ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした 作:Sub Sonic
人が居なくなった街並みを巨大な影が滑っていく。
微かに見えるプラズマトーチの光は鬼火の様に揺れていた。
限界まで絞られたノズルから吐き出される光は、微かな残像を残して移動する。
視界に映る朽ちたバス停は、黒い煤がへばり付いている。
その横に横転するバス。民家の窓は軒並み割れていた。
割れた窓の中に見え隠れするカレンダーには丁度一年前の日付だった。
地面の焼けた後は草に覆われつつあった。
「アリス、周囲に生体反応は?」
機体の光学センサーと音響センサーを複合して大型生物の生体反応を洗い出す。
『周囲に生体反応なし。救難信号受信地点まで残り1200メートル』
『それにしても、今頃になって救難信号を送って来るなんて…』
通信が途絶えて数時間。目標の施設が制圧されたのならスクランブルなど掛からない筈。
それを加味すると導き出される答えは一つ。
「キナ臭いってレベルじゃない。血の臭いしかしない」
『どうしますか?地上部隊の増援を待ってから突入という手段も有りますが……』
だけど、僕には行かなければならない理由があった。
「いや、行こう。増援を待っていたら逃げられる可能性もある。取り合えず、工場自体を完全な隔離状態に置く必要がある。突入部隊は、通信回線の破壊はしていないんだろう?」
『ええ。どうやらそこまで気が回らなかったようですね』
情報生命体である彼女達は自己の深層学習機構のバックアップさえできれば何度でも復元できる。
つまり、死なない。
彼女達に死の概念すらあるのか解らなかったけど。
「素人。余計な仕事を残していった。死ぬと解ってて行くのは自殺と同義」
生きると言う仕事を放棄して、死ぬ自由を謳歌したか。
『仕方ありません。彼等はAIと言う物がどんな物なのか知らなさすぎた。セブンシスターズであるリザの情報は大部分が未公開ですから』
「キャロルが仕方ないって言葉使うの、珍しいね」
『それは第七世代型AIが正真正銘の怪物だからです。あれは人の手に負える物じゃない。巨大な力を持った企業でさえそれを持て余すと言うのに。開発コードネームRIZA。セブンシスターズの最初の一人。そして、全ての汎用型人工知能を超えるべく生み出された存在。いえ、偶然生まれたと言うべき、でしょうか』
「リザ、か。懐かしい響きだ」
でも、彼女の名前はそんな名前じゃなかった。
少なくとも、彼女の故郷であるコロニー京都に居た頃は、僕等は違う名前で呼び合っていた。
『――――貴方に、リザが殺せますか?』
僅かな逡巡。
僕はもう一度彼女に止めを刺さなきゃならない。
彼女を育てた僕がそれを成す――――それは、なんて皮肉。
だけど――――。
「殺さなきゃ僕もアリスも死ぬ。是非もない。それよりも、ネクストが入れそうな侵入ルートは有る?」
キャロルはまだ何か言うつもりだったのか、暫く無言だった。
『―――なら良いのですが。図面を送ります。丁度、大型倉庫の搬入路が使えそうです。そこから侵入してください』
「その前に一仕事していく。アリス、地下構造体をスキャン、外部情報の中継局をピックアップ」
『了解。旧型の情報ルーターを複数確認。イーサーネット構造体、スキャン完了。地下構造体の情報中継グリッドをマップに表示します』
視覚野に投影されているHUDに青い光点が幾つも現れる。
「成程、セキュリティ対策に、出入りする場所を絞ったか。こっちとしては助かる。だけど―――」
アリスも僕も同時に呟く。
「前時代的」
中継局の壁をアサルトライフルの先端で突き崩す。
内側に見えるデーターサーバーに繋がるケーブルをライフルで撃ち抜く。
エジェクションポートから轟音と共に薬莢が飛び出す。
巨大な薬莢は放物線を描いて地面に落下。
放置された車のボンネットに大きな凹みを作る。
吐き出された徹甲弾は人の胴体程の太さのケーブルを引き裂いた。
数発撃ち込んでケーブルを完全に切断。
『情報中継グリッド破壊。残り3』
相変わらずフルフラットな声だ。
抑揚の少なさに、寝起きをプラスしたような声質。何時も通りのアリスだ。
聴覚野に彼女のクオリアを感じながら即座に移動。
ブースタのノズルを限界まで絞り被発見のリスクを減らす。
滑るようにして闇夜を纏い機体を繰る。
ESMであるTEWSの情報を表示しているHUDには相変わらず動きが無い。
「キャロル、旧自衛隊の動きは?」
『不気味な静けさを保っています。そこから40㎞離れた野戦陣地に立て籠っているようですが…バレていないのか、それとも別の意図があるのか…』
「どっちか解らないって事か。だけど、この件を公にするわけには行かない。危険過ぎる―――」
『人工知能は私達の知らない間に、生活の隅々にまで使われていますからね。携帯型端末に始まり、果てはドアの開閉センサーや、蛍光灯にさえもソレは存在する。そんな、身近でありふれた物が、ある日突然、私達に牙を剥くかもしれないと知ったら……』
「人間と情報生命体の
ため息と共に、キャロルの愚痴が飛んで来る。
『鈴音、まだAIの事を情報生命体と言っているのですか。新しいカウンセラーを手配したと言うのにちっともカイゼンして居ませんね。これでは何のための対価を払ったのか、解りません』
「トーコは優秀だよ。少なくとも無能じゃないし、木偶でもない」
『ですが、結果が伴わなければ、有能も無能もありません。対価に見合う仕事をしていないのですから、等しく無価値です』
「過程も大事。キャロルの言ってる事を突き詰めれば、人間てやつは、とどのつまり死、その物と言う事になる。だって、人間は生まれた時から死ぬことを約束されているのだから。それでは生きる意味が、死ぬ意味に食われてしまう。結果、生きる事の意味を見失う。生きながらにして死んでいるなんて、只のゾンビ」
『また、神秘主義みたいな主張を。いいですか、人の価値を決めるのは経済です。経済とは企業であり企業は社会でもあります。その構成員たる私達は、如何に社会に奉仕し、最大公約数的社会幸福に貢献するかが重要なのです。だから、社会活動に参加できないような無能な人間、仕事が出来ない人間に価値などありません』
キャロルは言う程、功利主義的な考えじゃないのは知っていた。
だけど、僕はその無能、無価値、と言う言葉が嫌いだった。
それは、大抵その言葉が使われるとき、人が人を見下す時だからだ。
無価値、無能、そんな物、只の相対的価値に過ぎないのに。
「それを言うなら、汎用型AIが登場したこの世界で、無能で、矮小で、無価値じゃない人間なんていない」
汎用型人工知能は全ての能力に置いて人を凌駕する。
なら、人は等しく無能と言う事に成るだろう。
だけど、人はそれを認めない。
それなのに無能と言う言葉が無くならないのは、人類に感染する一種の病に近いのだろうと僕は思う。
ヒトの思考に感染する病、その病に付けるべき名前は僕の脳髄には存在しなかったけど、質感として心の中に確かに存在した。
そう思いながら豪勢な装飾が施されていたであろう、朽ちた娼館の上を飛び越えていく。
亜音速に近い機体が生み出す乱流が、屋根を剥ぎ取った。
「それに、僕はその社会奉仕とやらは嫌い。確かにその他大勢の人間にとっては崇高な目的なのかもしれない。でも――――」
犠牲になる少数の人間に正当な対価が払われるのだろうか。
僕には解らない。
でも解っている事も有る。
常にその幸福には犠牲が伴うと言う事だ。
「その、最大公約数的幸福の為に犠牲になる生贄は、一体何人位必要なんだろうな。それに、他人の決める価値なんかに意味なんてない。好きに生きて、好きに死ぬ。それが出来る最高の場所が戦場」
そんな最大公約数的な幸福なんていらない。戦場は少なくとも、その最大公約数的社会より平等だった。
どんな金持ちも、どんな病人も、どんな悪人も、どんな善人も。
死ぬときは皆、同じように死ぬ。等しく、平等に、フラットに死んでいく。そこに違いはない。
幾ら金を積んでも、死ぬ瞬間の恐怖は、貧乏人と変わらない。皆平等だ。
僕はそこに一種の救いを感じていたのかもしれない。
『…鈴音らしいですね。でも、皆貴方の様に強くは有りません。好きに生きるには、条件が要りますから…』
キャロルの声が憂いを帯びているのを感じる。
彼女だって心の何処かで抗いたい気持ちも有ったのかもしれない。
だけど、それを認めてしまえば、今までの人生が無駄だったと認める事に成る。
真面目な彼女はそれを許せないだろう。
自由を与えられた僕は幸せな方だ。
この世界には自由を与えられなかった存在は確かにあったのだから。だから僕はキャロルの問に答えられなかった。
そう思いつつ、AMSに入っていた信号を頼りに、ネクストの腕部が地面からケーブルを引っ張り出す。
アリスが確率予測とサイドチャンネルスキャンで割り出した位置にピタリとケーブルは埋まっていた。
それを握り潰す。
『情報中継グリッドを破壊。残り1』
その声を聞きながら、横に積まれている人形達を見つめる。
生産ラインから不良品として処分された人形達だ。
企業の純朴たる羊として生産された製品だ。
消費される事なく、出来損ないの無能と判断された廃棄品だ。
人形の顔には苦悩は無かった。
廃棄される。
それが一番社会に奉仕する手段だと人形達は受け入れたのだろう。
彼女達は幸せだったのだろうか。
僕には解らなかった。
―――――どうか、こころ安らかに眠れ。
僕はそう呟く。
只の人形だけれど、役立たずの人形達にも、魂が宿ると信じて。
最後の情報中継グリッドに向かう僕たちの目の前には、大型の二重反転ローターを奏でる無人偵察機。
全長45メートルほどの大型ヘリには沢山のカメラと偵察機材が所狭しと積み込まれている。まるで卵を腹に抱えた魚みたいだ。
『敵個体確認。タイプ、自立警備型』
アリスと僕に用意された手札は幾つかあった。
そもそもネクストの攻撃力と防御力、機動力はおまけみたいな物だ。アリスの得意分野は予測と測定、解析、そして乗っ取り。
全人類の脳髄を合わせても不可能なマルチスループットを発揮する量子コンピューター。
それを統括する全脳エミュレーション型人工知能。
その魂たる彼女の知識は、人間には到底不可能な方法でのハッキングを可能にした。本来であれば、だが。
「アリス、敵の
『了解。敵システム
無人ヘリの出すノイズを拾うアリスは、それを意味のあるデーターに変換する。
本来であれば只のノイズも、大量のデータを手足の様に操る情報生命体である彼女達に掛かればあっという間に意味のあるデータに変換され、カテゴライズされる。
カメラ素子とGPU処理ユニットが喋る声。
電源のコンデンサが鳴く音。
整流コイルの帯電する音。
CPUとメモリーの囁き。
それら磁場情報を総合する。
本来ならそれだけで大抵の情報、何処の国の、どんな世代のチップを使っていて、どんなハードウェア構成か直ぐに分かる。
だけどそれを妨害する存在も有った。
それは自己を認識できる存在だ。
『警告、敵中央演算装置内にAIを確認。
「第五世代型以降の人工知能か。偉くハイテクな自立警備型だな。キャロル、アリスのハッキングデバイスの解除コードを」
『どこの企業の物か解りますか?それによっては申請のしようもありますが…』
「それを今から調べる。時間がない。嫌ならここでドンパチしてリザに逃げられるかもしれない事態に陥るけど」
『……解りました。禁止デバイスの使用を許可します』
「本社に確認しないって事は、初めから許可出てたんだ」
『ええ。出ていました。ですが、それを初めに言ってしまうと、鈴音。貴方は絶対直ぐに使いますから』
「当たり前。戦場で戦力の逐次投入は愚の骨頂。最初から全力で潰すのが戦場での定石。出し惜しみする理由が解らない」
『ただのスキャンデバイスなら此処まで気に病みません。ですが、そのデバイスは正真正銘のAIがAIに対抗するために生み出したデバイス。そんな危険な物に命を預ける気が知れません』
「そんなの知らない。AIを一番知っているAIが必要だと思って作り上げた物が役に立たない筈がない。それに、AIが作っている物を信用しないなら、僕はリンクスになんかなっていない」
僕等の身の回りのハイテク製品は情報生命体が生み出した物だ。
その塊であるネクストはそれ無しでは成り立たない。
基礎理論だけの技術ではネクスト足りえない。
ネクストは骨だけでは立てないからだ。
だからAIは血肉を生み出した。
それは彼女達がボディーイメージを持っていた事の証拠でもあると思う。
自我の発芽、それは自分の肉体の認識に他ならないのだから。
だからこそ、見られている、と言う認識を持つ。
見ると言う事と、見られると言う事は同義語に近いから。
それを意識して、マスキングする、と言う手段を身に着けるのは当然の帰結だろう。
そしてそれを暴き出す能力もまた然り。
『ですが、このデバイスのコードには…』
「言いたい事は解る。だけど、今はその議論をする暇はなさそうだ」
AMS越しに注意を促すアリス。
視覚野に映し出される映像には今しがた浮遊していた大型ヘリが何かを落としている映像が映し出されていた。
小さな丸い球体。
無数に地面に落下していく。
地面に着地すると、小さな駆動音と共に触角を伸ばす。
それがカメラだと解るのに数秒を擁した。
そして丸い体を回転させながら元気よく走っていった。
カメラだけは前を向いている。
どうやら敵の偵察ポットらしい。
アリス達の言葉を借りるなら
『警告、敵個体、警戒モードへ移行。自立型リコン、多数確認。直ちに敵システムの制圧を推奨』
「無駄な時間を取り過ぎたか。アリス、禁止デバイスでのハッキングを開始。駄目ならEMPで潰す!」
機体をビルの影に潜めると、再びブースターを絞り移動を開始。
『了解。システム、電子戦モード。デバイス、アンロック。敵AIの
』
アリスと敵情報生命体が凄まじい情報戦を繰り広げているのをAMSで確認しながらリコンから逃れるように移動。
敵ヘリに対して、ある程度距離を取った事をHUDで確認。
素早くブレーキングと同時に機体の迎え角を変える。
脚部の慣性モーメントが直線から曲線へと変わり、急激な遠心力が体に掛かった。
視界には大型ヘリ。
身じろぎするようにして、同じ位置をクルクルと回り始めた。
まるで、断末魔の叫びをあげる魚みたいに見えるが、AMS越しにアリスが僕に警戒するように促した。
それは敵AIが此方の逆探を試みているからだ。
ハッキング用の電波の方位を正確につかもうとしているのだろう。
『敵性妨害電波確認。ECM及びECCM展開。疑似目標信号アクティブ』
アリスはそれを阻止するべく複数の角度からビルや山肌などに反射させた電波を送り込んでいるのだろう。
そこに向けて素早くライフルを構えた。視線の隅には流れる滝の様に更新されるデータログが見える。
此方の位置がバレれば即座にリコンが突進してくる。
『あれは…デススフィアですか…何故AEGの自爆型偵察機材が此処に…』
デススフィアとか言う、物騒な名前を持った一端の機械生命体は、地面を物凄い速度で走り回っている。
あの一つ一つに80㎏ものC4爆薬が詰め込まれていると思うとゾッとする。
それが血眼になって敵を殺さんとすべく、僕らを探していた。
「解らない。だけど、アレに集られたら洒落に成らない」
対AC用の兵器である死の球体は、主力戦車に始まり、ネクストにも通用する武器だ。
あの兵器が纏まって同時に爆発すれば凄まじい威力を発揮する。
僕はレイセオングループのデータベースでGEの重量級ネクストが死の球体に集られた末路を見た。
第一波目で脚部損壊。行動不能。
第二波目でPA展開不能。
第三波目でご臨終。
PA無しでもかなりの防御力を誇るGEのネクストがご臨終に成る位の威力。
特に、脚部にダメージが入りやすいと言う性質が凶悪だった。
それはネクストはあくまでも足が命であり、戦場で嫌と言う程味わった鉄則だったからだ。
素の防御力が低いレイセオングループのネクストだったらと考えるとゾッとする。
そう考えていると、視界の隅に映りこんでいたデータログに、ハッキングが完了した事を告げるログが最後に残った。
『
「驚いた。第六世代型のAI、それもベクターの方。と言う事は本体は別にあるわけか。取り合えず、奴を情報中継グリッド破壊の邪魔にならない程度の所に移動させよう」
『了解。サイマネティクスパターン送信開始』
アリスがそう言って、サイドチャンネルを通して敵中央処理装置に偽の入出力情報を送り込む。その中にあるAIは、それがあたかも現実のように認識した。
無人ヘリは夢でも見ているかの様に、ふらりと機体の高度を上げ、明後日の方向へ去っていく。
それに釣られてリコンの群れも移動していった。
此方の意図的な思考介入に気が付いた様子もなく、警備部隊は夢うつつ消えていった。
『恐らくは工場の内部に本体を納めたブラックボックスが有る筈。メーカーは解りますか?』
僕はAMS越しに解析結果の音声化を要請した。
『不明。一部コードはAEG及び、ローゼンタールの物に該当。一致率18パーセント』
『AEGですか…商売相手を選ばずに武器を売りまくるのは感心しませんね。テレフケングループの方々は何を考えているのか』
「別に前例がないわけじゃない。ドイツ製の兵器は戊辰戦争でも猛威を振るった。あの国が根っからの商売人なのは昔から。それよりも、第六世代型AIが居る。しかもウィザード級」
究極のハッキング型と謳われた汎用型AI。
かなりの難敵であることは間違いない。
正直、第七世代型AI一人だけでも危険な相手だ。
それに加え一世代前とはいえ、ハッキングに強い電子戦タイプのAIを相手にするとなると、相当に分が悪い。
ネクストの戦闘力でゴリ押し、と言う手も無いわけじゃない。
全ての電子戦デバイスを切って射撃戦のみで敵を制圧、という手もあるのだが。
だけど、この場合、アリスは相手を本当に殺したかどうかわからない。
ひょっとすると、無線通信を使って何処かのパソコンのハードディスク内に深層学習機構のバックアップを取っているかもしれない。
そうなると、本末転倒である。
『分が悪いですね。レイセオングループの電子戦部隊を――――』
キャロルが次の言葉を告げようとした時、無線に人の声が入って来る。
『……―――ちら、突……救援を…繰り返す…』
その声は、人の声だった。
「アリス、今の声、分析に掛けて」
『了解、フォルマント分析開始――――――』
彼女は再び答えを出す。僕はAMS越しにその答えを確認した。
「99.9%人間の声帯から出された声、か」
『突入隊の生き残りが居たと言う事なら、何らかの情報を掴んでいるかもしれません。潜入して合流しましょう。本社からも、必ず何らかの情報を持ち帰るように、との厳命がありました』
「行くしか無さそうだね」
キャロルも何処か浮かない声だった。
危険は承知、だけど、行けと言われれば行かねばならない。
だって僕は、リザを怪物にさせてしまった責任があるのだから。
『アリスを信じましょう』
「キャロルがアリスの事、信じるなんて言うの、初めてじゃないかな。珍しいを通り越して驚いた」
『―――たまには、人工知能に頼りたくなる時もあります。それに、鈴音が信用すると言うのなら一考の価値はあると考えただけです』
僕は少しだけブスッとした声のキャロルに笑ってしまう。
「アリスなら大丈夫。彼女は人を信じてるから。だからキャロル、僕を信じて」
キャロルの声を聞きながら機体を移動させる。
闇夜を駆ける機体に揺られながら考えた。
僕達は何処かでボタンを付け間違えただけで、まだやり直せる。
そう信じている自分に気が付いた。
なら、リザはどうだろうか。
答えは出ない。
何故なら、僕は、彼女が抱いた疑問の答えを知らなかったのだから。