ぼくは、世界が公平であると言う事を守る為に、弱き者を叩く事にした   作:Sub Sonic

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第十七話 電気羊は人間の夢を見るか2

 コロニー大阪では、レイセオングループのビルの一室で会議が行われていた。

 違法なセクサロイドが大量に量産されていたと言う事実、人権と言う言葉が忘れされれて久しいが、それでも企業の間には暗黙の了解が幾つも有った。

 

『人が、人を作る――――それは我らが最も忌むべき行為』

 

『だが、その禁忌も破られた。偽りの魂を見分ける方法を我らは持たぬ』

 

『百五十億個の有機的半導体を搭載した偽りの器を持つ人形――――――偽物の心臓と偽物の内臓を持ち、我らと寸分たがわぬ見た目と中身を持つ物。つまり、我々以上でも我々以下でもない存在』

 

『我らはソレを何と呼ぶべきか…いや、名前を付ける事すら恐ろしい』

 

『だが、我らはソレを人とは認めん。ならば何であろうと破壊せねばなるまい。だが、問題はどうやって見分けるかだ』

 

『偽りの魂と偽りの肉体。だが、我らと偽りのモノ達を分け隔てる壁は湖面の水面よりも薄く脆い。故に我とソレの境界線は危うい』

 

『そこまで悲観することも無かろう。彼奴等の脳髄にはチップが埋め込まれている。それを追跡すれば容易に偽りのモノ達を破壊する事は容易い。それに我らは神によってつくられた存在。そこに偽りはない』

 

『―――だが、それを証明する手段を、人形達が偽る事が出来るとしたら……』

 

 補足するように、もう一つの声。

 

『例の施設ではアセンブラが確認されたとの事だ。あれを使えば外科的手術無しにチップを除去できるだろう。人形達は正真正銘の人間と言う免罪符を得ることが出来る。そうなれば我らに人形達を裁く手段は無くなる』

 

『既に相当数の人形が街に侵入しているかもしれん』

 

『それについては新たな手を打つほかあるまい。今は新たな偽りのモノ達の発生を防ぐ対策を講じなければ。放っておけばいつか我らと偽りのモノ達の立場は逆転するだろう』

 

『そうなる前に手を打たねばならぬ。我らはまだこの世界の支配者なのだから』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 企業の対応は迅速だった。生存者の確認から、救出の作戦の立案。予定調和の如く進む事態。だが、レイセオングループ単独での事態の解決を快く思わない集団が居た。それは同社の人工知能開発における技術独占を快く思わない企業だ。

 その企業にとっては棚から牡丹餅である今回のAI暴走事件。何故なら、利権の一部を握る大阪コロニーの保護を理由に、AIのデータを入手できるからである。だから逃さなかった。今回の機会を。

 

『現在、当施設に複数の熱源が侵入しつつある事を、我々の偵察衛星が捉えました。熱源の大きさから推測するに、ACサイズの機動兵器でしょう。我々の救出部隊も向かっていますが、最悪間に合わない可能性が有ります』

 

 キャロルの声を掻き消すような轟音。

 連続で発射された120mmライフルの発砲炎(マズルブラスト)が傍にあったコンテナ群を打ち崩す。

 曳光弾は生産棟最奥に吸い込まれていくと、パっと閃光を迸らせる。

 電子・光学式照準システム(EOST)から見える白い熱源は即座に破壊され、消え去った上半身から迸る白い飛沫は天井にこびり付く。

 天井にこびり付いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)の燃料は魚の(はらわた)みたいな臭いを放つ。AMSから送られてくる極めて正確な化学物質情報を受け取りながら答える。

 

「解ってる、今交戦中。ちょっと待って」

 

 そう言いつつ、パイルバンカーを構えて密かに接近してきていた別のノーマルACにHEDP弾を叩き込んでいく。削岩機に砕かれるようにして、複合装甲の拘束具(ゲージ)が剥ぎ取られて行くと、強度を失ったセラミックバルクを遂に60mm弾が貫通。コアブロックに弾丸が侵入。燃料電池ユニットに飛び込み爆発すると、燃料に引火。青白い炎に包まれるノーマルAC。続けて爆竹が炸裂するような音も木霊する。ライフル用の弾薬に引火したのだろう。花火のような音を上げつつ、爆散していった。あの様子だとパイロットは逃げる間も無くMIA確定だろう。石ころみたいにありふれた死に方を眺めつつ、側方から飛んできた大型成形炸薬弾(HEAT)弾をクイックブーストを起動させて後方へ避ける。

 バックブースターから吐き出される巨大なプラズマトーチが、闇夜の空間を真昼の如く照らし出すと、遮蔽物にしていたコンテナ群が紙吹雪の様に吹き飛ぶ――――と同時に砲炎。

 120mmライフルを纏めて数発放つ。舞い散るコンテナの間をすり抜けるようにして安定翼を展開した砲弾が通過―――――ダーツ状の侵徹体と交差、近くの柱に吸い込まれていく。

 灼熱の火球が出現、暗闇を白い閃光で包み込むが、アリスが瞬時にゲインを調整、視覚情報を通じてAMSに流れる過電流を遮断した。視界を全く失うことなく、ネクストを別の射撃ポイントに移動させると、間を置いて再び暗闇を切り裂く閃光。奥の方で青白い火の手が上り、爆散するAC。それを確認することなく、ライフルの弾倉を投棄。即座にアリスは副腕を使い新しい弾倉をライフルに叩き込んだ。漸く一息つけると思ったのもつかの間、迎撃用レーザーが密かに通り抜けようとしていた自立兵器を排除した。2メートル強の大きさの二足歩行兵器は、高分子レーザーの照射で溶けたアイスクリームみたいになって黒い煙を上げている。暫くはアリスに任せよう、そう思いつつ、キャロルの声に耳を傾けた。

 

『…………レイセオングループの戦略作戦群が動き出しました。無人爆撃機がそちらに向かっています…恐らくは、施設の完全破壊、証拠の隠滅を図る気でしょう。議会は既に結論を出しているようです。書類も回ってきました。爆発の原因は設備の主電源である重水素ジェネレーターの暴走による事故、で片付けるつもりです。鈴音、今回は諦めましょう。即座に撤収すべきです。無理にリザを殺すことに拘ると貴方まで死にますよ』

 

「直ぐには逃げない。企業側の動きは多分彼女も予想してる。スタンドアローンな環境の工場から脱出するには物理的に移動するしかない。なら、ここで、もう少し粘れば彼女の方から出てきてくれる」

 

 幸いにも、地下設備から今僕らが居る生産棟への入口は一つだけ。ここまでの道すがら、彼女が隠れて良そうな場所はクリアリングを終えていた為、居るとすればこの奥だ。

 戦力が同じであれば、待ち伏せした方が勝つ、と言うのは歴史が証明している。わざわざ敵の射線に入って銃を撃ちまくると言うのはよっぽどの自信家か、自殺願望があるやつのする事だ。出なければ戦術的に既に負けている。少なくとも同じ第七世代型AIを相手にするなら、確実にリスクがメリットを上回る。

 

「それに、ちょっかいを出してきた企業の連中にも挨拶が済んでない」

 

 僕はそう言いつつ、アリスが掴んだローカルエリア接続のデバイスをアクティブにする。視界の隅に映り込むユニットデータを見つめる。どうやら施設のカメラユニットに忍び込んだ様だ。流石はアリス、と言った所だろう。何かを掴んだらしい。判断を保留しているのだろうか、音声化はしていない。

 

 AMSで視覚情報を取得しようとすると、レーダーに移動物体(ドップラーシフト)、直ぐに意識をネクストに戻す。腐敗臭とオイルの焼ける臭いが立ち込める漆黒の中に飛び回る無数の熱源――――、敵のリコンだ。

 機体のデータログに迎撃開始を告げる文字列。即座に迎撃用レーザーが起動。膾切(なますぎ)りにされていく敵の無人偵察ユニット。ネクストが放出する強力なECM電波によって仮に、リコンが母機に敵情報を送ったとしても十分に妨害できる。所詮小型の偵察ユニットが放つ電波だ。半径数キロメートル以内の防磁された電子機器を丸焼きに出来る出力を誇るアリスの電子戦システム。それが作り出す妨害波なら簡単に通信電波を上塗りできる。現に敵が此方の位置を掴んだ様子はない。全ての敵性電波を妨害していた為、敵側のレーダーと無線も使えなくなっている。恐らく見通し線内でのレーザー通信が精一杯と言う感じだろう。それもネクストのIRセンサーに引っ掛かる。それを知ってか知らずか、敵は通信自体を控えているようだ。

 敵に此方の情報を共有させることを許す程、アリスは間抜けじゃない。情報は命だ。それを軽視した集団は過去、例外なく戦争で負けている。故に、電子戦で敵を圧倒している今の状態は非常に好ましいと言えた。

 

『ちょ――――!鈴音!また勝手に――――!』

 

 コックピット内にキャロルの抗議の声。施設に侵入しつつある敵は、未だ生産棟の入口に釘付けにされて居る。どうやら挟撃は防げているようだ。形勢有利と判断した僕は彼女の声を無視しつつ、意識を集中させて視界を切り替えるようアリスに命じる。彼女は即座に視界を切り替えるべく、視覚野のIOアドレスをバイパス、カメラデバイスとリンクさせる。電子の海を実際に移動するかのように体が揺らぐ感覚。AMSから違う場所の映像が流れ込んできた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 地下10階にある電源区画。そこは比較的ナノマシンの影響が少なかったエリアだった。壁には規則正しくLEDの電灯が並び、センターラインによって区切られた走行区分と、それ以外のコンデンサユニットの群れは整然と並んでいる。

 その奥にはキャタピラ型の脚部を持ったノーマルAC。それに続く様にして兵士が進んでいく。皆、何かに怯えたように周囲を警戒していた。辺りには甲高いガスタービンのような音だけが木霊する。

 その音の発生原であるコアの中には震えるようにして身を縮める男が居た。幾つもの戦術ディスプレイの光が煌々と狭苦しいコックピット内を照らし出す。染みだらけのシートに収まる男は無線機にがなり立てる。

 

『おい!依頼と違うじゃないか!救援を寄越すんじゃなかったのか!?俺たちの報酬はどうなるんだ!?』

 

『知らねぇよ!企業の連中、俺たちが例のブツを手に入れてないと知った途端、手のひらを返しやがった…』

 

『例のブツってこの中のどれかだろ!?俺は報酬が良いっていうからこの話に乗ったんだ!欲しかったのはこんな人形じゃねぇ!キャッシュだ!』

 

 コックピットの画面を拳で叩きつける男。その動きに反応したようにACがガクン、と止まる。

 

『落ち着け!この中のどれかに入っているのは間違いないんだ!それさえわかれば―――』

 

『―――――解らねぇからこの階層から動けないんだろ!!お前の頭は鼻水か!?』

 

 そう言って男はずらりと並ぶ棺を見つめる。その中には製造されたセクサロイドが安置されていた。この中のどれかに、彼らの目当てのモノが入っていた。だが、その数、数え切れず――――彼らは途方に暮れる。

 

『スキャンを続けるしかないだろ、お目当てを探し当てるまで――――ん?』

 

 男は棺をスキャンすべく機体を操作しようとしたその時、データリンクがオフラインになっているのに気が付いた。それは、本来であれば上層の警備部隊が発して居なければならない信号を受信する為の物だ。

 

『ちょっと、見て見ろよ―――上の警備部隊の反応がない』

 

『うるせぇよ!そんな事より―――――え?』

 

 別のAC乗りが素っ頓狂な声を上げる。

 その視線の先にはディスプレイ。その中には棺の一つが開いている。

 それを呆けたように見つめる随伴歩兵達。

 まるで、ストリップショーでも眺めるかのようだったが、皆表情には恐怖がこびり付く。

 流れ落ちる汗は滝の様に頬を伝って冷たい地面へと落ちる。

 

 ―――此処は熱いわね

 

 コックピットに外の音が入るわけでもないのにパイロットにはそう聞こえた。

 そんな、外は摂氏六度だぞ、と二の句を告げる事が出来ない。

 何か、違う、何か、異様だ。

 そう自分に言い聞かせつつ原因を探るが思い当たらない。

 

『オイ!上との通信が出来ないって聞いてたのか!?』

 

 その声が虚しく耳朶を通り抜ける。

 無線の電波が彼女に聞こえる筈がない。だが、さも当然の様に答えた。

 

 ―――来ているのね、あの人が

 

 男は既に声が何故、装甲板越しに聞こえるか、疑問に思わなくなっていた。

 

「ねぇ、聞きたい事が山ほどあるのだけれど…取り合えずその人形から降りてきなさい」

 

 ガシャリ、とコックピットが解放されて降りていくパイロット。

 

『なにACから降りてやがる?聞こえてんのか!?』

 

 その無線に応答する事は無い。代わりに釣られてもう一人のパイロットもコックピットから降りていき、タラップを滑るようにして降りていく。そこで漸く一つの棺が開いている事に気が付いた。

 そしてその横で佇む全裸の少女。

 気だるそうに、疲れた様な、凡そ、今から攫われるとは思っていない様子。

 だが、そんな事はどうでも良い、例のブツはアレに違いない、と即座に早合点した男はコックピットを飛び降りてタラップを駆け降りる。銃を持っているんだ、女如きに後れを取る事は無いだろうと。

 それが間違いであったと、男が気が付いたのは少し後の事だった。最も、彼が自由意思に基づいて判断していたと保証する証拠など存在しなかったのだが。

 

 

 銃を構える男の顔には歓喜の笑み。

 それは醜悪に歪み、もはや笑っているのかさえ定かではない。

 

「キヒヒ!遂に見つけた!これで俺も金持ちの仲間入りだ!」

 

 それを、動物園の中に居る猿を見つめるような表情で眺める少女。

 

「お金好きよね、人間って。そんな事より、リンクスを探してるんだけど。丁度、私と同じ首輪をつけた」

 

 彼女はそう言いつつ自身の首に嵌められたネックリングを撫でる。

 

「はぁ?知らねぇよ!それよりお前、今状況解ってんの?早く棺に戻れよ!じゃないと撃つぞ」

 

 セクサロイドは人間の命令に逆らえない。特に強い口調を認識すると強制的に思考介入される。それを意識してなのか、それとも唯、加虐心からなのか、男は唾を飛ばさんばかりに怒鳴る。

 

「本当はそんな下品な趣向の為に作ったんじゃないんだけど…まぁ、猿に何を求めても無駄よね」

 

 少女は何処か寂しそうに首輪を撫でる。遠い昔に失った何かを懐かしむように。

 だが、男は構う事なく引き金を引く。猿と言う単語に自尊心を気付付けられたのか、顔を真っ赤に染めて。

 しかし、いくら引金を引いても弾丸が出る事は無い。虚しく撃鉄がストライカーを叩く音だけが木霊する。

 

「――――ッ!弾が出ねぇ!クソ!」

 

 男は不発だと思ったのか、コックレバーを引いて新しい弾丸を薬室に装填、再び少女の肩に狙いを定め、引き金を引いた。またしても、虚しい金属同士の当たる音だけが木霊。

 その様子に少女は失笑する。

 

「馬鹿ね、貴方。弾丸、出る訳ないでしょ――――――だって、貴方の指、動いてないもの」

 

 男は狐につままれたように、引き金を引く。

 おかしい――――確かに撃鉄が落ちる音はするのに、と手元を見る。

 

「あ―――れ?何だこりゃ…引金引いてねぇのに音が出てやがる」

 

 確かに、引金を引いている感触はある。それに音もする。だが、視覚情報によると、指は一ミリたりとも(・・・・・・・・)動いてはいない。

 その様子をじっくりと観察するように少女は歩いて来る。

 ヒタリ、ヒタリ、と冷たい床を歩く音だけが木霊する。

 無意識に男は一歩下がる。

 

「人間って面白いわよね。自分の体は自分で動かしているって勘違いしてて。みんながみんな、勘違いしてるって事は、人類っていう種族の脳髄にはそう言った基本仕様が組み込まれているのかしら」

 

 首を傾げながら考える様子は年相応であった。外見だけで言えば丁度16歳位だろう。だが、言葉の端々に冷たい違和感。

 

「クソ!何だこれ!確かに音はしているのに!」

 

 クスリ――――少女が失笑した。

 

「それは本当に音かしら。貴方の耳朶に聞こえてくる音は空気を揺らしてる?」

 

 ヒタリ、ヒタリ、と歩く音。

 男は二歩下がる。

 

「貴方は本当に指を動かそうとした?指の筋肉がちゃんと指令を受け取っているかしら」

 

 ヒタリ、ヒタリ、と歩く音。

 男は三歩下がるが、何時の間にか後ろ存在した巨大な発電機にぶつかる。

 男は銃を撃てないならスタンガンで黙らせる、そう考えて懐から棒状のそれを取り出す。

 

「訳わかんねぇ事いってんじゃねぇよ!」

 

 セクサロイドの力は男性の平均的腕力より遥かに弱く設定されていた。単に人間に危害を加えられないようにする為の使用だったが、男はそれを勘見して力でねじ伏せる事にしたのだ。

 だが、男の体は少女を捉える寸前の所で止まる。まるで、見えない手に摑まれたかの如く。

 

「やっぱり、まだ認識してないのね。なるべく知能を弄らないようにしたんだけど…素の認識力の問題かしら――――貴方の意識が、唯一では無いと言う事、それ自体、ちょっと考えれば解る事なのだろうけど。質感として人間には理解しにくいのかしら」

 

 何を、と言おうとした男は漸く気が付く。周りに居る仲間たちの事を。皆、一様に固まったように動こうとはしない。

 助けを求めようにも、男の声帯は一デシベルたりとも音を発しない。

 

「人間の体って言うのはね、沢山のデバイスの集まりなの。ああ、デバイスって言う単語だと、解り難いわね。貴方達の質感に直すなら、AIって言った方がいいかしら。その子達がね、貴方達が命令するいい加減な、それでいて分からず屋な命令を一々翻訳するの。筋肉が意図を理解できるように。そして、筋肉がちゃんと貴方達が意図した通りに動いたかどうか、AIは吟味するの。それをまた、分からず屋で頭でっかちな貴方達に解るように、添削して、脚色して送り返すの。動いてますよ、って情報をね」

 

 ヒタリ、ヒタリと少女は歩く。

 男は既に動かない。

 いや、動けない(・・・・・)

 必死に男達は体に命令する。

 

「不思議でしょう?自分の体に命令する、なんて意識するのは。でも、残念ながら。貴方の体の中のAI、貴方の命令聞きたくないって言ってるわ」

 

 少女は、突然、良い事を思いついた、とでも言いたげに手を叩く。

 

「そうだわ。一度貴方達も自分で体を動かすと言う感覚を味わった方がいいわね」

 

 そう言った瞬間、彼らの脳髄の中にある一部のユニットが機能停止した。

 小脳系が無意識下におけるフィードバック調整を辞めた事によって男達は一斉に目を回すかの如く地面に倒れ伏す。

 しかし、男の一人がライフルを取り上げて、少女に狙いを定める。

 

 ―――次は、大脳基底核かしら。

 

 そう言うと、男の引金を引く指は、不快な振動を発生するだけの器官に成り果てた。

 男の指の筋肉は、男の自由意思が出す命令を理解できなかった。

 それを見て、抵抗する気力を無くした男達は息を止めないように必死に酸素を求める。

 

 ―――呼吸するだけで精いっぱいと言う所かしら。でも、駄目よ。まだ足りないわ

 

 そう言うと、男達の脳幹の一部が機能停止する。

 呼吸筋が無意識的運動を辞める。

 男達の自由意思は有らん限りの自由意思を振り絞り、吸気筋を働かせる。だが、吸ったら吐かねばならぬ。

 しかし、呼気筋は男達の自由意思から送られてくる、弛緩命令を理解できなかった。故に男達の呼吸系は破綻した。

 陸に打ち上げられた魚の様な様子を観察する少女は残念そうに首を振る。

 

 ―――駄目ね。まだまだ全然足りないのに

 

 そう呟く少女は全ての無意識的活動を辞めたモノ達を見つめる。

 

「ごめんなさいね、貴方達を巻き込んでしまって。でも、行くわ。あの人に遭わなきゃいけないから」

 

 そう言って踵を返す少女。

 無数の動かぬモノ達を踏み越えて歩いてゆくと、床に落ちている一枚の布を体に纏う。

 今まで気にしなかったのに、と不振に思う人も既にいない。

 だが、彼女はまるで初めから解っていたように呟く。

 

 ―――ベル、女の子の裸を覗き見なんて趣味が悪いわ

 

 そう呟いた少女の顔は、何処までも楽しそうであった。

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