は若い頃に偶然ロストロギア関係の事件に巻き込まれ、魔法の才に目覚め、そのまま管理局に就職。

 

 30代の頃に大怪我を負って辞職し、実家が和菓子屋だったこともあり一度日本に戻り、和菓子作りを学んでミッドチルダで店を開いた。

 

 今では小さいながらも隠れた名店として知られている店で、はやてやリンディも通っている。

 

 などと現実逃避を終えて質問をした六課の前線メンバーで唯一の男であるエリオの質問に質問で返す。

 

「……どうしてそう思うん?」

 

 現在、新人メンバー4人がはやての家族であるヴィータに連れられて報告に来ていた。

 あらかた報告を終えた後でこの質問である。

 

 4人は顔を見合わせてからそれぞれ口にした。

 

「その……あんまりお2人で話している感じはしませんし、話してても事務的な内容ばかりで」

 

「それにこの部隊ってみんな階級で呼び会うことが少ないですけどなのはさんとフェイトさんは互いに階級や職名で呼んでますし」

 

「私たちの前では笑うんですけど2人っきりになった途端に会話が切れて互いに無視してる気がします」

 

「それに、何て言えばいいのか……フェイトさんがなのはさんを怖がっているように見えて」

 

 新人4人から話される内容にはやては心の中で頭を抱えた。

 彼女たちなりに子供たちには悟られないように気を使ったのだろうがやはり同じ宿舎で寝食を共にしていればどうしても気付かれてしまう。

 本人たちに訊くには憚れる質問だろうからこうして機会を経てはやてに質問したのだろう。

 はやてとしては出来れば本人か別の人に聞いてほしかったなぁと思わなくはないが。

 

 ヴィータに視線を送ると困ったように眉を寄せている。

 一息吐いてなるべくオブラートに答える。

 

「良くはないな。昔に色々とあってな。ちょっと関係が複雑なんよ」

 

「複雑、ですか……」

 

 首を傾げるキャロにはやては話すべきかどうか迷う。

 はやてとしては個人の過去を勝手に話すのはもちろんNGだが今後のこともあって知っておいた方がいいだろうと判断した。

 

「わたしはあくまで人伝や資料で知った話やから細かいことは話せへんけどそれでええか?」

 

 はやての問いに4人は迷いながらも首を縦に振った。この子たちからすればもし2人の仲が悪いのならどうにかしてあげたいという思いがあるのだろう。

 はやてはお茶を一口飲んで話始める。

 

「なのはちゃんには兄妹が多くてなぁ。上にお兄さんとお姉さん。それに双子の妹さんが居るんよ」

 

『え!?』

 

 はやての言葉に新人たちは驚きの声を上げる。

 

「それは初めて知りました」

 

「あ、じゃあその人たちもすごい魔法資質を持ってたりするんですか?」

 

 ティアナは与えられた情報に驚き、スバルは興味本位から質問する。

 その質問にはやては苦笑しながらも否定した。

 

「なのはちゃんのご家族は全員魔法資質は無いそうや。双子のよつばちゃんも含めて」

 

 そう考えるとなのはは本当に突然変異なのだろうと思う。

 だがそれも珍しい話ではない。

 兄弟だろうと魔法資質は個人差があるのは当然だ。実際、フェイトの基となったアリシア・テスタロッサも魔法資質は低かったと聞く。同じ遺伝子を持っているからといってリンカーコアまで同じとは限らないということだ。

 

 ちょっと残念そうにしているスバルにはやては説明を足す。

 

「よつばちゃんには魔法資質なんてなくてええもんやから良かったのかもしれんけどな」

 

「え!?どうしてですか!」

 

「よつばちゃんの夢に魔法なんて必要ないから」

 

 何年か前にはやての家にお泊りに来た時、よつばに訊いたことがあった。

 

『もし、よつばちゃんに魔法の才能があったらどうなってたと思うん?』

 

 それは本当に何気ない思い付きの質問だった。

 よつばは少しの間考えるような仕草を取るとこう答えた。

 

『別に何も変わらなかったんじゃないかな?』

 

 その答えにはやては目を丸くした。

 

『なのちゃんたちが空を飛んでいる姿を見て気持ち良さそうとは思ったけどね。でもそれだけだよ。わたしはきっとなのちゃんと同じくらい魔法の才能とか有っても戦ったりは出来ないと思う。それにわたしがやりたいことは全然別のことだから。だから魔法の才能がどうだろうとわたしは海鳴の町で生きてくよ。ここがわたしの夢を叶える場所だから』

 

 そう穏やかに微笑んだ姿は今もはやての頭に焼き付いている。

 地球の人間から見れば特異で輝かしい力。だがそんなもので自ら選んだ道が揺れる程、高町よつばの夢は軽いモノではないのだ。

 しかしもしなのは程の魔法資質があったら、管理局から執拗な勧誘もあったかもしれない。

 万年人手不足の管理局だ。局員の身内ともなればそれなりに声をかけるだろう。自分がお世話になったハラオウン親子のような人格者ばかりではないのだから。

 

 と、余計な感傷に浸っているのも一瞬。話題をなのはとフェイトの件に戻す。

 

「なのはちゃんが魔法に関わった切っ掛けの事件。その時にフェイトちゃんと出会ったらしいんよ。そこでとあるロストロギアを巡って対立してた」

 

「なのはさんとフェイトさんが……」

 

「じゃあそれでお2人は仲が悪くなったんですか?」

 

「う~ん。そうとも言えるけど、本当の理由はちょっと違う。ユーノ君。なのはちゃんと一緒にそのロストロギアの回収をしていた友達な。その人が言うには最初はむしろなのはちゃんから仲良くなろうと話しかけたり説得したりしてたみたいや」

 

「え!?それならなんで……」

 

 納得いかないような表情をするエリオ。

 それに気づきながらはやては話を進める。

 

「それである日な、フェイトちゃんが使い魔のアルフと偶々見かけたなのはちゃんの双子の妹のよつばちゃん。彼女をなのはちゃんと勘違いしてもうて襲いかかってしまったんよ。それが原因で崖から転落して大怪我を負ってもうた。結果右腕を失った」

 

 左の人差し指で自分の右腕を切るジェスチャーをするはやて。

 新人たちは何とも言えない表情をする。

 

「もう10年前の事件やし。フェイトちゃん側から謝罪もしたからなのはちゃんの中でもある程度折り合いがついてると思う。それでもまだ根っこの部分で許せないって感情が残ってるんやないかなとわたしは思うとる」

 

 そうでなければフェイトの名前が出た時に断っていた筈だ。やや、歯切れの悪い言い方ではあったが、なのははフェイトの能力を客観的に評価して賛同してくれた。

 それに今まで険悪な関係を続けていたのに今更という思いもあるのかもしれない。

 

 はやてからすればなのはとフェイト。両方闇の書事件で自分を助けてくれた恩人であり友人だ。

 フェイトは管理局に所属するときに色々と家族ともどもお世話になったし。

 なのはやその友人とは地球での生活でだいぶ助けられた。

 

 だから、出来れば仲良くしてほしいとは思うのだが、こればかりは部外者が立ち入って良い問題でもない。

 つまりは静観。

 

 ある程度話を終えるとおずおずとティアナが手を挙げる。

 

「あの……こちらから訊いておいてなんですけど、そんな話を私たちにして良かったんですか?なのはさんの許可なしに」

 

 どう見てもデリケートなプライバシーの話だ。普通に考えて軽はずみに話していい内容ではないだろう。

 

「うん。そうなんやけど……その事件自体調べようと思えば調べられるし。この後に地雷を踏まれるより、ある程度事情を知って置いた方がええかなと思てな」

 

「地雷?」

 

「実は、そのよつばちゃんな。3日後にこっちに訪問する予定なんよ」

 

 新人4人が呆けた顔で1分ほどフリーズした。

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、高町()等空尉。これが探していた資料です」

 

「ありがとうございます。テスタロッサ執務官」

 

 互いに友好的な空気などどこにも無い。ただ、仕事で必要最低限の会話だけを済ませて別れる。

 なのはと離れたことでフェイトは誰にも見られていない通路で大きく息を吐く。

 

(昔みたいに敵意を向けられているわけじゃないだけマシなんだろうけど……)

 

 それでもなのはと会話するときはどうしても緊張してしまう。

 今日はもう仕事もなく、休むだけなので屋上で風に当たりに出る。

 

 屋上で心地好い風がフェイトの髪を揺らす。

 ジュエルシードが地球に落ちた騒動。後にPT事件と呼ばれる事件の後、フェイトは文字通り生きた人形と化していた。

 食事や入浴。トイレですらアルフの手を借りなければ行えず、時折何かを思い出したかのように泣き始める。

 他人に反応を返せるようになるまで1カ月半。話せるようになるまでさらに2カ月。

 だが実はフェイトは最初の1カ月半の記憶が曖昧だった。

 どこか夢を見ているような。起きているのか眠っているのかも定かではなく、本当にただ生きているだけ。

 どうにか色々なことが考えられるようになってからアルフに謝罪とお礼を述べるといつも通り快活な笑顔で答えてくれた。

 

「いいんだよ。フェイトは今までずっと頑張って来たんだから。そりゃやったことは褒められたことじゃないかもしれないけど。ちょっとぐらい休む時間は必要さ!アタシはフェイトが元気になってくれりゃ充分なんだから」

 

 これではどっちが主だがわからないと恥ずかしい思いで顔を赤くしながらアルフに礼を重ねる。

 

 それから遅れを取り戻すようにフェイトはリンディやクロノに協力し始めた。

 取り調べや裁判への出席。とにかく何かしていなければまた塞ぎ込んでしまいそうだったという理由もある。

 

 裁判はフェイトに有利な材料をあらかじめクロノが用意してくれたおかげで考えていたのよりスムーズに進んでいった。

 そしてフェイトの年齢や今までの家庭環境が大きく考慮され、数年間の管理局での無償奉仕や同じく更生のための講義を受けることで決着した。

 

 そうしてフェイトの裁判が一段落したのと同時に知らされる高町なのはが襲撃されたという知らせ。

 

 この時になって初めてあの姉妹のことを思い出した。

 自分の罪を。

 

 高町なのはの姿を見たのは闇の書にリンカーコアを蒐集されてアースラの医務室に担ぎ込まれていく姿だった。

 

 それからリンディに頼み込むように今回の事件に関わらせてほしいとお願いした。

 最初は難色を示したリンディもフェイトの魔導士ランクと無償奉仕の一環という形でフェイトを戦力として捩じ込んでくれた。

 思えば相当無茶なお願いだったと思う。

 だが当時のフェイトは高町なのはに対して贖罪しなければいけないという強迫観念があった。

 

 再会してからも互いに親しい会話もなく、事件は進んでいく。

 フェイトは主にクロノの捜査に付き合い、守護騎士たちとの戦闘に参加する。

 持てる時間の全てを闇の書事件解決に注いだ。

 地球のクリスマスという行事に闇の書と戦闘をしているなのはの援護へと向かう。

 闇の書に防戦一方だったなのはを助けた時にありがとうと礼を言われたことが嬉しいと感じたのは覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俗に言う闇の書事件が終局を迎えてPT事件から半年。リンディの同席の下でフェイトとアルフは高町よつばとその家族の謝罪に高町家へと訪問した。

 

 フェイトとアルフの姿を見ると怯えたように体を震わせる高町よつば。

 

 また、フェイトも聞いてはいたが実際に失った片腕を見てショックを受けていた。

 

 高町家の中へと通され、まずはリンディから次元世界や管理局に魔法。そしてPT事件の経緯を説明する。

 なのはの言葉もあり、高町家の人たちはどうにか理解してくれた。

 そして高町よつばの件についてはフェイト自身が説明する。

 なのはと当時敵対していたこと。それで目的であったジュエルシードを発見したよつばをなのはと勘違いして脅し、結果として転落させてしまったと。

 説明が進むほどに高町家の人たちの顔が険しいものに変わっていく。

 最後に深々と頭を下げて謝罪した。

 罵倒されるのは覚悟していた。しかし一向に何も言ってこない相手に下げた頭を上げるとそこには呼吸を荒くして顔が真っ青になっているよつばが居た。

 フェイトはその様子を心配しただけだった。

 もしかしたら具合が悪かったのかもしれないと。

 だから迂闊にもよつばに近づいてしまった。

 そして手を伸ばした瞬間によつばは絶叫を上げた。

 

『い、いやぁあああああアアアアッ!?あぁっ!!』

 

 喉が裂けるような絶叫の後に美由希の後ろへと隠れてえぐえぐと泣き出し始めるよつば。

 まだ半年。

 彼女が負った心の傷が完全に癒えているわけではなかった。

 あの時の恐怖と苦痛がフラッシュバックして錯乱してしまったのだ。

 

 両親に奥へ行くように促されてなのは、美由希に連れられてその場を離れるよつば。

 それを見届けた後に父の士郎がフェイトたちに話しかけた。

 

『フェイトちゃんとアルフちゃんだったね。君が、君たちがここに覚悟して謝りに来てくれたことはわかってるつもりだ。その歳で大したものだと思う。でも、娘のあの姿を見て、俺たちは君を赦すとは言えない』

 

 強く拳を握り、とても辛そうな表情でそう言ってくれた。

 怒鳴ったりなじられなかったのはフェイトが娘と同じ年の子供だったからだろう。

 ごめんなさいともう一度深く頭を下げて高町家を後にした。

 それから、フェイトは一度として地球には訪れていない。

 

 

 

 

(高町二等空尉の姿を見るとどうしてもあの時の彼女を思い出しちゃうんだよね)

 

 成人間近とはいえ顔立ちがそっくりな2人だ。どうしてもあの時のことが頭に過る。

 

「それに、今度のこともあるし」

 

 なにやら高町よつばが数日後に機動六課を訪れたいと言って来たらしい。

 それをはやてから聞いたときはフェイトに断ろうか?と訊かれたが断れるはずもない。

 管理局の観点から言えば断れるのだろうが彼女の要望をフェイトから却下することはとても気が引けた。

 もし顔を合わせてまた泣かれたらと考えると気持ちが沈んでしまう。

 吐いた息はちっとも気分を軽くしてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球・日本の海鳴市。翠屋にて。

 

 

 

 

「よつば!これ3番テーブルにお願いね!」

 

「うん、わかった!」

 

 母の桃子から言い渡されてた高町よつばは()()で料理の載ったトレイを持ち上げる。

 そして慣れた様子で指定の席へとトレイを運んだ。

 

「お待たせしました!ご注文は以上でよろしいですか?はい、それではごゆっくりおくつろぎ下さい!」

 

 笑顔で下がるよつばが通りがかりにカレンダーを見る。

 それも一瞬。すぐに店のドアが開かれて訪れた来客に笑顔を作る。

 

「ようこそ!喫茶店翠屋へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次で最終話です。主に高町姉妹の視点で送ろうと思います。

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