ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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始まりの歌
第一話 Head-On


 昔、ある人が言った。

 人の本性は殺し合う事では無く、慈しみ合う心であると。

 それでも殺し合いをしてしまうのは、それが内面に閉じ込められており、発揮できていないだけであると。

 

 でも、ぼくは知っている。

 そんなのは嘘っぱちだと言う事を。

 

 昔何処かで偉い人が言っていた気がする。

 努力は何時か報われると。

 

 でも、ぼくは知っている。

 そんなの嘘っぱちだと言う事を。

 

 眼下で焼ける街並みはそれを肯定するかのように何処までも広がっていた。

 地面に倒れたビルの残骸から見える鉄骨は、まるで朽ちた蛇の骸の様だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ここが、地獄だと言われて肯定する人は居ても、半年前まで綺麗な街並みをした、島国有数の観光地であったと覚えている人はどれだけ居るだろうか。

 

 燃え落ちた瓦礫は所々金色の装飾が見え隠れする。

 世界遺産に登録されていたであろう残骸は見るも無残に焼け焦げており、残骸のあちこちに弾痕が見え隠れしていた。

 

 僕以外の人間が見れば只の瓦礫でしか無いだろう。金色に輝く神々しいその姿は、僕の記憶の中にしか存在しない。

 

『キャンサー1、高度が高い。頭を上げると地対空ミサイル(SAM)に狙われますよ』

 

 感傷に浸る僕の考えなんかお構いなしに戦域オペレーターの声が頭の中に割り込んできた。

 

 脊椎に取り付けられた神経接続(ニューラ・リンク)によって脳髄に直接鈴の音のような澄んだ高い声が響き渡る。

 

「解ってる。それでいい」

 

 オペレーターの抗議の声を打ち消すように、電波警戒機(RWS)の警告音が鳴り響く。

 眼球に直接投影された機体情報が更新されているのか、データログの流れが急激に早まっていく。

 機体の戦術電子戦システム(TEWS)は、電波照射が索敵では無く、攻撃用の連続的な物に変化した事を察知したようだ。

 同時に機体各所に取り付けられた紫外線センサーが、ミサイルモーターの発する光学エネルギーを探知した。

 

 脳髄に鳴り響くミサイルアラートの音。

 

「―――今回の任務は只の偵察任務の筈です。交戦は許可されていませんよ」

 

「先に撃ったのは向こう。これは只の自衛処置。上の許可は必要ない」

 

 オペレーターは未だ何か言いたそうであった。だが、それを無視して思考を機体制御システムに集中させる。

 機体の制御システムは即座に反応した。

 

『ジェネレーター戦闘出力、臨界状態へ移行。戦闘モード、起動します』

 

 戦闘用AI(アリス)の無機質な声が通信に混じる。それと同時にジェネレーターから鳴り響く共鳴音が鋭さを増していく。

 

 そこに混じる声。

 

『あなたと言う人は―――――』

 

 オペレーターである彼女は呆れたように吐き捨てた。

 

 それを無視して火器管制装置(FCS)に指示を送る。量子コンピューターは即座に兵装システムを自己診断、問題ない事を僕の脳髄に告げてきた。

 

「これは只の殺し合いだよ。殺そうとしてきたんだ。殺されたって文句は言えない」

 

 彼女は未だ何か言おうとするが、それを飲み込むようにして言った。

 

『―――分かりました。念のため、本部に応援を要請しておきます』

 

「要らない。それに、どうせ来やしない。企業が欲しいのは単騎での戦闘データ。応援を寄越したら意味が無くなる」

 

 そう言いつつ、僕は戦いが数分で決着するだろうと踏んでいた。

 殺し合いは秒単位で動く。だから交戦中の敵が、新たな応援を呼ぶ前に移動する必要があった。そうして、敵が再集結する前に各個撃破していく。

 

 数における劣勢に立たされた軍勢が好む戦法を僕は使っていた。

 だから、余計に足の遅い通常兵器(ノーマル)の支援は足手纏いであった。

 

「そもそも相手は通常兵器(ノーマル)次世代型兵器(ネクスト)の相手じゃない」

 

 コックピットに鳴り響く雷鳴にも似た音、それは鋼鉄の人形が微粒子装甲(プライマルアーマー)を纏った事を意味していた。

 

『それなら、何故企業はこんな使い捨てみたいな―――』

 

「キャロル、時間切れだ。君の抗議は基地に帰ってから聞く事にする」

 

 彼女の抗議を遮ると同時にRWSから発せられる警告音のトーンが変わり、自動迎撃システムが作動した事を示すデータログが流れ始めた。

 

 無数のミサイル群は迎撃用レーザーの洗礼を浴びているらしい。メインカメラ越しの夜景に無数の火の玉が落ちていくのが見えた。

 

 中には戦闘機と思わしき火の玉も幾つか見える。羽を捥がれた鳥の様に、クルクルと円を描きながら落ちていく。誇り高き鷹もネクストの前では七面鳥も同然だった。

 

 僕はそれを眺めながら、RWSから割り出された敵性レーダーの位置に120mmライフルの砲弾を打ち込んでいく。

 

 連続で発射される滑腔砲弾は装填管を分離させると夜空に吸い込まれていく。

 多目的榴弾は間をおいて遠くで雷鳴の如き光を連続して放っていた。

 

 データログに表示される目標破壊の文字列。

 無機質にそれは更新され続けた。

 人の命がビットデータに変換されていく光景はいつ見ても僕を陰鬱な気分にさせる。RWSに表示された全ての敵性レーダーを破壊するのに時間は掛からなかった。

 

 

 作業は単調に進んだ。

 制空権を確保した僕は、撃ち降ろすようにして島国ご自慢の主力戦車(MBT)を60mmマシンガンで射撃していく。発射されたHEDP弾は戦車をキャビアの缶詰に変えていった。

 

 戦車の車体に内蔵された砲弾は良く燃えるようだ。トップアタックに配慮されていないこのMBTはマシンガンで十分破壊出た。

 

 データログに表示された脅威度の高い目標が無くなった事を確認した僕は、一番脅威度の低い目標に切り替えるように戦闘用AIに指示を出す。

 

 目標に最適な兵装を自動選択した戦闘用AI(アリス)はFCSに指令を送り、ミサイル迎撃用レーザーで恐るべき虐殺を開始していった。

 

 

 データログをぼんやりと眺めながら瓦礫の山と化した町の上を飛行する。アリスの冷徹な仕事が成した火の手は多くの煙を夜空に舞い上げていた。

 静けさに包まれた静寂の町の上に漂うのは人の焼ける臭いだ。

 

 実際にはネクストの嗅覚センサーが捉えた情報であったが、神経接続された機体の情報はダイレクトに僕の脳髄に届いていた為、吐き気を催した。

 

 力の差は歴然であり、オペレーターであるキャロルの心配は杞憂であるかのように思えた。

 

 実際、SAMのミサイルの内、数発はネクストに届いていたが、メガジュールクラスの運動エネルギーを持ったミサイルも、プライマルアーマーの表面にさざ波を立てる程度のダメージしか与える事が出来なかった。

 

 だからこそネクストであったが、この兵器には弱点が幾つかあった。

 プライマルアーマーは無敵じゃない。人間の作ったものだ。完璧なアイギスの盾とはいかない。

 

 この盾は自動修復する事によってその損傷を埋めるのだが、その速度を上回るエネルギーを受け続けると、防御機構が破綻するのだ。

 

 そしてアイギスの盾の性質上、光学兵器には極端に弱いと言う特徴もあった。

 だから企業はその脆弱性を埋めるべく、光学兵器用の装甲を盛んに研究していた。実際にはどの程度の防御性能が必要であるか、それが知りたい様であった。

 

 幾ら企業がその脆弱性を隠した所でいつかそれは看破される。その脆弱性を放置するほど企業も馬鹿じゃない。

 

 だからその答えを欲しがった。そしてその答えは実戦の向こう側にしか存在しない。なら、実戦にネクストを投入すればいい。それが彼らの答えであった。

 

 だが、撃墜されたと言う情報は成るべく隠したい。だからこその僕らである。堕ちても問題ない非公式のネクスト部隊。

 

 自らの万能性を示す為、あえて自身の持ち上げれない石を作り出し、後で重さを変えると言う訳だ。

 

 何処かの島国の老人達には真似できない芸当である。

 

 それに噂ではあったが、既にネクストがノーマルに撃墜されたと言う話もあった。僕の耳にも入ると言う事はこの島国の軍隊にもその情報が行ってるかもしれないと言う事であり、どの程度ネクストの情報を島国の軍隊が持っているのかも知りたいのかもしれない。

 

「物は試し、試される方は堪ったものじゃないよな」

 

 焼け焦げる死体の上を飛行しながら一人で呟くと、帰路に就くのであった。

 

 

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