ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第十話 Scavenger

 ユキは廊下に出ると、壁にもたれかかる。

 どうやら、何か迷っているようであった。

 

「さっきはありがと。あのシュミレーター、助かったわ。あれであの子が戦場で生き残れる確率上がるやろうから」

 

 戦場、と言う言葉に何処か引っ掛かりを覚える。

 彼女達の初陣は停戦協定の調印式の筈だ。

 本来なら(・・・・・)安全なミッションの筈だ。

 だけど、ユキからは深刻な雰囲気が伝わって来る。

 

「調印式のミッション、そんなにハードな物に成るとは思えないけど」

 

 僕は少しだけカマをかけた。

 ユキは未だ悩んでいるようであったが、やがて少しの沈黙の後、意を決したように話し出す。

 

「そうやな…普通なら、そのはずなんやけど…。マヤには口止めされとったけど、やっぱり、にぃやんには伝えとくわ。あの子、あの任務で正式なリンクスの登録が決まるんやけど、何というか、この調印式、キナ臭いんやわ。まだ起動テストもままならないあの子の主装備、いきなり変更になったんや。これ、その詳細なんやけど…」

 

 そう言ってユキはタブレット端末を此方に渡してくる。

 

「成程、マシンガンとブレード。ベターな装備だけど、変更後の装備、際どいね。高出力ハイレーザーライフル二丁、明らかに対ネクスト戦を念頭に置いた装備、と言った方が良いのかな。対レイヴン戦には向かない」

 

 大きなため息と共にユキは頭を抱えた。

 

「やっぱりそうだよねぇ……これ、絶対企業の上の人、何か隠してるわ。てか、出撃間際に主兵装変更とか常軌を逸しとる。散々シュミレーターで練習させた主武装使わせんとかありえへん。企業同士、戦争でもするつもりなんかね」

 

「正直、僕もそこは測りかねる。だけど、与えられたカードで何とかするしかない。それに、企業が利益を求めて策を巡らせるのは今に始まった事じゃない。だから、同じ利益を追求した者同士がぶつかる事は、歴史的に見ても当たり前の事」

 

「にぃやんはドライやなぁ。うちはまだそこまで達観できへんわ」

 

 達観じゃない。ただ諦めただけだ。

 

「企業は使える奴か、使えない奴か、そのどちらかにしか興味がない。使えないなら捨てる。使えるなら使う。只それだけなんだよ」

 

 まるで言葉を返す獣みたいだな、と僕は思った。

 

「それが仕事をする、使われる、っていう事なのかもしれんけど……ま、深く考えてもしゃーない。うち等はうち等で身を守る事を考えるしかない、やから―――――」

 

 彼女はそう言いながら何かカードのような物を出して続けて言った。

 

「――――――切れるカードは多いに越したことはないって、うちは思うんや」

 

 全く持ってその通りだと思う。

 そう思いながらショートメッセージをそのカード情報のアドレスデータ当てに送った。

 

「何かあったらそこに情報を送って」

 

 僕は、違法改造OS(クラッキング)版、マップソフトを視界の隅に出現させる。

 そこにはキャロルの移動情報が僕の居場所に近づいて来るのが見えた。

 ユキはキャロルの気配を感じたのか、僕の言葉をなかったかのようにふるまった。

 

「あら?キャロルさんじゃん。ごめんね~、時間とらせちゃったみたいで…うち、そろそろ部屋に戻るわ~」

 

 そう言いつつユキは部屋に戻っていった。

 

 

 キャロルは僕を連れてレイセオングループ大阪支部のあるビルに案内する為にタクシーを呼ぶ為に、携帯型端末を操作して近くに居るタクシーを探している。

 丁度、企業専用を示すロゴが付いた奴だ。

 僕等がタクシーに乗る理由は一つ。

 定期的に開かれる人事評価を受ける事になっていたからだ。

 その為に、彼女は僕を呼びに僕の所まで来たのだ。

 と言うのは表向きの理解であった。実際のところは警戒しているのだと思う。

 僕が他企業に情報を売るのではないか、と言う事を。

 彼女には悪いけど、僕は僕のやり方で生き抜く。

 人並みに生きる事を諦めても、まだ、僕は僕の自由を棄てた訳じゃない。

 だから、ユキの言う通り、切れるカードは多く作っておきたかった。

 そう思いつつ、キャロルの後ろを歩く。彼女は僕に対して探りを入れる事はしなかった。

 彼女は専用のセキュリティーカードをドアのパネルに宛てると、自動的にドアのロックが開く。

 

『お帰りなさい、キャロル様、スズネ様。我がレイセオングループへ。主任がお待ちしております』

 

 無人のタクシーの運転席から操縦用AIの声が聞こえてくる。

 第四世代の物だ。

 硬い喋り口調が多いのが特徴だが、最も多くの特化型AIが在った為、大抵何かの操縦や操作用と言えば第四世代と言っても過言ではない。

 第五世代以降の汎用型AIと違って欲張っていない為、必要なCPUリソースも少なくて済み、最も普及している。

 

 そう思いながら夜の渋滞を抜けていくタクシーの中から外を眺める。

 行き交う車の中には空っぽの車内があるだけだ。

 誰も乗っていない車が行き交い、人は皆、道路脇の荒れた舗装の上を歩いている。

 本来なら人が移動する手段として整備されたハズの道路は、無人の自動車が行き来するだけの物と化した。

 何だかあべこべだ。

 本来の主である人が道路脇に追いやられ、何時の間にか車と言う生物に占領された道路。

 人の手を離れた車は、企業の依頼に沿って道路を行き来する。

 渋滞緩和用の道路管制AIに従って。

 そのAIはまた上位のAIの指示に従って道路を管理する。

 道路の上をどのくらいの重さの物が何回行き来したか、記録して見分して吟味して。

 最後に修理頻度をはじき出す。

 それに沿ってまた別のAIに指令を出す。

 そのAIは道路修理ロボットのAIに修理の依頼を出す。

 そうやってAIは別のAIをコントロールして社会を管理している。

 彼等人工知能のミルフィーユは何時の間にか僕等人間を社会の外側まで追いやった。

 そうして社会を司る企業は労働者から、労働を奪った。

 最後に僕等、人間に残された労働は一つしか無かった。

 

 殺し合い(戦争)だ。

 

 本来なら彼等(AI)の出発点はそこにあった筈だ。

 だけれど、何時の間にか逆転していた。

 丁度、僕の目の前に広がる道路の様に。

 まるで人の先祖返りだ。

 道端には道路脇を歩く男たちに春を売る女達。

 道端にはその人たち目当てに露店を開く人間達。

 原始的な営みを前に、僕らは最新のテクノロジーに包まれて企業があるビルへ向かった。

 

 

 ビルは巨大な翼を縦にしたような構造だ。

 それは階層ごとにオフィスがあったが、その中には人影が殆ど見えない。

 代わりに見えるのが大型のタンスのような形をした物だ。

 パソコンのマザーボードを大量に収納する装置はサーバーと呼ばれる物だ。

 それらが無数に窓から見え隠れしている。

 あの様子だとビルの半分はサーバーで埋まっているだろう。

 もうビルと言うより、構造物自体が記憶装置の一種なのだろう。

 人はそのおまけ程度に存在していた。

 具体的にはビルの下層部分だ。

 恐らく、何かの交渉事に出張る人たちだ。

 

『到着しました。キャロル様、スズネ様』

 

 僕とキャロルはそれに応じるようにして、自動で開いたドアから外へ出た。

 ビルの正面にはPMCの物と思わしき装甲車両が見える。

 勿論、人間が乗っている。

 手には重機関銃が握られており、分厚い防弾プレートに身を固めた彼らの四肢には骨の様な見た目のパワーアシストスーツが見える。

 恐らく12.7mm弾にも耐えれるであろう防弾プレートと、重機関銃の合計で50㎏は軽く超えている筈だ。

 それを苦も無くローレディーの状態で立っていられるのは間違いなくスーツのお陰だろう。

 

「お帰りなさい、同志(コムレード)

 

 見事な敬礼を軽々と重機関銃を片手で保持しながら送って来る男を尻目に、キャロルは軽く目礼して通り過ぎる。神経接続されたパワーアシストスーツは完全に兵士の体の一部になっているようだ。

 だけど、僕は彼の顔を見ることが出来なかった。

 それは彼の顔がカメラアイになっていたからだ。

 正確にはナイトヴィジョンゴーグルとサーマルセンサーを統合した奴だと思うのだが、六目の見た目は、どこか蜘蛛を連想させる。

 おそらく顔面を覆う基材も12.7mmクラスの耐弾性を持っているのだろう。

 ステーキよりも厚い装甲板が横顔からちらりと見えた。

 丁度合成肉みたいに、セラミックバルクをチタン合金でサンドイッチしたやつだ。

 そんな事を考えていると、僕の視界にワードデータが飛んで来る。

 

『(No.98725: 今回も死に損なったな、山猫(リンクス))』

 

 ご丁寧なAMS専用の挨拶だ。

 

『(No.00017: 五月蠅い、サイボーグ野郎)』

 

 僕のワードデバイスの返礼に対し、鼻で笑う六目。

 表情は見えなかったが、嘲笑する態度が見え隠れする。

 そうして何時も通りの不毛なやり取りに辟易しながらビルの入り口を通りすぎるのだった。

 

 

 空調の利いたオフィスの一画に案内される。

 僕らの前を歩くのは二足歩行の女性だ。

 顔を見ても、シルエットを見ても僕にはそれがオフィスAIなのか人間の女性なのか解らなかった。

 こういった女性型AIを搭載したオフィス系の物は、元が元なだけ(・・・・・・・)に、完璧に人間の女性を模倣していた。

 そして第五世代型AIを搭載している為に、汎用性が非常に高く、受け答えも非常に流暢で何でも熟してしまう。

 だから僕が彼女達を見分ける際に行うのが、専用回線の呼びかけだ。

 AMSを介して行うそれは、よほどの機能障害が無い限り、AI側が何らかの信号を打ってくる。

 なので、この見分け方は間違いなく相手を非人間か、人間、そのどちらかにカテゴライズ出来る訳だ。

 

 そう考えていると、視界の隅に文字列が表示された。

 

『(error 0015:認証失敗、コード確認できません)』

 

 どうやら彼女は人間の様だ。

 彼女は完璧な身の熟しで、会議室のドアを開け軽く礼をする。

 

「―――フフ、珍しかった?」

 

 女性はちらりと、僕の顔を見ながらそう言った。

 僕は、珍しいです、とは言えずに通り過ぎた。

 僕の脳髄には、認証失敗の四文字が浮かんでいた。

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