もしもなのはに双子の妹がいたら?   作:赤いUFO

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とりあえず番外編1投稿。

大体フェイトの年齢が12から13くらいのイメージで。


番外編1:フェイト・テスタロッサ『家族になった日』

 緊張の糸が僅かに緩んだ際に急激な疲労を感じて膝をついた。

 身体がやけに重い。

 自分も含めて全てがスローモーションに感じる。

 

「へへ!なんだかよくわかんねぇが、ラッキーだぜ!」

 

 耳に今追い詰めていた筈の犯罪者の声が届く。

 

 

 違法の品々の密輸を無人世界を中継していた行っていた組織の取引情報を得た管理局は即座にその押収と構成員の逮捕に踏み切った。

 そのメンバーにフェイトも参加していた。

 そして大半を押さえて逃げようとした最後のひとりを追い詰めた際に何故か視界がブレて身体に力が入らなくなったのだ。

 

(そっか……ここ最近、碌に休んでないから……)

 

 正確に言えば最近ではなくここ数年だ。

 闇の書事件を終えて高町家へと訪れてからフェイトは憑りつかれたように仕事に没頭した。

 

 受ける必要のない仕事を率先して受け持ち、仕事がない日はひたすらに勉強や訓練に時間を費やす。

 それこそリンディやクロノ。それにアルフが強制的に休ませなければ休もうとしない。

 この歳の子なら関心のあるお洒落や遊びなどに一切目もくれずに投げ捨ててひたすらに管理局へと奉仕した。

 

 その功績が認められたのか無償奉仕の期間も予定より1年短縮され、この任務を最後に正式に管理局への入局が許され、通常の給金や資格の取得も可能になる。

 

 この任務が終わればハラオウン家の人たちがちょっとしたお祝いをしてくれるという話だった。

 

「このガキが!高ランク魔導士だからって調子に乗りやがって!!」

 

「っ!?」

 

 立ち上がることが困難なフェイトの身体を相手が蹴りつける。

 相手は見るにおそらくCランクの程度の魔導士。何らかのコンプレックスでもあるのだろうか?

 何度か蹴られている間にデバイスを手から落とすと相手は首を掴んでフェイトを壁に力づくで押し付ける。

 

「いくら高ランク魔導士でもやられちまえばそれで終わりなんだよ!!」

 

 引き攣った笑みでハイになっている相手をフェイトは他人事のように感じていた。

 

(最後の最後でこれかぁ。なんだか締まらないなぁ)

 

 だが、自分の今まではそんなものだったような気もする。

 とある少女を大きな怪我を負わせた時も。

 母が虚数空間に落ちていった時も。

 結局、自分はここぞという時に失敗してしまう星の下に生まれたらしい。

 ならこれは自分にとってお似合いな最後かもしれない。

 そう思ったら自分を自分で笑いたくなった。

 

「何嗤ってやがる!まだ俺を馬鹿にしてんのか!?」

 

 そんなフェイトの様子を勘違いした相手は強く床に叩きつけてきた。

 そして手にしている鈍器型のデバイスを力任せに振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フェイトさん、ちょっと良いかしら?」

 

「え?はい」

 

 食事を終えて自室に戻ろうとした際にリンディに呼び止められて自室を通された。

 ただ話の内容はなんとなく予想できた。

 

「それで、この間の件は考えてくれたかしら?」

 

 例の件とというのは無償奉仕期間が終わったら正式にリンディの養子にならないかという話だ。

 現在でもハラオウン家に世話になっているのだから実質フェイトはリンディの子同然なのだが、それでも正式な養子と居候では世間の目も違うだろう。

 

「その話ですが、やっぱり私は……」

 

 しかしフェイトはその話を受ける気はなかった。

 無償奉仕の期間を終えたらアルフと一緒にハラオウン家を出るつもりだった。

 

「……私たちとの生活は苦痛だった?」

 

「そんなことありません!?」

 

 リンディの言葉にフェイトは慌てて立ち上がる。

 

 

「クロノは優しいですし、エイミイもたくさんのことを教えてくれます!リンディ艦長にもとてもお世話になって心から感謝してます!でも―――――」

 

 だからこそ思う。自分は、こんなにも幸せで良いのかと。

 幸福だと思う度に。心が癒される度に母の姿が過ぎる。あの時自分を見て泣きじゃくった少女の姿も。

 

 言い淀むフェイトを真っ直ぐ見つめてリンディは諭すように話しかける。

 

「確かにジュエルシード事件でフェイトさんが犯した罪は許されないものもあるわ。特に高町よつばさんの件は。でも一生それに縛られて生きていくことは正しいことではないのよ?」

 

 フェイトと話しながらリンディはフェイトの責任感の強さと優しさに危うさを感じていた。

 自分の犯した罪と向き合い償おうとする心構えは立派だ。だがフェイトのそれはどうにも過剰過ぎる。

 一度犯した過ちを償うことに全てを傾けようとしているように見える。

 

「自分のことしか考えていない人間は往々にして社会というコミュニティから外されるわ。でも他人のことしか考えられない人間はどこかで自分を壊してしまう。それを忘れてはいけないわ。自分を労わることを覚えてほしいの」

 

 フェイトは今のままで大抵は上手くいく能力が備わっているから止まることを覚えなかった。そこを矯正できなかった自分を恥じ、リンディは改めてフェイトと向き合う。

 しかしフェイトは戸惑った表情で顔を俯かせているだけだった。

 それに仕方ないとリンディは小さく息を吐く。

 

「わかった。フェイトさんの意見を尊重します。でもそうね。次の任務が終わったら少し時間を貰えないかしら?」

 

「時間、ですか」

 

「えぇ。無償奉仕期間が終了してフェイトさんとアルフは新しい門出になる。だからお祝いがてらにクロノやエイミイも誘って旅行に行きましょう。数年間ずっと働き詰めだったんですもの。これを機に確りと休まなくちゃ」

 

「え、でも……」

 

「私たちにちゃんとお祝いをさせて。ね?」

 

 そうまで言われて反対するのもなんだが悪く、フェイトははい、と頷いた。

 

 

 

 

 

 奉仕期間としての最後の任務場所の小休憩中にアルフがフェイトに質問してきた。

 

「フェイトはどうしてリンディの話を蹴ったんだい?」

 

「ごめんアルフ。勝手に決めちゃって。アルフがあの家に残りたいって言うんなら私は―――――」

 

 それを遮ってアルフは自分の意見を言う。

 

「そういうことじゃないよ。フェイトがどこへ行こうとアタシはついて行くって決めてる。でも、リンディの子になるってことが悪い話じゃないだろ?」

 

 数年間一緒に生活してリンディの人柄を知っているアルフとしてはああした人がフェイトの母親になってくれればどれだけ良いかと思う。

 

「まさか、プレシアの奴に義理立てしてるのかい?」

 

 その可能性を思い至ってアルフは僅かに怒気を孕ませて質問した。

 アルフにとってプレシアはどうしても許すことのできない相手だ。

 フェイトを勝手な理由で生みだし、利用し、最後には捨てた女。

 彼女の行動原理を知れば同情を覚えないではないが、それ以上にどうしてアリシアに向けた愛情の何割かでもフェイトに与えることが出来なかったのかという思いがある。

 そんなアルフにフェイトはクスリと笑う。

 

「それは違うよアルフ。母さんのこととリンディ艦長の提案は関係ないんだ。これは本当」

 

 むしろ原因を上げるなら高町という姓の双子だろう。

 高町なのはという少女が居た。

 彼女は最初、積極的に自分の話を聞こうとしてくれて何度も話しかけてくれた。

 当時は相手にどのような感情を抱いていたのか解り兼ねていたが今ならハッキリと解る。

 あの時自分は嬉しかったのだ。

 リニスやアルフ以外に自分の話を聞いてくれようとする少女が。

 しかし自分がしたことはその相手の家族に心も体も一生ものの傷を負わせてしまった。

 その結果、自分は自分から差し伸べてくれていた筈の手を払い除けてしまった。

 

「怖いんだ。また私のせいで優しい誰かが傷つくのが。それに優しくしてくれた人が離れていくのも」

 

 これは怯えだ。自分は優しくしてくれようとする人をどこかで傷つける人間なのではないかという彼女自身のトラウマ。

 だからこそここ数年。ハラオウン家の中でも一定の距離を保って生活してきた。

 それがどこか良くない態度だと思いながらも。

 

 その思いを聞きながらもアルフは自身の考えを伝える。

 

「でもさ。だからこそ思うんだ。もし、フェイトが間違ったりしたらそれを叱って正しい向きに向けてくれる大人が必要なんじゃないかって」

 

 それは、アルフにはできない役割だった。

 彼女が使い魔という立場もあるが、圧倒的に人生経験が足りていない。

 だからああいう大人がフェイトの近くに居てくれればもう間違わずに済むのではないかと思う。

 

「それは―――――」

 

 アルフの意見に言い淀んでいると武装局員の女性が近づいて来た。

 

「もしかしてテスタロッサさん?」

 

 近づいて来たのは20程の女性で標準的な武装局員のバリアジャケットとデバイスを所持している。

 しかし名前を呼ばれたがフェイトには目の前の人物に見覚えは無かった。

 

「あ、そっか直接話すのは初めてだったね。私、数年前のPT事件でアースラに乗ってて―――――」

 

 女性の言葉にアルフが警戒を強める。

 あの時のアースラに居た武装局員の大半はプレシアによって負傷させられている。その娘であるフェイトに報復を企てている可能性があったからだ。

 

「あ!そう言うんじゃないよ!?確かに私も貴女のお母さんに負傷させられたけどこんな職業だもの。一々気にしてたらキリないよ。それに貴女の事情は私もある程度把握してるしね」

 

 アピールするように手を振る女性。

 しかしだとするといったい何の用なのか。

 

「特に用ってわけじゃないんだけど。見知った顔が居たから話しかけただけだし。それより聞いてるよ。大活躍みたいじゃない?貴女と一緒に仕事をした人に色々と話を聞いたことがあるけど、すごく褒めてたよ。真っ先に敵を倒しに行って自分たちの安全を確保してくれたとか。あ、でもこっちの出番を取られて悔しがってたり」

 

 そんなこんなでフェイトの周りの評価を話し始める女性。

 それを聞きながらフェイトはむず痒くなった。

 思えば贖罪しようとするばかりで周りが自分をどう思っているのか確認したことが無かったからだ。

 そうしているうちに集まるように指示が飛ぶ。

 

「あ、もうそんな時間か。じゃあねテスタロッサさん!」

 

 自分の持ち場に戻る女性。彼女は最後にフェイトの方に振り返ると。

 

「頑張れ!」

 

 そう言って手を振っていた。

 

 

 これより密輸犯の確保に乗り出したのは15分後の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェイトが目を覚ましたのは管理世界の病院だった。

 

「目が覚めたか」

 

 眠っていたフェイトの横で座りながら本を読んでいたクロノが本を閉じて声をかけてきた。

 思えば、最初会ったときは自分と同い年くらいの男の子かと思ったクロノは実は5歳年上で。今ではそれに見合う背丈と声質を得ていた。

 こうして考えると時間の流れを感じてしまう。

 

「怪我の方は相手が低ランクの魔導士であったこと。それとバリアジャケットのおかげで大したことはないそうだ。むしろ不眠による疲労が酷いと医者が言っていたぞ」

 

 呆れたような声にフェイトはごめんなさいと謝る。

 

「やられそうになった君をアルフが助け出して、相手の密輸犯は武装局員数名で袋叩きだそうだ。彼らも君のことをたいそう心配していたぞ」

 

「え?」

 

 クロノの言葉はフェイトにとっては意外な事だった。

 自分は前科持ちの人間だ。そんな者を心配するなんて。

 フェイトがなにを考えていたのか察したクロノが大きく息を吐いた。

 

「確かに君は前科持ちだ。そしてその罪を償うために管理局に居る。だけどな。前線の人間からすればそれは大きな問題じゃないんだ。君は今まで局員として真面目に職務を全うしてきた。戦闘では敵を捕らえ、仲間を守り、デスクワークでも色々と周りを気遣ってただろう。そうした面を見る人間はちゃんといるんだ。もちろんそんな人間ばかりでないが。少なくとも今回はそういう人間が大半だったということだ」

 

 そうしてクロノはフェイトに端末を渡す。

 

「君が倒れたと聞いてメールが送られているぞ。見てみるといい」

 

 言われるがままに端末を開いてみるとそこには10件ほどのメールが入れられていた。

 

 その内容はフェイトを気遣う内容や体調が悪いのに現場に出たことを叱る文章。そして友人であるはやてからも送られていた。

 

『フェイトちゃん聞いたで?結構な無茶したんやってな。戻ってきたらシャマルからお説教らしいから覚悟しとき。それとお疲れ様』

 

 それに任務前に話した女性武装局員の人もだ。

 

『今回、貴女に無茶をさせてごめんなさい。それと任務は無事終わりました。そちらはお体の快復に専念してください』

 

 それを読んでフェイトは端末で顔を隠した。

 

 ちゃんと見てくれていたのだ。

 見ていなかったのは自分だけで。

 それがとても嬉しくて。

 

 泣きそうになるのを堪えていた。

 

「フェイトさん!?」

 

 息を切らして現れたのは局の制服を着たリンディだった。

 

「母さん。ここは病院ですよ。もう少し静かに。それとまだ勤務中の筈でしょう?」

 

「えぇ。でもフェイトさんが任務で倒れたって聞いて居ても立っても居られなくて」

 

 少しバツが悪そうな顔をするリンディもフェイトの体調の説明をすると安堵の息を吐いた。

 

「とにかく、大事が無くてよかったわ」

 

「はい。御心配をおかけしました」

 

 

「えぇ。知らせを聞いた時は心臓が止まるかと思ったわ」

 

 そうしてリンディはフェイトを抱きしめる。

 

「本当に無事で良かった……」

 

「あ……」

 

 その言葉と温もりでフェイトは本当に自分が生還したことを実感した。

 身体と声が震える。

 

「いいんでしょうか?私が、こんなにも温かな人に縋って」

 

「……いいのよ。だってここ数年間ずっと頑張ってきたんですもの。縋れるものがなければいつか崩れてしまうわ。そして貴女が縋ってくれるのが私なら嬉しいと思うわ」

 

「……っ!?」

 

 自分は、馬鹿だ。どうしてこんなにも優しく、温かな人が一方的に離れていくかもなどと疑ったのか。

 その温もりはフェイトがずっと欲しかった母からの温かさで。

 

 まだ熱が完全に引いていないせいとこの心地よさに急激に眠気が襲う。

 ただ意識を失う前に自然と。

 

「かあ、さん……」

 

 そんな言葉が口に付いた。

 

 

 

 ―――――私が傷つけた貴女は、決して赦さないだろうけど。それでも今だけはこの暖かさに浸ることを許してください。

 

 

 

 

 こうして、彼女がリンディの養子の件を受け入れてフェイト・T・ハラオウンと名乗るのはこの日から数日後の話だった。

 

 

 

 

 

 




活動報告に書いたようにここから先はある程度ランダムに投稿します。



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